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<東京怪談・PCゲームノベル>


有人の花壇〜花咲く庭の鍋パーティ〜

「何で春休みに委員会なんてあるんだよ、かったりぃな」
 卒業式も終わり、新入生を迎える準備をしなければならないこの季節。各種委員会は毎日交互に登校し、入学式やそれ以降に行う新入生歓迎の催しものの準備を行っていた。
 慎霰の所属する委員会は本日が登校日。決めなければいけないことはすべて決まったのだが、実行にまでうつせずタイムアウトになり、2日後もまた来なければいけなくなったことが鬱陶しくて仕方がない。
「入学式ってどうせぱっ、と終わるんだからこんな綿密なことしなくてもいいのに」
 愚痴をこぼしつつ、学校を出る慎霰。何とかして休みに登校したという何とも言えないやり切れなさをどうにかして晴らしたいと思う。
「狐の兄さんとこで飯食いがてら話を聞いてもらうか、縁日街の狛犬と屋台を回るか、山の豆狸どもと建設会社の人間からかいにいくか……だけど、兄さんと狛犬のとこは金かかるよなぁ。休みの前半に金使いすぎてもうねぇし、かと言ってわざわ嫌な気分の時に嫌な人間の顔見るのも余計むかつく気がするし、どうするかなぁ」
 憂鬱を吹っ飛ばす策をいくつか出してみるも、次から次に自分で崩してしまっては、なしのつぶてだ。
 このまま帰るしかないか、と思いかけてふと立ち止まってみる。
「あのがきんちょのとこにでも行ってみるかな。しばらく会ってねぇし」
 『あのがきんちょ』とは、年が明ける前に知り合った精神年齢3歳児の動く焼き物・佐吉。付喪神的な存在である彼は都心より離れた郊外の家で天から堕ちた者と、魔道を操る人間を保護者とし、共に暮らしている。彼を家に送り届けたときくらいしかあの家には足を運んだことはないが、見事な庭があったと記憶してる。
「この時期だったら桜は見れなくても梅くらいは楽しめるか」
 
 ――よし、佐吉のところに突撃訪問だ

 そうと決まれば行動が早い慎霰は、交通機関を使うのも面倒だけれども、白昼堂々と己が本性を人々には見せるわけにはいかないと、透明の術を使い、大空高く舞い上がった。






 人間の交通機関を使うと30分以上かかる道のりも天狗の翼ならば10分程度で佐吉の住む霞谷家上空にさしかかった。相変わらずさまざまな種類の木々が立ち並ぶ庭を見下ろすと、佐吉が慎霰と同じくらいの歳の少年の頭に乗り、なにやら楽しそうに会話しているのが見える。
 自分以外にも家人以外の話せる相手がいたのか、なんて物好きな、とひどいことを考えながらも、そんな物好きの顔をよく見てやろうと目を凝らすと、その物好きはよく暇なときに付きあわせている友人・鈴城亮吾であった。
「なんだ、あいつも佐吉と知り合いだったのか」
 案外面倒見のいい亮吾だから、まだまだ幼いあの埴輪は簡単に懐いたのだろう。
 自分はいたずら仲間、亮吾はお兄さんというところだろうか。
「こりゃいい、今日は退屈しねぇな」
 登校日の鬱憤は晴らせそうだ、と慎霰は笑みを浮かべると霞谷家の庭に降り立つべく高度を下げていった。





「おっ!」
「げっ」
「鼻笛じゃなくて、花冷えだぞ。三歳児」
 降下する際に耳に入った佐吉の間違いを正しながら、葉を舞わせ、霞谷家の庭に降り立った慎霰を迎えたのは喜色満面の笑顔と、心底嫌そうな顔。亮吾の頭の上で顔を綻ばせている佐吉は相変わらず子供だな、と笑みが浮かんでしまうが、いつも振り回している自覚はある亮吾が嫌そうな顔をするのにも笑ってしまう。
「慎霰…、何でお前がここにいるんだよ」
「暇だったからな、佐吉で遊ぼうと思って来たけど、意外なのもいたもんだ」
「亮吾ー?亮吾も慎霰と友達かー?」
 はしゃぐ佐吉の質問も他所に、なにやら考え込んで仕舞い返事もしない亮吾。佐吉の質問についての答えを出そうとしているわけでは無いのはわかるが、何を考えているのかは定かではない。
「亮吾ー?」
 返事が無いことにいぶかしんだ佐吉が覗き込むけれど反応無し。
 おいおい、そこまで何考えてんだよと、内心ちょっと呆れつつ風を操り、佐吉を自分の手元に運んでやる。
「おおっ!波乗りならず、風乗りだな!」
「いい乗りっぷりだったぜ、佐吉。それにしても相変わらず見事な庭だけど…ちと見事すぎねぇか?」
 周囲をぐるりと見渡すが、都心で家庭菜園をやっている家の数倍はある量の草木、野菜・果実が実っている。この排気ガスくさい東京都でこれだけ繁殖するということはいいことなのだろうけど、草木はともかく、野菜や果実はどう処理しているのだろう。
「鈴城ー?」
「なんだよ」
「この異常に増えちまったやつら、ここの連中がどうしてるかお前、知ってるか?」
「あー、それならご近所の人に貰ってもらったりしてるはずだ。俺も前に林檎とか貰って帰ったし」
「そうか」
 捨てるのでなければ、まぁいいだろう。
「うん、お前が心配するような人たちじゃねぇよ」
「ならいいや。さぁて佐吉、鈴城、何して退屈紛らわす?」
「もうすぐ有人来るぞー、茶ぁ飲んでから遊ぼー、慎霰」
 有人、とは確か堕天した方だったか。佐吉以外の霞谷家の住人にはっきりと会うのはこれが初めてだ。
 ほら、あそこー、と家のほうを佐吉が指したのを見ると、眼鏡をかけた聴診の男と、赤いパーカーを着た少し自分より年上か同じくらいの少年。
(背の高いほうがそうか?だとしたら隣りのちっこいのが人間の弟子か。堕天者、人間、付喪神……改めて揃ったのを見ると変な感じ)
 しかもイレギュラーな存在である慎霰の分まで用意してある感じだ。
「自分の領域だから侵入者もわかるってやつか」
「そんなに大したものでもありませんよ、天狗殿。佐吉の歓声が聞こえたからです」
「ふーん?まぁいいや、天波慎霰だ。天狗殿は止めてくれ。あんたも堕天使殿って呼ばれたいか?」
「それは恥ずかしいな。霞谷有人です、よろしく、そして佐吉がいつもお世話になっています、天波君」
 微笑んでいる有人を良く見ると、なるほど天上界出身だというのが言われてみて納得するような感じがする。闇の世界とは至極無縁に見える彼が何故堕天したのだろうか。
(ま、俺には関係ないか。佐吉がかまえりゃそれでいいし)
「見事過ぎる庭だな。なんか特殊な術でも使ってんのか?」
「いえ。この子らを育てるのにそんなもの使えませんし、俺の能力はそういうものではない。ここまで育ってしまったのは単なる季節の崩壊というだけです。ああ、ご安心をここまで増えてしまったからといって花びら一枚でも生きてる彼らを捨てたりはしていませんよ?」
「らしいな。鈴城から聞いた。俺の知り合いに宿屋とか飲食の屋台やってるやついるからそいつらに配りにいけるけど、どーするよ。あいつらも仕入れがタダになりゃその分儲かるから喜んで貰ってくれると思うぜ。あと……」
「あと?」
「……いや、何でもねぇ。ともかくあんたらのためじゃなくて、喜ぶやつらが一杯いるからいくらか貰っていってやらぁ」 
(流石に雑草貰って大っ嫌いな建設会社にばら撒いて来ます、なんて言えねぇよな。それにそれはそれでいくら森林伐採するやつにする対処でも哀れ過ぎるか)
 一瞬、緑を奪うものに緑一面の美しさを見せてやろうか思ったけれど、相手は会社。勤めている者、全員が好きでやっているわけではなかろう。流石に上からの命令でやってる者に更に苦痛を味あわせるのは可哀想に感じ、思いとどまることに。
 それに譲ってくれる相手は元とは言え天界人。
 そんなこととのために譲ってくれなんて口が裂けても言えない。
「かなり有難い。好きなだけ、お好きなものを採っていってください。ああ、それとこの後、桜はまだ早いので梅でも眺めながら食事をしようかと思っているんですよ。天波君もいかがです?」
 桜ではなく梅で花見というのは変な話であるが、食事を奢ってくれるというのに断る理由はなく、慎霰は首を縦にふった。





 お茶とケーキをいただいた後、慎霰は佐吉の案内で亮吾と共に白菜畑にやってきた。どうやら花見のメインディッシュは白菜と豚肉の酒蒸しらしく、ブレッシングとかいう佐吉の保護者その2が買出しに行っている間に自分たちはメインの白菜とおろし用の大根を採って来ることになった。
「俺、大根いくわ」
「わかった。じゃあ俺は白菜だな」
 亮吾がむかったのと逆の畑に足を入れた慎霰は、おろしだけだし1本で事足りるかとなるべく比較的大きめに見える大根を掘り起こすべく、その周りの土をどけ始めた。
(学ランで農作業って校外実習みたいだな。鈴城は洋服だから実習って感じはしねぇけど、それでも畑にはあわねぇな。畑で作業っつったらよくバラエティとか時代もので見る………)
 そこまで思考を進めた慎霰はあることを思いついてにやりと笑みを浮かべ、亮吾の足元で土をどかすのを手伝っている佐吉と眼が合った瞬間彼を呼び寄せた。
「どうしたー?」
「今から面白いものを見せてやろうかと思ってさ」
「面白いもの!?見たい見たい!」
「よしよし、素直なお子様だな。ちょっと鈴城の方を見てろよ?」
「亮吾?」
「ああ。今、あいつ洋服だろ?だが、天狗の妖術ってのはな、あんま原理原則に縛られないで現実を自由に変えられるのが特徴でな。早い話、いつでも俺の好きなように好きなもんに変えることが出来るってやつだ、こういう風にな」
 そう言ってから一瞬ののちに、亮吾は私服姿から慎霰が思い描いた農作業の正しい衣装、もんぺ姿に早変わり。
 しかし、亮吾に自分の服装が変わったと気づく気配がない。
「すげー!!!」
「俺は気づかない鈴城がすげぇうけると思う」
 白菜の前でまた何に思考を飛ばしているのかわからないが、うんうん唸っている姿はなんとも言えず笑いを誘うもので、慎霰は肩を震わせ、佐吉は地面をたたき始めた。
「おい、慎霰。どのくらい配りにいくんだよ……お前ら何笑ってんだ?」
 自分の服装にまだ気づいていないのだろう。
 こちらを振り返ってきた亮吾は訝しげに睨んできた。
「鈴城、お前、動きやすくねぇ?」
「は?まだ1玉もとってないからそんなのわかんねぇよ。お前は何玉いるんだよ、それに答えろって」
「とりあえず5玉かな」
「5玉な。じゃあ、やっぱり鍋用は2玉にして、お前が5玉だから7玉か…リヤカー持ってきて正解だったな」
「鈴城鈴城」
「5玉だろ?わかったって。お前も大根2、3本とっとと引っこ抜いて白菜採るの手伝えよ」
「面倒だもんな、大根より白菜の収穫は。んでさ、お前まだ気づかないの?佐吉、笑いすぎて割れそうなんだけど」
「さっきからなんだよ」
「自分の身に着けてるもの、なーんだ」
 そこまで言ったら自分が白菜を何玉とるかで悩んでいる間に慎霰に何をされて、何で佐吉が笑い転げているのかわかったのだろう。
 亮吾は片手をあげてみたり、足もとに目線を下げたりして自分の今の姿を確認したあと、がくりと首を下げた。
「農作業がはかどる格好にしてくれてありがとよ」
「どういたしまして」
 慎霰への皮肉も受け流されてしまったのも最早いつもことと、華麗にスルーし、正式な農作業ルックで気合を入れる亮吾であったが、更に慎霰にとどめの一言をもらう。
「お前が白菜採り終わったら、俺、新鮮なうちに配りに行ってくるから鍋の手伝いよろしくな」
「……りょーかい」









 畑での宣言通り、鍋の用意は霞谷家の人々と亮吾に任せ白菜を配りにいった慎霰。
 幸い霞谷家のそばには古い神社があり、異界へはすぐ行けた。鍋ができるくらいには霞谷家に戻らなくてはならないので、白菜を持っていった先に引き留められたものの、すべて配り終えると慎霰はまた人界に戻ってきた。
 そして、霞谷家にまた飛んで戻っていくと、何やら梅の木の下で亮吾が意味不明なことをのたまっている。
 そういえば酒蒸しだとか言っていたが、その匂いにやられたのだろうか。
「なんだ鈴城、匂いだけでそれかよ。情けねーの」
「うるへー、平気だっての」
 全然平気そうに見えない。
 呂律は回っていないし、眼がちょっと閉じてきている。
 完全に酔っぱらいの症状です。
 匂いでこうなるに食べて大丈夫か、こいつ。
 しかも、立ち上がった拍子に膝に乗っけてた佐吉落として割ったし。
「……ごめん、佐吉」
『気にすんなー』
「すげ、欠片がしゃべってら」
 割れても死なないとは聞いていたが、実際割れたのを見たのは初めてだ。なんか飛び散った欠片がぷるぷる震えながら言葉を発しているのって付喪神の神秘だ。
「こんなん出ました」
 反省する亮吾と、割れても平気な佐吉を面白そうに見ている慎霰の間をひょいと入ってブレッシングが回収したのは佐吉の中から出てきたもの。
 割れると中からものが出てくるんかい、佐吉。
 しかも二日酔いの薬だし。
「すげぇ、空気読んで中身出るんだ」
 思わず、感心してしまう慎霰。



 春の登校日に少しなった憂鬱は、賑やかなこの花見で晴れ、意気揚揚と帰路に着くことができた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7266/鈴城・亮吾/14歳/半分人間半分精霊の中学生】
【1928/天波・慎霰/15歳/天狗・高校生】



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■         ライター通信          ■
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天波慎霰様

お久しぶりです、そして再びご依頼してくださったにも関わらず延滞してしまいご迷惑をおかけいたしました。
申し訳ありません。
時間をいただいてしまった分、内容に尽力を尽くしましたのでお気に召していただけたら幸いです。