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<東京怪談ノベル(シングル)>


Red moon in the night.U

「お前こそ、覚悟は出来てんだろうな?」
「嘗めんじゃないわよっ!」
 瑞穂は右手にした剣を柄を一度握り直すと、素早く男を切りつけた。男は瞬間その剣を防ごうと腕を顔の前で構え一歩後方へ退いた。男の腕に切れ味の良い剣が触れパックリと傷口を開く。
「っち!」
 男は舌打ちをし、傷口を反対の手で押さえ込む。ダクダクと流れ落ちる血に瑞穂はクスリとほくそえんだ。
「剣を相手に素手で防ごうだなんて、考えただけでムリに決まってるじゃない。馬鹿ね」
 小馬鹿にしたように言いながら、瑞穂は剣に付着した男の血液を振り落とす。ビタビタッと音を立てて血液が地面に振り落ちた。
「………。そいつはどうだかな…」
 男は口の端を引き上げ、ニンマリとほくそえむ。その表情に瑞穂は怪訝な顔を浮かべた。
 良く見れば、先ほどまで流れていたはずの血液が止まっている。結構な深手だったはずで、そう簡単に出血が止まると言う事は考えられない。
「……お前、まさか…」
 すると男はニヤリと笑いながら、傷を押さえていた手を離すと、血痕は残っているものの傷跡は綺麗に消え去っている。瑞穂は目を見張った。
「俺の名は鬼鮫。IO2エージェントのジーンキャリアだ。残念ながら、俺には修復能力が備わっている。あれっぽっちの傷でどうこうするような俺じゃあねぇんだよ」
 得意げにそう言い放った鬼鮫と名乗るこの男は、自信からか敢えて自らの素性を明かした。IO2と言えば、特務警備課と敵対している相手…。
「そう。そう言うこと…。なるほどね」
 相手の素性が分かり、瑞穂は焦りの色を見せるどころか鼻で笑い飛ばしてみせた。そして再び剣を腹の前に構えて立ち、鬼鮫を見据える。
「そんな事、どうでもいいわ。お前に修復能力があると言うのなら、その傷が修復する前に決着を付ければ良いだけの話よ!」
 瑞穂はジリッと足場を慣らすと同時に突き立てるように剣を構えたまま、鬼鮫に向かって真っ直ぐ素早く走りこんだ。鬼鮫は容易にその攻撃を避けたが、瑞穂はすぐに左脇から右上に向かって剣をなぎ払う。
 剣は月の明かりを受けて銀色の弧を描き、ヒュッと言う音を立てながら空を切った。
 腰を低く落とし勢いを付けて払い上げる事で、修道服の裾が翻り、スリットからは大腿部が露になる。
「っく!」
 鬼鮫は素早い切り込みに寸でのかわすが、腕に傷を負ってしまう。
 瑞穂は隙を与えず、すぐに切り込んでいく。鬼鮫は攻撃を繰り出される度に避ける事が精一杯に見えた。見れば、鬼鮫の身体は傷まみれになり、至る所から出血していた。
 一瞬手を休め、瑞穂は細く嘲笑するように笑みを浮かべた。
「やっぱり、口ほどではないと言う事かしら?」
「…なかなかやるじゃねぇか…。だが、このぐらいの傷じゃ…」
「なら、もっと行くわよ!」
 瑞穂は改めて足を大きく開き腰を低くして剣を構える。スリットからは大胆に艶かしい足が露になる。ぐっと足元を踏みしめ、飛び込むような形で瑞穂は素早く鬼鮫の懐に飛び込んだ。
 ズブッ…と言う鈍い感触が、剣の柄を通って瑞穂の手に伝わってくる。
 瑞穂は口の端を引き上げ、ほくそえんだ。この傷は致命傷だ。そう確信したのだ。
 笑みを口元に湛えたまま顔を上げると、そこには鬼鮫の苦痛に歪む顔が映りこむ。
「……っ」
 剣は深々と鬼鮫の腹部を貫通している。
 瑞穂は勢い良く剣を引き抜くと、鬼鮫は腹部を押さえその場に膝を着いて苦しげに呻いた。
「残念ね。もう少し骨のある男だと思ったけど。大したことないわね」
「………」
「どうしたの? いくら修復能力があるとは言え、さすがに今の攻撃は効いたかしら?」
 瑞穂は剣に付いた血を振り落とし、カツカツと足音を慣らしながらゆっくりと鬼鮫に近づいてくる。
 いつの間にやら廃墟の奥へと来ていた瑞穂たちの元に月の明かりは届かない。先ほどの場所とは打って変わり、天井が抜け落ちていない事もあってここには一切の光も届かない真っ暗な闇だ。天井近くにある天窓から見える外は深い藍色の空が覗き見えた。
 鬼鮫の前まで歩み寄って来た瑞穂は、嘲笑い、手にした剣を握り直すと剣を振り上げた。
 その瞬間。ほんの一瞬の隙だった。鬼鮫の太い腕が伸び瑞穂の首を掴んで動きを封じてくる。
「!?」
 そして空いている方の手で瑞穂の剣を持つ手を掴み、勢い良く顔面目掛けて頭突きを繰り出した。
「うっ!」
 隙を突かれた瑞穂はまともに攻撃を喰らい、顔面を押さえよろめきながら後方へ数歩後ず去った。鼻血が出たのを拭い、顔を上げた時には目の前に鬼鮫の肘が一瞬垣間見えた。その後はどうなったか自分でも瞬間的に錯乱状態になり鈍痛と頬骨の折れる音以外記憶がない。
 困惑したような表情で顔を上げると、続け様に鬼鮫の強烈なパンチが腹部に3発喰らわされた。
「うぐっ!」
 瑞穂は血反吐を吐き、連続で浴びせられた攻撃からくる痛みに剣を取り落としドサリとその場に倒れこんだ。
「はっ…うぅ…ああぁ…」
 修道服の裾は大きくはだけ、黒のストッキングに包まれた白い美脚が堂々と鬼鮫の前に曝け出される。
 強い衝撃を受けた細い腹を両手で抱くようにして押さえ、苦しげに呻きながらその身を捩って悶絶する。その度に足は乱雑に動き回り、服が大きく乱れた事で形の良い尻までもが露になる。
「だから…言ったじゃねぇか…俺は、あんな攻撃じゃ効かねぇんだってよっ!!」
 地面を這いずるようにのた打ち回る瑞穂に対し鬼鮫はまだ癒え切らない腹部を押さえたまま、瑞穂の背中を何度も蹴りつけた。
 その度に瑞穂は大きく仰け反り、大きな胸が更に強調され揺れ動く。乱れた足は何度も行き来しただひたすらに悶絶を繰り返す。
 苦し紛れに目を見開き、こちらを鋭い視線で睨み下ろす鬼鮫を睨み上げた。
「な、何て奴…」
 鬼鮫は両手をポキポキと鳴らし、ほくそえんでいた。
「随分色気を振りまいてんじゃねぇか。あぁ? これも、お前の作戦の内か?」
 そう言うと瑞穂の右大腿部を蹴り上げた。その衝撃に瑞穂の右足は大きく動き、蹴られた裏大腿部は赤く染まる。
「残念だったなぁ…。俺はお前のような青二才の色気に惑わされるほど、伊達に年は食ってないんだよっ!」
「あうっ!!」
 ドスンっ! と身体が動くほど強い蹴りを腰の辺りに喰らわされた。言いようのない痛みが尾てい骨あたりから背骨にかけて痺れる様な痛みが走る。
 瑞穂は全身を電気が走り抜けるような感覚に陥り、低く呻きながら地面の上で何度ものた打ち回った。
「大口叩いてんのはそっちの方だよな? どう考えても…」
「そ、そんなのただのまぐれでしょ…」
「あぁ?」
 目を剥き、苛立ったような表情をした鬼鮫は、瑞穂の頭部に勢いをつけて足を踏み下ろした。
「あぁっ!」
 その拍子に頭に被っていたヴェールが外れ、長い髪が辺りに四散する。
 鬼鮫は数回瑞穂の頭部に足を踏み下ろし、苦しさに鬼鮫の方へ転がった瑞穂の腹部に痛烈な蹴りをお見舞いする。
 バスッ! と言う音に加え、ピキッと言う肋骨の折れるような音が聞こえてくる。
「ぎゃぁあぁっ!!」
 折れた痛みは尋常ではない。瑞穂は大きく目を剥きくぐもったような大きな叫び声を発した。その声は廃墟の中でこだまする。
 折れた場所を押さえ、見開かれた瞳をギュッと閉じると苦しげに悶絶する。顔には冷や汗が浮かび、身体が痛みに耐えるあまり小さく打ち震えた。