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<東京怪談・PCゲームノベル>


保健医の憂鬱

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 こうして、一人で月を見上げていると。
 何故だろうね。不思議な気持ちになるんだ。
 寂しい……とは少し違うかな。
 自分が、ちっぽけな存在に思えるっていうか。
 無性に恋しくなるんだ。人肌に飢える。
 誰でも良い……。うん、そうだね。誰でも良いんだ。
 手の届く範囲にいれば、誰でも良い。
 触れることが出来るのなら、誰も良いんだ。
「隠れてないで、出ておいで」
 目を伏せ、微笑んで言ったJ先生。
 ハント開始時刻、30分前。
 時間を潰そうと赴いた、学校の屋上で。
 一人、月を見上げて呟くJ先生を見つけた。
 いつもよりも妖しく、物憂げに見えた姿。
 物陰に隠れて様子を窺っていたんだけれど。
 見つかって、その時、ようやく気付く。
 立ち去るべきだったと。

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「隠れてたつもり?」
 クスクス笑いながら、J先生は言った。
 僕は、肩を竦めて何とも言えぬ微妙な反応を返す。
 どうでしょうね。見つかった瞬間は焦りましたけども。
 今は普通です。動揺のカケラもないです。
 寧ろ、落ち着いてます。リラックスしているというか。
 余裕があるからでしょうか。儚く見えるのは。
 いつもと何ら変わらぬ笑顔も、どこか物憂げに。
 何か、悩みでもあるのでしょうか。
 僕に相談なんてしても無意味だと思うかもしれませんけども。
 誰かに話すと楽になるってこと、あると思うのですよ。
 役不足かもしれませんけども、どうですか?
 お話してくれるなら、聞きますけども。
 そう言って隣に移動すると、J先生は笑った。
「けども、って口癖なのかな」
「む? あぁ〜。そうかもしれませんねぃ」
「はは。……。……相談、か」
 少しだけ沈黙した後、J先生は言った。呟くように。
 僕が何も言わず、ただコクリと頷くと、J先生は笑って。
 少しずつ、探るように話してくれた。
 それは、悩みとは少し違うものだったけれど。
 人肌恋しくなる、その衝動について。
 どうして人は、一人で生きていけないのか。
 誰かを、誰かの肌を求めてしまうのか。
 生まれるときも死ぬときも、結局は一人なのにどうして。
 その質問に、僕は的確な言葉を返せません。
 というか、そもそも……答えなんてあるんでしょうか。
 わからないのです。そういうのはどうも苦手で。
 でも、ちょっと意外です。
 J先生って、そんなこと考えてるのですね。
 失礼かもしれないですけど、子供っぽいかなぁって気がします。
 いや、この質問がということではなく。
 そういうことを疑問に思っている、J先生がですよ。
 無関心っぽいですからねぇ。そういうことに。
 知識はあるけど、興味はない。とか、そんな印象だったのです。
 ん〜……。でもまぁ、気持ちは理解らないでもないです。
 人恋しくなる感じは、僕も何度か経験してますから。
 はい? その時はどうしたのかって?
 特に何も。だって、わからないんですもん。
 恋しくなったところで、どうすればいいのやら。
 困ってると、いつの間にか眠ってる感じですねぇ。
 で、起きたら忘れてるのです。後で思い出すんですけども。
 僕はですね、こういうのって子供特有のものだと思っていたのですよ。
 急に寂しくなったりする、あの感じ。
 でも、違うのですね。大人も……J先生も、同じ感じなのですね。
 同じように寂しくなったりするのですね。
 わからないですよねぇ……。何なんでしょうね、あれは。
 って、やっぱり役に立ってないですね。相談に乗れてないです。
 これだと、一緒に悩んでるだけですねぇ。
 う〜ん……。あ、そうだ。じゃあ、こういうのはどうです?
 無意味かもしれないですけど、何もしないよりかはマシかと思います。
 出来うることなら、ギュッと抱きしめてあげたいところなんですが。
 J先生、背高いですからね……。届かないのですよ。
 だから、こうやって。抱きつくことしかできないのです。

 互いに無言のまま。屋上で二人きり。
 やっぱり無意味だろうかと笑いながら、霊祠は離れようとしたけれど。
 Jは、ギュッと抱きしめて離さない。腕の中に閉じ込める。
 クスクス笑うJ。顔を上げて微笑み返そうとしたけれど。
 胸に押し当てたまま、Jは霊祠に顔を上げさせようとしない。
 見られたくない、見せたくない、そんな顔をしているのだろうか。
(やっぱり、子供みたいです)
 霊祠は微笑み、おとなしくJの腕の中でジッとした。
 J先生。あの質問の答えは、わかりませんけれど。
 また一緒にお話しましょう。理解らなくてもいいじゃないですか。
 二人で一緒に考えてみましょう。いつまでかかるか、それもわかんないですけど。
 腕の中が妙に心地良くて、時間を忘れた。
 ハッと我に返って慌てる霊祠。
 0時を過ぎている。
 霊祠はJから離れ、ペコリと一礼して言った。
「ハント行かなきゃです。失礼しますです」
 深々と頭を下げて言う霊祠の姿に目を丸くして笑い、Jは小さな声で言った。
「またね」
 この日から始まった、深夜の密会。
 ハントが始まるまでの僅かな時間、30分ほど。
 霊祠とJは、屋上で逢い、言葉を交わす。
 答えを探す。慈しむ、その答えを探す。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / J / ??歳 / HAL:保健医

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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