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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


病姫

 その姫様に魅入られた者に――未来は存在しない。
 人目を引く赤い紅を引き、艶やかな黒髪のその女性は『病姫(びょうき)』と呼ばれる妖怪の一種である。
「‥‥何処か、具合でも悪いのか‥‥?」
 雨の中、電信柱の所で蹲る女性に草間武彦が話しかけると「‥‥優しいのね」と蹲りながら女性は草間武彦を見上げる。
「私が此処に座り込んでから一時間以上が経つけれど、声を掛けてくれたのは貴方だけだったわ」
 妖艶に笑みながら呟く女性だったが、草間武彦は言いようのない不気味さを感じて一歩後ずさる。
「私――貴方が凄く気に入ったわ、だから一緒に行かない?」
 女性が呟いた瞬間、草間武彦はクラリとその場に膝を着く。
「お兄様!」
 そこへ零が慌てて駆け寄ってきて「‥‥妹?」と女性は首を傾げながら顔色を真っ青にしている草間武彦を見つめる。
「まぁいいわ、最後にお別れしてね。三日後、貴方の命は私が貰い受けるわ。一緒に永劫生きていきましょうよ」
 女性はそのまま何処かへと去り、草間武彦は原因不明の高熱にうなされ、意識不明となっていた。

「‥‥今日が三日目、誰か、誰かお兄様を助けて‥‥」

視点→式野・未織

 その日の式野は手に持ったバスケットに新作のケーキと美味しい紅茶の入ったポットを入れて草間興信所に向かっていた。
「いつも疲れたような顔をしている草間さんだけど、甘いものを食べればきっと元気になるよね」
 式野はバスケットを大事そうに抱えながら、草間興信所への扉を開く。
「こんにちはー‥‥」
 扉から少し顔だけを覗かせて式野は挨拶をするが、いつもならば返ってくる筈の言葉が返ってこない事に式野は首を傾げた。
「‥‥あれ?」
 よく見ればソファにぐったりとした表情で横になっている草間武彦の姿が式野の視界に入ってくる。
「え‥‥?!」
 驚きで目を見開くと、そこへ買い物にでも行っていたのか大きな買い物袋を持った零が草間興信所へと帰ってきた。
「あ‥‥すみません、お兄様はちょっと――‥‥」
 零は俯きながら買い物袋をテーブルへと置く。
「何が、あったんですか? ミオにも何か出来る事があるかもしれませんし、教えてください」
 式野がバスケットをテーブルの上に置いて、零に問いかけると彼女はここ数日で起きた事を式野に全て話した。
 草間武彦が見知らぬ女と接触したばかりに原因不明の高熱にうなされて、意識不明になっていると言う事‥‥。

「その人は草間さんを『貰い受ける』って言ってたんですよね? だったらミオはその人が来るまで此処で待ちます」
 式野の言葉に「探しに行かないんですか?」と零が言葉を返してくる。草間武彦を心配する彼女にとっては、今すぐにでも草間武彦を苦しめる女性を探しに行って貰いたいというのが本音なのだろう。
「ミオはその人に会った事がないので、探すのも難しいでしょうし‥‥だから、向こうから来てくれるなら待とうと思ったんです」
 式野は零の表情から心の言葉を読み取ったのか、苦笑しながら言葉を返した。
 もし、ここで式野が探しに行っている間に草間武彦を苦しめている本人が来た場合、何もかもが手遅れになる。
 そんな事になるよりは『必ず来る』と分かっている草間興信所で待っていた方がいいというのが式野の考えだった。
「そうですか‥‥そうですよね、もし見つけるより先にあの人が此処に来たら、お終いですもんね」
 零も納得したようで「焦っていてごめんなさい」と頭を丁寧に下げながら言葉を投げかけてくる。
「取りあえず少し落ち着きましょう、新作のケーキと美味しい紅茶を持ってきたんです」
 式野がバスケットを指差しながら零に話しかけると、彼女は首を横に振る。
「あれ、もしかして甘いの嫌い‥‥でしたか?」
 式野が確認するように問いかけると「お兄様が起きてから、二人で頂きます」と零は言葉を返してきた。
(「よほど心配なんだなぁ‥‥持ってきたケーキが無駄にならない為にも、草間さんを元に戻してもらわなくちゃ」)
 式野が心の中で呟いた時だった、扉から冷たい風が吹いてくる。
「こんにちは、声は掛けたんだけど返事がなかったから勝手に入っちゃったわ」
 ごめんなさいね、女性はにっこりと微笑みながら二人に話しかけてくる。その表情から『勝手に入って悪かった』と言う感情は見られない。
「貴方が‥‥草間さんをあんな風にしたんですか?」
 式野が問いかけると、女性は妖艶に笑みながら「そう、私と永劫生きていく為にね」と言葉を返してきた。
「私達の種族・病姫は男の魂を喰らって永劫生きていく――それが私達、病姫の愛」
 病姫は呟きながら「そして、私を案じてくれる優しい人を見つけた」とソファで横になっている草間武彦に視線を移した。
「病姫さんは、草間さんと一緒に永劫生きる事を本当に望んでいるんですか?」
 式野が問いかけ、その言葉が気に入らなかったのだろう。病姫は「‥‥何が言いたいの?」と眉間に皺を寄せながら言葉を返してきた。
「永劫って気が遠くなるほど長いです。ずっとずっと一緒にいる相手が草間さんで、本当に病姫さんは良いんですか?」
 式野にとって、その言葉に全く悪気はないのだろう。しかし聞く人にとっては悪い意味にもなり得る言葉に零は苦笑を漏らした。
「もちろんよ、だから私は彼を選んでいるんじゃない。永劫という長い時の中で私だけを好きでいてくれる人を選んだのよ」
 病姫は言葉を返したが「草間さんは多分、病姫さんの事を好きじゃないと思うんです」と式野が申し訳なさそうにポツリと呟く。
「‥‥‥‥何ですって? 何で彼が私の事を好きじゃないなんて言うの?」
「本当に好きなら、何で病気にするんですか? ミオだったら――そういう人は嫌です。それに片思い状態で無理矢理一緒になっても、きっとツライだけです」
 式野の言葉に「‥‥私の体を心配してくれたわ! それは好きだからじゃないの?!」と怒りを交えたような口調で病姫は式野に言葉を返してくる。
「それに‥‥草間さんがいなくなったら零ちゃんは悲しみますし、誰も幸せになれないと思うんです」
 式野は俯いている零に一度視線を移し、再び病姫に視線を戻して呟く。
「何で、この人も私を裏切るの? 私を嫌いと言って捨てるの? さっき言ったわよね? 本当に好きなら何で病気に‥‥って。私はその愛しか知らないもの! その愛し方しかしらないもの!」
 他の愛し方なんて誰も教えてくれなかったもの、病姫は大きな声で叫び、息を整えるように「はぁ、はぁ」と肩を震わせている。
「もしかして病姫さん、誰かを待ってたりします?」
 式野の言葉に病姫の体がびくりと大げさなくらいに震える。
「そんなの‥‥いないわよ、そんなの、いるわけないじゃない」
 否定の言葉しか言わない病姫だったが、悲しそうな表情、そして強く握られた拳を見て『誰か待っている人がいるんだ』と言う事が式野に分かる。
「もし、草間さんじゃなくて、本当は一緒にいたい誰かがいるならミオの能力でお手伝い出来ると思います」
 式野が呟くと「能力?」と病姫は聞き返し「ダウジングで何でも探せます」と式野がにっこりと笑顔で言葉を返した。
「だから、もし探して欲しいという人がいればミオがお探ししますよ」
「本当に、誰でも、何でも探せるの‥‥?」
 病姫が震える声で問いかけ、式野は言葉を返すことなく首を縦に振る。
「じゃあ‥‥お墓を探して。私がかつて本当に愛した人の、私の前から姿を消したあの人のお墓を――‥‥」
 病姫の探すモノが『お墓』だと言う事に、式野は少しだけ驚いたが胸元に下げているペンデュラムに触れて、瞳を閉じて意識を集中して病姫が探している『お墓』を探し出す。

 式野がダウジングで『お墓』の捜索を開始してから、暫く時間が経過した頃、紙に何かを書いて「ここに病姫さんが探している人のお墓があります」と少し疲れたような表情で、だけど病姫を安心させるように笑顔で話しかける。
「ありがとう――‥‥80年前に、私をバケモノと罵り、私の前から姿を消した酷い人。だけど大好きだった、忘れられなかった‥‥だから、あの人に似た誰かと生きていきたかった」
 病姫は呟きながら草間武彦を見つめ、そして瞳を閉じると何かの呪文を唱える。
「あと一時間程度で元に戻るわ、貴方からお兄さんを奪おうとしてごめんなさい。そして――ありがとう」
 紙を見せながら病姫は式野に礼を言って、草間興信所を出て行く。
「あの人がかつて愛した人が、お兄様に似ていたんですね、だから‥‥何としてでも連れて行きたかったんでしょうか」
 零がポツリと呟き、草間武彦の様子を見る。先ほどまでは顔色も悪かった彼だが、だんだんと生気を取り戻し、病姫が言った通り一時間程度で元に戻るのだろう。
「それじゃ、具合の悪かった草間さんと心配しすぎて疲れた零ちゃんにケーキと紅茶をご馳走するね」
 式野はバスケットを開きながら、持ってきたケーキと紅茶の用意を始める。
 病姫が次こそは素敵な恋愛が出来るようにと祈りながら――‥‥。


END

――出演者――

7321/式野・未織/15歳/女性/高校生

―――――――

式野・未織様>
こんにちは、水貴透子です。
いつもご発注ありがとうございますっ!
内容の方はいかがだったでしょうか?
能力を発揮出来るように執筆したつもりなのですが
至らぬ点がありましたら申し訳ありません。
ご満足して頂けるものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、またのご機会にお会い出来る事を祈りつつ、失礼します。
今回は書かせて頂き、本当にありがとうございました!

2009/3/17