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<東京怪談ノベル(シングル)>


目覚める虎の牙

 彼らは知らない。
 彼女の中に眠る白い虎の牙に。
 眠らせておけばよかったのだ、そうすれば自らを危機に晒す事などなかっただろう。
 だけど――もう遅い。
 目覚めてしまったのだから。
 朱い鳥、白い虎――彼女の中に眠る力、全てが彼らに牙をむく。


 どれくらいの時間が経ったのだろう。
 数時間経ったような気もするし、もしかしたら数分も経っていないのかもしれない。
「無駄な足掻きが好きだな、朱雀の力を奪われ、ただの人と化したあんたに何が出来る?」
 黒崎・潤は「くっ」と嘲るような笑みを浮かべながら、持っている剣の切っ先を赤羽根・灯に向ける。
「‥‥だからって殺されるのを待つなんて真っ平。僅かでも可能性があるなら、私はそれに賭けたいもの!」
 灯が呟きながら拳を前へと突き出す。黒崎はそれを避けながら横凪ぎに剣を振るう。灯はそれを避けるが、完全に避け切れなかったのか髪の毛が数ミリ切られてしまう。
 徒手空拳の灯、そして剣術の黒崎――普通に考えれば黒崎に利があると考えるのが正しいのだが‥‥戦いに『絶対』はありえない。
 何が起こるか分からない故に『戦い』なのだから。
「そらぁっ、さっきから防御に転じているだけで攻撃が出来ていないな、それで何処へ行こうと言う? 何を守ると言うんだ!」
 黒崎は攻撃を行いながら邪笑を浮かべながら大きな声で叫ぶ。
「教えてやるよ、力無き者は強者から逃げられはしない、ましてや弱者は自分の身すら守る事など出来ない!」
 黒崎が攻撃を行う度に、灯は一歩、また一歩と後ろに下がっていく。
「‥‥力で押すだけが『戦い』じゃない。キミは与えられた力をまるで玩具でも振り回すかのように使っているだけ――‥‥私は異形のモノを退治する一族に生まれた」
 灯は呟き、大きく息を吸い込む。
「それを否定するつもりは全くないけど、教えてあげる」
 灯は構えながら黒崎を挑発するように不敵に笑む。
「教える? あんたが僕に教える事があるとでも?」
「戦いというものを、それに――上から押さえつけられたからって女が泣いて縋るだけと思ったら大間違いだって事を!」
 灯の言葉が癇に障ったのか、黒崎は「黙れ!」と言いながら大きく剣を振るう。
 それと同時に冷たい石の壁内に響き渡る『ガキン』という音。
「‥‥な――‥‥」
 黒崎の攻撃が来ると同時に灯はしゃがみこみ、壁へと突き刺さる黒崎の剣。
「ちょっとはココ、使ったらどうかな?」
 灯は指先で頭を指しながら呟くと拳を前へと突き出して攻撃を行う。突き刺さった剣を握ったままの状態で黒崎は灯の攻撃を受けたので、まともに腹部へと衝撃が来る。
「ぐっ‥‥」
 腹部に攻撃を受けて、黒崎は低く呻くような呟きを漏らす。黒崎は痛みを堪えながら剣を壁から引き抜き、灯に攻撃を仕掛けるが――‥‥灯はそれをひらりと避ける。
 今まで、灯は無駄に防御に転じていたわけではない。黒崎の攻撃の癖などを観察していたのだ。戦いというものほど個人の癖が出やすいものはないのだから。
「攻撃をする時に足を強く踏み込む癖があるね、自分では気づかないだろうけどね」
 灯は呟き、黒崎の攻撃を再び避ける。
 その後ろで、灯を押さえつけられない事に邪竜クロウ・クルーハが痺れを切らし始めたのか、黒崎に暗黒闘気を送り始める。
(「‥‥っ! 速くなった?」)
 黒崎の攻撃が僅かに速さを増したが、灯は慌てる事なく黒崎の剣筋を見切ると、母親から教わった合気道の技の一つで剣を受け流し、黒崎に投げを食らわせる。
「ぐは‥‥っ!」
 壁に叩きつけられた黒崎はよろりと立ち上がり、鋭い視線で灯を睨みつける。
「どう? 私だって朱雀の力を使わずとも戦えるんだから」
 灯が膝をつく黒崎に向けて呟くと「‥‥‥‥な‥‥」とぼそりと彼が何かを呟く。
 灯が「え?」と呟いた時には身体に凄まじい衝撃が走り、灯は痛みに表情を歪める。先程は灯が黒崎を壁に叩きつけたのだが、今は自分が壁に叩きつけられている。
 その理由、それは長引く戦い、そして予想以上に戦う灯に黒崎は痺れを切らして、剣に灼熱の黒い闘気――つまり『ドラゴンソウル』を灯に向けて使用したのだ。
「きゃああっ!」
 再び『ドラゴンソウル』を受けて灯は悲鳴を上げる。
「だから言っただろう、無駄な足掻きをすればするほど苦しさは増す――と。これは僕が悪いんじゃない、聞き分けられなかったあんたが悪い」
 黒崎は冷たく吐き捨てると、カツン、カツン、と足音を響かせながら冷たい地面に倒れる灯に近づいていく。
「これで大人しくする気になったか? 殺さずに手加減するのは疲れるんだから――‥‥?」
 黒崎は言葉を途中で止めて、異変を見せた灯に眉を顰める。
(「‥‥何だろう、何か――体が熱い‥‥」)
 薄暗い部屋、石畳の冷たい場所、その上に冷たい地面に倒れていて寒さを感じる筈なのに、冷えた地面に妙な心地よさを灯は感じていた。
 灯の中には母親からの受け継いだ『朱雀』の力、そして父親から受け継いだ『白虎』の力が存在する。
 白虎の方は未だ眠りの中にあったが、灯の危機的状況のせいなのか、それともアスガルド自体に『目覚める何か』が現れたのか、今まで眠りについていた白虎の力が目覚めようとしていた。
「‥‥何かしようとしているみたいですけど、それならば『する』前に痛めつければいい――これで暫く眠っていてもらいましょうか!」
 黒崎は再び『ドラゴンソウル』を使おうと剣を振り上げるが、それと同時に灯の周りに強い風が渦巻く。
 その風は『ひゅう』という優しげな風ではなく、まるで台風の時のように勢いのある風であり、その風が黒崎の剣が纏っている灼熱の黒い闘気を打ち消し、黒崎自身も風に吹かれて壁に叩きつけられる。
 その衝撃は先程の灯が食らわした攻撃の何倍、何十倍以上の威力で黒崎は立ち上がる事が出来ずにそのまま意識を失ってしまう。
「はぁ‥‥はぁ‥‥これは、白虎の力?」
 灯は未だ優しく自分の周りを包む風を感じながら小さく呟く。
「‥‥ふ、ふふ――‥‥」
 邪竜クロウ・クルーハは倒れている黒崎の姿を見ると、小さく笑みを漏らす。自分の仲間である彼が倒されたのにも関わらず、邪竜クロウ・クルーハは歓喜に打ち震えていた。
 それは決して灯の力を見て、怯えから来る笑みではない。灯から既に奪っている『朱雀』の力とは別にもう一つ『朱雀』に勝るとも劣らない力が灯の中に目覚めた。
 つまり――‥‥その力を利用すればより早く復活出来る、そして復活の暁には更に強力な力を持って復活出来る。
 そう考えての笑みだった。
 邪竜クロウ・クルーハは動き始める。灯の『白虎』の力を奪う為に。
「‥‥っ」
 そして灯は再確認する。自分の力が奪われたら、自分が贄となり、目の前の邪竜クロウ・クルーハが完全に復活したらとんでもない事になってしまうという事に。

TO BE‥‥?

――出演者――

5251/赤羽根・灯/16歳/女性/女子高生&朱雀の巫女

―――――――

赤羽根・灯様>
こんにちは、水貴透子です。
いつもご発注ありがとうございます!
内容の方はいかがだったでしょうか?
ご満足頂ける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、またご機会がありましたらご用命下さいませ♪
その時は一生懸命執筆させていただきます!
今回は書かせて頂き、本当にありがとうございました!

2009/3/17