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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


病姫

 その姫様に魅入られた者に――未来は存在しない。
 人目を引く赤い紅を引き、艶やかな黒髪のその女性は『病姫(びょうき)』と呼ばれる妖怪の一種である。
「‥‥何処か、具合でも悪いのか‥‥?」
 雨の中、電信柱の所で蹲る女性に草間武彦が話しかけると「‥‥優しいのね」と蹲りながら女性は草間武彦を見上げる。
「私が此処に座り込んでから一時間以上が経つけれど、声を掛けてくれたのは貴方だけだったわ」
 妖艶に笑みながら呟く女性だったが、草間武彦は言いようのない不気味さを感じて一歩後ずさる。
「私――貴方が凄く気に入ったわ、だから一緒に行かない?」
 女性が呟いた瞬間、草間武彦はクラリとその場に膝を着く。
「お兄様!」
 そこへ零が慌てて駆け寄ってきて「‥‥妹?」と女性は首を傾げながら顔色を真っ青にしている草間武彦を見つめる。
「まぁいいわ、最後にお別れしてね。三日後、貴方の命は私が貰い受けるわ。一緒に永劫生きていきましょうよ」
 女性はそのまま何処かへと去り、草間武彦は原因不明の高熱にうなされ、意識不明となっていた。

「‥‥今日が三日目、誰か、誰かお兄様を助けて‥‥」


視点→朝霧・慧

「う〜ん、今日は本当に暇だなぁ」
 朝霧・慧は大きく伸びをしながら降り注ぐ太陽の光に眠気を感じていた。暇、と言うならば大学に行きなさいという話なのだが『今日は大学に行く気分じゃない』と言う事により、街の中をぶらぶらと歩いていた。
(「そういえば‥‥」)
 朝霧は思い出したようにピタリと足を止めると、周りをきょろきょろと見渡す。
 少し前に大学で『面白い探偵がいる』と言う話を聞いており、偶然にも今歩いている場祖の近くに『草間興信所』と言う事務所を構えているという話も聞いていた。
「あ、見つけた――此処だ」
 ひっそりと存在する鉄筋作りの雑居ビル、その一室に『草間興信所』とひらひらと今にも飛んでいきそうな紙に書いてある。
「‥‥『怪奇ノ類 禁止!!』――怪奇探偵と聞いていたんだけど、違うのかな?」
 ドアの前に張られた少し黄ばんだ紙に「‥‥?」と朝霧は傾げる。
「まぁいいか、こんにちはー‥‥」
 朝霧が適当に挨拶をしながら草間興信所の扉を開ける――と同時に一人の少女が泣いている姿が視界に入ってきた。
(「‥‥あ、何か面倒事の予感――‥‥」)
 少女の横にあるソファでは一人の男がぐったりとした表情でうなされている姿が視界に入ってくる。
(「‥‥うわぁ、更に面倒事の予感‥‥」)
 この状況から逃げようかとも思ったけれど、しっかりと扉を開けている上に少女とばっちり目が合っている状態なので、今更『間違えました』等と言って出て行く訳にも行かない。
「取りあえず、何があったかを聞いてもいい?」
 朝霧が少女の近くに寄りながら話しかける。少女は『草間 零』と名乗り、兄である『草間武彦』が怪しげな女と接触したせいで、原因不明の高熱にうなされ、意識を失っているのだと言う。
「つまり、よく分からないけれどあんたの兄が大変な何かに取り憑かれた、と言う事でOK?」
 朝霧が零に問いかけると「はい、大まかにはそれで大丈夫だと思います」と零は首を縦に振りながら言葉を返した。
「妙な女が接触してから原因不明の高熱ねぇ‥‥いまいち状況がよく飲み込めてないけど、泣きつかれちゃしょうがないよね」
 朝霧はため息混じりに呟き、渋々ながらも零の兄・草間武彦を助ける事にしたのだった。

「さて、助けるとは言ったものの――相手が何をしたのか、そもそも相手の顔すらも知らないこの状況でどうやって助ければいいのかな」
 朝霧は腕を組み、ため息混じりに呟きながら考えるが、草間武彦をあんな状態にした本人が来ない限り、どうやって元に戻すかも検討がつかない。
「あの人は‥‥三日後に来ると言っていました――その三日後が、今日なんです」
 零は俯きながら、高熱にうなされる草間武彦を苦しげな表情で見つめながら呟く。
「そう――今日なら「こんにちは」――!?」
 もしかしたら本人が来るかもしれない、朝霧が言葉を口から発そうとした時に甲高い女性の声がそれを遮る。
「一応、声は掛けたのよ? だけど返事がないから勝手に入っちゃった」
 ごめんなさいね、女性は悪いとは少しも思っていないような表情でにっこりと声を掛けてきた。
「あんたが、この子の兄をあんな目に合わせてる張本人?」
 朝霧がジロリと女性を見ながら問いかけると「貴方達だって、好きな人と抱き合うでしょう?」と脈絡なく言葉を返してくる。
「‥‥‥‥何が言いたいのさ」
 朝霧がため息混じりに呟くと、女性は意味深な笑みを浮かべて草間武彦を見つめる。
「私達は愛した相手を病気にして殺し、その魂を喰らう。それが私達の種族の愛し方。だから私はあの人を殺して魂を喰う。それに何の問題があるのかしら」
 女性は当たり前とでも言いたげに朝霧と零の二人に言い放つ。
「でも、助けるって約束しちゃってるから――それは諦めて貰うけどね」
 朝霧は呟きながら女性に近寄っていく。
「ふふ、たかだか人間が私に勝てるとでも思っているのかしら」
「そうね、たかだか人間と侮るほどあんたが強いとも思えないけど」
 朝霧が呟くと女性・病姫は少しだけ表情を険しくして朝霧に殴りかかろうと拳を振るう――が、パシンとその拳は受け止められ、朝霧に攻撃が当たる事はなかった。
「格闘技は得意なのよね、出来れば『ここ』までで退いてくれると、ボクもこれ以上しなくていいんだけど」
 朝霧が呟くと「あら、自分の技を使いたくないとでも言うの?」と病姫が嘲るように言葉を返す。
「別に? ただ単に面倒なだけ」
 朝霧は呟くと左手に魔導書を持ち、右手の指でピストルを作り、それを病姫に向けて放つ。
「恋愛に命を掛けるというのは分かるケド、この弾丸に当たったら『無』になる。これは脅しじゃない――それでも戦いを続ける?」
 ジロリと睨みながら朝霧が問いかけると「‥‥ハッタリでしょう? たかだか人間に‥‥」と病姫は言葉を返す。強がっているものの声は少し震えており、完全にハッタリと思っているわけでもなさそうだ。
「何で‥‥邪魔をするの? 私はただ好きな人と一緒にいたいだけじゃない! 何の権利があって私の邪魔をするのよ!」
 病姫は今にも泣きそうな表情で大きく叫ぶ。
「人を殺して、自分だけが納得する恋愛なんて存在する事は許されないよ」
 朝霧が呟き、病姫はちらりと草間武彦に視線を移し――そのまま彼に向かって走り出す。
「お兄様!」
 零が叫ぶと同時に朝霧の右手から弾丸が発砲されて、病姫の体にめり込む。
「私は‥‥私はただ、好きな人と一緒にいたかっただけなのに‥‥こんな愛し方は許されないって言うけど‥‥この愛し方しか教えられて、ない、も―――の―――」
 病姫は涙混じりに眠り続ける草間武彦に手を伸ばし、そしてそのまま消えていった。

 病姫が『無』になって消えると同時に草間武彦が意識を取り戻し、まだ具合は悪そうだけど、先ほどのような土気色の顔色ではないので心配はないだろう。
「お兄様、この方が助けてくださったんですよ」
 頭を押さえながら起き上がる草間武彦に零が話しかけ、草間武彦がちらりと朝霧に視線を向ける。
「ありがとう‥‥キミがいなかったら俺は死んでいたかもしれないな」
 草間武彦が礼を言うと「別にいいよ」と朝霧は短く言葉を返した。
「怪奇探偵として有名なあんたを見に来ただけだったし――まぁ『怪奇探偵』の意味が少しだけ分かったような気がするけど」
 可笑しそうに朝霧が呟くと「此処は怪奇の類は禁止の事務所だ」と具合が悪いながらも草間武彦はツッコミを入れてくる。
 その後、零が淹れてくれたお茶を飲んだ後、朝霧は草間興信所を後にしたのだった。

END


――出演者――

7889/朝霧・慧/20歳/女性/大学生、魔導士(自称)

―――――――

朝霧・慧様>
初めまして、水貴透子です。
今回は『病姫』にご発注ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
ご満足して頂けるものに仕上がっていたら幸いです。

それでは、またのご機会にお会い出来る事を祈りつつ、失礼します。
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2009/3/17