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<東京怪談ノベル(シングル)>


Heartless battle.V

「オラオラ! ダラけてんじゃねぇ! 立てよ!」
 瑞穂の髪を鷲掴みにし、無理やり引き起こすとギリギリと奥歯を鳴らす瑞穂がいた。
 その瞬間、瑞穂は素足の剥き出しになった方の足で俺の鳩尾に蹴りを繰り出す。
「ぐはっ」
 女の細い足は鳩尾に入りやすい。意標を突かれ、俺は瑞穂を掴んでいた手を離し数歩後ろによろめいた。
「こ、こんなところで…」
 あれだけ骨を折ったと言うのに、この女相当タフな奴だ。
 先ほどより速さは劣る物のそれでも瑞穂の繰り出す拳はまだ機敏性を秘めている。
 ビシッ、ガツンッ!
 瑞穂の拳は俺のこめかみを狙って打ってくる。右はまともに喰らってしまい、目の前がチカチカした。そしてすぐに左のこめかみを狙って打ち込んでくる瑞穂の攻撃をかわすと、その腕を掴みすぐさまその腹に俺の拳を捻じ込む。
 ボグッ! と言う低音の打撃音が感触としても手を伝ってくる。
「う…が、ぁ…」
 それでも瑞穂はギリッと歯を食い縛り今度は腹を強打している腕を掴むと、どこにそんな機敏さがあるのだろうと思わせるほど鮮やかにスカートを翻しながら、俺の側頭部に鋭い蹴りを入れた。
「いてぇんだよっ! このアマァッ!」
 俺は左拳を唸らせ、一瞬怯んだように見えた瑞穂の右脇腹目掛けてパンチを繰り出した。
 バチンッ! と言う皮膚と皮膚が激しくぶつかったような大きな音が響き渡る。
「ぐぎゃあぁあぁっ!」
 寸でのところでカバーしたのか、脇腹に入ったはずの拳は瑞穂の腕に命中していた。
 見れば攻撃を受けた腕はだらしなく垂れ下がり、持ち主である瑞穂の意思では動かせない状態になっていた。その腕を押さえ、瑞穂は地から湧き出すような凄まじい悲鳴を上げながら地面でのたうち回っている。
「オラオラオラオラッ!」
 何度も瑞穂の身体を蹴り上げ、なじった。が、相手も黙って受けているだけではなかった。
 何度目かの蹴りを食らわそうと振り上げた足は空を掻き、対象物に当たらない。
 瑞穂はその身を捻り俺の足元から転がって攻撃を避けた。そして肩で大きな息をつきながら立ち上がる。
 しつこい女だ。さすが、中途半端な鍛え方をしていない。通常の人間なら十中八九、すでに立ち上がる事が出来ない。
「じ、冗談じゃないわ…誰が、やられるものですか…お前なんかに…」
 ガチガチと奥歯を噛み鳴らしながらも、まだ強がりを言うだけの余裕はあるのか。
 その場に立っているのがやっとと言う風にも取れる瑞穂の傍に、俺は威圧感を与えるようにゆっくりと歩きながら近づいていく。
 醜くなったその表情で、瑞穂は俺をギラリと光る鋭い眼光で睨み上げた。
「あうっ!」
 俺はそんな瑞穂の目つきに一層苛立ち、その髪を鷲掴みにするとグイッと後ろに仰け反らせた。
 深手を負い、傷まみれになっている瑞穂の身体は柔らかくしなり、必要以上にでかい胸が更に強調される。
「なんだその面は…。あぁ?! その面が俺は嫌いなんだよ!!」
 瑞穂はそれでも睨みを止めようとしない。それどころか、俺に血の混ざった唾を吐きかけた。
「…っ貴様ァッッ!!」
 俺はそのまま更に仰け反らせると、その背中目掛けて膝蹴りをぶち込む。
 ドスンッ! と言う音に、瑞穂の身体は瞬間的に宙に浮いた。
「ぐ、あぁぁあぁっ!」
 掴んでいた手を離す。相当今の攻撃は効いたのだろう。目を剥き、口から血と涎を流しながら瑞穂はヨロヨロとよろめき何とかその体勢を保っている。
 まだ立っていられるのか。
 俺はすかさずその腹に重い上段蹴りをお見舞いする。
 ドズンッ! と言う音と共に、深く入った蹴りで瑞穂は身体はくの字に曲がり形の良く肉付きの良い尻を高々と持ち上げたような形になる。
 ドサリと地べたに這い蹲るようにして倒れこんだ瑞穂は、相変わらず身体がくの字のまま尻を高々と掲げ低く呻いている。
 無様だ。笑えるほど無様な姿に俺は口の端を持ち上げて嘲笑した。
「はぁ…ぐぅ…うぅぅ…」
 腹を押さえ込み、身体を左右に振りながら息を継ぐのも絶え絶えにその場でもんどり打っている。これだけ重い攻撃を受ければ、もう動く事は難しいだろうな。いい様だ。
 しかし瑞穂は大きく息を吐きながら立ち上がり、そしてキッと俺を睨み付けると再び拳を振り上げて殴りかかってくる。が、さっきまでの素早さも威力も欠ける。そんな攻撃がこの俺に当たるはずもない。馬鹿か、この女。
 威力は先ほどより劣るものの、キレはまだある。っち…。一体いつになったらくたばるんだ。
 振りかざした拳と相打ちする為に、俺も拳を振り上げた。ゴリッと音がなり、瑞穂の拳の骨が砕ける音がする。
 その手を握り締めて「ああぁあぁっ!」と叫んでいるところに、俺はもう一発拳を振り上げた。が、瑞穂は寸ででそれを避けると、骨の折れていない方の手を地面につきその長い足で俺の足元を払い込んだ。
 危うく体勢を崩しそうになるが、何とかバランスを取り倒れこまずにすんだ。
「いい加減くたばったらどうなんだ」
「わ、私は、お前のような者に絶対、負けないわ…」
「ほう。いい度胸だ。なら、無様に打たれるだけじゃなく、十二分に俺を楽しませてくれるんだろうな」
「…あれだけの攻撃をくらいながら…どうして、致命的じゃないの…」
「生憎俺には再生能力があるんでね。こうしている間にも修復してんだよ」
「……ふ、ふぅん…なるほどね。それは、楽しみ概があるわね…」
 減らず口が言えるだけまだ余裕はありそうに見えるが…本心はそうじゃねぇだろうな。正真正銘、ただの強がり…。相当息が上がっている。
 瑞穂は身を低くし、右足を踏み込むと左足を振り上げ横一文字に蹴りを入れてくる。俺は膝を上げてその攻撃をガードした。そして息つく暇も与えず脇腹目掛けて拳を唸らせた。
 瞬間身体の前で左腕を構え、攻撃を凌いだ瑞穂だったが俺の拳の威力に勝てず身体をしならせて後方へ吹っ飛んだ。
 ザリザリッと地面を踏みしめる音が聞こえ、瑞穂は倒れず立ったままで攻撃に耐えた。
「ま、まだ、よ…まだっ!」
 しかし攻撃力は格段に下がっている。下段からのパンチを易々と避けその一瞬の隙に瑞穂の顔目掛けて拳を唸らせた。ゴキュっと鈍い音がする。
「がっぁ…!」
 そのまま横っ飛びに吹っ飛んだところを追いかけていくと、瑞穂もそれに応戦し伸びやかにその四肢を翻しながら踵落としや関節技を決め込もうとする。
 そんな攻撃の合間にも、俺は幾度となく脇腹や顔面、顎、背中に攻撃を浴びせかける。
 再び地面に倒れこみ、瑞穂は驚愕したような顔をしたままガクガクと打ち震え攻撃の重みに何度も身を捩りながらもんどり打っている。
 それでも立ち上がろうとするのか、這い蹲るようにして身を起こそうとしている瑞穂の臀部に、俺は力いっぱい蹴りを入れた。
 もはや張りのある音ではなく、何度となく強い衝撃を受けて腫れぼったくなった尻の肉の感触は、グニャリとした気味の悪い物に変わっている。しかし当人は腫れた傷口に更に攻撃を加えられれば、言いようのない痛みがその身体の芯を突き抜けるはず。
「あうッ!!」
 案の定一声鳴くと、瑞穂は蹴り上げられ赤く腫れ上がった尻に手を当てながら、苦し紛れに呻きながら何度となく地面を転がった。
 その姿が最初の姿とは明らかな違いを見せつけ心底笑えた。もがき苦しむ姿はあまりにも無様だ。強がった分だけ今の姿は無様に映りすぎる。