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<東京怪談・PCゲームノベル>


 家庭訪問

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 普段、学校にいないときの生徒。そのライフスタイル。
 どんな環境で育ってきたのか諸々、知っておかねばならない。
 大切な生徒だからこそ、今後の為に。
 じゃあ、行きましょう。
 家庭訪問、スタート。

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 そわそわと落ち着かない様子のアリス。
 何度も時計を確認し、玄関前をウロウロ。
 彼女の珍しい動揺ぶりに、母親も苦笑を浮かべている。
 何事にも動じない彼女が、何故にここまで焦っているのか。
 その理由は、家庭訪問だからこそ。
 さほど公にはしていないが、アリスには裏の顔がある。
 自宅兼美術館の自宅には、あらゆる証拠がそこらじゅうに散らばっている。
 それなりに隠しはしたけれど。やっぱり、不安になってしまう。
 裏の顔がバレたからといって、軽蔑されることは……ないと思うけど。
 訪問してくる先生が、ヒヨリだから、そのあたりは、ちょっとだけ安心。
 でも、ヒヨリだからこそ緊張するというのもある。
 色恋? う〜ん……。なきにしもあらず、かな?
 アリスが右往左往していると、チャイムが鳴った。
 裏口にある玄関から訪問したヒヨリ。
 あまりにも立派な外観に、あんぐりと口を開けていた。
「いらっしゃいませ」
 ゆっくりと扉を開けて歓迎するアリス。
 ヒヨリは帽子を脱ぎ、ペコリと御辞儀して微笑んだ。
「お邪魔します」
 立派な美術館であるアリスの自宅は、豪華絢爛。
 とはいえ、ゴテゴテしているわけではなく。上品な雰囲気だ。
 真っ白な壁に銀色の扉、綺麗なシャンデリア、大理石の廊下。
 リビングへと向かう最中、ヒヨリは展示されている美術品に興味津々。
「へぇ。色々あるんだね」
「はい。お気に召すものはありましたか?」
「う〜ん。ん? 言ったらくれるの?」
「ふふ。まさか」
「だよね。そうだなぁ……。さっき見た、クリスタルケトルとか良い感じかな」
「さすがですね、先生。私も、あの作品気に入ってるんですよ」
「へぇ。アリスが仕入れたのかい?」
「はい。所有者も一緒に―」
「ん?」
「……いえ。何でも」
 苦笑しながらリビングへと案内し、日当たりの良い場所へと着席を勧めたアリス。
 真っ白なソファに腰を下ろすヒヨリのもとへ、紅茶を運んでくる綺麗な女性。
 まるで作り物のように美しい女性に、ヒヨリは一瞬ココロを奪われた。
 けれど、すぐに我に返って紅茶を口に運んで笑う。
「綺麗な人だね」
「はい。母です」
「あっ、そうなの? へぇ……」
 チラリと見やれば、アリスの母はニコリと微笑んで頭を下げた。
 控えめで上品な女性。まさに女性の鏡というべきか。
 母と笑顔で会話するヒヨリを見つめながら、アリスは少し不愉快そうに言った。
「先生。御話しましょう」
「ん。あぁ、そうだね。えぇと。お父さんは?」
「父はいません。……ここには」
「そっか。お母さんと二人で暮らしてるんだね」
「はい。あ、時々……お手伝いさんも来ますね」
「ふぅん。お嬢様って感じの生活だなぁ」
「そんなことないですよ」

 いつも学校で話しているように気さくな感じで話す二人。
 言葉を飛ばす、そのタイミングがピッタリと重なり合っていて、
 普段から、いかに二人が御話しているかが窺える。
 仲良く話す二人を見やりながら、アリスの母はリビングの隅にあるソファに座って目を伏せていた。
 自分が会話に混ざることはない。あくまでも、そこにいるだけ。
 仲良く話す娘の姿に、嬉しそうな微笑みを浮かべている。
 娘が、あんなにも無邪気な笑顔を浮かべて話すだなんて、珍しい。
 一緒にいる時間は自分のほうが長いはずなのに。何だか、ちょっぴり寂しくもある。
 その後、ヒヨリはアリスに様々なことを尋ねた。
 美術館の運営は上手くいっているのかだとか、
 作品はどうやって仕入れてくるのかだとか、
 足を運ぶ客層は、どのあたりが多いのかだとか。
 学校ではあまり話さないことに重点を置いて尋ねていく。
 中にはドキッとさせられたり、ギクッとさせられる質問もあった。
 まるで生きてるかのような女体像に関しての質問だとか、
 あまりにも美しすぎる母親に関しての質問などが、それだ。
 アリスは微笑み、うまくはぐらかしながら質問に答えた。
 内心、かなり動揺していたのだが……おそらく、ヒヨリは気付いていない。

 *
 *
 *

 リビングでの御話を終えた後は、自室拝見。
 普段、どんな部屋で過ごしているのか。先生としては気になるところ。
 アリスの自室は、最上階にある。最上階の、一番奥。そこがアリスの自室。
 何となく予想はしていたけれど。予想以上だった。
 アリスの自室は、少女が住まうには少し贅沢すぎるほどに豪華。
 真っ白な壁に飾られている巨大な絵。花畑と星空が混ざり合った綺麗な絵。
 一番お気に入りの作品らしく、展示する目的ではなくて、
 こうして自室に飾るため、大金をはたいて購入したのだそうだ。
 絨毯も見事だ。おもわず、しゃがんで細部まで観察したくなるほどに細かな刺繍が入っている。
 アリスから耳打ちされた値段を聞いて、ヒヨリは笑うしかなかった。目玉が飛び出す。マジで。
 ただ美しいだけでなく、機能的にも優れた部屋だ。
 この部屋ならば、ストレスを感じることはないだろう。
 各所にさりげなく置かれたアンティーク品も雰囲気を一層高めている。
「ん〜。綺麗な部屋だね。広いし。羨ましいな」
 部屋を見回しながらクスクス笑うヒヨリ。
 アリスは少し照れ臭そうにしながら微笑んだ。
 何事もなく、このまま終わってくれますように。
 心のどこかで、こっそりと願うアリス。
 チラチラと泳ぐアリスの目線。
 パッと見た感じでは、綺麗な部屋。ただ、それだけだけれど。
 実は、そうじゃない。隠しているのだ。見つからぬように。
 机の中や棚の中、クローゼットの中に、ありとあらゆる "裏" を隠している。
 感心しながら部屋を徘徊するヒヨリ。
 それじゃあ、そろそろお暇しようかなとヒヨリが言ったことで、アリスは安堵した。
 そんな素振りは見せないけれど、かなりホッとしている。
 だが、アリスの目に飛び込んできたものがあった。
 ベッド、枕元に置かれた、黒い箱と黒い鍵。
 忘れていた。昨晩、眠る前に眺めて満喫したまま……。
 気付いたアリスの動きが急にぎこちなくなった。
 ヒヨリは首を傾げる。
「うん? どうしたの?」
「いえ。何でも」
 必死に笑顔を作り、誤魔化して。
 やや強引に、ヒヨリを部屋の外へと追い出す。
 安心したところでギクッとさせられて、かなり動揺していたようだ。
 どう考えてもおかしな挙動だった。誰が見ても、それは明らかだった。

「それじゃあ、また学校でね」
 玄関までヒヨリを見送るアリス。
 微笑んではいるが、どこかぎこちない。
「はい。また。今日は、わざわざ有難う御座いました」
 ペコリと頭を下げるアリス。
 その動きに合わせるかのように、少し離れた位置にいる彼女の母親も頭を下げる。
 ヒヨリはニコリと優しい笑みを浮かべ、扉に手をあてた。
 何だかんだで何事もなく家庭訪問は終了……するかのように思えたけれど。
 ピタリと立ち止まるヒヨリ。アリスは首を傾げた。
 ヒヨリは振り返り、ツカツカとアリスに歩み寄って、耳元で囁いた。
「あの中には、何が入ってたのかな?」
「……!」
 僅かに肩を揺らしてしまったアリス。
 ヒヨリはアリスから離れ、苦笑しながら一礼し、頭を下げた。
 誤魔化せたつもりでいたけれど、全然だめだったということか。
 全部、気付かれていたということか。
 どこまで? どこまで知られたのだろう。
 直接口にして話したわけじゃないけれど……。
 耳の奥に残るヒヨリの低い声を思い返しながらアリスは大きな溜息を落とした。
 バタンと閉まる扉。家庭訪問って……疲れる。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7348 / 石神・アリス / 15歳 / 学生(裏社会の商人)
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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