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<東京怪談・PCゲームノベル>


ほぼ、全滅

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「……こりゃ、駄目だな」
 出席を取ることを止め、教卓にファイルを置いた藤二。
 何が駄目なのか。教室を見回せば、すぐに理解る。
 教室には、生徒が三人しかいない。
 出席なんぞ取らずとも、すぐに把握できる。
 どうして、こんなにも生徒がいないのか。
 その原因は、インフルエンザだ。
「全員、っつっても三人だけど。帰っていいぞ〜」
 欠伸しながら言った藤二。
 感染することなく、元気いっぱいな生徒三人。
 海斗と浩太は、嬉しそうに席を立った。
 梨乃は、ちょっと寂しそうな表情を浮かべている。
「休みだー! 浩太、ゲーセン行こーぜ」
「こら。おとなしく家に帰れ」
「藤二も行こーぜ」
「行きません。っつうか、藤二先生と呼べ。何回言えば理解るんだ」
 藤二が担任のAクラスだけじゃなく、
 他のクラスも学級閉鎖の処置をとったようだ。
 もはや、休校状態である。
 元気な生徒は良いかもしれないけれど……。
 お休みしている生徒は、大丈夫だろうか。

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 インフルエンザで非常事態。
 お休みする生徒が多すぎて、もはや休校状態。
 こんな状況でも元気な奴ってのはいるもんで。
 そういう奴らにとっては、嬉しい状況だったりもする。
 何せ、学校が休みになるわけだから。
 別に勉強が嫌だ! ってことではないのだけれど。
 こういう形で休みになるのは、何というか特別な感じなのだ。
 とはいえ、喜んでばかりもいられない。
 お休みしている仲間は、苦しんでるわけだし。
 大喜びするのは不謹慎だったかもと反省した海斗と浩太。
 二人は沈黙した後、お見舞いに行ってみようかと同時に口にした。
 伝染されたら、また面倒なことになるから止めておけと藤二は言ったけれど。
 一度決めたらテコでも動かないのが、海斗と浩太だ。
 それを理解っているがゆえ、梨乃も止めない。
 結局、おとなしく家にかえるのは梨乃だけ。
 海斗と浩太は、お見舞い用のフルーツを買いに行こうとダッシュ。
「どうにもならんな。あいつらは……」
「伝染されて苦しめばいいんですよ」
「こういう時、厳しいよなぁ。梨乃は」
「馬鹿につける薬はないですから」
「……うん。まぁ、同感だけど」

 *

 お休みしているクラスメートの中で、一番重態だと聞いた夏穂。
 海斗と浩太は、大量のフルーツを持って夏穂の自宅へと向かった。
 異界にある立派なお屋敷。二人が夏穂の自宅を訪問するのは初めてのこと。
 あまりの立派さに、海斗も浩太も口半開きで見上げている。
 間抜けに呆けていると、ようやく扉が開く。
 チャイムを鳴らして、しばらくしてから扉が開いた。
 扉を開けたのは…… "人" ではなかった。
 いつも、夏穂の傍にいる護獣たちだ。
 一匹では開けられぬ大きな扉ゆえに、何匹かが固まって、一斉に扉を開けた。
「あれ。夏穂いねーのかな」
「部屋で寝てるんだと思うけど」
「あー。そっか。そーだよな」
 ポンと手を叩いて納得した海斗。
 浩太は苦笑しながら、護獣たちに声を掛ける。
 動物好きな浩太が、護獣たちに拒まれることはない。
 夏穂のお見舞いに来たことを伝えると、
 護獣たちは、どうぞといわんばかりに屋敷内部を耳や尻尾で示す。
 浩太には好意的だが、海斗には、ちょっと乱暴な対応。
 まぁ、無理もない。海斗が来ては、余計に大変なことになりそうだし。

 自室を訪ねると、夏穂はベッドに横たわって苦しそうに呼吸していた。
 いつもは結っている髪も解かれていて、寝巻きは真っ白な可愛いネグリジェ。
 頬は紅く火照っており、見るからに辛そうな印象を受ける。
「夏穂ちゃん。大丈夫?」
 声をかけながら浩太が歩み寄ると、夏穂はフッと目を開けた。
 二人がお見舞いに来てくれたことが嬉しいのだろう。淡く微笑む。
 だが、いつもの可憐さはなく、儚いばかり。
 これでも、昨晩よりかは、だいぶ楽になった。
 昨日の夕方〜深夜にかけてがピークだったようで。
 もしも無理して、昨晩もハント活動を実行していたら……と考えると恐ろしい。
 夏穂だけじゃなく、屋敷にいる "人" は全滅のようで、元気なのは護獣たちだけ。
 その為、家事やら何やら、一切を彼らが行っているのだそうだ。
 皆、一生懸命やってくれるし助かるし嬉しいのだけれど……。
 ガシャァンッ―
「うぉっ! 何だっ!?」
「……また、やっちゃったみたいね」
 コンコンと咳をしながら苦笑して言った夏穂。
 慣れぬことをしているせいで、失敗も相次いでいる。
 皿を割ってしまったり、掃除機で絨毯を勢い良く吸い込んでしまったり、
 窓を磨くつもりが逆に汚してしまったり、バケツの水をひっくり返したり……。
 頑張ってくれるのは嬉しいけれど、怪我するんじゃないかと夏穂は心配しているようだ。
 それを聞いた浩太は微笑み、自分も手伝うよと言って腕を捲くった。
 護獣たちとコミュニケーションが取れる浩太ならば、任せて安心だ。
 申し訳ない気持ちはあるけれど、この状況では素直に甘える他ない。
 夏穂はペコリと頭を下げて、よろしく御願いしますと伝えた。
「っしゃ。んじゃ、俺も―」
「海斗は駄目。夏穂ちゃんの傍にいてあげて」
 ビシッと言ってのけた浩太。腕捲くりした海斗は苦笑。
 せっかく手伝おうとしたのに。ソッコーで戦力外通告しなくてもいーじゃんか……。
 でもまぁ、納得はできる。手伝ったところで役に立ちそうにはない。
 逆に大騒ぎになって、護獣と浩太の仕事を増やしてしまいかねない。
 ここは空気を読んでというか、己を見つめなおして納得すべき。
 海斗は捲くった腕を元に戻し、ベッド横にある椅子に座って笑った。
「わかったよー」

 浩太は、護獣と一緒に家事のお手伝いを。
 海斗は、夏穂の傍で看病を。
 二人がお見舞いに来てくれたことでホッとしたのか。
 先程よりも、夏穂の呼吸は緩やかなものになっている。
 ただ傍にいるだけでは看病もクソもないだろう。
 そう思った海斗は、買って来たフルーツを手に取る。
「何か食う? 蜜柑? 林檎? あ、桃もあるぞ」
「……じゃあ、桃」
 淡く微笑んで言った夏穂。
 普段は遠慮がちな彼女も、今日ばかりは素直に甘える。
 海斗は了解! と敬礼し、果物ナイフで桃の皮を剥く。
 剥く……というよりは、削っているような……。
「できた。ほい、口開けてー」
 とりあえずは一口サイズになっているけれど、もはや桃の原型はない。
 力んで剥いた(削った)ことにより、むにゅっと潰れてしまって。
 ボッタボタと果汁が垂れたことで、みずみずしさもクソもないのでは。
 けれど、夏穂はクスクス笑い、嬉しそうに桃を口に含んだ。
 カタチなんて、どうでもいいの。
 こうして、看病してくれる。その気持ちが嬉しいの。
 高熱にうなされるだなんて久しぶりのことだったから不安だった。
 でも、二人の顔を見たらホッとしたの。すごく嬉しかった。
 こんなこと言うのは不謹慎かもしれないけれど……。
 こういうのも、たまには良いかな……なんて。
 私らしくないわね。こんな、ワガママなこと言うなんて。
 でもね……今日は。今日くらいは、甘えていたいの。
 優しさに甘えてみたいの。たまには……いいでしょう……?
「うまい?」
 ニカッと笑って言った海斗。
 夏穂はコクンと頷いて微笑んだ。
 二人がお見舞いに来たことで、心がリラックス。
 いつもの可愛らしい笑顔も、すぐに戻ることだろう。
 ひととおりの掃除を終えて、晩御飯の献立を相談に来た浩太は、
 あまりにも甘い、良い雰囲気に当てられて部屋に入れずにいるけれど。
(ふふ。ついてこないほうが良かったかもね)

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL:生徒
 NPC / 梨乃 / 19歳 / HAL:生徒
 NPC / 浩太 / 19歳 / HAL:生徒
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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