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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


■それは、カマイタチじゃないだろ。

 ゴオオォォ!!
 その時、私の彼がいるはずの隣をすごい風が抜けていった。
 彼がいれば、ここは多少なりとも日陰になっていた。‥‥なのに。
 嫌な予感がして、恐る恐る横を見る。
 彼は。
 うつ伏せに倒れた彼の背中は。
 大きな穴に。大量の血が溢れていた。
「いやあああああ!!」


「もともとカマイタチが出るって、最近有名だったのよね」
 眉間にシワを寄せた碇麗香が大量の手紙と、書類が入っているらしい封筒を三下忠雄に押し付けた。
「行って来て」
 封筒を恐る恐る開けてみると、A交差点までの地図や、背中をえぐられた男の写真が入っていた。
 悲鳴をあげたいのを堪えて、一枚一枚めくっていく。

 誰かがそこで襲われるのを待つしかないかな。
 自分が犠牲になるかもしれないのは嫌だけど、こんな大勢人がいるんだから、自分が被害を受ける可能性は低いし。
 それに、死んだのは、この人一人だから、カマイタチに会うことはあっても、死ぬ可能性は低いはずだし。
 12時とか、17時とか。
 人が多い時間帯なのも、まだ救いだよ。

 三下は、マイナスに走りがちな思考回路に渇を入れて、ゆっくりと立ち上がった。


 会社を出ると、深沢美香が少し俯きながら歩いているのが見えた。
「深沢さーん!」
 呼んで、手を振ると。
 にこ。
 ほわ。と、笑みをこぼし、深沢も手を振り返してくれた。
「今、お仕事の帰りですか?」
 駆け寄って聞くと、彼女は小さく頷いた。
「ええ。三下さんは、今から取材ですか?」
 ちょっと遠慮がちな笑み。それでいて優しい表情の深沢に、三下は心が緩むのを感じ、たはは、と、困ったように笑う。
「そうなんですよ‥‥かまいたちですよ、カマイタチ。深沢さん、来てくださると心強いんですが‥‥」
 なんと言っても、一人であの現場に行け。というのは‥‥本当に困ったもので。
 しかし、女性である深沢なら、余計に嫌がる、というか。
 こんな話持ちかけたら、嫌われるっ!? と、サ――――ッ! と血がひいた所。
「え。いえ、あの。私、護身術で合気道ぐらいしか」
 首を傾げて悩む程度。
 これは一押ししたら、ついてきてもらえるかも!!
 思わず、がっしり手を掴んで。
「充分です! 心強いです! 是非とも――――っ!!」
 ――――流れる沈黙。
 戸惑う深沢。
「‥‥っと。無理言っちゃいけませんね。すみません」
 調子に乗りすぎた、と。ポリポリ頭をかいて、手を放す。
「いえ。時間には余裕がありますし。私で出来るコトなら手伝いますよ」
 所在なさげに、宙で止まる白くキレイな手。
 嫌われたかな、と思っていた三下は、よかった、と、頬を赤くして、視線は下へ。
 ボリボリ頭をかいて、笑う。
「うわ、嬉しいな。それじゃ、御飯でも食べながら話聞いてくれますか?」
「はい」
 ふんわりと。深沢は深く優しい笑みを浮かべた。


 ファミリーレストラン。
 食後のコーヒーを飲みながら、三下は知ってる限りの話をする。
 三下の話を聞いて、深沢は真剣な目で資料を見た。
「唯一の死者に関して調べたいですね。偶然殺されたのではなく、理由があるのかもしれません」
 同行していた女性に話を聞こう、と。
 三下は、同行していた女性――浅村に電話をかけた。
 ちょうど、今現場にいるらしい。
「行きましょう」


 人通りの多い、その交差点で。
 その隅。
 花や線香がある、その場所で。
 黒いスーツに身を包んだ女性が、写真に向かって手を合わせていた。
「すみません」
 三下が声をかけると、彼女は振り返る。
 まだ20前後ではなかろうか。
 ナチュラルメイクではあるものの。髪は明るく染め、普段はもっと派手な格好をしているのではないかと思わせる。
「ご愁傷さまです」
「ありがとうございます。あの、聞きたいことって」
 首を傾げる彼女に、彼氏がオカルトとか怪奇現象に興味があったかどうか、以前にもこういう現象にあったことはないのか聞いてみる。
「ないですね‥‥」
 きょとん。と見返してくる彼女は、そういう事に興味がないのだろう。
 もしかしたら、被害者は、彼女には言っていなかったのかもしれない。
 困ったな、と。
 家にでもお邪魔させてもらった方がいいのかしら、と。
 視線を落とす。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
 ドクロだの十字架だの、シルバーアクセサリーをつけている写真。
 ファッションだと言ってしまえば、ファッションだが‥‥。
 しゃがむ深沢。
 血の付いたドクロの指輪。
 ‥‥こういった装飾は。確かにアクセでもあるけれど‥‥黒魔術等でも使うコトなかったかしら‥‥。
「三下さん」
 呼んで。後ろ彼女に聞こえないよう、推測を話す。
「なので、このアクセサリを一度持って帰って調べた方がいいと思うのですが‥‥」
「そうですね」
 頷く三下。
 ――――ゾクリ。
 なんとなく嫌な予感がして、深沢は、三下の手からリングを取り上げて、宙に放り投げる。
  びゅうううぅ!
 強く吹く風。
 深沢は視界を邪魔する髪を押さえて、上を見上げた。
 鋭い歯が見える。
 風の中に、何かがいる。
 手に持っていた携帯で、写真を撮って。

 そこまで。

 後はいつもと変わらない風景が流れる。
「い・今、何が‥‥」
 目を白黒させる三下と。
「あの?」
 何が起こったのか、全く気付かなくて。妙に真剣な深沢と三下を不思議そうに見つめる浅村。
 どう説明しようかと困惑して、深沢は三下の服の裾を引っ張った。
 頬を朱に染めた三下は、慌てて。
「い・いえ、なんでもないです」
 ワタワタと両手を振って、浅村に礼をいい、二人はその場を離れた。


「ありがとうございます、ありがとうございます! これで、命の危険に晒されずに済みます!!」
 妙に大袈裟に喜ぶ三下に、深沢はクスクスと、笑いがもれて。
「そんな、大したことしてませんよ‥‥?」
 ぜひ、また店に来てくださいね。と締めくくって、帰ろうとする深沢を止めるのは三下だ。
「あ。あの、もう、お昼ですよね。奢りますので、一緒に‥‥」
 真っ赤になって、頭をかきつつ‥‥そう言った。


 証拠となるリングは、カマイタチに取られたものの、深沢が撮った写真は鮮明に映っており。
 月間アトラスに。
『解明! カマイタチの謎!』
 が、大きく載った。






END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6855/深沢・美香 (ふかざわ・みか)/女性/20歳(実年齢20歳)/ソープ嬢】