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小春の遺跡発掘レポート〜月光鏡〜
こんにちは。
大学の考古学部に所属している藤河・小春です。
今回は大学のレポート作成の為に、遺跡発掘へと行って参りました。
この遺跡でもう幾つの遺跡を踏破したでしょうか。ですが、遺跡によって様々な観点があり、飽きる事などある筈もなく、むしろ新しい事に気づかされる毎日です。
今回、赴いたのは『鏡による伝説』が多く残されている場所でした。恋愛のように浮かれた伝説もあれば、鏡を使った呪いの伝説と言う少し怖いものまで、様々な伝説が残されていました。
その遺跡に赴いた人達が数名、意識を失うという現象が起きているようなのですが、そんな事に負けずに私は皆様の為にレポートを作成する所存でございます。
「あんた達、本当にあの遺跡に行くのかい?」
藤河と数名の考古学部の仲間、そして教授を乗せたワゴン車を運転する中年の女性がミラー越しに此方を見ながら、小さな声で問いかけてくる。
「ほへ? どういう意味ですか?」
ガタン、ゴトンと揺れる車内の中で遺跡の資料に目を通していた藤河が顔を上げながら中年女性に言葉を返した。
「‥‥そういえば、少しおかしな噂を聞きましたな」
教授が「ふむ」と言葉を付け足しながら、中年女性に言葉を返す。
「おかしな噂? 何ですか? それ」
藤河が問いかけると、答えたのは教授ではなく中年女性の方だった。
「今回の遺跡の出土品を運んでいる途中で何人も倒れてねぇ、何か良くない物でも掘り出しちまったんじゃないかねぇ」
心配そうに、ため息を交えて中年女性が呟き「あぁ、此処が遺跡の入り口だよ」と『キィ』と車を停めて少し前方を指差す。
「一般車は此処までしか入れないからね、後は歩いていっておくれ」
「ありがとうございました」
中年女性に礼を言いながら、藤河達はワゴン車から降りて出土品が保管されている所へと向かい始めたのだった。
(「僕に構わないで‥‥」)
「ほへ?」
少年特有の甲高い声が聞こえ、藤河は周りをきょろきょろと見渡すが声の持ち主になりそうな少年を見つける事は出来ない。
「‥‥気のせいかな」
藤河は首を傾げながら呟くと「藤河クン、どうかしたかね」と教授が歩く足を止めて話しかけてきて「いえ、何でも無いです」と藤河は言葉を返して足早に教授や仲間達の所へ駆けていく。
「わぁ、教授、これ凄く綺麗ですよ」
出土品が飾られた棚を見て、仲間の一人が手を指差しながら話しかけてきて教授と藤河は其方に視線を向ける――‥‥。
そこに飾られていたのは、大きな鏡だった。人間の姿全部をすっぽりと映す事の出来るその鏡は周りに綺麗な宝石で飾られている。
「わぁ、綺麗な宝石ですね〜」
宝石に目が無い藤河は宝石部分を見ながら「くすんでるけど、元は綺麗な宝石だったんでしょうねぇ」と言葉を付け足す。
(「お願い‥‥僕に、近寄らないで――僕にその姿を見せないで‥‥」)
「え?」
再び聞こえた少年の声に藤河が鏡から視線を外すと「きゃあっ! 教授!」と突然倒れた教授に驚き、悲鳴に近い声を上げた。
(「‥‥僕は、また――もう、嫌なのに‥‥」)
「誰か、教授が‥‥っ!」
仲間が遺跡発掘を行っている考古学者達に助けを求めるように外へと出て行く。
もちろん藤河も倒れた教授の事は心配だったが、先ほどから頭に響いてくる声も引っかかる事があった。
「‥‥もしかして‥‥」
藤河は呟きながら、部屋に差し込む太陽の光を浴びて鈍く光る鏡を見た。先ほど、鏡を覗き込んでいたのは教授と藤河の二人だけ。他の仲間達は別の出土品などを見たりしていた為、鏡を覗き込む事はしていなかった。
そして『鏡を覗き込んだ』と言う事が原因で教授が倒れたのならば藤河に影響が無い事も納得がいく。
彼女は竜闘気により炎、冷気、精神、即死、毒に対する完全耐性が存在している。だから鏡に何らかの能力があったとしても藤河には効果が無いのだ。
「‥‥鏡さん、貴方なの‥‥?」
藤河が呟いた時、仲間達が帰ってきて「此処の宿場を使わせてくれるって、教授を休ませよう」と何人かで教授を宿場まで運んだのだった。
「‥‥月の光が綺麗、都会では絶対に見られない景色だよね」
結局、教授の意識はまだ戻らず、明日の朝になってもまだ戻らないようだったら地元の病院に連れて行こうという話になった。
だけど藤河には病院に行っても無駄、と言う事だけは分かっていた。
(「あれはオーパーツ、なのかな‥‥」)
窓辺に立って外を見ると、鏡が保管してある小屋が視界に入ってくる。
「気になって眠れない‥‥ちょっと行ってこよう」
呟くと藤河は上からカーディガンを羽織って小屋へと向かう。
(「‥‥昼間のお姉ちゃん、何しに来たの?」)
月明かりの中、鏡の前に薄く揺らぐ少年の姿。
「えっと、こんばんは、少しお聞きしたい事があるのですが‥‥」
(「昼間のキョウジュって人のこと? 僕を覗き込むからだよ‥‥僕は命を奪う魔鏡――だからずっと土の中で眠りにつけて嬉しかったのに、僕を掘り起こすから‥‥」)
少年は『月光鏡』と名乗り、昔は色々な人間の姿をその身に映していたのだと言う。
(「僕は普通に『鏡』としてその存在を許されたかったのに‥‥たった一度の呪いが僕を変えてしまった」)
昔、遠い昔に『月光鏡』の持ち主であった姫様が叶わぬ恋に『月光鏡』を使って呪いを掛けたのだと言う。
その呪いは『月光鏡』を蝕み、普通の鏡ではなく人の命を吸い取る『魔鏡』へと変えたのだと少年は寂しそうに呟いた。
(「そういえば、お姉ちゃんは何で僕を覗いても倒れないの?」)
「私は竜闘気によるものだと思います、それに貴方こそ昼間より‥‥昼間は姿も見えなかったのに」
藤河が呟くと、少年は空を指差して「月」とだけ短く言葉を返してきた。恐らくは月の力が影響して『月光鏡』の力も増幅されているのだろう。
「あの、教授や倒れた他の人を救う手立てはありませんか?」
藤河が呟くと「僕が好きでしているわけじゃないし」と少年はそっけなく言葉を返してきた。
(「あぁ、一つだけ方法があるかな」)
少年の言葉に「本当ですか?」と藤河が言葉を返す。
(「この奥にかなり深い井戸があるんだ、そこに僕を放り込めば恐らく僕の影響力は無くなる――最悪でも効果が薄れて意識は戻ると思う」)
少年の言葉に藤河は少しだけ表情を変える。つまり少年の言うようにすれば意識を失った人達は助かるが鏡そのものを破壊してしまう可能性が高くなるからだ。
「此処から離れるだけではダメなんですか?」
(「ダメじゃないけど、イセキハックツの人達は離れてくれないでしょ。だから僕がいなくなるしかないと思うんだけど」)
「そんな‥‥」
(「キョウジュを助けたいんでしょ。それに――僕も僕を見て誰かが命を落としていくのを見るのは嫌なんだ」)
だからお願いだよ、と少年は懇願するように言葉を付け足してきた。
「‥‥分かりました」
藤河は決心したように言葉を返すと、棚の中から重量のある鏡を持ち、少年が言う井戸を目指す。
(「別にお姉ちゃんが悲しむ必要は無いよ、魔鏡となった時から僕は自分の滅びだけを願っていたんだから‥‥漸く願いが叶う、僕は嬉しいんだ」)
藤河は返す言葉が見つからず、大きな井戸の中に鏡を放り投げる。
(「ありがとう、お姉ちゃん――‥‥」)
ひゅう、と言う音と何かが割れる音が井戸の中に響き、藤河は少しだけ涙が出そうになる。
その次の日の朝、鏡が無くなった事はもちろん騒ぎになったけれど、それ以上に今まで意識をなくしていた人が同時に目を覚ました事により『あの魔鏡のせいだったんだ』と言う事になって、鏡を探そうとする者はいなかった。
(「‥‥魔鏡なんかじゃなかった、優しい、誰よりも優しい子だったのに」)
藤河は俯きながら呟き、少年を思い出して涙が一筋零れ落ちたのだった。
そして『魔鏡』ではないという説明のレポートすらも書く事が出来ず、誰しもが『月光鏡』を『魔鏡』と呼んでいた。
だけど、その中で一人だけ‥‥藤河だけが少年の、月光鏡の本当の心を知っているのだった。
――出演者――
1691/藤河・小春/20歳/女性/大学生
―――――――
藤河・小春様>
初めまして、水貴透子と申します。
最初、プレイングを拝見した時から『鏡にしよう』と決めていました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
ご満足して頂けるものに仕上がっていれば良いのですが‥‥。
それでは今回は書かせて頂き、本当にありがとうございまいした!
2009/3/20
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