コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


Heartless battle.W

 今度も起き上がるかと思った。が、さすがにもう立ち上がるだけの気力はないのか、尻を押さえたまま地面を右左に行ったり来たりと転がり低く呻くだけ。
 いつの間にか反対側のニーソックスのクリップも外れ、細くほどよく筋肉のついた白い足を晒け出していた。
 痛みに呻き悶絶する度に、その白い足は小さく縮こまったり伸びたりを繰り返す。
 ようやくここまで追い詰めた。しつこい女だったな。…だが、これで終わりと思うなよ。
「おいおい、まさかもう終わりって訳じゃねぇだろうな?」
「っく…あぁっ!」
 俺は瑞穂の頭を鷲掴みにし、俺の目の高さまで持ち上げる。ギリギリと指の食い込むこめかみに鋭い痛みを感じるのか、悲痛に鳴きながらも俺の手を払いのけようと必死に指を絡ませてくる。そして力を込め俺の中指を一本掴みきると力任せに本来の指の曲がる方向とは逆に圧力をかけてくる。
「……っ!」
 中指が反対側にそっくり返る形になった。言いようのない痛みが指先を伝って腕全体に走る。ミシミシと音が鳴り俺は思わずその手を離した。
 ドサリと地面に倒れこんだ瑞穂は荒く呼吸を吐きながら震える腕を突っぱねて上体を起こしている。
 ちくしょう。骨までは行ってないが筋をやっちまった。
 ズキズキと脈打つ指の手を掴みながら瑞穂をにらみつけた。
「……絶対…に、負けないわ…」
「立つ事ができるかどうかも分からないお前に、何が出来る!」
 そう言うと、瑞穂は答えを返さなかった。俺が再び攻撃を仕掛けようとすると、何とかその場を逃げ切った瑞穂が、近くにあった先の尖った石を掴み取り俺の脚を目掛けて力いっぱい振り下ろす。
「っぐ!?」
 もはや拳での応戦が難しいと悟った瑞穂の、別の手段での応戦か。多少なりとも油断した。打たれた足には石が深く刺さり、ドクドクと血を溢れさせている。
 言いようのない痛みが足全体に広がる。ここまで深い傷を負わされては、修復にも時間がかかりそうだ。しかし何とか立ち上がり多少動く事は出来る。
 俺は怒りの混じった笑いを浮かべ、地面で苦し紛れな呼吸を繰り返す瑞穂の腹に蹴りを入れる。
「あうっ!」
 衝撃に瑞穂の身体はクルリと回転し、天を向いて倒れるが、その視線は応戦できる他の何かを探している様子が分かった。俺はその場に座り込むと腕を振り上げ、腹を殴った。拳を打った後にすぐ離すのではなく押し付けるように打つとその威力はデカく、重みを増す。
「ぐぅっ!」
 他の場所にくらべ豊満な胸だけは痣が多少ある程度で、もともとの白さがそのままあった。あまりにも不自然なほど浮いている。
 到底落ちるようには見えなかった胸の間に挟みこまれていたはずのフロッピーは、既にどこかに落ちてしまっている。ここに落ちたのなら別格問題はなくなった。
 一瞬足を休め、俺は瑞穂をねめつける。
「……は…は…」
 ガクガクと震えながら瑞穂は短く息を吐く。どうせなら失神しちまった方がよっぽど楽だろうが、この女の持ち前の強さからかなかなか気を失う事がない。
 まぁ、生憎気絶なんかする余裕は与えないがな。
「笑わせてくれるなよ。あれだけ大口を叩きやがったんだ。もっと俺を楽しませてくれるんだろう?」
「………っ」
 すると後方から何かが飛んできて俺の後頭部に強い衝撃が走った。予想外の衝撃に、俺は手を後頭部に当て背後を振り返る。すると足元に分厚い本が一冊バサリと落ちた。
 まさかこいつ、超能力が使えるのか!?
 俺が再び瑞穂を見下ろすと、瑞穂は小さくほくそえんでいる姿が映る。
「…わ、私を…見くびらないでもらいたいわ…」
「………」
 超能力者だと…? ふざけたマネしやがって…!
 俺は更に殺気立ち、目の前の瑞穂を物凄い形相で睨みつけた。そして拳ではなく平手で瑞穂の顔を思い切り引っ叩く。
 バッチン! と大きな音が部屋中に響き渡り、衝撃で瑞穂の身体は揺れ動く。そしてそれと同時に情けない悲鳴がこだました。
 俺はその手を止めず何度も瑞穂の頬を打ちつけた。
 もはや頭を押さえつける痛みよりも頬を殴り飛ばされる痛みの方が勝っているのか、合間合間に「いやぁあぁっ!」「痛いぃっ!」と言う言葉も聞こえて来るようになった。
「ふざけんじゃねぇ! まだまだこれからだ!」
 俺は腕を振り上げると再び拳を作り瑞穂の顔面目掛けて殴りつける。ゴキンっと言う鈍い音が聞こえた。
「あぁぁぁあぁぁぁあぁっ!」
 長い断末魔のような叫びが俺の耳すらもつんざいていく。耳障りだ。もういい加減鳴くのはやめろっ!
 更に俺は顔面に拳を押し付けるようにしながら殴りつけると、その衝撃で瑞穂の身体は吹っ飛びすぐ傍のキャビネットに身体を打ちつけて地面に倒れ、四肢はダランとなる。
「まだだ、まだまだまだまだまだまだまだまだぁぁっ!!」
 俺は恐怖に歪んだ瑞穂の顔面を両方から拳で力強く挟み込むと、押し潰すようになじる。なじる度にこめかみあたりの骨が小さくピキピキと悲鳴を上げているが、そんな事は俺の知った事ではない。
「あぁぁぁあぁあぁぁ――ッ!!」
 痛みに耐え切れず、甲高い声を上げて瑞穂は悲鳴を上げる。
 最後にもう一度拳を振り下ろし、顔面にめり込ませるとどこか砕ける鈍い音が聞こえてきた。この顔面はもはや言わなければ女性だと言う事も分からないほどひしゃげ、醜い姿に変わっていた。
「ああぅ…」
「……ここまでやられたんだ。命乞いの一つでもしないのか?」
「………っ。だ、誰が、命乞いなんて…」
「ほう。こんなになってまで、まだそんな事を言えるのか。大した女だな、お前は!

 俺は両手を使い強烈なパンチをその顔面に浴びせかけた。低く、くぐもった声を上げるが、それでも瑞穂は命乞いをする気配を見せない。
 一度手を止めると、瑞穂は顔面を震える手で押さえながら悶絶を繰り返す。
「う、うぅぅ…」
「ちったぁ命乞いをした方が、可愛げがあるってもんだけどなぁ?」
 すると、瑞穂は腫れぼったくどこに目があるかも分からない目で俺を睨み上げてきた。
「…だ、誰が、お前なんかに…」
「ほう?」
「…命乞いしたところで…お前には…どうせ、攻撃をやめる概念なんか、ないでしょうに」
「…良く分かってんじゃねぇか。そこまで分かってるなら覚悟は出来てるんだろうな?」
 俺は損傷を受けていない逆の手で拳をつくる。関節がポキポキっと鳴り挑発めいた音を鳴らしたが、瑞穂は力なく、小さく薄ら笑いを浮かべながら呟いた。
「か、覚悟…ですって? ふ、ふざけんじゃないわ…」
 小馬鹿にしたような眼光で俺を睨み上げる。
「覚悟も何も…。私は、絶対に、お前になど、屈しないわっ!」
 言葉尻は叫びにも似た声で大きく言い放った。俺は目を剥き、再び拳を振り上げる。ガスガスとただ殴られるだけの音が辺りに響き、ますます顔面は赤青く腫れ上がる。綺麗な顔も、ここまでくれば形無しだな。俺は口の端を持ち上げて小さくほくそえんだ。
「あがぅっ! ひぐっ…!」
 無様な悲鳴が殴る度に上がる。まだ声を上げる元気があるのか。
 もはや殴る場所もないほど顔面は大きく膨れ上がり歪んでいる。
 俺は肩で息を吐きながら攻撃の手を止めた。
 瑞穂は獣のように低く呻きながら、まるでセミの幼虫のように何度もその身を縮こませながら体中を打ち震わせていた。