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+ 四人で見る夜景の味は +
女三人集まれば姦しいという。
外国人であることは問題じゃない。問題なのはそれが誰もが振り返るような美女や美少女という時点で姦しいどころじゃなくてむしろ周りの視線を釘付けにしてしまうってこと。
しかもしかもそんな女性が日本のごく普通の高校の校門の前で集まっていたら……ああ、もう目立つこと間違いなし!
銀色の長い髪をポニーテールにし露出度の高いジーンズ生地を纏う女性――ルナ・バレンタイン。
そんなルナちゃんのおとう――ごほん、今は『妹』である金髪美少女なソール・バレンタイン。
腰ほど伸びた赤髪、透明フレームの眼鏡を掛けた美女、ミネルバ・キャリントン。
そして三人の共通点である見るものを惹き付けて離さない巨乳。
彼女達の存在は此処、神聖都学園高等部の校門前では目立ち過ぎる!
ざわめく生徒達、中には面白がって携帯で写真を撮って行く生徒もいる中あたしは一緒に一気に駆け抜ける。
本人達は気にしていないようだけど、これはやっぱり宜しくないわ!
「あ、姉さん。SHIZUKUが来たよ。SHIZUKUー! こっちこっちー!」
「『こっちこっちー!』じゃなぁい! え、え、なんで三人とも此処にいるの!?」
「先日のお礼にSHIZUKUにヘリで夜景を見せてあげようと思ってね。待ち伏せしちゃった」
「しちゃった、って。ルナちゃんー……三人とも凄くすごぉーく目立っちゃってるよ!」
「見られる事には慣れてるから構わないわ」
「ミネルバさんまで!」
学生鞄を両手で掴みはぁあと息を吐き出す。
そんなあたしの背後にソールちゃんが素早く回る。そしてあたしより華奢なんじゃないかって思う程細い指先で背中を押した。
「ささ、車は用意してあるから夜まで時間潰ししに行こうー」
「ミネルバ運転お願いね」
「ええ、任せて頂戴。SHIZUKUとソールは後部座席、ルナは隣に座って」
言われるまま、押されるままあたしは車内に押し込まれる。
良く観察しないまま後部座席に座ってみたけれどこれは……そう、明らかに普通の車じゃない。椅子は肌触りは良いし、車内の雰囲気はウッドパネルとかあしらわれててなんか大人びてるし、クールなミネルバさんにはぴったり。
でもちょっとお値段が気になったからミネルバさんにさり気なく聞いてみれば「一千万程度よ」ってあっさり言われてしまった。
「実はあたしね、ソール達と再会してからは神聖都学園の大学部に通いながらミネルバのマンションに厄介になってるの」
「僕の部屋においでって言えたら良かったんだけど、僕の住んでるアパート狭いからミネルバに姉さんを居候させてあげてってお願いしたんだ」
「へぇー。ソールちゃんの家って狭く無さそうなイメージがあるのにねー」
「元々一人暮らし用に借りたから。それに比べてミネルバの家は広いよー。多分もう一人くらい押しかけても平気なんじゃないかなぁー」
「あら、ソールまで押しかけてくる気かしら?」
「そ、そんなんじゃないよ! もう!」
ミネルバさんが運転しながらソールちゃんをからかう。
ソールちゃんは拗ねた様に唇を尖らせながら反論したけど本当は一緒に住みたいんじゃないかな。先日の一件で家族仲の方も和解したみたいだし。あ、でもソールちゃんは外見は女の子だけど実際は男の子だからその辺で問題が起こっちゃうのかしら。うーん。
「ところであたしねバイトを始めたいと思ってるの。家からは学費と当面の生活費しか貰っていないし、あとは自分の貯金しかないし……でもヘリの燃料費や維持費などを稼ぎたいのよね。――いっそ、ミネルバの店で働いちゃおうかしら」
「いやいやいや、駄目だと思うよ! ルナちゃんは水商売じゃなくてもっと豪快な仕事とか似合いそうだよー! ね、そうだよね。ソールちゃん!」
「そうだよ! 駄目駄目駄目ー!! 絶対に駄目ー! 姉さんはそういう道に足を突っ込んじゃ駄目ー!!」
「ふふ、そうよ。そう簡単にこっち側に来ちゃ駄目よ。素質はあるかもしれないけど」
「ミネルバさんっ!」
「はい、着いたわ。皆降りて頂戴」
車が一時駐車場に入る。
停止したのを確認してから皆一斉に扉を開いた。外に出れば洒落た店が並ぶブティック街。ミネルバさんは車のキーを抜きしっかり鍵が掛かったのを確認してからあたし達を先導するように先を歩き出した。
あたしはヘリで夜景を見せてくれるっていう話しかされていないから何故こんな場所にいるのかさっぱり分からない。でも一人車に残れるわけもなく若干首を捻りながらも皆と一緒にミネルバさんの後をついていった。
彼女がやがてある店の前に立つ。自動で開くガラス戸の奥にはこれまたミネルバさんに似合いそうなクールな雰囲気の衣服が並べられていた。
「此処はね、私の行き着けの店なの。ルナ、貴方の今の格好じゃ今から行くホテルには不向きだわ。此処で上着を買って行きましょう」
「大丈夫よ。別に要らないわ」
「貴方のその露出度の高い格好はね、本人より見てるこっちの方が寒くなるのよ。私もソールも流石に今はコートを羽織っているでしょう」
「そうかしら? 別に寒くないのにね」
「着てみたら気に入るかもしれないわよ。ほらこれはどう?」
「あら、中々洒落たジャケットじゃない」
黒を基調としたモダンな雰囲気を持つジャケットにルナちゃんの目が少しだけ輝く。大きな胸を持つルナちゃんはチャックを持ち上げるのが苦しそうだったけど着てみればなんて事ない。すぐに気に入ってしまったようで上機嫌に歌を口ずさみながら店内の他の服を見始めた。
一方ミネルバさんは下着売り場の方へ。戻って来た頃にはその手にはとてもセクシーな下着が握られていて……と言いますか、なんていうかとても視線が泳ぐ。あたしには下着と言うよりも薄々な布切れにしか見えなく……し、仕事柄そういう下着は必要よね! うん!
「ソール、貴方は決まったの?」
「これ! このピンクのワンピースが良い! それからSHIZUKUにはこっちの白!」
「え、あたしにも!?」
「だってホテルに行くのに学生服じゃ駄目だよ〜。僕とお揃いっていやかな?」
「んんん! そんなことない! ただ、その……」
『男の子』なのにあたしよりも可愛らしい女性服が似合う事に複雑な思いを抱くだけで。
それは他の二人も同じだったらしくほんの少しだけ眉を寄せて笑っていた。
各々選んだ服を店員に差し出し会計を済ます。カードで一括で支払うミネルバさんはとても格好良い。
でもこっそり値段が耳に入ってきた時にはあまりにも馴染みのない桁数に心臓が止まるんじゃないかって思ったけど!
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「やっぱり此処のティー美味しい〜。イギリス人の僕の舌にも合うこの味が良いんだよね」
「ふんふん、確かにこの味ならあたしの舌も満足よ」
「スコーンも美味しいわ。流石有名シェフに名高いパティシエのいるホテルね」
「ジャムも甘くて頬が溶けそう〜っ」
都内の高級ホテルのラウンジであたし達四人はアフターヌーン・ティーを楽しむ。此処のティーセットは有名らしくソールちゃんが時々訪れるらしい。
値段? 気にしない! もう今は気にしない!
あたしが今着てる白ワンピースも桁が……あ、いやいや今はそんな事よりも紅茶とケーキにスコーン! ああ、もう美味しい。一口含んだだけでも顔が緩んじゃうっ。
「そう言えば大学で『合コン』ってものに誘われたわ」
「へぇー、ルナちゃん行ったの?」
「その日はあいにく都合がつかなかったから行かなかったけど、日本も面白いことするのね。ホームパーティみたいなものかしら?」
「んーんー……ちょっと、いや、大分違う、かも?」
「今度誘われたら行ってみようかしら」
一口大サイズに切ったケーキを口へと運ぶルナちゃん。
ソールちゃんは新しくまた別のケーキを注文していた。その隣でミネルバさんは優雅に脚を組み合わせながら紅茶を味わう。流石というかなんというか持ってる雰囲気が違うわ。
あたしは両手でカップを支えながら甘い香りのする紅茶に口付ける。普段同級生達とは来ない場所で少し緊張気味かも。
そんなあたしの様子に気付いたのか、ルナちゃんはあたしの方に手を伸ばしてきた。なんだろうかとその手先を見つめてみれば指先があたしの額を弾く。力の入っていないそれは痛くない。きょとんっと目を丸めて不思議そうに見返していればルナちゃんは優しい微笑をあたしに向けてきた。
「ソールがケーキを食べ終わったらメインイベントと行きましょう。SHIZUKUに美しい夜景を見せてあげるわ」
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東京上空。
今は日も沈み夜という言葉が似合う時間帯。バラバラバラバラだかバリバリバリバリだかもの凄い音を立てながらルナちゃんが操縦するヘリがヘリポートから浮き上がった。
何でもイギリスの軍でも使われている「リンクス」というヘリを民間用に改造したものなんだって。シルバーのボディに描かれた国旗や紋章がとても似合ってて格好良い。
あたしは遠慮なくガラス窓に手を当てて外を覗く。前後左右へと大きく機体が揺れるせいで恐怖もあるがそれよりも外が見たかった。
「うーわぁー凄い。凄いー! 落ちそうー! 怖いー! でも楽しいー!」
「SHIZUKUったらそれなんか矛盾してない〜? でも東京も夜景綺麗なのには同感!」
「何故かしら軍隊時代にパラシュート降下訓練をしたことを思い出したわ」
「訓練なら夜でも降りるの?」
「そういうこともあった、っていうだけよ。今はただ懐かしいだけ」
あたしとソールちゃんの感嘆の声に対して何処か懐かしみを含んだ声色でミネルバさんがほうっと息を吐く。ルナちゃんは操縦に集中し、時々あたし達の方へと身体を振り向かせる。車の運転じゃないんだけどあたしは何故か前を見てくれていないことが怖くて慌てて前を向いてくれるよう強請った。
車みたいに決められた道があるわけじゃないから行き成り何かにぶつかっちゃったりしないってわかっちゃいるんだけど高いところから落ちると想像しちゃったらやっぱり怖い!
「SHIZUKU、気に入った?」
「うん、とっても!」
「じゃあ気が向いたらまた乗せてあげるわ」
「本当!? 約束ね、絶対だからね!」
「あ、姉さんずるい! 僕も乗せてよ!」
「あら、ルナ。私も仲間外れかしら?」
「あはは、そんなことしないわよぉー! 皆一緒にまた空を飛びましょ」
ルナちゃんがひらっと片手を振る。
眼下には美しき夜景。ネオン。東京タワーの赤い光。車のヘッドライトが道路沿いに流れていく。
とても綺麗。
テレビでも見れるけど、そんなものよりもこうして見る夜景の方が何倍も、何十倍も、何百倍も綺麗。
あたしは笑う。
ソールちゃんも笑う。
ミネルバさんも、そしてルナちゃんも笑顔。
談笑響く機内が東京の空を飛ぶ。あたし達は暫しの間冬の空を楽しんだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7873 / ルナ・バレンタイン (るな・ばれんたいん) / 女性 / 27歳 / 元パイロット/留学生】
【7833 / ソール・バレンタイン (そーる・ばれんたいん) / 男性 / 24歳 / ニューハーフ・魔法少女?】
【7844 / ミネルバ・キャリントン (みねるば・きゃりんとん) / 女性 / 27歳 / 作家/風俗嬢】
【NPCA004 / SHIZUKU(しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、お久しぶりです。
またの発注真に有難う御座いましたv
今回は例の一件の後日談と言う事で女性?陣できゃっきゃな雰囲気を出せるよう努めました。SHIZUKUがすっかり突っ込み系となりましたがそれは三人相手ゆえ、ということで(笑)
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