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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


彼女達のそんな変わらない毎日

 幻想的なものには不思議な魅力が存在する。
 普段は絶対にお目にかかれないもの、現実ではありえないもの、それらは人を惹きつけてやまない。
 それが子供であれば、尚更‥‥。

「ふむ、こんなものか」
 その日、シリューナ・リュクテイアは実験的な試みを行っていた。
 魔法薬屋の一室に『立ち入り禁止』と書かれたプレートが下がっていて、その部屋の中ではシリューナが特殊な魔法装飾品を使用して絵本の世界を再現しようとしていた。
 彼女が再現しようとしているものはお菓子の家が特徴的な童話。もちろん本をそのまま再現するというわけではない。家を大きくしたりと彼女なりにアレンジを加えて再現しているのだけれど。
「さて、少し休憩した後に出来栄えを確認行くとしようか」
 再現異空間を作り終えた後、シリューナは少し休憩をする為に部屋を出て「ティレ」と玩具‥‥もとい弟子であるファルス・ティレイラの名を呼んだ――のだが。
「‥‥返事がない、全く何をしているんだ」
 シリューナはため息混じりに呟き、仕方が無いので自分で紅茶を淹れて休憩をする事にした。

 そして、その頃のティレイラと言うと‥‥。
「あれ? お姉さまがいない‥‥」
 ティレイラは朝早くから作業をしているシリューナに休憩して貰おうと、紅茶を淹れて持ってきたのだが――部屋をノックしてもシリューナが姿を現さない。
「‥‥むぅ、どうしよう。折角淹れてきたのに冷えちゃったら美味しくないし‥‥」
 ティレイラは考え抜いた末に『立ち入り禁止』とプレートの下がられた部屋へ入る事にした。
「もしかしたら寝てるだけかもしれないし、入っちゃお」
 気持ち良さそうに湯気の立つティーポットの乗ったトレーを持ち、ドアノブを回して部屋の中に入る。
 すると、そこはおとぎの世界で、ティレイラはティーポットをテーブルの上に置くと翼を生やして「うわぁ」とか「凄い」とか目を輝かせながら見て回っていた。
 ティレイラのように子供っぽい少女にお菓子の家は魅力的なのだろう。
「わ、あっちにも部屋がある――行ってみようかな」
 ティレイラは甘い匂いが立ち込める部屋へふらふらと向かっていった。

「‥‥ティーセットが一式ない」
 いつも使っているティーカップとティーポットが無い事に、シリューナはティレイラが紅茶を淹れた事を予想するとため息混じりに先ほどの部屋へと戻っていった。
 そして部屋の前に来た時、シリューナは今日一番大きなため息を吐く。
 床に落ちた『立ち入り禁止』のプレート、そして僅かに開いたドア、明らかに誰かが部屋に入った形跡は残されている――と言うか一人しかいないのだけれど。
「まだ何があるか分からない状態だから『立ち入り禁止』にしたのだが‥‥お仕置き決定、だな」
 呆れたような、でも何処か楽しそうな表情を浮かべたままシリューナは部屋に入り、出来栄えを確認、そして勝手に入ったティレイラを見つけてどんなお仕置きをしてやろうかと考える彼女の表情はとても楽しそうだった。

「こっちはチョコレート、それにクッキー、美味しそう」
 チョコレートがたっぷりに使われたクッキーの壁を見ながらティレイラは楽しそうにパタパタと飛んでいる。
「それにしてもお姉さま、何処にいるんだろ」
 ティレイラはきょろきょろと見渡しながらシリューナを探しているのだが、まさか自分より後から部屋に入っているなど夢にも思わない彼女はどんどん部屋を進んでいく。
 そんな時だった、とある部屋から一段と甘い匂いがティレイラの鼻を掠めたのは。
「わぁ、マシュマロ」
 白くふわふわした大きなマシュマロが部屋の中央に置かれているのを見て、ティレイラは興味津々に駆け寄った――のだが『それ』はマシュマロの身体を持つ大きな魔物だったのだ。
「え、え、ま、マシュマロが襲ってくる」
 マシュマロの魔物は自分のテリトリーに入ったティレイラに対して、既に戦う気が満々で唸り声を上げている。ティレイラは慌てて部屋から出ようとするのだが、魔物が素早く出口の前に立ちふさがり、魔物を倒さねば部屋から出る事すら叶わない状況になってしまう。
「仕方ないなぁ‥‥」
 ティレイラも諦めたように応戦態勢を取り、マシュマロの魔物が飛び掛ってくるのを避ける。炎の魔法で攻撃を仕掛けようとするが、部屋の壁に敷き詰められたチョコレートが炎の魔法による熱度でどろりと溶けていくのがティレイラの視界に入った。
 それと同時に天井を支えるクッキーがチョコレートの壁が溶け始めた事によって、ミシミシと変な音をたてているのもティレイラの耳に入ってきた。
 このまま長期戦でマシュマロの魔物と闘っていれば、良くてもマシュマロの魔物を倒して天井に押しつぶされる、最悪の場合は倒す前に天井が落ちてくる――と言うパターンになるだろう。
「早くしなくちゃ、潰されちゃう」
 ティレイラは天井を見上げながら小さく呟き、それと同時に襲い掛かってくるマシュマロの魔物目掛けて炎の魔法を放ち、魔物の身体を四散させる。四散した魔物は壁や床、ティレイラに飛び散ったが、それは気にせず彼女は目の前の勝利に喜んでいた。
「やった♪ お姉さまに褒めてもらえるかな?」
 魔物をやっつけたこと、それを褒めてもらえるかと考えていた時、マシュマロの魔物の地から這い出るような低い声が響き始め、四散したマシュマロがティレイラの全身を包むように覆いかぶさってくる。
「きゃ‥‥」
 手足はもちろん翼や尻尾の先までマシュマロが覆いかぶさってきて、全身にマシュマロが被さったと同時に再び地から這い出るような声が響き始める。
「え――――」
 二度目の声が響いた時、全身の自由が効かなくなり流石にティレイラも慌てて「な、何?!」と必死に身体を動かそうとするが、既にマシュマロが固まり始め、慌てた状態のままティレイラの意識は遠のき、何処か可愛さを含んだティレイラマシュマロが完成していた。

「此処も問題は無いな」
 シリューナは全ての部屋を回り、異常が無いかを確認していた。それなりに奥の部屋までやってきてもティレイラと会わない所を見ると、彼女はかなり奥まで進んでしまったのだろう。
「折角の紅茶も冷めて台無しだ」
 入口付近のテーブルに置かれたティーポットは既に冷気を含み、温かさは微塵も感じさせなかった。
「‥‥ん?」
 その時、シリューナの鼻を掠めるのは異常なほどに香る甘い匂い。その匂いの元を調べようと一番奥の扉を開けて「‥‥ティレ」とシリューナはため息混じりに呟いた。
「相変わらず手間を掛けさせる、この状況を見ると魔物は退治できたみたいだが‥‥」
 シリューナは壁に散ったマシュマロのかけらなどを見ながら苦笑して呟く。
「まだまだツメが甘い」
 シリューナはマシュマロと化したティレイラを壊さないように優しく抱き上げ、来た道を戻り始める。
 驚きに満ちた表情のまま固まっているティレイラを見て「ふ」とシリューナは笑みを零した。
 いつも動き回っている可愛い姿と違い、この固まっている瞬間だけ見せる可愛さもシリューナは堪らなく好きだったりするのだ。
 そして紅茶の冷めたテーブルの所まで戻ってくると、椅子にティレイラを座らせて暫く鑑賞する事に決めた。
「この美味しそうで可愛いオブジェは鑑賞しがいがある、本当に飽きさせることがないな、ティレは」
 そう呟いてシリューナは冷めた紅茶を口に運び、暫くの間ティレイラを鑑賞していたのだった。


――出演者――

3785/シリューナ・リュクテイア/212歳/女性/魔法薬屋

3733/ファルス・ティレイラ/15歳/女性/配達屋さん(なんでも屋さん)

―――――――

シリューナ・リュクテイアさま>
ファルス・ティレイラさま>

こんにちは。
今回『シチュエーションノベル(ツイン)』を執筆させていただきました水貴透子です。
今回は執筆のご依頼、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召すようなものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回はシチュノベのご依頼ありがとうございました!

2009/3/4