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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜First〜】



「……あ!」
 前方に見えた人影に、式野未織は小さく声をあげた。
 探していた友人を見つけたのだ。借りていたノートを返そうと思っていたのものの、なかなかタイミングが合わず本人と会えなかったのだが、念のために持ち歩いていて良かった。
 未織に気付く様子もなく――まあ背を向けているのだから当たり前といえば当たり前なのだが――歩き去ろうとするその人物に慌てて駆け寄る。
「待って待ってっ! ノート――」
 近づきながら言うも、聞こえていないのか振り向いてくれない。あと数歩の距離まで来ても立ち止まってくれないことに、音楽でも聞いてるのかな、などと思いながら仕方なく腕を掴んで。
 振り向いたその顔に、思考が止まった。
 少し長めの茶色の髪も、背格好も、未織の友人と同じだったけれど、未織を怪訝そうに見下ろすその顔は、全く知らない人のものだった。
(ひ、人違いしちゃった……!)
 予想外の事態に一瞬頭が真っ白になったけれど、固まっている場合じゃない。
 腕を掴んだまま無言で固まってしまった未織を、その人物は不思議そうな目で見ている。
「あ、あのっ……!」
 わたわたしながら掴んでいた手を離し、弁解をしようとするものの、軽いパニックに陥ってしまって言葉が出てこない。
 えっと、その、などと意味を成さない言葉を漏らす未織をじっと見つめていたその人――恐らくは未織と同じか少し上くらいの歳だろう少年は、小さく首を傾げてぽつりと言った。
「逆ナン?」
「ちっ、違います! 逆ナンとかじゃなくて、借りてたノートを返そうとしただけなんです!」
「ノート? アンタとオレ、初対面だと思うんだけど」
「そ、そうじゃなくて! 友達と間違えちゃったんですっ!」
「あ、ナルホド。人違いね」
「そうなんです。すみませんでした……」
 言葉を交わすうちに落ち着いて、なんとか謝罪することが出来た。とりあえず誤解が解けたので、ほっと息をつく。
「いいって、間違いは誰にでもあるし。けど、これからはちゃんと顔とか確認してから声かけるようにしろよ?」
「?」
「変な奴がひっかかったら危ないだろ。なんかアンタそそっかしそうだしなぁ」
 悪気のなさそうな笑顔でそんなことを言われたものだから、未織は反応に困った。どうやら心配して忠告してくれたようなのは分かるのだが、初対面にして『そそっかしそう』などと評するなんて、ちょっと失礼だと思う。
 しかし、後姿だけで判断して、友人と彼を間違えたのは事実だ。
「……気をつけます」
 何となく釈然としないながらもそう返す。
「あ、ミオは式野未織っていいます。あなたは?」
 名前を名乗っていなかったと思い、告げると、少年は僅かに目を瞠った。
「……やっぱ逆ナン?」
「違いますっ! お知り合いになったから名乗らないのは失礼かなって思っただけです!」
「ははっ、分かってるって。じょーだんじょーだん。いや、フツーこれっきりになるだろう他人に名乗ったりしないと思って。……ま、いっか。よりによってオレに声かけた時点で、縁はできちゃってるわけだし」
 未織には意味の分からないことを呟いて、少年は笑った。
「オレはキズキ。ま、好きなように呼びなよ」
 そう言って、ダークブラウンの瞳を、今にも沈もうとしている夕陽に向ける。
「残念ながら――つーかなんつーか、今日はここでタイムリミットなんだけどな」
「……え?」
 告げられた名が苗字なのか名前なのか聞いてもいいのだろうかと考えていた未織は、唐突なその言葉に疑問の声を漏らす。
 そうして、見上げたキズキの姿に、息を呑んだ。
 笑みを浮かべるその顔の輪郭が、揺らぐ。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりもやや細身の身体を形作り。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまでキズキが立っていたそこには――…見知らぬ人物が。
 日に当たったことがないような白い肌、うなじで括られた、夜闇の如き黒髪。
 鋭い対の瞳は、髪色よりなお深い漆黒。
 夜を髣髴とさせるその人は、未織に目を留めて、小さく溜息をついた。
「まったく……何を考えているんだ、あいつは」
 少し苛立たしげな口調で悪態を吐く青年。
(え、と……今、何が起こったの、かな?)
 見たそのままでいうならば、キズキが別人に変化した、ということになるのだけど、――身に纏う色彩から骨格から容姿から、根本的に違う別人に変化するなんて、ありうるのだろうか。よく見ると、服も変化しているし。
(でも、ミオのダウンジングとか水の刀とかもあるし……)
 ありえないことじゃないのかもしれない、と思う。
 だとすると、急に変わったのだし身体に負荷がかかってたりするのではないだろうか。体調は大丈夫なのかと心配になる。
 急に別人に変わったことに驚いてはいるものの、未織も水の刀のせいで周りに変な顔をされて傷ついたことがあるので、顔には極力出さないようにする。
 とりあえず、別人ならば自己紹介をしなくては。
「あの、」
 声を出すと、青年は未織に視線を向けた。明るく話しやすい雰囲気だったキズキと違って、この人物は凛とした感じがしてカッコ良いとは思うものの、真面目そうな雰囲気にちょっと緊張してしまう。
「み、ミオは式野未織っていいます。えっと、あの、」
「サイハだ」
 打てば響くような速さで名乗り返され、未織は次に言おうとしていた言葉を飲み込んだ。促す前に名乗ってくれたことで、少し緊張がほぐれる。
「あの、体調とか、大丈夫ですか?」
「は?」
「その、急に変わっちゃいましたし、身体に負荷とかかかってるんじゃないかって思ったんですけど……」
 サイハの反応からするとそういうことはなさそうだ。見当違いのことを言ってしまったのではないかと、言葉が尻すぼみになる。
「いや、そういうことはないが……この変化は身体に負担をかけるようなものではないから」
「そうなんですか」
 安堵の息を吐く未織。
 どうしてそのような変化が起こるのか気にならないわけではないが、まだ会ったばかりの人間に話せるようなことでもないだろう。未織だって会ってすぐに水の刀のことを聞かれたら戸惑う。
「説明を、した方がいいだろうな。だが『縁』を持ったのはキズキの方だ。あいつの尻拭いを俺がするというのは納得がいかない。――気になるだろうが、説明はキズキにしてもらってくれ」
「あ、はい……」
 どうやら説明はしてくれるらしい。けれど、またキズキに会える保証などないのに、何故そんなことが言えるのだろう。
 そんな思いが顔に出ていたらしい。サイハは至極当然のように、言った。
「少なくとも、あと一度は絶対に会うだろう。それは必然。既に確定された未来だ」
 まるで予言のように告げられたそれに目を丸くする未織の目の前で、サイハの姿がかき消えた。
 あとには何も残らない。なんだか狐につままれたような気分だ。
 不可思議なサイハの言葉に首を傾げながら、未織は帰路に着くことになったのだった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7321/式野・未織(しきの・みおり)/女性/15歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ゲームノベルでは初めまして、式野様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。

 専用NPC・キズキとサイハ、如何でしたでしょうか。
 昼メインだったので、キズキに結構喋ってもらいました。実質関わっている時間はどっちもどっちな感じですが。
 キズキが丸投げしようとした説明をサイハが丸投げし返したので、説明は次回に持ち越し、ということで。不親切な子達ですね…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。