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<東京怪談ノベル(シングル)>


Heartless battle.U

 右脇腹目掛けて打ち込む瑞穂の拳は、細いだけあって容易に俺のあばらを砕き体内の中心辺りまで衝撃が走る。
「っぐ!」
 脇腹に食い込ませた拳をそのままに、俺の右腕を空いた手で掴むとひらりとまるで逆上がりをするかのように足を蹴り上げたかと思うと、また俺の首に足を絡みつけた。
「何!?」
 再び首の骨を狙った関節技かと思えばそうではなく、あっけないほどに絡み付けた足が地面に落ちるのと同時に俺の身体が宙を舞った。
 機材や資料の積まれた棚に激しく背中を殴打し、骨こそ砕けなかった物の強い衝撃が背筋に走る。瞬間眩暈に似た感覚に囚われ視界が霞んだ。
 ちくしょう。なんて女だ。どこにそんなパワーを秘めてやがる。
 見れば瑞穂は嘲るような目線を俺に投げかけていた。どこか妖艶さを感じさせる眼差し。巻きつくようなネットリとした視線は拘束力さえあるように感じる。
 だが…俺には通用しない!
「がぁあぁぁぁっ!」
 身体の上に落ちてきた本や機材を乱暴に払い上げて立ち上がる。
 鬱陶しい…この女の表情一つ一つとっても、いちいち俺の神経を逆撫でやがる…許さねぇ…っ!
「まだ懲りないのね。仕方ないわ…とことん相手になってやろうじゃないっ!!」
 横からスライドさせながら振りかぶる俺の攻撃を持ち前のスピードで華麗に避ける瑞穂は、短いスカートだと言う事も気にする様子もない。
 後ろにバク転しながら跳び退り、俺から遠い壁際まで退く。その途中で右側のニーソックスを繋いでいたガータベルトのクリップが外れ、ニーソックスがスルスルと滑り落ちて白く長い脚線美を曝け出した。
「これ手にしてちゃ思う存分戦えないわ」
 滑り落ちたニーソックスは気に留める様子もなく、それまで口に咥えていたフロッピーを瑞穂は胸の谷間に押し込んだ。
 キツ目のメイド服を着込んでいるのか、はたまた瑞穂の胸が大き過ぎるためにきつくなったのかは分からないが、フロッピーを捻じ込んでも少しの隙間も見当たらない以上そこから落ちる心配はないと言う事か。
「さぁ…行くわよっ!!」
 瑞穂は再び攻撃を仕掛けてきた。
 回し蹴りを仕掛ける為に、恥ずかしげもなくその足を振り上げる。
 ビュッ! と言う空を切る音が俺の鼻先を掠めうっすらと一文字の傷を残した。
 俺は攻撃の機会を窺う。ぜってぇに許さねぇ…。その鼻っ面へし折ってぶっ殺してやる…。
 瑞穂は俺の背後に回り込むと三度俺の首を狙ってくる。しかし今度は足ではなく、その白い腕を巻きつけてきた。
 後ろから羽交い絞めにされ、首元をきつく締め上げられる。背中には瑞穂の大きな胸と固いフロッピーの感触が伝わってくる。
 眉間に深い皺を寄せ、額に脂汗と血管が浮き上がり顔が熱くなるのが分かる。このままではまずい。
 俺は何とか手を上げると、首に絡みつく瑞穂の腕を掴み力の限り放り投げた。
 クルクルと膝を抱えて宙を舞い、瑞穂はまるで猫のようにしなやかに身をくねらせて地面に着地した。
 ちくしょう。この女のスピードに、俺の再生能力が追いつかねぇ。さっきやられた頭蓋骨の損傷も完全に治りきっていないと言うのに。
 ただむやみやたらに細かい傷を負わされて痛みだけが残るのが癪に障る。
「反撃したらどう? さっきから動かないじゃない。それとも、動けないのかしら? 所詮、お前は本当に見掛け倒しのただの体力馬鹿なのかしら」
 挑発する瑞穂の言葉に、俺はいよいよブチ切れた。そろそろ本気でこの女を潰してやる…。
 殺気立つ俺の気配に怖気づく様子もなく、余裕の笑みすら浮かべている姿がいい加減鼻持ちならない。
「…軽口叩けるのも今の内だぜ」
「それはお前のセリフよ!」
 ダンッ! と地面を蹴り上げると、瑞穂はこの狭い地下室一杯に跳躍すると拳を唸らせ俺の顔面に突き立てた。
 左の頬を拳で殴られ、続け様に右フックも飛んでくる。俺はその右フックを腕でブロックすると瑞穂は俺の首を抱えるように抱き込み、身体をくの字に曲げさせると腹部へ重い膝蹴りを入れた。
 メリメリ…と言う鈍い音が響き、完全に修復する前にあばら骨が3本ほど折れ、俺は吐血した。
 ちくしょう、またこいつのスピードにやられた。イライラする…。
 瑞穂は更に両手を組むと、無防備に晒していた俺の後頭部に拳を叩き落す。目の前が大きく揺れた。
 グラリと揺らめき、俺はその場に突っ伏した。
「……ふん。口ほどでもない。体力だけは人並み以上にあるようだけど、やっぱり大した事なかったわね」
 得意げに勝ち誇った顔を浮かべる瑞穂はメイド服に付いた埃を叩き落しながら俺の横を通り過ぎようとした。
「……っけんな」
「!」
 目の前を通り過ぎようとした白く細い瑞穂の左足首を掴む。
「てめぇのその面ぶっ潰してやるっ!!」
 足を掴んだまま俺が立ち上がると、瑞穂どうする事も出来ずに逆さ吊りにされる。
 他から見ればはしたない格好だが、俺にしてみれば愉快極まりない。その無様な姿、見るも耐えられないほどもっと無様にしてやろう。
「そ、そんな…! 致命的な傷だと…」
「っるせぇっ!!」
 俺は力任せに瑞穂の腹部を打ち抜いた。ズズンっと頼りなくも見えるその細い腹にめり込んだ拳を伝い、何本かの骨の砕ける感触が伝わった。
「っぐはっ!」
 瑞穂は目を剥き大量の血を吐き出しながら反対側の壁に吹っ飛び、強かにその身体を打ちつけた。
 頭から崩れるようにして地面に転がった瑞穂は、肋骨の折れた痛みからか腹部を押さえてその場に蹲り小刻みに震えている。
「さっきからでけぇ口叩いていた威勢はどこへ行きやがった? あぁ?!」
 腰を高く上げたままその場に蹲っている瑞穂のその臀部を、ズンッと力いっぱい蹴り付ける。するとゴム鞠のように跳ね上がり、ゴロゴロと地面を転がった。
「あぁっ!」
 瑞穂は臀部を蹴り上げられた衝撃が肋骨に響くのか、腹部と尻を押さえ人形のように転がった。
 この女の悲鳴でさえも、癇に障って仕方がない。油断していたとは言え傷を負わされた苛立ちもある。
 俺は瑞穂の背中と腹を何度も蹴り上げた。醜い悲鳴が止め処なく響き渡る。
 ガツン、ゴツン、メリッ、ミシッと蹴り上げる度にどこかの骨が折れたような音が耳に届く。
 蹴り上げる度に「ぐえっ」「ぐあっ」と蛙を踏み潰したかのような声が漏れる。
「もっと威勢良く啼いてみろ!」
 悶絶している瑞穂の首を掴み、俺の目の高さまで掲げると容赦なくその両頬を渾身の力を込めて殴り飛ばす。
「ふぐぅっ!」
 ズンッと響くような重い感触。叩き上げる度に頬骨の砕けるポキッメキッと言う音が微かに響いてくる。
「ひぎゃあぁぁっ!!」
 とても女が上げるような悲鳴なんてもんじゃない。醜いほどに血反吐を吐きながら発する声は、血糊が絡みつく喉の奥からえげつなく響く。
「お前の面はいちいち気に触るんだよっ!」
 渾身の一発を喰らわすと、その勢いで瑞穂の身体はクルクルと宙を回転し弧を描きながら地面に落ちる。
 俺は指の関節を鳴らしながら、倒れこんでいる瑞穂にゆっくり近づいていく。すると瑞穂はビクビクと怯えたように身体を震わせ痛みと恐怖に戦慄いているようだ。
 ざまあない。ここまでやられて平気な人間がいるはずはないだろう。
 横倒しに倒れこんでいるその顔は元の原型を留めていない。力の加減をせず殴りに殴った事で顔面は赤と青の膨れ上がった肉の塊のようになっている。