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<東京怪談・PCゲームノベル>


家庭訪問

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 普段、学校にいないときの生徒。そのライフスタイル。
 どんな環境で育ってきたのか諸々、知っておかねばならない。
 大切な生徒だからこそ、今後の為に。
 じゃあ、行きましょう。
 家庭訪問、スタート。

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「ぼっちゃん。落ち着いて下さい」
「あっ、うん。うんうん。うん」
「お返事は、一回ですよ」
「あっ、うん。うんうん。うん」
「…………」
 ウロウロと屋敷玄関付近をウロついている霊祠。
 今日は家庭訪問の日。確か、訪問してくる先生は、藤二。
 告知されていた時刻は、18時。現在時刻は、18時4分。
 いつ来てもおかしくない状況だからこそ、霊祠はドキドキしている。
 都内にある立派な屋敷。そこが、霊祠の自宅。
 落ち着きなくウロついている霊祠の傍にいるのは、教育係の一人。
 小柄な体躯に黒いスーツ、黒いサングラス。
 一見すると、ちびっこギャングのような、この少年。
 18歳なのだが、まず見えない。彼の名前は、藁科・ウィリアム。
 屋敷内での通称・愛称はウィル及びウィリー。
 そわそわしている様子の霊祠を見やる、ウィリアムの眼差しは優しく柔らかだ。
 こう見えて、ウィリアムは、かなり頼りになる存在。
 霊祠からは、アンデット使用人の総監督、その任を命じられている。
 要するに、人を見た目で判断してはいけないという。その典型的な例である。
 客人を迎えることは決して珍しいことではない。寧ろ逆だ。
 由緒正しき立派な家柄だからこそ、交友関係は深く広い。
 だが、それらの客人は、霊祠が招くわけじゃない。
 霊祠の父親。その客人であることが殆ど、というか全てがそうだ。
 だからなのだ。だからこそ、霊祠はソワソワと落ち着きなく右往左往。
 初めてのことなのだ。屋敷に "自分" を訪ねてくる人物がいるという状況が。
 霊祠がどんな心境でいるか、そのあたりもウィリアムは全て把握している。
 把握しているからこそ、微笑ましく見守る。
(ぼっちゃん……。嬉しそうですね)
 口端を上げて、ニヤリと不敵に笑んだウィリアム。
 別に何かを企んでいるわけではない。こういう笑い方しか出来ないのだ。
 そんなこんなで。5分ほどが経過した時、ピタリと霊祠の動きが止まる。
 屋敷の扉へ向かってくる、確かな足音を耳が捉えた故に。
「き、来ましたですよ〜。えぇと、皆さん、失礼のないように御願いしますね〜」
 お出迎えする他の面子に向けて御願いした後、霊祠は扉を開けた。
 巨大な扉の前、呼び鈴はどこかとキョロキョロしていた藤二は目を丸くする。
 ギギギィ……と鈍い音をたてながら開く扉。
 ひょっこりと顔を出し、霊祠は微笑んだ。
「先生、ようこそでございます」
「おっ。おぉ……」
「中へどうぞでございます」
「あ、あぁ……。んじゃ、お邪魔させてもら……うほっ!?」
 更に目を丸くして、更に語尾がオランウータン化した藤二。無理もない。
 開いた扉の先、ズラリと黒スーツの連中が並んで一斉に頭を下げたのだから。
 良いとこのお坊ちゃまだという、その噂は耳にしていたけれど、まさかここまでとは。
 っていうか、何だこれ。何で全員が全員黒スーツに黒グラサンなの。
 怖いんですけど。え? マフィアアジトじゃないよな? ここ……。
 苦笑しながら、霊祠の案内に従って屋敷の奥へと入っていく藤二。
「デカい家だな。しかし……」
「あはは。そうです?」
「うん。俺んちの50倍はあるな……」
 クスクス笑いながら階段を登り、二階にあるリビングへと案内する霊祠。
 藤二の顔を見た途端、それまでの緊張は嘘のように、どこかへと消えたようだ。
 ぎこちない口調も動きもなくなって、いつもどおりの振る舞いを見せている。
 リビングはリビングで、とてつもなく広い。
 ここまで広いと、逆にくつろげないのではないかと苦笑してしまうほどに。
 立派なソファに腰を下ろし、その座り心地の良さに、また目を丸くした藤二。
(うおお……何だこの座り心地。埋もれていくかのような。そう、例えていうなれば、これは……)
 まぁ、ソファの座り心地に関する藤二の見解は置いといて。
「先生。紅茶で良かったです?」
 ニコリと微笑んで言った霊祠。藤二は、ハッと我に返る。
「あ? あぁ。いや、お構いなく」
「そういうわけにはいかないのですよ。ちょっと待って下さいね」
 微笑みながら、パンパンと両手を合わせた霊祠。
 その合図に応じ、ガチャリと扉を開けて入ってくる人物が。
 銀のトレイに紅茶と菓子を乗せ、運んできたのは、漆黒のローブを纏った―
「あららら。随分とまぁ、美人さんだ」
 すぐさま反応した藤二。ニコニコと御機嫌な様子の藤二を見やりながら、霊祠は笑った。
「先生、すごいですねぃ」
「うん? 何が? 何で?」
「アリアさんは、男性に間違われることが多いのです。カッコ良いから無理もないのですが」
「へぇ。まぁ確かにクールな感じはするけど。そっか、アリアちゃんっていうんだ。よろしくね」
 即効モーション。藤二は、自慢の "女の子専用スマイル" を浮かべながら言った。
 だが、無反応。カチャリカチャリと紅茶と菓子を置き、すぐさま一礼して立ち退く。
 七詩之・アリア。彼女もまた、霊祠の教育係の一人。
 彼女は、霊祠の専門家庭教師でもある。
 霊祠のちょっとした紹介にもあったとおり、アリアはクールビューティ。
 基本的に何事にも動じない。死神やワイトのような真っ黒なローブを纏い、
 そのフードを目深く被っている為に、表情を拝むことは滅多に出来ないようだ。
 だが、霊祠いわく、アリアは "可愛い系の美人さん" らしい。
 その辺りを、すぐさま見抜いた藤二。さすがというか何というか。
(いいねぇ。突っ張ってるコとか、物凄くタイプ。そういうコに限ってさ……)
 まぁ、口説く気満々な藤二の分析は置いといて。
「えぇと。先生、それで……。僕は、どうすれば良いんでしょうか〜?」
「あ? あぁ。えーと。そうだな」
 そうですよ。家庭訪問です。本来の目的を忘れないように御願いします。
 出された紅茶を一口喉に落とし、フゥと息を吐き落として藤二は辺りを見回した。
 屋敷の中は薄暗く、独特の雰囲気だ。ジメジメしているような気も……。
 どうやら "雰囲気" を大切にしているようで、家電製品などは、上手く隠されている。
 一般的に普及し、在るのが当然な代物だからこそ、雰囲気を損ねてしまうのだ。
 13の数字と蜘蛛の巣のモチーフが屋敷の至る所に確認できるが、
 特に呪術的な意味はないようだ。これも "雰囲気" だろうか。 
 うん。マジで立派な屋敷だ。雰囲気うんぬんは抜きにしてな。ここまでだとは思わなかったよ。
 生徒の噂なんてな、いつも大袈裟なもんでオーバーだったりするから。
 でも今回は、オーバーでも何でもなかったんだな。
 お前は、本物の、おぼっちゃまだったと。うん。
「で……。ご両親は?」
「あ。父様はいないのですよ」
「うん? 外出中か」
「はい。お仕事で世界中をブンブン飛び回っているのです〜」
「ブンブンって……。ハエみたく言うなよ。お母さんは?」
「母様もいないのですよ」
「うん? あぁ、一緒に飛び回ってるのか」
「いえ。母様は天国にいるのです」
「……。あぁ、そうか。ごめん」
「たまに帰ってきますけどね。最近は忙しいみたいで〜」
「……。あぁ、そうなんだ。……って、え?」
「最近は、天国も物騒といいますか〜。色々と問題があるみたいですよぅ」
「……。あぁ、そう」
 電波な会話になってしまったのか、と一瞬戸惑ったが。
 何もおかしなことはない。ごく普通の話。この屋敷では普通の話。
 もっと正確に言えば、霊祠の周りでは普通の話。
 お迎えしてくれた使用人達にしても、先程からチラチラ視界に入る監視人にしても、
 その殆どがアンデットだ。普通の人間(生きてる人間)は数えるほどしかいない。
 生活環境について、屋敷での生活についてに重点を置き、あれこれと話し込む藤二と霊祠。
 まぁ、お前の能力については、千華から聞いてるから驚くこともない。
 何もかも把握してるってわけじゃあないけどな。
 それにしても凄い屋敷だ。色んな意味で。
 千華が、頑なに訪問担当を拒んだ理由がハッキリ理解ったよ。
 こんなところに来たら、あいつ卒倒しちまうだろうな。
 家庭訪問もクソもねぇわ。あっはっはっ。

 友達同士のように気さくに御話する藤二と霊祠。
 その様を、部屋の隅に並んで立って見守るウィリアムとアリア。
 ウィリアムは気付いている。アリアの眼差しが、氷のように冷たく冷め切っていることに。
(殺気立ってますね。面白いことになりそうです)
 声にはせず、心の中でニヤリと笑んだウィリアム。
 横目に見やるアリアの眼差しは、冷め切っていくばかりだ。
 仲良くお喋りしている。部外者が、霊祠と仲良くお喋りしている。
 その状況が、どうにも気に食わないようだ。アリアは、霊祠を溺愛している。
 立場上は厳しく接している……つもりなのだが、甘やかし放題である。
 また、その自覚がないから余計に厄介。溺愛を通り越して寵愛。
 仕える主人の息子だからというよりは、個人的な愛情がそこにはありそうだ。
 が、その辺りをツッこむと、アリアは全力で否定する。
 私は断じてショタコンではない、と言い張る。
 別に、ショタコンだなんて誰も言ってないのに。
 一種の墓穴なのだが。それも自覚がないようだ。

 *
 *
 *

 リビングでの御話を終えた後は、自室拝見。
 普段、どんな部屋で過ごしているのか。先生としては気になるところ。
 とはいえ、霊祠が自室にいることは稀だ。研究室に篭っていることが多いので、
 自室はあれど、ほとんど使わない。その為、まったく生活感がなく綺麗な状態だ。
 まぁ、使用人が毎日綺麗に掃除しているからというのもあるのだけれど。
「すげぇな。このベッド……」
 霊祠の自室に置かれた巨大なベッドに手を添えて苦笑した藤二。
 巨大だ。実に巨大だ。一体、何人横になれるんだってくらいに巨大。
 しかも、ふっかふか。パフンと叩けば、水の波紋のようにユラユラと揺れる。
「寝転んでみます〜?」
「お。いいの?」
「どうぞ〜」
「んじゃ、お言葉に甘えて……。おおおお〜……」
「ふふ。どうです?」
「すげぇ。何ていうか……すげぇ。うお〜。こりゃすげぇわ〜」
「滅多に使わないですけどねぃ」
「もったいねぇなぁ」
 思う存分、もっふもふなベッドを堪能した藤二。
 また本来の目的を忘れて楽しんでしまったようだ。
 ……えーと。うん、まぁ。こんなところか。十分理解できたよ。
 お前が、どういう環境で育ってきたか、生活しているのか。
 その歳で両親がいないっていう状態は寂しいんじゃねぇかなと思ったけど。
 余計なお世話っぽいな。賑やかだし、退屈しないんだろう。お前は。
 まぁ、人外ばっかなわけだけど。お前にとっては、それが普通なわけだしな。
 これは、あくまでも提案だけど。今度、クラスメートでも招待してやれ。
 海斗あたりなんか、大喜びしそうだぞ。先ず、かくれんぼしようって言い出すだろうけどな。
 一人で研究に没頭するのも良いよ。充実してるならな。
 でも、たまには遊ばないと駄目だ。篭りっきりなんて寂しいぞ。
 そのうちコケ生えてくるかもしれないぞ。コケ生えたネクロマンサーなんてカッコ悪いだろ。
 だから、たまには遊びなさい。何もかも忘れて、大笑いしなさい。
 研究以外にも楽しいことってたくさんあるんだって、そう実感して欲しいと思うんだ、先生は。
 まぁ、学校では、俺も努力するよ。
 お前に、楽しいことをたくさん教えてやれるように。
 とかね。どうだ。ちょっと先生らしい感じしただろ。
「うん。じゃあ、まぁ。今日はこの辺で」
「はい〜。あ、先生、車です〜?」
「いや。歩き。あちこち移動するから逆に車だと要領悪くてな」
「そうなのですか。この後もです?」
「いや。俺の担当は、お前で最後だよ」
「そうですか〜。お疲れ様です」
「っはは。どうもどうも。んじゃあ、また学校でな」
「はい〜」
 霊祠の頭を撫でて微笑み、屋敷を後にする藤二。
 大切な生徒の生活環境を把握できたことに対する満足感。
 ちょっぴり先生らしい発言をした自分への陶酔。
 ぶっちゃけ、家庭訪問なんて面倒くさいと思っていたけれど。
 こういう充実感があるから、教師って仕事は面白くて止められない。
 嬉しそうに微笑む藤二。だが……扉を開けた瞬間、藤二の表情が凍りつく。
「うおっ!?」
 突如、鼻先を掠めた黒い物体。
 咄嗟に身を引いて避けたものの、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
 何事かと顔を上げてみれば……そこには、アリアの姿。
 わざわざ見送りに来てくれたのか。これがツンデレというやつか。
 何て……そんなこと思う余裕もない。思わせてくれても良いじゃないか。ちょっとくらい。
 苦笑しながら、藤二はすぐさま立ち上がって全力疾走。
 何故って? 巨大な大鎌を構えたアリアが追いかけてくるから。
「あー。ちょっと。ちょい待ち。アリアちゃん、どうしたの。何事?」
「…………」
「ちょっ、待っ……。あっ、わかった。これ、サディスティックな愛情表現?」
「…………」
「待っ……。スルーも止めて。ちょっ、待ってって。うおぉい! 霊祠! 何これ!」
 逃げ回りながら苦笑して霊祠を見やった藤二。
 霊祠は扉の隙間から、こっそりと覗いているだけで助けようとはしない。
 意地悪しているわけではない。ただ単に、巻き添えを食らいたくないだけだ。
 肩を揺らしてクスクス笑う霊祠。その後ろで、ウィリアムが呟いた。
「霊祠殿の指導者として相応しいか否か。……だそうです」
 相応しいか否か? いやいや。あれは違うだろう。
 相応しくないと思ったが故の制裁ではなかろうか。
 ……私的な感情も大いに含まれていそうだけれど。
 何となく嫌な予感はしていた。藤二が無事に帰れないのではないかと。
 思ったとおりの展開になったわけだが。逃げ回る藤二を見やりながら、霊祠は笑った。
 そんな霊祠の横顔を見やって、ウィリアムも微笑む。例によって不敵な笑みだけれど。
(良い表情です。ぼっちゃん)
 難なくこなしてきた家庭訪問。最後の最後で、てんやわんや。
 一番最初に職員室を出た藤二だが、戻るのは一番最後になりそうだ。
 お疲れさまです、先生。
「夕食、先生の分も用意したほうが良さそうですね〜」
「用意させてありますよ」
「おぉ〜。さすがですねぇ、ウィルさん」
「ありがとうございます」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 6961 / 藁科・ウィリアム /18歳 / バトラー
 7904 / 七詩之・アリア /474歳 / 家庭教師
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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