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<東京怪談ノベル(シングル)>


Red moon in the night.T

「何ですって?」
 電話の受話器を片手に、瑞穂は送られてきたFAX用紙を手にしながら、訝しげに顔を上げた。
 電話先の相手は自衛隊。瑞穂の所属する近衛特務警部課の上司からだった。瑞穂のいるこの場所からさほど離れていない場所にある、元は教会か何かだったはずの人気のない廃墟に明らかな不審者と思われる何者かが現れた、と言うのだ。
 特別問題はないようにも思えるが、特務警備課からしてみれば不審人物の排除は絶対的任務の一つ。そもそも、この廃墟自体が自衛隊管理の下にあり、不用意に人間に立ち入られては困る物がある為、当然の事ながら断る事はできない。
「…そうですか。はい、分かりました。直ちに急行します」
 ゆっくりと受話器を置くと、瑞穂は小さく溜息を吐く。
 電話の置かれたテーブルの傍にある大きな出窓から何気なく外を見上げると、白々とした冷たい満月が地上を照らしていた。
「今日はゆっくりしようと思ってたんだけど…。ま、仕方ないわね。準備しましょう」
 瑞穂は席から立ち上がると、洋服をしまってあるクローゼットに向かった。観音開きになっているクローゼットの扉を開くと、数え切れないほどの洋服が綺麗に掛け並べられている。どれも状況に合わせて着込めるように様々な衣装を置いてある。軍服はもちろんのこと、メイド服や今時の少女を思わせるタイトなミニスカートの洋服、フライトアテンダントなど様々だ。
 瑞穂はその中から修道服を取り出した。およそ、修道院では着られる様な感じではないその修道服。彼女の豊満な体系の魅力を余す事無く見せるような形で、サイドには深いスリットが入っている。
「これがいいわ」
 そう言うと、瑞穂は今身にまとっている洋服を躊躇することもなくその場に脱ぎ捨てた。
 惜しげもなく露になるそのしなやかな身体。清潔感のある純白の下着を着けた仄白い肢体は男性ならば見る者を引き付け、女性ならば誰もが憧れるほどの完璧なものだった。
 若干大き過ぎるようにも見えるその胸は張りがあり、しかしその大きさに負けず劣らずツンと上を向いて形の整っている。その胸を、サイズの合った白いブラジャーはすっぽりと包み隠していた。
 その胸から下に伸びる細いウエストは、誰もがその腰に一度は手を回したくなるほど細くくびれ、ほどよくついた筋肉によって引き締められた腹はまるで余分なものをつけていない。
 大きな形の良い尻は、胸同様に張りがあり、キュッと引き締まりヒップラインはなかなかに高い位置にある。
 修道服を傍に置いてあったソファの上に投げ置き、下着姿のまま瑞穂はクローゼットの隅に置いてある衣装ケースから黒いストッキングを引っ張り出す。そしてクルクルとストッキングの口を広げながら丸め、細いその足をその中に差し入れた。
 日頃の鍛錬を怠っていないのか、引き締まったその細い足の太ももの辺りまでスルスルとストッキングをたくし上げると、逆の足にも同様に履く。
 修道服を手に取ると頭から被るようにして着込む。袖に細くしなやかな腕を通し、薄生地のピタッとした服が吸い付くように身体にフィットした。
 深く切り込んでいるスリットから、動く度に覗き見える大腿部がゾクッとするほど色っぽい。その色気を黒いストッキングがさらに倍増させ、思わず息を呑むほどだった。
 身体にピッタリとフィットしている修道服だったが、瑞穂はウエストの辺りをさらにギュッと絞り上げる。そしてコルセットをその腹部に当て、編み上げの紐をきつく締めた。そうする事で、自然とふくよかで大きな胸は更に上を向きその大きさを強調する。
 肩には白いケープを羽織り、頭にヴェールを被ると、完璧なシスターとなった。
 最後に綺麗に揃え置かれた茶色の膝まである長いロングブーツを履き、紐をキュッと引き締める。
「よし、これでいいかしら」
 瑞穂は鏡の前に立ち、全身のチェックをした。左右に身体を捻りながらおかしなところがないか見る。
 彼女が動く度にチラチラとスリットから大腿部が覗き、豊満な胸はたわわに揺れ動く。
「大丈夫そうね。さて、行きますか」
 クローゼットの扉を閉めようとして、はたっと手が止まる。
「あぁ、そうだわ。念のためにこれを持って行きましょ」
 そう言って手に取ったのは長剣だった。その細い腰の脇にベルトで備え付ける。
「さぁ、行くわよ」
 誰に言うでもなく、瑞穂はにんまり微笑みながらクローゼットを閉じた。


 静かな夜だった。時折どこかの木々か茂みからガサリと小さな小動物の動く音がする程度で、それ以外の音はほとんど耳に届かない。
 空を見れば見事な満月が、現場へ足を向けて歩く瑞穂を冷たく見下ろしている。
「随分と静かな夜ね。ちょっと気味が悪いわ」
 そう言いつつも、気持ちの上では決して気味が悪いと思っていない。瑞穂は颯爽と修道服を裾を翻しながら現場に急ぐ。
 暗い夜よりもまだ黒い大きな影を落としている廃墟へと辿り着いた瑞穂は、壁に背を付けてそっと中の様子を窺い見た。所々抜け落ちた天井から頼りなげな月明かりの元、がたいの良い長身の男の姿が目に飛び込んでくる。
 眉をしかめ、窺うようにその男の様子を見る。
「何をしているのかしら…」
 ここからでは相手の行動が分かり難い為、瑞穂は足音を忍ばせながら中に入っていく。男の近くにあった物陰にしゃがみこんで身を潜め、もう一度窺い見た。
 月明かりの下に晒された男は、筋肉質で真っ黒な髪と瞳をしており、ガッシリとした体つきは並大抵の鍛え方をしているようには見えないほど大きい。
 男はウロウロと辺りを歩き回り、時折地面に転がる瓦礫を足で退けていた。
 瑞穂はスクッと立ち上がり、男の前に歩み出る。思いがけない来訪者の登場に、男もいささか驚いたように目を見開いた。
「ここで何をしているの。ここは自衛隊が管理している場所と知っているのかしら?」
「……なんだ。女か。修道服なんか着て、どっかのシスターか?」
「質問に答えなさい」
「それにしちゃあ、随分と色っぽい格好してんな。それにその腰の脇にある武器…。ただのシスターじゃなさそうだ」
 瑞穂の話をまるで聞いていないと言う風に、男は自分勝手に話を進める。
「質問に答えなさいと言っているのよ」
「…っち、うるせぇな」
 男は面倒臭そうに顔を歪めながら頭を掻いて、ジロリと瑞穂を睨み付けるように見る。そんな事で怖気づくような瑞穂ではなく、真っ直ぐにその男の顔を睨み上げた。
「即刻ここから立ち去りなさい。もし、立ち去らないと言うのであればこちらにも考えがある」
 瑞穂は自分の脇に携えてきた剣に手をかけると、男はピクリと顔を動かした。
「考えがある? 例えばどんなだ? その剣で俺を倒すとでも?」
「必要性があるならば、ね」
「ほぉ…。面白い事を言うじゃねぇか」
 ニヤリとほくそえむその男の瞳の奥に、殺気の色がちらつく。それが、瑞穂に確信を持たせた。この男は、ここから立ち去るつもりはないのだと。
 瑞穂はスラリと剣を鞘から抜くと、月光を浴びて怪しげに光沢を放つ切っ先を男に突きつけた。
「偉そうに…。お前は図体はでかいようだけど、どうせ大した事ないんでしょう? そんなにこの剣のサビになりたいの?」
 剣を構える瑞穂に、男はニヤリと笑うとジリッと足場を慣らし、腰を低くして両手に拳を作る。さながらボクサーのような姿勢だ。