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■月がどれだけ照らしても、屋敷の中には光はない。 第四章
ここには月はない。
どれだけ血で汚れようが、美しい高科瑞穂。
きっと。芯は強く、心はキレイなのだろう。
鬼鮫は、足元で気を失った高科を見下ろして。
このままでは、この地下に閉じ込めて出したくなくなる自分の気持ちに気がついて。
どうしようかと、思案にくれた。
月が恵む光は。屋敷を照らしていても、地下には届かない――――。
自分の部屋に連れて行こう。
あそこなら、光がある。
彼女に幻滅する事だって出来るだろう。
部屋の隅に積んであるシーツをとって、鬼鮫は優しく高科を包み込み。
抱き上げて、地下を、出ようとした。
どん
胸を押され、高科は力なく床へ転げ落ちる。
――まだ、そんな余力が残っていたのか。
溜息をつく鬼鮫の目の前で、高科は立ち上がる。
亡霊のように、ふらふらと不安定に立ち上がる。
ふっと気付くと、目の前だ。
どうやら、少し体力が回復したらしい。
蹴り・パンチ。
ごす!
たまに重いその拳は、やはり超能力を兼ね合わせているのだろう。
内臓が傷つくのが解る。
しかし、それが、修復されていくのも‥‥解る。
寂しい女だ。
鬼鮫は、遠慮なく頬をぶっ飛ばし。
掴まえて、同時に両方からぶっ叩く。
腹部、臀部、股等や関節‥‥とにかく、鍛え辛いその部位を、ひたすら叩く。
「があっ!!」
口から吐き出される血。
そうだろう。鬼鮫と違って治癒力が高いワケではない。
もう死んでもおかしくないか? と思うほど、殴りつける。
高科は鬼鮫の手の中で、サンドバッグと化す。
カタカタカタカタ
高科の身体が震えだす。痙攣し始める。
「‥‥も、駄目‥‥」
「へぇ。しゃべる元気があるのか」
呂律は回っていない。
もう、そろそろ口がきけなくなっても、おかしくはないはずなんだがな。
鬼鮫は、苦笑いをこぼし。
高科を掴んでいた手を離した。
ずさ‥‥
痙攣したその手で、鬼鮫の靴を掴む。
「ゆる‥‥許して‥‥」
許す許さないも、高科から執拗に襲ってきたのだ。
その事実を忘れてもらっては困る。
「許す、許さないの問題じゃないだろーが」
がっ!
「ぐはあぁ!!」
遠慮なく、その腹を蹴り上げる。
こっちの油断を誘おうとしてるんじゃないか、と思うのも、鬼鮫にとって当然である。
別に高科が歯向かった所で、蚊に刺されたのと代わり映えは無い。
転がって、顔に傷がつく。泥もつく。
血を吐いて‥‥汚れる。
醜い。醜いはずなのに、キレイに見えるのは何故だろう。
心の中に浮かぶ、独占欲と。虐待欲は何だろう。
本当に、可愛い。
鬼鮫にとって、高科は子供だ。子供のはずだ。
しかし‥‥そういう、愛しむべき、と考える感情が、気持ちがなくなって。
何も見ない、自分しか見ない。
そんな人形に仕立て上げたくなる。
「おい」
髪を引っ掴み、無理やり顔を上げさせる。
ブルブル震えているのは、鬼鮫が怖いからではない。殴られ過ぎて痙攣を起こしているんだろう。
ぞくり。
鬼鮫の心の隅に。なんとも言えない、いけない誘惑がまとわりつく。
――その誘惑に負けてたまるか。
涙をこぼし、見上げてくる高科に、鬼鮫は。
がっ!
遠慮のない拳をその頬にめり込ませる。
「ぐわああ!!」
ぶっ飛んで。泣きじゃくる。
「‥‥ゆる、ゆるして‥‥許して‥‥」
かなり殴った。歯も所々ない。服も、戦闘で所々破れ‥‥いや、戦闘というより、鬼鮫が一方的に、もて遊んだというべきか。もうまともに着ていない状態だ。
その姿が可愛いと思うのは間違っているだろうか。
このまま、この誘惑に負けてもいいんじゃないか、と思う鬼鮫の目の前で。
高科瑞穂は、力を振り絞って‥‥身体を起こし、失敗し。
服従を誓う犬のように、引っくり返った。
「‥‥たす、けて」
END
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