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神の剣 宿命の双子 地獄へ
アズマは業火の王のもつ宝玉を眺めている。
彼は姿を見せずとも、業火の王には見えている。
しかし、王は彼の考えている先を知る。
宝玉には、僅かにある、紀嗣の心が残っているのだ。
彼の魂は半分囚われ、半分自由という状態だ。
「さて……、どうした物でしょうか?」
破壊の権能の神格保持者の魂。
あれを、奪えば、本当の主に私、主の『呪い』が破壊される。
アズマの目的とはいかにも単純な物だった。
業火の王の目的は、人間界の地獄化。階層を10にすることにより、彼が、地獄の王となる。そのためには、彼の得意とする、火の神格を得、業火で燃やし尽くすことにしたのだ。
地獄の大王は、静観している。
「そろそろ、鳳凰院が動くかもしれないですね」
アズマが呟く。
「どうやって、だ?」
業火の王が虚空に向かって言った。
「さあ、此処までは深いですからね」
アズマは、首を振り、そのまま姿を消した。
「ふ、俺に刃向かえる人間など居まい」
不敵に笑う業火の王だった。
アズマは考える、同士討ちさせ漁夫の利を得るか、向こうと協力し盗み取るかを。
すでに、業火の王は、知っているだろう。その対策も練っているはずだ。
長谷・茜は、鳳凰院・美香の頼みで陣を作っていた。
「無茶な! 私は向こうに行けないぞ? 焦ってはダメだ」
影斬が美香と茜を止めるのだが、美香は首を振った。
「いいえ、師匠。紀嗣を救うには、あの王の階層まで行かないと行けません。友人がやり方を教えてくれました」
「……そうなのか。しかし1人で行くのは危険だ」
「……ええ、分かっています……しかっ! アズマ!?」
美香が振り向く、その先は神社の出口。
鳳凰院神社に、アズマが人の姿で居る。
「この姿ではお初にお目にかかります。鳳凰院美香様……と抑止、影斬様」
「……何用だ?」
美香と影斬が構えた。神社の結界でアズマはこれ以上進めないし、この場でまた、戦うことは避けたい。
「ひとつ取引をと……ね?」
「業火の王の領土『矛盾の平原』の案内をすると言うことです。当然条件つきですが」
アズマが答えるのであった。
慌ただしい複数の足音が、鳳凰院神社に向かっていく話を聞いて駆けつけてきている者達だ。
「美香様、其れは無謀という物です!」
アズマの隣を通り抜き、美香の腕を掴む天薙撫子だった。走ってきたため着物や髪が乱れている。
「えらいことになったなぁ」
神城・柚月はゆっくり、神社に入り、魔法陣を眺めていた。
「私も気乗りしないんだけど、美香ちゃんがねぇ」
長谷茜は、困った顔をして、柚月に言う。あまり危機感がない風に聞こえるのは何故なのか柚月は影斬を見て何となく分かった気がする。
「乱暴なことはいたしませんので、殺気は収めてくださいな。別世界の死神さん」
後ろの電柱にもたれかかっている御柳紅麗に気付くアズマがそう言った。
「ああ、わかってる。しかし念には念をだからな。通ってもいいみたいだし入らせてもらうぞ」
「どうぞ……」
アズマは一歩引く。
人型だが、どことなく異形を感じさせるアズマの姿は、『本当に交渉』のようだ。
「能力を使うこともなさそうだぜ? 蓮也」
「……。本気で交渉だけなのか?」
すでにいる御影蓮也に紅麗が言う。怪訝な顔をする蓮也もアズマに訊いた。
「左様ですよ。階層間での争いなどは色々ありましてですね……。力の温存も必要なのです」
「其れは本当か? 影斬」
蓮也が影斬に訊ねた。
「私は嘘発見器か……。其れは事実だ」
私は物かと苦笑する。
「もっとも、俺は賛成だけど……美香ちゃん! 一人でいくの絶対禁止!」
ビシッと人差し指で鳳凰院美香を指して、少し怒った顔でいった。美香は、
「なんで、お前に指図されなくては行けない」
言い返すのだが、撫子が
「紅麗様の言うとおりですよ。一人では無茶です」
「そやなぁ。うちらでも難しいわ。行き先案内人と2人だけってのもねぇ」
イシュテナ・リュネイルが走る。
「無茶なことはしないで下さい……」
緊急事態だと言うことで、急いでいる。また、自分が属する組織から援軍が来ると訊いただけで、詳しいことも訊かずに飛び出していった。角にさしかかるときに、どんと、誰かとぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
「す、すまん」
なにか、何処のフラグとか言いたくなる話だが、横に置く。
「……あ、蒼夜……」
「イシュテナ」
援軍は顔見知りの乃木坂・蒼夜だった。彼女は少し安堵した。
別の方向から人が来る。
「大丈夫ですか?」
キリスト教系のシスター服を着ている女性が2人を立ち上がるのを助けた。
「どこかの学園ドラマのロケですか?」
後ろに、田中裕介が居る。
「裕介……」
シスターが裕介をいさめると、肩をすくめて、手伝った。
「……裕介に……あの……」
イシュテナが、きょろきょろシスターと裕介を見比べていた。
「ああ、裕介のお友達ですか。わたし隠岐・智恵美と申します」
「はじめまして、イシュテナ……イシュテナ・リュネイルです」
しっかり挨拶しているイシュテナをみて、蒼夜は驚いた。
「あ、俺は、乃木坂・蒼夜です。ありがとう」
蒼夜はぺこりとお辞儀をする。
「いえ、いえ、行き先は同じようですし、行きましょうか?」
「義明は何をしてるのでしょうね」
智恵美が先に進み、裕介が続く。
「蒼夜、行こう」
「あ、ああ」
たどり着いたときには、神社前は異様に賑やかな状態だった。
智恵美の第一声は、
「IO2として、その異世界移動は反対します。鳳凰院美香さん」
「IO2かっ!」
蒼夜は身を構えてしまう。
「まてまて、色々組織が入り交じってその思惑はあるだろうけど、おちつけ」
紅麗が蒼夜の警戒心をとこうとする。
「派的には……、IO2より?」
蓮也と茜が、影斬を見る。
「一応影斬時はIO2だが? 其れがどうした? 異世界移動では、そこの女子高生もそこの死神も一緒ですよ」
影斬が付け加えた。
「害がないのは別段いいのですけどね」
智恵美がため息を吐く。
「落ち着いて、蒼夜」
「ああ、わかった」
深呼吸して、蒼夜は落ち着いた。
「ふっふっふ、争い事が好きですね。あなた達」
アズマが嗤う。
キッと睨む全員にも怯まない、この悪魔は何が目的なのか?
「では、訊ねよう……お前の目的は何だ」
蓮也が、近づいてアズマに訊いた。
「もちろん、紀嗣様の神格ですよ。業火の王から紀嗣さんの心の一部を取り返してからになりますが」
「それだと、交渉決裂と言いたいところだが、其処まで何故必要に」
蓮也が再度問う。
「我が真の主は、呪いによって実食い姿になっています、紀嗣様の権能により、その呪縛がとけるのです。どうしても必要なこと」
「なにか隠してるな?」
影斬が睨む……。
「なにも……」
アズマも影斬を睨む。何か沈黙の。この……世界とは関わりのないことなのか、それとも其処まで詮索するなと言うことなのか、謎が多い……。
「わかった」
影斬は黙った。
その行動に、全員が驚くが、影斬の考えを問う前にすることがある。
「つまりは、美香ちゃんや紀嗣くんの力は欲しい。でも、奪う程でもないってことなん? あんた側は?」
「そうなりますかね。ケース・バイ・ケースというものですよ」
柚月の問いにはアズマは肯定する。影斬は黙ったままだ。
「何かいわんの?」
「此処まで来ると、そいつは嘘を言う意味もない」
珍しく文句を言う。まあ、一個人と見られてなかったら誰でも怒るか。
「うーん、俺は干渉していいのかどうかわかんねぇよ」
「頭使え」
イシュテナがぼそり。
「考えているから、わかんねえんだよ! だいたい、俺の故郷世界にも地獄はあるんだぜ? 別世界と契約していいのかな〜ってなるんだよ」
「ああ、そう言う悩みか罰則とか、もしくは封印とか」
術関係に詳しい者達は、妙な納得をした。
「元から此処は世界樹でうまれた混在の世界、厳しい制限、抑止にはかからりませんよ。死神の子」
アズマが答えた。
「……」
むすっとした表情の紅麗だった。
「さて、申し訳ないですが、その場所で立っているのは、私はしんどいので……決まり次第、ここ門で私を呼んでください。では」
アズマが何かを察したのか消えた。
「私は反対です。美香様おやめ下さい」
「いいや俺は賛成だ。結局決着をつけなくちゃ行けないからな」
「おいおい、おちつけよ」
「俺は反対だ、無謀すぎる」
「初めて出会う奴に、文句言われたくはない!」
「なんだと!」
白熱した喧嘩か議論。
美香と蒼夜が言い争う中、冷静にしているのは紅麗だった。
「お前は保護者だろ? 何も言わないのか?」
「もう言ったことは言ったしな」
ため息を吐いている。色々先を考えているのだろうか?
「そうか……俺は彼女が一人でいくのが反対なだけだからな」
腕を組んで、蒼夜と美香の口げんかを眺めている。
「美香ちゃん……必死だな」
紅麗もため息を吐いた。
「本当に困りましたねぇ……影斬」
「顧問。権限使いすぎでは? 職権乱用だと解雇されますよ?」
「どうでしょう?」
智恵美はクスリと笑う。
「取引を知っただろ! それでも行くってのか!」
「あたりまえだ! お前に何が分かるか!」
昔のピリピリしたオーラが美香にあった。
「弟が囚われ、かれこれ立つのに私は何もしていない! 早くしないと、紀嗣は……」
「考えてみれば紀嗣は? どこ?」
イシュテナは辺りを見る。
「加登脇先生の病院だ」
「「ええっ?」」
美香の答えに、皆が驚いた。
「何故其処まで隠して……」
「急に、急に倒れたんだもの……。もう私は……」
泣き崩れる、美香。
紅麗が近寄って、肩を抱いた。
「わかった、それ以上言うな。まずは、キミも落ち着け」
「義明さんっ!」
撫子が更に驚いた。
「……いや、私も其れは初耳だ」
「ごめん、黙っててといわれたんだ」
茜がションボリした。
「……え?」
「先に頼ってくれても……。相談してくれてもいいじゃないか」
蓮也が俯いた。
しかし、周りのことが見えなかったから、先走ったと思うと、美香の行動も納得がいく。しかし、少し裏切られた気分はぬぐえない。今まで友達だったのにと。しかし、『家の問題』となると、かなり状況的に手出しが出来ない事が常である。それが、無力を思うのだ。
「責めないで……気持ちを……さっして」
イシュテナが皆に言う。
沈黙が訪れた。
「事が深刻ですね……母さん」
「そうですね」
様態を知るには、まず、加登脇に尋ねないと行けない。しかし、守秘義務のため美香の説得が必要だ。
「まず……紀嗣の様態を見てから決めよう。それでいいか?」
蓮也が言うと、全員が頷いた。
様態は、昏睡状態であることだ。幸い神格暴走による破損はないと言う。
「うーん、囚われている心を早く取り戻さないと、廃人になりそうよね」
との医師の判断。
「友達って、先生?」
「まあ、そういうことで。おいしいケーキ屋巡りのお友達だから」
加登脇の言葉には嘘はなかった。
「本当に……いいのでしょうか? 美香様……」
「美香の思うとおりにやれ。しかし俺たちも付いていく」
「俺は乗り気じゃないけどなぁ……でも、賛成で」
「ほなほな、準備せなならんねぇ」
「……まったく、任務が別世界とは……いいのかイシュテナ?」
「うん……大事にしたい。美香の気持ちを」
「みんな……」
美香は皆を見ていた。
「行こう! 地獄へ」
と、決まる
しかし、其れを拒否する声がする。
「それは、やっぱりなりません。力ずくで全員捕縛します」
田中裕介が、大鎌をもって、陣を斬る。すると、影斬、茜を除く、全員が別の空間に封印された。
「『七法結界陣』」
智恵美の声。
「裕介! 貴様」
蓮也が叫ぶ。
「力ずくで反対かよ!」
紅麗が毒吐く。
『正々堂々な世界じゃないはずですよ。向こうは。不意打ち裏切りなんて当たり前のはずです』
すると、全員の頭に、『もっとも恐ろしい物』、『裏切られたくない人の裏切りの』ビジョンがダイレクトに来る。
「きゃあああ!」
殆どの力を封じられ、闘気を除く術がないのだ。影斬前の義明が一度苦労した技である。さらに、智恵美の術師機による幻影・幻覚の精神攻撃であった。
影斬は動かない。もともと取り込まれても、彼には通じないので除外されている。茜は窓明け担当だったのでこれも除外だった。
「……負けないから! 皆に裏切られても、紀嗣に裏切られても、皆を未だ信じてるからっ!」
美香が、七枷を炎で焼いた。
「ばかな! 闘気以外、封じたはずなのに!」
裕介は驚いた。絶対封印結界のはずなのにと!
其れは癒しの力。癒しは心からもある。
ひとつの枷が取れたときに、全ての結界が、外れた。
「酷いですよ、智恵美さん。裕介」
「ひで」
「あー、ヤバイヤバイ、義妹には、あんなことされるのはこまる」
「……私も負けない」
「もう、趣味悪いで、メイド魔神」
ぜんいん、攻撃には耐えていたようだった。
そこで、智恵美が咳払いし……
「その意志を忘れないでくださいね」
と、嗤いながら、裕介と共に去っていった。
「……何しに来たんだ?」
「もとから、はっちゃけた人だ、智恵美さんは」
「過激派?」
「ああ、悪い言い方をすればね」
えらい目にあったと溜息をついた。
暫くしてから、アズマを呼ぶ。
「暫く時間をおいてから呼ぶ。その時、案内してくれ」
と、美香が言った。
「分かりました。美香様」
アズマは満足そうな顔で、消え去っていった。
皆が準備に走る頃に気付くが、いつの間にか紅麗が居なかった。
■登場人物紹介■
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1098 田中・裕介 18 男 孤児院のお手伝い兼何でも屋】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【2390 隠岐・智恵美 46 教会のシスター】
【5902 乃木坂・蒼夜 17 高校生/第12機動戦術部隊】
【7253 イシュテナ・リュネイル 16 女 オートマタ・ウォーリア】
【7305 神城・柚月 18 時空管理維持局本局課長/超常物理魔導師】
■ライター通信
滝照直樹です。
このたび『神の剣 宿命の双子 地獄へ』に参加して下さりありがとうございます。
色々各仕事が多かったので、惑うことがあったと思いますでしょうが、如何でしたでしょうか?
次回から、ここからが本編ですみたいな感じになります
また、次回に
滝照直樹
20090317
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