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<東京怪談・PCゲームノベル>


夢中になれるもの

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 これまでに終えた討伐、得た報酬。
 情報室にあるパソコンで確認して、その額に一人でニンマリ。
 予想以上の額だった。こんなにも稼いでいたのか。
 予想と、かなり違っていた為に不安にもなったけれど。
 あちこちをクリックして確認してみれば、その不安は一掃される。
 掲載文によれば、連日討伐によるボーナスが加算されているようだ。
 そういえば、入学した翌日の授業で先生から説明はあった。
 すっかり忘れていた。討伐ボーナスの存在を。
 嬉しい忘却とは、まさにこのことではないか。
(これだけあれば……)
 ニヤニヤしてしまう。気持ち悪いと自分でも思うけれど、ニヤニヤしてしまう。
 背後にクラスメートがいるだなんて、気付きもせずに。

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「ほほー。稼いだなー」
「はっ!」
 背後からの声に驚き、咄嗟に席を立った霊祠。
 振り返った先には、むしゃむしゃとドーナツを頬張る海斗の姿。
「海斗くんでしたか。ビックリしました」
「あっはっはっ。めっちゃニヤニヤしてたな、お前」
「いやぁ……。ついにゲットできるので」
「あー。何だっけ。マニフェストだっけ」
「違うです。ツラーフェストです」
「惜しいっ」
「惜しくないです」
 ツラーフェストの書。
 ネクロマンサー専用の魔術書。
 霊祠は、この魔術書を入手する為に、コツコツ貯金を続けた。
 ハントで稼いだお金は、全て貯金。目標の為、努力惜しまず。
 その甲斐あって、ようやく。ようやく、お金が溜まった。
 その額、1800万円。
 目標額に到達したこと確認した霊祠は、さっそく連絡。
 目的の魔術書は、特殊な代物であるがゆえ、そこいらでは手に入らない。
 自宅に定期的に来てくれる魔商人に配達を頼むのだ。
 霊祠は、自宅に届けておいてくれと連絡した。
 だが、隣でドーナツを頬張る海斗が、不満を口にする。
 面白そうだから俺も見たい。ここに運んでもらえ。
 海斗の要望に霊祠は少し考えた。
 そう言われてみれば。
 海斗くんには、この本のこと話してますしね。
 見てみたたいな〜って言ってましたし。
 家に帰るまで待ちきれないって気持ちもありますし。
 結局、霊祠は海斗の要望に応じ、学校へ配達してくれと伝えた。
 配達依頼を飛ばしてから、僅か10秒後。
 窓の外に、魔商人の姿。
 フワリフワリと浮かびながら、魔商人は魔術書を窓越しに見せた。
 慌てて窓を開け、霊祠は支払いを済ませて魔術書を受け取る。
『まいどあり〜』
 ペコリと一礼して、どこかへと飛んで行った魔商人。
 窓を閉めて振り返る霊祠は、満面の笑みを浮かべていた。

 ツラーフェストの書は、禁書のひとつ。
 禁書扱いされる理由は、その内容のえげつなさにある。
 死霊術の歴史から禁術まで。事細かに記されている。
 ご丁寧に、凄まじいイラストや写真付きで……。
「うおー。キモっ!」
 ドーナツ(6個目)を食べながら笑う海斗。
 確かに気持ち悪い。目を覆いたくなるものばかりだ。
 楽しそうに目をキラキラと輝かせながら見入っている霊祠。
 よくわからないけれど、楽しそうで何より。
 正座して魔術書を読む霊祠の姿は、どこか微笑ましい。
 パラリとページを捲った霊祠。
 隣から覗き込むようにして一緒に見ていた海斗が食いつく。
「お! 何これ。めっちゃカッコイーじゃん」
「ふぉぉ……! これは、グルジーナの儀式ですねぃ!」
 興奮している霊祠。鼻息も荒くなっている。
 グルジーナの儀式とは、禁術のひとつ。
 自らの命を消費して、魔力を増幅させる術だ。
 消費された命は、グルジーナという死神に捧げられる……らしい。
 霊祠から説明を聞いた海斗は、ニコニコと笑いながら言った。
「ちょい、これやってみろよ」
「えぇ!? 僕がですかぁ?」
「あたりまえだろ。俺、ネクロマンサーじゃねーもん」
「これは無理ですよ。難しいのですよ」
「大丈夫だって。お前ならできる。俺、信じてる!」
「……命、消費するんですよぅ?」
「お前、死なないじゃん」
「死なないってわけじゃないのですよ」
「大丈夫だって。お前ならできる。俺、信じry」
「そこまで言ったら、略す意味ないですよぅ」
「ほらほら〜。いいから、早くやって〜〜」
「むむぅ……」
 命の消費。まぁ、確かに、その辺は心配ない。
 不安なのは難易度だ。難易度を示す髑髏の数が尋常じゃない。
 こういうのは、ゆっくりと、じっくり研究してモノにしたいのだけれど。
 早く早くと急かす海斗を止める術もない。仕方ない。
 霊祠は意を決し、グルジーナの儀式へ挑戦を試みる。
 指先を噛み、ジワリと滲む血液でグルジーナの紋章を描く。
 目を閉じて意識を集中しながら、呪文の詠唱。
 ブツブツと呪文を唱える霊祠を見ながら、海斗はゴクリと息を飲んだ。
 詠唱が終わった瞬間、描いた紋章がグニャリとひとりでに動き出す。
「ふぉっ……! せ、成功っぽいです……」
「マジでっ」
 本当に成功ならば、この後、紋章から黒い煙が出てくるはず。
 霊祠と海斗は、グルグルと回る紋章をジッと見つめた。
 やがて、紋章からモクモクと黒い煙が出現する。
 見事、グルジーナの儀式は成功……したかのように思えた。
「おい。この煙、いつまで出てんだ?」
「えと……。おかしいですねぃ」
「ちょ。うぉい。真っ暗なんだけどっ」
「待って下さい。取り消しを……あぁぁぁぁ……」
 取り消し方法を確認しようとするものの、
 黒い煙が充満して、確認することが出来ない。
 真っ暗闇の中、霊祠と海斗は右往左往。
 どうすればいいのかわからない。さぁ、困った。
「霊祠っ。おい、どこにいる?」
「ここですよぅ」
「わかんねっつの!」
「海斗くんこそ、どこにいるのですか」
「こっちだ、こっち!」
「わかんないですよぅぅぅぅぅ」

 *

 結局、失敗だった。
 あの後も、黒い煙は、とめどなく出続けた。
 煙は情報室から漏れて廊下に流出。そのまま学校までも包み込んでしまった。
 校内が大パニックに陥ったのは言うまでもない。
 藤二がすぐさま処理してくれたお陰で大事には至らなかったけれど。
「うぇぇ。何か、まだ口ん中が苦い」
 舌を出しながら苦笑した海斗。
 そんな海斗に、藤二は呆れて肩を竦める。
 問題を起こした罰として、霊祠と海斗は説教中だ。
「まったく……。何をやってんだ、お前らは」
 煙草に火をつけながら、大きな溜息を落とす藤二。
 喉にしばらく痛みが残るだけで済んだから良かったものの、
 処理できる奴がいなかったら、どうなっていたことか。
 一般人にまで被害が及んでいたら、とんでもないことになっていた。
 肩を竦めながら、事の重大さを説く藤二。
 だが、霊祠は嬉しそうに笑っていた。
 早く帰って、読み耽りたい。
 他にもたくさん、禁術が記されていた。
 その全てを学びたい。モノにしたい。
 ウズウズ、ウズウズ。落ち着かない。笑うななんて無理な話。
 だって、こんなに楽しいんだもの。仕方ないじゃないか。
「こら、霊祠。聞いてんのか」
「あっ、はい。帰って良いのですか」
「……良いわけねぇだろ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL:生徒
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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