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ボムライカー
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「まただわ……」
「今度は、どこ?」
「音楽室ね」
「はぁ〜。まったく。誰だよ……」
「とりあえず、校長に報告してくるわね」
「んじゃ、俺は現場に行っとくわ」
廊下で交わされた藤二と千華の会話。
その遣り取りを見ていた海斗は、
教室に戻って、お昼休みを満喫しているクラスメートに呼びかけた。
「うおーい! みんな、注目ー!」
教壇をバシンバシン叩きながら言った海斗。
クラスメートらは、何事かと一斉に海斗を見やった。
「みんなも知ってると思うけどさー」
最近、校内のあちこちに悪戯を仕掛けてる奴がいるんだよ。
悪戯っつーには、かなり悪質なもんなんだけど。
小さいけどさ、爆弾を仕掛けてんだ、そいつ。
魔力が込められてるから、場所によっては大爆発すんだよ。
例えば、魔道具がいっぱい保管されてる倉庫とかな。
センセー達がさ、ついさっき話してんのを聞いたのね、俺。
今回は、音楽室に仕掛けられたっぽい。
このまんまさー放っておくわけにいかねーだろ、これ。
そのうち、とんでもねーことになるかもしれないしさ。
俺も悪戯好きだけどさ、こーいう悪質な悪戯はしない。
犯人なんじゃねーかって疑われたりもしててさー。迷惑なんだよね。
っつーわけでっ! 犯人とっつかまえて、お仕置きしねーか。
「一緒に犯人捜ししてくれる仲間、大ボシュー!」
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音楽室にあるピアノの下に潜り込んで待機している海斗。
その隣には、霊祠もいる。自ら志願したわけではなく無理矢理連れて来られた。
結局、犯人探しに協力してくれる仲間は集まらなかった。
余計なことに首を突っ込みたくないと思ったようだ。
海斗と一緒に行動することの無謀さを、みんなよくわかっている。
誰も協力してくれないことにムッとした海斗は、霊祠を捕獲した。
自分の席で、例の書物を読み耽っていた霊祠を捕獲した。
海斗と一緒に行動するのは楽しいし退屈しないけれど。
霊祠も、みんなと似たようなことを思っている。
「海斗くん。歌でも歌いましょう」
「あっ? 何でだよ」
正義感が強いのは良いことだと思いますけどね。
危ないと思うのですよ。ここまで来て何だって気もしますけども。
要するに愉快犯なわけです。犯人さんは。
踊らされるなんて、それこそ馬鹿馬鹿しいじゃないですか。
だからですね、こういう時こそ普通に生活すべきなのです。
構って欲しいだけなんですよ、犯人さんは。
こっちが騒げば騒ぐほど、犯人さんは大喜びなのですよ。
餅は餅屋、犯罪は警察、校内の問題は先生の担当です。
だから、僕達生徒は歌でも歌ってノンビリ待ってれば良いのですよ。
「オ〜呪いの法、効を発し、汝、殺されん、オ〜オオ〜」
突然歌い出した霊祠。海斗は霊祠の口を押さえた。
「バカっ。静かにしろって!」
けれど霊祠は歌うことを止めない。
気持ち良さそうに歌っている。
何度言っても止めないので、海斗も諦めた。
「ったく〜。つか、何だよ、その歌」
「ふふふ。いい歌でしょ?」
「いや。コエーよ」
「そうですか? 綺麗な歌だと思うのですが」
「怖いって。殺すとか言ってんじゃん」
「オ〜呪いの法、効を発し、汝、殺されん、オ〜オオ〜。ウ〜ウウ〜」
「……(唸ってるし)」
何やら妙な歌を歌い続ける霊祠。
独特のメロディと歌詞が、やたらと耳に残る。
不愉快なような複雑な心境ながらも、海斗は苦笑して放置する。
海斗の手には、魔銃が握られている。
いつ犯人が姿を見せても良いように、準備万端。
別に褒められたいだとか、そういうことじゃない。
お前なんじゃないのかって疑われるのが迷惑なだけ。
普段の言動が言動なだけに、いまいち疑いを払拭しきれないし。
海斗にとって犯人を捕まえることは、学校の為でもみんなの為でもなく。
ただ、自分の為。そういう奴だ、こいつは。
ピアノの下に潜って待機し、どのくらいの時間が経過しただろう。
霊祠は、いまだに歌い続けている。同じメロディと歌詞の繰り返しだ。
もはや、海斗も覚えてしまって、いつでも一緒に歌うことができる。
でも歌わない。何か怖い歌だから、歌おうって気にならない。
「ほらほら、海斗くんもご一緒に〜」
「だから、ヤだって」
ピアノの下で言い合う海斗と霊祠。
その時だ。ガラリと扉が開いた。
バッと見やれば、そこにはヒゲ面の男。
見覚えはない……。学校関係者じゃないのは確かだ。
あからさまに怪しい。挙動不審だし、手には妙な箱を持っている。
確固たる証拠があるわけではないけれど、十分な気がした。
海斗は、飛び出して犯人(だと思う)を捕まえようとした。
けれど、霊祠がそれを阻む。腕を掴んで阻む。
「何だよ。早くしねーとっ……」
腕を掴む手をペチペチ叩きながら言う海斗。
霊祠は微笑みながら、フルフルと首を振って指差した。
「んぁ?」
示された方向を見やって、海斗は目を丸くする。
音楽室に入ってきた怪しい男が、倒れていたからだ。
いったい何事かと、ピアノの下から抜け出て確かめる海斗。
男はピクピクと痙攣しており、ヨダレを垂らしていた。
何やら苦悶の表情を浮かべてはいるが、死んではいないようだ。
クスクス笑いながら、霊祠はズルズルと這うようにピアノの下から抜け出て説明する。
ただの歌ではないのですよ。れっきとした呪いなのですよ。
閉息の呪いという歌なのです。敵さんを苦しめる呪いなのです。
その名のとおり、呼吸を奪ってしまうのです。
でもですね、大丈夫です。ちゃんと手加減しましたから。
ちょっと身動きできない状態になってるだけですよ。
クスクス笑いながら、霊祠は男の手元にあった箱を拾い上げた。
仕掛けようとしていた爆弾だ。詳しいことは理解らないけれど、
なにやら凄いものであるということは見ただけでわかる。
勿体ないですねぃ。こんなものが作れるほどの知識と技術があるのに。
くだらないことに使ってはいけませんよ。宝の持ち腐れなのですよ。
中途半端に頭が良い人ほど、責任感が欠如してますよねぃ。
物事の良し悪しを判断できなくなってしまうといいますか。
神にでもなったつもりでいるのでしょうか。笑止千万ですよぅ。
笑いながら、霊祠は箱を持って外へと出て行く。
「これ、職員室に届けてきます。海斗くんは、その人を校長室にでも連れてって下さい」
「あ。お、おぅ……」
珍しい光景だった。珍しい感覚だった。
やたらと、霊祠が頼もしく見えた。
ただ歌ってただけじゃなかったのか。
ちゃんと考えていたのか。何だかんだで、凄い奴だ。
犯人を担ぎながら、素直に感心した海斗。だが……。
ドカーン―
「…………」
廊下から、凄まじい音が聞こえた。
まさか、と思い慌てて廊下に出る海斗。
まさかもクソもない。案の定だ。
廊下のど真ん中で、真っ黒こげになった霊祠がうつ伏せで倒れていた。
躓いて転んだだとか、そんな感じだろう。というか、確実にそれだろう。
海斗はケラケラ笑いながら言った。
「やっぱ取り消しだ。それでこそ、お前だよ」
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7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
NPC / 海斗 / 19歳 / HAL:生徒
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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