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<東京怪談ノベル(シングル)>


 獣の咆哮(1)


「うぅ……」
 女の衣擦れのような呻き声。
 しかし、瞳はギラギラと輝き、射殺すような目でこちらを睨んでいた。
 それが俺を呷るとは、気が付いていないだろう。
 女は懸命に脚を蹴り上げた。
 速い。しかし、遅い。
 俺は軽く寸での所で避けた。
 女が脚を高く蹴り上げた反動で、ガーターベルトの留め具が壊れ、俺の顔に弾き飛んだ。
 少しだけ、イラッとした。
「俺に逆らうのは、どいつだ?」
 女が蹴り上げた脚を掴んだ。
「ひぃ……」
 女の顔が青くなったような気がした。
 そう、それでいい。
 身体全体で嫌悪感を表わし、露出している首筋や腕には鳥肌が出ていた。
 自然と顔が緩んだ。
「さあ、どうしてくれよう」
 女は懸命に嫌悪感を表すが、やはり恐怖に勝てないか。わなわなわなと震え始めた。
 脅しはこれで充分だろう。
 さあ、狩りの始まりだ。


/*/


 何の任務かは忘れた。
 屋敷を歩いていたら、たまたま女が走っていたのだ。
 足音がおかしい。
 堅気の人間は走る時の足音なんぞ気にしちゃいねえ。これは、走り慣れ尚且つ足音が最小限にしか出ない走り方を熟知している人間の走り方だ。
 面白い。
 すぐさま追いかける事にしたのだ。

「女、ここに何の用だ?」
 気配を殺し、女の背後に立つ。
「!? 何者!?」
「おっと、それはこっちのセリフだ」
 女は振り返る。
 ほう。
 自然と頬が緩んだ。
 こいつは上物だ。
 一応屋敷のメイドの服のつもりらしいが、屋敷メイドにしてはいささかこの女は扇情的過ぎる。全体的に服が張り、女のいい体格が際立って見える。それがいかにもそそるのだ。
 目はこちらを射殺すような目で見ている。大きくて凛とした目だ。
 いい目だ。
 ……その目が腫れて開かなくなり、口からは懇願が漏れ、威勢のよさが失せ、惨めに這い蹲る姿が見たい。
 この女の恐怖で歪む顔が見たい。
 舌がペロリと出た。
「一応仕事でな。女。お前をこのままのこのこと外に出す訳にはいかん」
「やる気? 私、ただでは折れないわよ?」
「それは、やってみないと分からないな?」
 乗ってきた。
 女は思った通り、負けん気の強いタイプらしい。
 女は型を構え、こちらに向き直った。
 そう、それでいい。
 そうやって俺を楽しませてくれ。
 自然と笑いが込み上げてきた。


/*/


 女の柔肌に浮かぶ鳥肌を堪能した後、俺は女の腹を蹴った。
「ぐぶっっ!!」
 悲鳴。いや、嬌声かもしれない。
 面白くなり、腹を続けざまに蹴った。
「がはっっ!! ばあっっ!! あがっっ!!」
 女の口からは唾が飛ぶ。びちゃりとついたものを手に取ってみると、血が混じっていた。
 面白い。
 脚を離すと、女は床に崩れ落ちた。
「誰がただ寝ていいと言った?」
 俺は女を蹴り飛ばした。
「あうっっ!!」
 そのまあ女を蹴って転がした。女はうつ伏せになった。
 そのまま、さらに女の尻に蹴りを打ち込んだ。
「がぶっっ!!」
「まだまだ」
 俺は女の上に乗りかかり、脚を引っ掴んだ。
「ひいっっ……!!」
 女の悲鳴は質を変えていた。
 先程の嬌声のような悲鳴ではなく、嫌悪感を醸し出した悲鳴であった。
 随分な嫌われようだな。が、そんな悲鳴を俺は聞きたいのではない。
「まあ、そう嫌うな。悪いようにはしない。俺は、お前さんの悲鳴が、もっと聞きたいだけだからよっっっ!!」
「あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 俺が女の身体を脚で挟み、さらに女の身体が反り返るまで思いっきり引っ張り上げた。
 引っ張り上げる際に、女の履いていたニーソックスが裂けた。
 まるで骨が軋みそうな絶叫が聞こえた。
 そうだ。俺が聞きたかったのはこの声だ。
「いい声で鳴くじゃねえか」
「うう……」
 女が俺を睨んだ。口からはよだれが出ているが、まだ威勢がいい顔をしている。
 そうでないと、面白くない……。
 ん……?
 俺が女の身体を引っ掛けているのが、緩くなった。
 力を緩めた覚えがない……まさか。
「おい」
 女は、わずかに開いた隙間から転がって逃げ出していた。
「貴様、まさか超常能力者か!?」
 女の使った力は、恐らくサイコキネシス。
 俺の腕を少し動かしたと言うのか。
 ただの威勢のいい女ならそのままいたぶるだけで済ませてやろうと思っていたのに、超常能力者なら生かしてはおけねえ。
 女はまだ床を転がったまま何とか身体を起こそうとしているが、腹や尻の打撲が効いて上手く身体が起こせないらしい。
 逃がすか。
 俺は女の脚を踏んだ。
「しまった……」
「ここで逃がすと、本気で思っているのか?」
 女の脚を脚を再度踏んだ。
 骨が折れても構わないと言う程に。
「!! はわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 女の絶叫が響いた。
 それでいい。それで。
 俺は女の顔をそのまま床に叩き付けた。
 鈍い音がする。
 さらに何度も何度も女の頭を掴んで床に打ち込んだ。
「がはっっ! ぐう!! あばっっ!!」
 さらに腹にも再度蹴りを打ち込んだ。
 俺は再度女の身体の上に馬乗りになった。
 脚を掴んで引っ張り上げた。
「あうぅぅぅぅぅぅ……」
「生かして帰すと、本気で思っているのか?」
 声にドスを効かせれば、女は何度も何度も痛みを植え込まれて弱っているらしく、肩をビクリとさせて押し黙った。
「黙るんじゃねえ。もっと叫ぶんだよ」
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
 叫ぶんだよ。
 女の脚を掴んで引っ張り上げれば、スカートは捲くり上がって、中身が霰に見えた。
 見えるふとともは青あざが鮮やかに色付いていた。
 俺はアキレス腺が切れるまで、引っ張り上げた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!」
 女の絶叫が、天井にまで響いて跳ね返り、部屋中に反響した。
 俺が身体を離すと、女は痙攣をしていた。
 ビクビクビク。
 それは仰け反ったエビのようだった。
 しかしその目。エビのように痙攣する女の眼光だけが、光って見えた。
 殺してやる。
 女は目でそう訴えていた。


<了>