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<東京怪談ノベル(シングル)>


■月がどれだけ照らしても、屋敷の中には光はない。 第三章


 月が輝き、星も輝く。
 そんな光を受けて、静かに森の中で佇む屋敷の中で、鬼鮫の一方的な暴力というべき戦いが、高科瑞穂に向かって始まった。
 外は、こんなにも平和なのに。
 光の届かない、地下での殺戮が起ころうと。して、いた。


「俺の気が済むまで、付き合ってもらうぜ」
 自分の目の奥が。赤く染まっているような気がする。
 非常に不安定な女。自分の心を取り乱させる女。‥‥娘ほど年の離れたヤツに何を真剣になるのか、と。
 思う、が。
 こっちが、でくの棒みたいに突っ立っていても、仕事だの組織だの、妙に自信満々で突っかかってくる、この女が――――複雑な感情の中、妙に憎い。
 だらん、と。鬼鮫の手の中で。腕を預けて力なくして、そこにいる。
「おい」
 声をかけ、腕を揺さぶる。
 力が入り、鬼鮫の腕に爪を立てる。
 ――――元気だ。
「もう少し、お仕置きが必要だな。あ?」
 ぐっと持ち上げると。
「う」
 うめき声を上げる。‥‥まぁ、それなりに殴らせて頂いたからな。わりぃな。
  ごす!
「ぐがっ!」
  ごっごっごっごっごっごっごっごっ
 何度も何度も下腹部の下の方に膝蹴りを食らわす。
 手を離すと。
「ぐはっ、あ、あっ」
 高科は、地面に崩れ落ち無様に悶絶する。
 猫のように丸くなる。
「いいざまだな。さっきの仕返しだ。おら!」
  どが!
 がん! と高科は壁までぶっ飛ばされる。
 戦意喪失したように見せて、この女は戦意喪失していない。
 ほら。
 立ち上がった。
  ぼとぼと。
 俯いた彼女の口から落ちる血。
 逃げようとか、大人しくしようとか、思わねぇか? と、少し期待をしつつ見た、が。
 おぼつかない足取りで左右に揺れ。
 足で走る、というよりも、身体が倒れるままに走って来て。
  どん。
 きっと全体重もかけた、その拳は。
 蚊が止まるように、軽く。鬼鮫の腹。
 微動だにしない鬼鮫に、高科は戸惑いながら、自分の両手を見て。後ろに倒れ掛かる。
 そうだろう。
 立っているのがやっとのはずだ。
  ガン!
 鬼鮫は遠慮なく、高科の腹を横に蹴る。
 壁に頭を打ち、蹲る高科。
 しゃがみ込んで、表情を見る。
 あれだけ殴られたのに、目の光はまだ消えていない。
 鬼鮫は、高科の頭を引っ掴んで、壁に叩き付けた。
「――――っ!」
 声にならない悲鳴が聞こえる。
  ガッ!
 もう一発。
「ごほっ!!」
 むせる。血を噴出す。
 高科は、何度血を吐き出しただろう。
 そんな高科を見たくなくて、鬼鮫は、くるり、と彼女をひっくり返し。
 背中を押さえつけ。腕を引っ張る。
  ごき。
「がああああ!!」
 叫ぶ高科の声は、血も混じって、女の‥‥いや、人間の声に聞こえない。
 鬼鮫が決めた関節技。
 キレイに高科の肩を脱臼させた。
 それでも、鬼鮫を見上げる目は鋭く、冷たい。
 怒りか。まだ痛みが勝たないのか。
 脱臼した、その腕を持ち上げる。
 ぐっと、力を入れて、元に戻す。
「ぎゃあああああっ!!」
 脱臼は、外れる時よりも、無理矢理元に戻される方が痛い。
 痙攣し、痛みをこらえ、フルフルと震える高科。
 それを見つめる鬼鮫の目は冷たく。それは鬼鮫自身も自覚していた。
 ふっと。笑い。
 高科の髪を引っ掴み、持ち上げる。
 ぶちぶち、と。鬼鮫の手の中で髪が抜ける音がする。
 ――――もう、そろそろ降参しろ。
 そう、鬼鮫は心の中で呟いて。
  ガン!!
 容赦なく、壁に叩き付けた。
  ‥‥ずる。
 鬼鮫の手から解放された高科は‥‥ゆっくりと。その冷たい床へと崩れ落ちる。
 血に汚れた顔。
 それは、意外にも。この世のどれよりも、美しく。
 閉じ込めてしまいたくなるぐらい‥‥美しかった。






END