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ダンピール
「あのね、私を殺して欲しいの」
草間興信所にやってきたのは、近くの女子学校の制服を着た少女。
名前を雪長ルカと言った。
「‥‥ここはハードボイルドな探偵事務所であって、悪いが札時捺染事務所じゃないんだ」
草間武彦が手を頭に当て、盛大なため息を吐きながら依頼人・ルカに言葉を返した。
「でも、此処は怪奇現象とかに対応してるって聞いたんだけど」
ルカの言葉に「あれが見えないか？」と『怪奇ノ類 禁止！』と書かれた張り紙を指差す。
「困ったなぁ、私が１８歳になる前に殺してくれなくちゃ困るんだけどなぁ」
ルカはため息混じりに呟く。
「‥‥１８歳になる前に‥‥？」
草間武彦は煙草を吸いながら怪訝そうにルカを見る。
「私ね、ダンピールなの。吸血鬼と人間のハーフ、だから１８歳になっちゃいけないの」
だって‥‥とルカは言葉を止めて俯く。
此処で草間武彦は初めて気がついた、ルカの手が小刻みに震えている事に。
「何で１８歳になるといけないんだ？」
「ダンピールは‥‥吸血鬼とのハーフは１８歳になるまでは普通に生きているけど、１８歳になると血が変わるの」
血？ と草間武彦が聞き返す。
「そう、人の血を飲みたくなってしまうんですって。冗談じゃないわ、私は人間として生きてきたし、人間として死にたいの」
バケモノになる前に殺してちょうだい、ルカは決意を秘めた強い意思で草間武彦を見る。
ルカの様子を見る限り、此方が「うん」と言わなければ別の場所で自分の殺人を依頼する事だろう。
「さて、どうしたものかな‥‥」
自分では対処出来ない事を知り、草間武彦は電話をしたのだった‥‥。
「もしもし、草間だが少し手伝って欲しい事がある‥‥あぁ、興信所まで来てくれ」
視点→ロルフィーネ・ヒルデブラント
その娘、ルカの事を聞かされたのは本当に突然だった。
雪長ルカ、かつてロルフィーネの『お兄ちゃん』が愛した人物であり、吸血鬼になる事を最後まで拒んだ女性の娘。
最も『お兄ちゃん』がルカの母親に対してどれほどの愛情を与えて『愛していた』と言うのかは分からないけれど。
「つまり、お兄ちゃんはこのルカって娘が心配だからボクに迎えに行って欲しいって事？」
ロルフィーネが『お兄ちゃん』に問いかけると、彼はにっこりと微笑んでロルフィーネはそれを肯定と取った。
「仕方ないなぁ、ボクが行ってあげるよ――それに自分の殺人依頼を出す程に吸血鬼を嫌っているルカにも会ってみたいしね」
ロルフィーネは楽しそうに笑って、ルカの居る草間興信所へと向かい始めたのだった。
その頃、ルカは草間武彦に「まだ？ 私を殺してくれる人が見つからないの？」と冷たく問いかけていた。
草間武彦も自分が殺人者になるのは嫌なので、何とか解決策を考えて色々な人に電話をしていたのだが『自分を殺してくれと言う少女』の事を話すと問答無用で電話を切られてしまい、まだ解決策が見つかっていない所だった。
「ねぇ、無理にとは言わないから出来ないなら出来ないって言ってよ、別の所に頼みに行くからさ」
ルカがため息混じりに草間武彦に向けて言葉を放っていた。
その頃、ロルフィーネは草間興信所に到着しておらず、色々な店の様々なものに眼を奪われていた。
「あ、草間興信所まで行かなくちゃ」
思い出したようにロルフィーネは呟き、草間興信所まで歩いていく。
「‥‥あれ？ 電気がついてない――‥‥誰もいないのかな？」
ロルフィーネが歩きながら少し離れた場所から草間興信所を見ると、真っ暗で誰もいないかのように見えた――が。
近づいてみると窓ガラスは割れて近くには人だかりが出来ている。
「ねぇ、何かあったの？」
ロルフィーネが野次馬の一人に問いかけると「何か窓ガラスを割ってあの中に入って行ったのが居るのよ」とやや興奮気味に言葉を返してきた。
「‥‥まさか」
ロルフィーネは何か思い当たる事があったのか、ひらりとした白いスカートを靡かせながら野次馬を掻き分けて草間興信所へ続く階段を上り始めたのだった。
「うわうわ、ヤバイ状況じゃない」
草間興信所の中に入ると、状況は最悪なようでルカは両手を広げて立ち上がっており、人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊも彼女に銃口を向けている場面だった。
「君がルカだね♪ 助けに来たよ。さ、行くよ、アレは数が多いから面倒なんだ」
ロルフィーネはルカの腕を掴んで引っ張りながら草間興信所の中から出て行く。
「敵性反応が増加。雪長ルカの救援に現れた吸血鬼と判断。戦力分析、現戦力、現装備での対応可。吸血鬼２体の殲滅に当たります」
人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは呟くと、草間武彦に窓ガラスの修理代金を渡してロルフィーネとルカの後を追い始めたのだった。
「敵性反応――補足完了」
人混みの中を人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは見渡しながらかすかに感じる二人の気配を追いかけて追跡を行う。
人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは二人の気配を追いながら走り、たどり着いた場所はひっそりとした夜の公園だった。
「‥‥貴方とは関係ないじゃない！」
ルカの声が聞こえて、人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは銃の安全装置を外して構え、ルカに標準をあわせて発砲した――のだが、途中でロルフィーネに気づかれて銃弾はルカではなくロルフィーネに当たった。
それと同時に響くルカの泣き声が混じった悲鳴、そして倒れるロルフィーネの姿が人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊの視界に入ったが、彼女は表情を変える事なく再び銃を構える。
「止めて‥‥この子、怪我してるんだから」
ルカが震える声で呟くが「任務、続行します」と冷ややかな目で座り込んでいるルカを見下ろし、銃口を突きつけた。
そこで『ざく』と鈍い音が響いて、人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊの体にレイピアが突き刺さり、その場に倒れこむ。
「大好きなお兄ちゃんから頼まれたんだから。ルカの事を」
ロルフィーネの呟く声が聞こえた瞬間『ざく』と鈍い音が響いて、人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは行動を続行できなくなる。
そしてロルフィーネは笑みを浮かべながら一体、もう一体とレイピアで攻撃を仕掛けて人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊの数を減らしていく。
「ルカ、そんなに吸血鬼なのがいや？ お兄ちゃんの娘なんでしょ？ お兄ちゃん、ルカのことすごく心配してるんだよ」
ロルフィーネが呟く言葉を人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは倒され行く自分たちを見ながら聞いていた。
「お父さんが‥‥」
ルカが少し驚いたような表情で言葉を返す、父親から捨てられたとでも思っていたのだろう彼女はロルフィーネの言う言葉に戸惑っているのだろう。
「ルカ、こっちの世界においでよ。人間の血ってすっごく美味しいんだよ」
満面の笑みを浮かべながらロルフィーネが『吸血鬼として生きる』ように説得を行う。
「わたくしの任務はそれを阻止すること、雪長ルカ――大人しく排除されなさい」
人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊがルカに向けて言うが、ルカは耳を押さえて「やめて‥‥」と目をきつく閉じながら震える声で呟く。
「‥‥はぁ‥‥やめ、て‥‥」
人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊ、ロルフィーネはルカの変化に気づき、目を丸くする。彼女が苦しそうな表情をする理由、それは人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊには分からないけれど、吸血鬼であるロルフィーネが一番良く知っている事だから。
「お腹が空くでしょ？ 喉が凄く渇くでしょ？ その餓えを止める方法は一つだけ、吸血鬼として生きることだよ」
１８歳を間近に迎えたルカの体は既に吸血鬼として変調し始めていたのだ、その変調がルカに餓えと渇きを与えて苦しめていた。
ロルフィーネは人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊを蹴り、ルカへと近づいていく。
「ボク達と一緒に生きよう？ 最初は大変かもしれないけど、慣れればすごく楽しいよ」
ロルフィーネはぺろりと唇を舐め「どうする？」とルカに問いかける。
その問いかけを聞いて人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊはルカが完全に吸血鬼へと変貌する前に止めようと動き出すがロルフィーネによってそれを阻止される。
「本当に‥‥お父さんが、心配してる‥‥？」
ルカは苦しそうな表情のままロルフィーネに問いかけると「じゃなくちゃボクが此処にいないよ」と彼女もにっこりと笑いながら言葉を返した。
「じゃあ‥‥私、吸血鬼になる――お父さんに会ってみたい」
ルカが呟いた瞬間、ロルフィーネはルカの首筋に牙をつきたてて人間としての血を奪う。
それと同時に周りの気配が変わり、人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊも銃口を向けようとするがルカが動き、それを奪う。
「私は‥‥何を躊躇ってたんだろう――こんなに気持ちが解放された気分になれるんなら、最初から拒否するんじゃなかった」
そしてルカが覚醒したのを見て、人型退魔兵器はジリ、と後ろへ下がる。
「敵倍増。現戦力での対応は不可能。高火力兵器は市街地への被害拡大の可能性大、撤退します」
人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊは冷静に現状を分析し、最終的に撤収する為にルカとロルフィーネの前から姿を消したのだった。
「うん、ちゃんと血を吸えてよかった。ボクね、血を吸うのが下手クソなんだ。いっつもご飯をぐちゃぐちゃに食べ散らかしちゃうから『オーガみたいではしたない』ってお姉ちゃん達に叱られちゃうの」
でもルカにはちゃんとできたよ、ロルフィーネは大きく伸びをしながら言葉を付けたす。
「あ〜あ、お腹空いちゃった。ね、ルカ、これからご飯食べにいこ♪」
ロルフィーネは嬉々としてルカをご飯へと誘う。もちろん、彼女が指す『ご飯』とは人間のことだ。
「そうね、私もお腹空いちゃった――沢山ご飯食べてお父さんに会いたいな」
次の日の朝、会社帰りのＯＬが数名襲われて死んでいるのが発見された。
「もう、ルカってばボクより食べ方がはしたないよ？」
「だって食べるの初めてだから仕方ないと思うけど？」
ＥＮＤ
――出演者――
6691/人型退魔兵器・Ｒ−９８Ｊ/女性/8歳/退魔支援戦闘ロボ
4936/ロルフィーネ・ヒルデブラント/女性/183歳/吸血魔導士／ヒルデブラント第十二夫人
―――――――
ロルフィーネ・ヒルデブラント様＞
初めまして、水貴透子です。
今回は『ダンピール』にご発注頂き、ありがとうございました！
お二人での共演と言うノベルでしたが、内容の方はいかがだったでしょうか？
少しでもお気に召す物に仕上がっていれば幸いです。
それでは、シナリオにご参加くださりありがとうございました！
2009/3/3
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