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■月がどれだけ照らしても、屋敷の中には光はない。 最終章
月夜は照らす。
事実を隠す。
鬼鮫が、まだ巡回から戻ってこない事に疑問を持ち、屋敷内では騒ぎになっていた。
暗い地下。
光はささず、ほのかに光る電球しかない、その部屋で。
「助けて‥‥助けて‥‥」
何度も何度も泣いて、許しを請うように呟く高科。
鬼鮫を見ていない。どこを見ているのか解らない。
腹立たしく、鬼鮫は高科を見下ろした。
なんと言っても、襲ってきたのは高科なのだ。
被害者は俺の方ではないか、と思う。
呆れて。溜息をついて。
彼女の言葉を頭っから信じず。
――馬乗りになる。
ぼんやりと見上げてくる高科。
まだ、意識はしっかりしているようだ。先程の様子が嘘のように。
「なぁ? 所属している組織名いえるか?」
高科がここにいるのは、しっかり情報を貰わなかったのか、もしくは、彼女が半人前のまま一人でここに放り込まれたのか、の、どっちかだ。
どっちにしろ、いい加減な組織に違いない。
この女が、どう関わっていようが関係無しに、潰す必要がある。
どんな情報を持っている組織なのかは解らないが、多少は流れたら不味いような情報を持っているからこそ、ここに高科を送り込めた。
それを考えると、ほっておくわけには行かない。
「‥‥私が、しょ、ぞくしている‥‥組織は――――」
‥‥‥‥。
呂律が回らない声。
それでも、どうにも信用できないのは、わずかにみえる高科の目の奥にある意思の強さが見えるからだろう。
ごすっ!
「ぐえっ」
腹に拳を打ち込み、高科は蛙のような鳴き声を上げる。
がん! と。そのキレイな顔に頭突き。
「ぐが!」
臀部左右を、サッカーボールのように蹴りまくり。
ぐらぐら、力なく鬼鮫の足の間で揺れる高科。止めとばかりに、その腰に蹴りを入れる。
「‥‥うぅ」
呂律が回っていない。
顔だって、もう涙と血と埃まみれだ。
「‥‥ご、め‥‥たす、け‥‥さい‥‥」
ごめんなさい。助けて下さい。‥‥と、言いたいのだろうが‥‥全然、言葉になっていない。
助ける? 何から?
「助けて欲しいのはこっちの方だ」
悲しげに呟く鬼鮫の声は、高科には聞こえていない。
この狂気を引き出したのは誰か。
この事態を引き出したのは誰か。
よく思い出して欲しいものだ。
苦笑。
「さあ、最後、だ」
鬼鮫は、高科の首と太腿を掴み、身体を持ち。
ガンガンガンガン!!
何度も脳天を壁に叩きつける!
「ぎゃあああああ!!」
高科の悲鳴が、地下室で何度も何度も響く。
思わず、熱くなって、何度も何度も‥‥。
気付くと、高科は壁に埋め込まれていた。
腰から臀部まで、何度も何度も殴りつけていた。
意識は‥‥ない。
痙攣が、止まってないな。
鬼鮫がこぼす、苦笑は‥‥涙の匂いがする。
なんだって、自分はこんなに怒ったのか。
くだらない。くだらな過ぎる。
落としたシーツを拾い上げ。
壁に埋め込まれた高科を抱き締めるように、壁から引き剥がす。
「――――う」
小さな声がもれる。
ぐったりと、身体を預けてくる。
シーツで汚れたその顔を、愛しげに優しく拭って。
クルクルとシーツで高科を包み込む。
めちゃめちゃにしたいぐらい、愛しいその娘。
自分の娘が生きていれば、年は変わらないの娘。
天国にいるはずの、妻と娘。
二人は、今の鬼鮫を、霧嶋を見て、何をどう思うのだろうか。
もう、どうでもいい。
どうでもいいんだ。
「虫の息。っつーのは、こういう状態のを言うんだろうな」
これで彼女は自分の思うまま。
部屋に閉じ込めて、誰にも見せないで、そこに。
ズルズルと、力なく、鬼鮫はシーツに包んだ高科瑞穂を‥‥引き摺っていった。
高科の消息は‥‥誰も、知らない。
END
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