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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


大事な者の為に、邪気の蔓延る世界へ

 彼らはまだ知らない。
 彼女が新しい力に目覚めつつある事に。
 その力が、余計に彼女を危険な目に合わせているのだけれど‥‥。
 彼らがその事を知るのは、もう少し後‥‥。


「ふむ、これがあのゲームの中とは到底思えないな」
 赤羽根・円は自分の姿、そして周りの景色を見ながら少し驚いたように呟く。円の姿、それは凛々しい女武者の外見で娘と同じ炎の薙刀を携えていた。
 赤羽根一族の当主と言う事もあり、円の娘が持つ炎の薙刀とは段違いに能力は上なのだけれど‥‥。
「三十路でコスプレかよ‥‥」
 伊葉・勇輔は円をからかうように苦笑しながら呟くが――そんな彼を円は冷めた目で見ていた。
「あんた、人の格好の事をどうこう言えるの?」
 円がため息混じりに呟くと「え?」と勇輔は言葉を返す。
 どうやら、勇輔は自分の姿をまだ確認していないようだ。
「そこに池があるから、水面に自分を映して確認してみたらいい」
 円はスッと池の方を指差しながら勇輔に話しかけ、勇輔は言われるがまま水面に自分の姿を映して確認する――――そして。
「なんじゃ、こりゃああああっ!」
 静かな場所に勇輔の絶叫にも似た叫び声が響き渡る。
 だけど、勇輔が叫びたくなる気持ちも分からなくはない。何故なら‥‥円が凛々しい女武者と言う外見に対して、勇輔は‥‥丸々とした虎縞の猫の姿だったからだ。
「なんだ、このシマシマタヌキは!!」
 勇輔がわなわなと震えながら水面に移る自分に問いかけるが、もちろん言葉が返ってくるはずもない。
「恐らく、タヌキではなく猫だと思うけど‥‥」
 円がさらりとツッコミを入れると「俺にとっちゃ、どっちでも同じだよ!」と涙混じりの声で言葉を返してくる。
「まだ‥‥お前のコスプレの方がマシだった‥‥何で、俺はこんな気の抜けそうなタヌキのような猫なんだ‥‥」
 がっくりとうな垂れながら勇輔が呟くと「頭がゆるいから、そんなカッコになったんだ」と円がトドメにも似た言葉を投げかける。
「いいよな。お前にとっちゃ人事だからさ、こんな姿になった俺の気持ちなんて分かりっこないんだ」
 じめじめした空気を纏い、勇輔がぶつぶつと呟くと「あんたこそ、私の気持ちなんて分からない」と円がジロリと鋭い視線を勇輔に向けながら言葉を返した。
「‥‥こんなタヌキみたいな猫と一緒に行動しなくちゃならない、私の気持ちがあんたに分かるのか」
「‥‥‥‥‥‥」
 明らかに今の言葉はトドメだろう、勇輔は心の中で呟くが剣のぶつかり合う音が円と勇輔の耳に入ってきて、二人は元夫婦喧嘩を止めて、音が聞こえた方向へと視線を移す。
 すると、黒い髪に赤い瞳が特徴的な少女が襲われている姿が視界に入ってきて、二人は少女を助ける為に駆け出す。
 円は炎の薙刀を構え、勇輔は両手両足についたぷにぷに肉球で攻撃を行う。
 ちなみにどうでも良い事なのだが、二人にそれぞれ効果音をつけるならば、円には『じゃきん』などという金属音が似合い、勇輔には『にゃふーん☆』がお似合いな気がするのはきっと気のせいなのだろう。
「あなた達は‥‥?」
 黒髪の少女・ネヴァンは助けに入った円と勇輔を見て呟くが「話はあとよ」と円が明らかに怪しげな男――邪竜の兵に斬りかかりながら言葉を返した。
「肉球だからって馬鹿にするなよ?」
 勇輔は風を巻き起こし、邪竜の兵が風によってバランスを崩した所を狙って地面へと肉球を叩きつけ、地面を揺り動かす。
 そして次の瞬間に円が炎の薙刀で攻撃を行って、邪竜の兵を退治した――‥‥。

「助けてくれてありがとう、ボクはネヴァン。貴方たちは‥‥?」
 少し人見知りをするのか、伺うような表情でネヴァンが二人に名前を聞いてくる。
「俺は伊葉・勇輔」
「私は赤羽根・円」
 それぞれ自己紹介をすると「私達は娘を探しに此処に来ているんだ」と二人の娘である彼女の特徴を伝えて「見かけなかった?」と勇輔が問いかけるが、ネヴァンは黙って首を横に振るだけだった。
「今は邪竜が復活するかもしれない危険な時期だから、逃げられる場所があれば逃げた方がいいと思うよ」
 ネヴァンが二人に向けて言葉を掛けるが、先ほどアスガルドに来たばかりの二人は『邪流が復活する』と言う話を聴いても、いまいちピンと来ない。
「邪竜?」
 勇輔が首を傾げながら問いかけると「うん、数年前に現実世界に侵攻しようとしていた邪竜クロウ・クルーハ」とネヴァンは短く言葉を返した。
「ボクも調べたけれど、生贄として誰かが呼ばれた事くらいしか調べる事が出来なかった‥‥」
 ネヴァンが呟き「生贄とは物騒な話だな」と勇輔が独り言のようにポツリと呟く。
「邪竜クロウ・クルーハの封印を破ることが出来るのは、強い特殊な力を持つ者を邪竜に捧げること。さっきの男も邪竜の兵の一人、あんなものまで闊歩しているという事は‥‥」
 ネヴァンは俯きながら言葉を躊躇っていると「封印がほとんど解けている‥‥と言う事?」と円が先の言葉を続け、ネヴァンは俯いたまま首を縦に振った。
「その邪竜の居場所は分かっているのか?」
 勇輔がネヴァンに問いかけると「分かるけど、知って如何するの?」と言葉を返した。
「もちろん、そこへ行くだけだ。もしかしたら――いや、恐らく高い確率で‥‥」
「私達の娘がそこに居るかもしれないから」
 勇輔の言葉の続きを円が言い「娘‥‥?」とネヴァンが首を傾げる。
「でも――‥‥城を守るのはさっきみたいな雑兵じゃないよ。もしかしたら命の危険があるかも‥‥」
 ネヴァンの言葉を聞き「それなら尚更行かなくちゃ」と円が迷いなど微塵も感じさせない表情で言葉を返した。
 そんな二人の決意を見て、ネヴァンは「この地図の通りに行けば邪竜の城があるよ」と一枚の紙切れを渡してきた。
「もし、ボクに手伝える事があったなら遠慮なく行って。円さん達はボクを助けてくれたし――‥‥それにボクも女神の位置にいたもの、きっと役に立てると思うから」
 ネヴァンは立ち上がりながら呟くと、二人の前から姿を消そうとする――が「ちょっと待ってくれ!」と勇輔がそれを呼び止めた。
「‥‥‥‥? これ以上の情報はボクも知らないんだよね」
 ネヴァンは首を傾げながら真剣な表情をしている勇輔に向けて言葉を投げかけるが「いや、そんな事じゃない」とキリっとした表情でネヴァンを見る。
「このカッコ、なんとかなんない?」
 真剣な表情で呟く勇輔に円は持っていた炎の薙刀を勇輔めがけて振り下ろしたくなったのは此処だけの話――‥‥。
「無理だよ」
 さらりと言葉を返すネヴァンに「やっぱり無理か‥‥」とがっくりと肩を落としながら地面に手をついた。
(「この人‥‥本気であかんわ‥‥」)
 円は本当にヘコんでいる勇輔を見ながら心の中で盛大なため息と共に呟く。
「それじゃ、娘さんが見つかるといいね」
 ネヴァンはそれだけ言葉を残し、円と勇輔の前からふわりと姿を消したのだった。

「さて‥‥邪竜の城、とやらに行って‥‥っていつまで沈んでいるんだ、ほら、行くよ」
 円が勇輔の手を引っ張りながら呆れたように呟くと「お前はまだ事の重大さが分かっていない」と勇輔がポツリと呟いた。
「事の重大さって‥‥そんな大げさな‥‥」
 円が呆れたように言葉を返すと「お前はまだいい」と勇輔は先ほどよりも真剣な表情で呟く。
「まだ『お母さん、三十路なのにコスプレ?』と言う台詞で済むだろうが‥‥」
 勇輔が呟いた瞬間『ボコ』と言う音が響き、勇輔は頭を押さえながら地面に蹲る。
「それはあんたが言った言葉やないの!」
「は、話は最後まで聞け‥‥俺の姿を見ろ! こんなタヌキ猫の姿で娘と会う俺の気持ちを考えろ! 『お父さん‥‥うわぁ』って言われる可能性が高いんだぞ! 仮にも東京都知事の俺が!」
「‥‥‥‥‥‥」
 円はその光景が頭の中に浮かんだのか『それは少し哀れかも‥‥』と思ったのだとか‥‥。
「そんな事より、あの子が無事かどうかを心配したらどうなんだ」
 円が呟き「生贄と言う物騒な言葉も出ている以上、あの子が絶対に無事と言う事はないんだから」と言葉を付け足して、邪竜の城がある方向を見る。
 どんなに気丈に振舞っていても母親、娘の事が心配じゃないはずはないのだから。
「まぁ、何が出ても大丈夫だろ――俺とお前がいるんだから‥‥それに俺達の娘なんだから」
 勇輔も立ち上がり、邪竜の城の方向を見据え「行こう」と肉球の手を差し出しながら二人は邪竜の城へと向かい始めたのだった――‥‥。

 離れ離れになっていた家族が再会を果たすまで、あと少し――――‥‥。


TO BE‥‥?


――出演者――

7013/赤羽根・円/36歳/女性/赤羽根一族当主

6589/伊葉・勇輔/36歳/男性/東京都知事・IO2最高戦力通称≪白トラ≫

―――――――

赤羽根・円様
伊葉・勇輔様>

こんにちは、水貴透子です。
いつもお世話になっておりますっ!
今回は少しギャグちっくになりましたが――‥‥
や、やり過ぎたでしょうか‥‥(汗)
お二方が気に入って下さる内容に仕上がっていれば良いのですが‥‥。

毎回プレイングを拝見するたびに、私自身も続きが気になっているという状況だったりします(笑)
いつも楽しいものを書かせて頂き、本当にありがとうございます!
それでは、またご機会がありましたらご用命下さいませっ!
一生懸命執筆させていただきます〜!
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2009/3/27