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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ウサギの国の双子のかぐや姫


 今日もまた白王社を傾かせる勢いで、女王様の罵声が響く。そしていつものごとくそれに恐れをなす従順な三下……賢明な皆さんには補足など必要ないだろうが、『三下』とは社員の名前である。そして女王様であり、完璧上司の名は麗香さま。月刊アトラスの編集長として今日も部下を野に放ち、雑誌のネタをかき集めさせている敏腕キャリアウーマンだ。すでに事務所はふたりだけ。他の社員やアルバイトはお仕事の最中である。
 本日のお小言は遅刻をネタに始まった。いつものように麗香はくどくどと説教し、三下はそれを黙って聞く。邪悪な呪文か、ありがたい説法か……永遠に続くかと思われた恐怖のお叱りは、二足歩行する謎のウサギの登場で突然に終わった。

 「ふぅ、三下殿。時は金なり、タイムイズマネーですぞ! 早くかぐや姫を探してくだされ!」

 蝶ネクタイに燕尾服、シルクハットに金色の懐中時計……素敵に着飾ったウサギが三下の机に載せられたリュックサックから飛び出した。存在そのものがすでに不思議なのに、さらに日本語をべらべら喋り始めれば、誰だって驚くというもの。麗香は正気を保つためか、さっそく三下を問い詰める。

 「まーたあなたは、あんなのを拾って遅刻したのかしら……っ?!」
 「き、昨日です! 呼び止められたんで、家に連れて帰ったんです! で、今日はかぐや姫を探したいからって! それでリュックサックに……」

 かぐや姫は平安時代に月へ帰った……いやいや、それは物語の話であってフィクション。麗香はそう考えてから、落ち着いてもう一度あのウサギを見る。うん、認めざるを得ない。彼女は説教を打ち切り、三下にお茶を用意させる。そして応接室で詳しい話を聞くことにした。

 ウサギは流暢な喋りで事のあらましを説明する。彼はかぐや一族の執事をしているエリートウサギで、やっぱり月から来たらしい。基本的に月にはウサギしか住んでおらず、それを統治するのが『かぐや一族』であるという。詳しい話はさておき、今の代のかぐや姫は双子なのだそうだ。人間の年の頃でいうと15歳くらい。普段から仲のいい姉弟として有名らしい。
 ある日のこと、姉がどこからか地球の知識を得たらしく、周囲の者に「地球に行きたーい」とごねたらしい。十二単をアレンジした質素な着物よりも、地球のファッションの方が気に入ったのだろう。しばらくは弟が諌めていたが、姉の募る想いは日増しに大きくなるばかり。そして数日前、寝ている弟に自分の服を接着剤で貼りつけることで無理やり影武者とし、自分のお小遣いを持ち出してさっさと地球に繰り出してしまったのだ。あれだけがんばった弟はがっくりと肩を落としたが、そこは側近のウサギたちに励まされて立ち直り、今まさに陰湿な復讐を果たすべく地球に向かっているという。

 「あ、あの……それって少しマズいんじゃ……?」
 「弟君は温和な方ですので、我々の想像以上にひどいことはなさらないと思いますが、問題は天真爛漫な姉君でございます。何しろ地球の知識はゼロに等しいですからな。人様の星でご迷惑をおかけしてはいないかと思うと気が気ではありません!」
 「ちょっと待って。あなたの話で引っかかたところがあるわ。『姉が弟に自分の服を接着剤で貼りつけた』の下り……もしかして、ふたりは驚くほどそっくりなのかしら?」

 不幸にも麗香の心配は的中してしまう。執事によると、双子のかぐや姫は美男子にも美女にも見えるルックスの持ち主で、面倒なことに今はショートヘアーなのだそうだ。だから姉を探そうにも、簡単な変装をされただけでウサギの目さえも欺ける可能性がある。ウサギはシルクハットを取って「どうかどうか」と頭を下げると、麗香の目の前に銀色に光る石を差し出した。それを見た女王様の目の色が変わる。オカルト業界ではあまりにも有名なあの石に見えたからだ。

 「ま、まさか、これ……月にあると言われる、あの伝説のレアメタル?!」
 「姉君を探し出してくださるのなら、遠慮なくお納めください。どうか三下殿もお力をお貸しくださいませ!」
 「わかったわ。急いで人を集めて探すから。ま、世間ズレしてるみたいだから、すぐに見つかるとは思うけど……」
 「地球のファッションですか。じゃ、じゃあ、どの辺に行けばいいかはわかりやすいですね……」

 こうして、おとぎ話のような現代劇が幕を開けた。
 集まったのは女性中心……しいて言うなら、現役の夢見る少女たちである。海原 みあおと式野 未織は執事のウサギを見て「かわいー!」と楽しそうにはしゃぐ。石神アリスとデルタ・セレス……デルタは男性だが、それでもこじんまりしたウサギを前に珍しそうな表情を見せた。

 「お話には聞いてましたけど……これはなかなかかわいいですねー。」
 「この調子だとお姉さんも期待できそうですね。あ、前払いの分は頂きましたから。」
 「ちゃっかりしてるなぁ、アリスさん。」

 子ども相手でも丁寧な対応ができるのが、我らが三下くん。下心が見え隠れするアリスとは違い、無邪気なみあおは三下の肩に乗ってはしゃいでいる。常に彼のことを「不幸」呼ばわりするのだが、今日の遅刻だって厳密に言えば「不幸」なのだ。言われてみれば確かにその通りだが、それを「いつものこと」で片付けられてしまうのが、三下の悲しいところである。
 みあおにとって三下の不幸ネタは、いわばあいさつのようなもの。そこそこ盛り上がると、今度はミオと本題であるかぐや姫の話で盛り上がる。

 「ミオ、かぐや姫のお話が好きなんで、ちょっと嬉しいです! しかもミオと同じ年くらいなんですね。」
 「しかも弟クンも女の子みたいな顔してるんでしょ? それってちゃんと見てみたいからぁ……みあお、今日はデジカメ持ってきたんだー♪」
 「あ、記念撮影とかいいですねー。ミオも月に帰る前に撮ってもらおうかな?」

 そう、忘れてはならない。今まさに弟が編集部に向かっているのだ。ウサギは懐中時計を開くと、「まもなくここにやってきます」というではないか。いったい何を根拠にそんなことを言うのか……と思っていたら、お待たせしましたとばかりに簡易十二単をまとったままの弟がドアを開けて飛び込んできた!

 「おおっ、弟君! なな、なんと……なぜお召し物を変えてこられなかったのですか!」
 「姉さんが超強力剥離剤をどこかに隠しちゃってて……このまま来るしかなかったんです、しくしく。」
 「えっ……これが弟さん??」
 「すごーい! もう完全に女の子だー! 顔も声も服もぜーんぶ女の子♪ カシャカシャ!」

 ウサギが「弟だ」と言ったから、そう見えるだけ……この弟なる少年は美少女の条件を兼ね揃えているため、どこから見ても女の子にしか思えない美貌を持っていた。これにはアリスもニンマリ。弟がここまで美しいのなら、ちょっと計画変更したくなってしまう。アリスは周囲の状況を見ながら、デルタにあることを耳打ちした。
 役者が揃ったところで、質問タイムが始まった。弟から聞きたいことは山ほどある。まずはみあおが「はい!」と手を上げて、おおよそ依頼とは関係ないことを聞いた。

 「あのね、月にはウサギさんしか住んでないってことは……かぐや一族もウサギさんなの?」
 「昔は名残があって、頭からウサギの耳が出てたらしいんだけど、最近は出てこないんです。理由はボクたちにもわかりません。」
 「わー、そのお話ってすごくファンタジックですー。あ、そういえば、お姉さんは地球のどんな情報を仕入れたんでしょう? 今はワンピースが人気ですけど、ゴスロリもファッションですし……」
 「オホン、それは私から。姉君はこっそり通販で『ナインティーン』なる雑誌を取り寄せていたことがわかっておりまする。残念ながら、内容はあまり存じ上げませんが……」

 ナインティーンといえば、高校生くらいをターゲットにしたファッション雑誌の代表格だ。たまたま白王社から発刊している雑誌だったので、最新号を三下に用意してもらう。麗香の檄を受け、三下はらしくないファインプレーで雑誌をみんなの前に差し出した。そんな彼にはみあおから『いい子いい子』のご褒美があった。
 今月号の内容から推測するに、姉の行き先は新宿か原宿で決まりだろうという結論に至った。みあおは勝手に池袋の乙女ロードを予想していたが、さすがにそこまではズレていらっしゃらないらしい。麗香は弟にそのままの姿で同行してもらう了承を得てから、改めて三下に指示を下した。

 「あなたはウサギさんと別ルートを探って。ミオちゃんの言った濃い方向性も捨てきれないから、そっちを確認してからみんなと合流して。」
 「わ、わかりました、編集長。」
 「大丈夫! 三下と一緒じゃない限り、みーんないいことあるから! ミオも楽しもっ!」
 「お姉さん、どんな服を買ったのかなぁ……ミオも気になります!」

 それはアリスも同じことを考えていた。弟のような美貌にぴったりの素敵な服を着ていれば、これは是が非でもコレクションに加えたくなる。そんなアリスは、デルタを使って先手を打った。これから行くであろう新宿と原宿で、自らのコネを最大限に活用した『ある仕掛け』を急ピッチで準備するよう打診したのである。裏でいろいろと画策しながらも、アリスは常に笑顔を振りまいていた。まったくもって、女とはわからない生き物である。


 姉がいそうな場所はとことんチェックする前提で、とりあえず原宿から探すことになった一行を待っていたのは、なんと「即席ファッションショー」だった。
 ただでさえ人通りの多いこの場所で、各ショップが店員を使って自慢のコーディネートを披露しているではないか。店に入らずともオススメの服が見られるとあって、観客は拍手で登場を煽ったり、黄色い歓声を飛ばしたりして大いに盛り上がっていた。予想外の展開に驚きつつも、みあおもミオも大喜び。すでに依頼そっちのけの状態になっていた。

 「まっ、まさか姉がこんなことをさせているのかと思うと、い、胃が……っ!」
 「そっ、それはないと思うんですけど……えーっと、はい。ただのミオの勘です。すみません。」
 「ごめんなさい、ミオさんにお気遣いさせてしまって……」
 「店員さんもスタイルいいんですねぇ。定期的にこういうこと、すればいいのに。」

 アリスの指示とはいえ、仕掛け人のデルタはあっけらかんと感想を述べる。そしてリンゴをかじりつつ、男物のファッションショーはやってないか密かに探した。いくら作戦だからとはいえ、こんなに楽しい状況になるのなら、デルタもしっかりと楽しんでおきたい。そんな気持ちをアリスに気づかれないよう、リンゴと一緒に飲み込んだ。
 このファッションショーは店ごとにやっているため、年齢層が高いショップは完全に無視できるのが幸いだった。みあおとミオの目線は姉とほぼ同じなので、そこだけを狙っていけばいい。みあおはたまに容姿がまったく同じ弟を使って「さっきこの娘、来なかった?」と聞き込みをする。いくら世間ズレしているとはいえ、簡易十二単で歩けば目立つことくらいわかっていたのか、まったく情報をつかむことができなかった。

 「姉さん、悪知恵だけは働くんだから……もう!」
 「このままではいけませんね。わたくしとデルタは高いビルの上から探します。上からの監視は任せてください。」
 「みあおとミオと弟クンは、このまま聞き込みするねー。もっとお仕事っぽい感じになるかと思ったら、今日は楽しくってよかったー!」

 無邪気にはしゃぐみあおを尻目に、アリスは心の中でクスクスと笑った。ファッションショーの仕掛け人が、いよいよ本格的に動き出す。別行動になった時点で、デルタは急いで双眼鏡を購入し、上からの監視ができるように準備を整える。

 「絶対の美貌を持つ月の姫……必ずわたくしのコレクションに加えてみせますわ。」

 弟に見つかる不幸とアリスに見つめられる不幸。おのずと姉の包囲網は狭まってきた。それと同時に、不必要なサスペンスも高まってきた。


 人間の往来に支障をきたすことを懸念したショップ側が配慮し、ファッションショーは野外公園を使ったイベントに発展した。こうなると、ますます姉の所在がつかみにくくなってしまう。それとともに、弟の心配もどんどん膨らんでいく。
 さらに弟が男に見えないため、3人まとめてナンパされまくる始末。みあおこそまんざらではない表情を浮かべるも、ミオと弟にしたら迷惑以外のなんでもない。ナンパと言っても、男ならまだいい。弟がある強硬手段に出れば済む話だ。ところが今回は女性にまで声を掛けられるものだから、かなり話がややこしい。すでに情報収集すら満足にできない状況に陥っていた。

 「はぁ。モデルのスカウトが3回に、男の人のナンパが19回。さらに、女の人のお誘いが24回……そして姉の情報、まったくなし。トホホ。」
 「みあお、3人でならモデルデビューしてもいいかな♪」
 「なんだか弟さん……かわいそうになってきましたね。復讐どころじゃないですね、本当に。」

 弟はこの街の目撃情報がないなら、さっさと三下たちと合流することも考えていた。しかしミオが「地球の知識がゼロなら、電車とかバスとかタクシーを使いこなせるとは思えない」と言い、さらに手がかりとなる雑誌の特集が新宿のショップであったことから、じっくり根気よく探すことになった。もちろん、この結論は三下たちにも伝えられる。それにビルの上からアリスとデルタが目を皿にして姉を探しているのだ。ここで諦めるわけにはいかない。そして、こんな楽しいイベントを見逃す手はない。だんだん目的を見失いかけているところで、みあおは胸を張って言った。

 「大丈夫! みあおと一緒なら、みんな幸せになれるから!」
 「そこまで胸張っていわれると……そんな気になってくるなぁ、うん。みあおちゃん、よろしくお願いします。」

 弟クンも少しは元気を取り戻したところで、3人は野外公園へと赴く。この場所は意外に広いのと、さっきよりも話題性が冷めたようで、思った以上の混雑にはなっていない。それに加え各ショップは建前で「合同」と銘打っているだけで、最終的には自分さえ儲かればいいという心理が働き、結局は路上でやっていたのと同じ構図ができあがっていた。つまり公園の各所で点々とファッションショーをやっているという状態なのだ。いよいよ運が開けてきたのか……3人は再び聞き込みを開始する。

 一方、アリスたちもみあおやミオに先手を打たれないよう、必死に姉の姿を探していた。姫を石像コレクションに加えるには、彼女たちよりも先に見つけ出さなければ意味がない。ところが上から野外公園を見ると、意外にも死角になる部分が多く苦戦を強いられた。デルタがポジションを変えながら監視を続けるものの、すんなり発見とはいかない。見つけたと思いきや、近くにみあおが見えたりしてぬか喜びになることも何回かあった。

 「あっ、また弟さんだ……近くにミオさんがいる。」
 「わたくしも何度か同じことをしました。あの傑作を手に入れるのですから、これくらいの苦労はつきものでしょう。」
 「この際、弟さんでもいいような気がするんですけどねぇ。お姉さんは天真爛漫だそうですから、アリスさんの気に入るポーズを取ってくれるかどうかわかりませんし……ぶつぶつ。」
 「今、何か?」
 「いやいやいや! なんでもありませんです、いやはや!」

 このままでは自分が石像にされてしまう。それだけは絶対に避けたいデルタは、双眼鏡を構えてマジメにチェックを再開した。この静かな戦いは、まだしばらく続きそうである。


 さすがに歩きっぱなしでは協力者に悪いと思い、弟クン自ら「休憩を挟もう」と切り出した。みあおとミオは近くにあったベンチに腰掛けると、弟がウサギからもらったというお小遣いで飲み物を買いに行くと申し出る。献身的に尽くす弟の姿を見て、ミオは思わず姉の顔が見たいと思ってしまった。あまり地球の知識はないだろうと思い、「ジュースならなんでもいいですよ」と伝えると、弟は駆け足でコンビニに向かった。
 その間、ミオは手がかりの雑誌を開いて、まだチェックしてないショップの情報を懸命に探す。このまま夜になると、もっと面倒なことになる。そうなると三下やウサギにまで迷惑がかかってしまうだろう。なんとしても太陽の出ているうちに決着をつけなければならない。みあおも背伸びして雑誌を覗き込もうとがんばっていると、隣に誰かが座ってきた。どうやら弟が帰ってきたらしい。しかし手にはジュースが1本ずつ……しかも片方は口をつけているではないか。これではせっかくの気遣いも意味を成さなくなる。みあおは純粋にジュースほしさに声を荒げた。

 「ねーねー、みあおとミオはジュースわけっこなのー?」
 「ん? わけっこって……あなた、ジュースほしいの?」
 「えー! 自分から買いに行くっていったのにー! だったら、みあおの分とミオの分がないとおかしいよ! それともまた買いに行ってくれるの? ねぇねぇ!」

 このやり取りに、ミオはなんともいえない違和感を覚えた。これは明らかに話が食い違っている。ところが相手は、弟そっくりの簡易十二単を着た人物。はたしてあの彼がこんなタチの悪い冗談を言うだろうか。いや、絶対に言わない。あの気遣いがウソだとは思えない。
 ミオがたどり着いた結論はただひとつ。それは『目の前の人物が弟ではない誰か』であるという可能性だった!

 「あ、あの……お取り込み中のところすみません。たぶん、かぐや姫さんですよね。きっとお姉さんの方ですよね?」
 「ウソ、見つかった!」
 「あーっ、そうなんだー! お姉ちゃん、みーーーつけたっ!」

 なんという偶然。恐ろしいまでの強運で姉を引き寄せたのは、みあおたちであった。姉はつい正体をバラしてしまうが、その後は下手な知らぬ存ぜぬを繰り返す。しかしそれも時間の問題だ。この場に手付かずのジュースを持った弟が帰ってくれば、結局はすべてが明らかになる。完璧なまでのチェックメイト。みあおはぴょんと姉の肩に飛び乗ると、相手も観念して持っていたジュースを手渡した。

 「まさか私を探してる人たちの隣に座っちゃうなんて……ツイてないわー。」
 「ホントに弟クン、そっくりー。みあお、ぜんぜんわかんなーい!」
 「お姉さん、買った服は着なかったんですか?」
 「だって、もったいないもーん。月に帰ってから、弟に自慢するつもりだったんだ。実はねー、弟の分も買ってあるんだー。いたずら用に!」
 「かぐやちゃん、ぐっじょぶ!」
 「そうでしょ、そうでしょ!」

 すっかり意気投合しちゃったみあおと姉。さらにミオの持ってる雑誌を横からめくって、姉は勝手に「この服がお気に入り」と指差す。ブランド名は『ラビテイル』。純白をイメージしたカワイイ系の服が揃っていた。ロゴは白ウサギ。ミオも「これかわいい〜」とすっかり話に混ざって、ベンチは大盛り上がりになった。
 そんな時、弟が戻ってきた。そして目の前にいるそっくりさんを見ると、両手に抱えたジュースを豪快に地面に落として涙ながらの訴えを始める。

 「姉さぁぁぁん! 今まで何をぉーーーっ!!」
 「買い物よ〜♪」
 「まったく反省の色がないっ! そんなお金があるのなら、ボクのために剥離剤を買ってきてっ! コンビニに行くだけでも一苦労だったんだから! またお姉さんに誘われて……ううっ!」
 「さすがにふたり揃うと……すごいですねー。」
 「ステレオスピーカーみたいー! みあお、どっちがどっちかわかんなーい!」

 この様子を見たデルタは「やられた」という表情を浮かべながら、アリスにご報告。彼女も心の中で舌打ちしながら、「じゃ、合流しましょうか」と計画をスッパリ断念した。だが、成功報酬としていただくレアメタルの目方は譲る気はない。交渉はうまくやろうと誓う彼女を尻目に、デルタはあまりにも似ているふたりを見てずっと驚愕しっぱなしだった。

 「あ、あんなに似てたんじゃ、ウサギさんも迷惑でしょうね……」
 「それは同感。」

 思わず出た本音に、アリスも反射的に頷いてしまった。きっと近くに行って声を聞いたら、なおさら訳がわからなくなるだろう。それくらいの予想が立てられるくらい、遠目で見てもそっくりな姉弟であった。


 アリスとデルタ、そして三下とウサギが合流し、無事にアトラス編集部へ帰還することができた。
 合流の後、しばらくの間だけ姉の望みであるショッピングに繰り出した。ここは迷惑をかけた皆さんにも楽しんでもらおうと、執事のウサギがすべての会計を持つことを約束する。誰もが一度は断ったが、アリスが「ここはウサギさんの顔を立ててあげないと」と説得し、お言葉に甘えることになった。みんなで『ラビテイル』の商品を買って編集部へ帰り、麗香や三下も加えた全員で記念撮影。そして報酬として、月ではたいして珍しくもないレアメタルの大きな置物をひとつずつもらったのである。アリスは中でも一番大きな物をチョイスした。

 「このたびはご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません!」
 「本当に、本当にうちの姉がご迷惑を……」
 「今度遊びに行く時は、こっそり来るねー。」

 深く頭を垂れる男どもを尻目に、次の来訪を約束する姫。じとっと湿った視線を送る男性陣を制するかのように、ミオが「こっ、今度はみんなで来てくださいね」と念を押した。正直、またこんな騒ぎになっては困る。
 そんな時、みあおはふたりを困らせない斬新なアイデアを提示した。それは「自分が月に行く」と言うものだ。アリスもレアメタルの固まりを眺めながら、『それが可能なら、これを発掘に行くのも面白いかも』と微笑んだ。

 「はい、これミオが作ったお菓子ですー。帰ったら食べてくださいね!」
 「ありがと。地球を眺めながら食べるわ。だからみんなも、たまには月を見てよね。こっちはちゃんと見てるんだから。」
 「こればっかりは姉さんの言うとおりです。ボクたち、ちゃんと先祖の縁を忘れてませんから。今後とも、姉をよろしくお願いします。」
 「月を見るたび……ってことですか。たまにはそういう趣きで見つめるのも楽しいですね、アリスさん。」
 「忘れてるのが地球人だけっていうのも寂しい話ね。じゃあ、デルタさん。次の十五夜まで覚えててね。」

 急にそんなことを言われても……と、思わず編集部のカレンダーをめくり始めるデルタ。そんな彼の姿を見て、みんなは声を出して笑った。人騒がせでそっくりな姉弟の物語は、もしかしたら続くのかもしれない。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

1415/海原・みあお  /女性/13歳/小学生
7321/式野・未織   /女性/15歳/高校生
7348/石神・アリス  /女性/15歳/学生(裏社会の商人)
3611/デルタ・セレス /男性/14歳/彫刻専門店店員および中学生

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。初のアトラス編集部の依頼をお届けさせていただきます。
思った以上にバカテンポでできたので、書いてて楽しかったです。ありがとうございました!

集まってくださった皆さんがお若い方ばかりでしたが、物語は単純ではありません(笑)。
一癖も二癖もあるメンツが、いろんな騒動を起こしてます。その辺もお楽しみください。
私も書いてて、ずいぶん「かぐや姉弟」が面白かったので、続編もあるかも?です。

それでは通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界でまたお会いしましょう!