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<東京怪談・PCゲームノベル>


 志願書

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 正解、不正解はない。
 当たり、外れもない。
 要は、気持ちの問題だ。
 向き不向きもあるかもしれないけれど。
 一番大切なのは、自分の意思だろう。
 都の安全を確保し、都に尽くす【CLC】か。
 教えを説き、迷い子を救う【ZERO】か。
 時は満ちたのだ。もう迷っている暇はない。
 何の為に、ここへ来た? 目的は何だ?

 ただ、存在意義を。

 散々悩んだ。散々迷った。これ以上ないほどに。
 悔いなんぞあるものか。寧ろ清々しい。
 フゥと息をひとつ吐き落として立ち去る。
 ポストへ投函した志願書。
 たかが志願書、されど志願書。
 目に留めて貰えねば、志願もクソもないけれど。
 意思を伝えねば、何も始まらない。
 異都【カウンシルブレイス】
 赴いた、その目的を果たす為に。

 さぁ、どうなる。

 宿泊先であるホテルへと戻る最中、高揚。
 数日以内に結果は理解ることだろう。
 このまま都の住人になれるか。
 尻尾を巻いて逃げることになるのか。
 どっちだ。イエスか、ノーか。

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 2日前のこと。
 その兄妹は、いつものように部屋でまったりと過ごしていた。
 妹(小華)は、カタカタとパソコンを弄って何やら調べごと。
 兄(朔)は、その様子を時々確認しつつ、紅茶片手に読書。
 両親はいない。兄妹は、どことも知れぬ場所で二人暮らし。
 寂しいだなんて感情を抱いたことはない。必要ない。
 兄は妹がいれば、妹は兄がいれば、それだけで幸せ。
 仲を見せびらかせるような知り合いこそいないものの、
 兄妹は、片時も離れず幸せな毎日を送っていた。
 十分に幸せだと感じられるから、不満も抱かない。
 いつもと何ら変わらず、ゆったりと流れる時間。
 その雰囲気に安らぎ、フゥと朔が幸息を漏らした時だった。
「大発見なのね!」
 突然ガタンと席を立ち、大きな声で小華が言った。
 小華は、目をキラキラと輝かせながら朔に見せる。
「見て見て。にぃに、大発見なのね」
 急に小華が大声を上げた為に驚いてしまい、紅茶を零してしまった。
 朔は、零れた紅茶を拭き取りながらモニターを見やった。
 ハッキングを得意としている小華。
 彼女がゲットしたのは、とある機関の情報。
 纏めて、その機関が存在している世界の情報もゲットした。
 異都カウンシルブレイス。そこにある "CLC" という機関。
 都で起こる事件や問題を解決する、警察のような機関。
 それだけじゃなく、猫を探したり浮気を調査したり、
 探偵のようなこともしているようだ。何でも屋要素が色濃く思える。
「もしかしたらね、小華とにぃにの力、役立つかもなのね!」
 嬉しそうに笑って言う小華。だいぶ興奮しているようだ。
 ウキウキしている様子の妹の姿に、瞬きをひとつ、ふたつ。
 少し沈黙して考えた後、朔は小さな声で呟いた。
「一カ所、留まる、いいかも、ね」

 そして今、兄妹は並んでポストの前に立つ。
 CLCへの所属を願う旨を記した志願書。
 ハックした情報を参考に、規定にそって希望を記した。
 志願書は、ポストの中。数秒前に、二人で一緒に投函した。
「この、力、人、助ける、使う、悪く、ない、思う」
 ポストを見つめながら言った朔。
 淡々と放っているかのように思えて、強い意志の宿った声。
 それを理解するのは、唯一の存在である妹だけ。
 兄のイキイキとした横顔に、小華はニッコリと微笑んだ。
 手を繋ぎ、足踏み揃えて歩いて行く兄妹。
 宿泊先であるホテルへと戻る最中、高揚。
 数日以内に結果は理解ることだろう。
 このまま都の住人になれるか。
 尻尾を巻いて逃げることになるのか。
 どっちだ。イエスか、ノーか。

 *

「美味しかった〜。満腹なのね」
「…………」
 ポンポンとお腹を叩いて満足そうに笑う小華。
 カウンシルブレイスの料理は、見た目も華やかで美味しい。
 ご機嫌な様子の小華だが、朔は神妙な面持ち。
 先ほどから、チラチラと時計を確認している。
 志願書を投函して、2日が経過した。
 何にせよ反応はあるはずだ。
 ハックした情報に、3日以内と記されていたような気もする。
 ただ待つことしか出来ぬ状況だからこそ、妙にソワソワ。
 見た目こそ変わらぬものの、朔は落ち着かない。
 そんな兄の姿に笑い、小華はベッドにコロンと寝転んだ。
 兄をリラックスさせる目的も兼ねて、歌いだす小華。
 二人で泊まるには少し狭いシングルルーム。
 今日も今日とて、二人は連絡を待つ。
 部屋に篭りっきりなのも何だし、
 せっかく異世界に来たのだから観光でもしようか。
 フロントに伝言しておいて、連絡があればすぐに戻って来れば良いし。
 お歌を中断して、小華がそう提案した時。
 コツコツと扉をノックする音。
 小華が「どうぞ」と促すと、ホテルの従業員が一礼して入室。
 従業員は、ニッコリと微笑んで二人に封筒を差し出した。
 受け取った封筒には "CLC" の文字と、犬の尻尾のような模様。
 二人は顔を見合わせて頷き、慌てて封を切った。
 記されていたのは、面接要項。
 要するに、面接をさせてくれという意思表示。
 ハックした情報で、狭き門だということは把握していた。
 不合格通知ではなく、面接要項が届く事の重大さも。
 ピョンピョンと飛び跳ねて大喜びする小華。
 まだ合格したわけではないけれど、喜ばずにはいられない。
 そんな小華の姿に頷く朔も、心なしかホッとしているように見える。
 面接は今日、この後すぐにでも。
 二人は急いで支度を済ませ、ホテルを後にする。
「頑張って下さい。いってらっしゃいませ」
 事情を知っている従業員からの応援が、背をグンと押す。
 向かうは、都のメインストリートにあるCLC本部。

 13:28 CLC本部―

 面接に来たことを伝えた二人。
 門番だろうか、ガタイの良い男が一人。
 男は通達書を確認して、二人を本部内へと案内する。
 だが、二人があまりにも幼いがゆえに、驚きを隠せずにいるようで。
 キャッキャとはしゃぐ小華と、うんうんと頷く朔をチラ見しては苦笑した。
 二人が案内されたのは、賑やかなリビング、その一角。
 座って待つようにと促された二人。
 朔は、ヒョイと小華を抱き上げて椅子に座らせた。
「あぅ……。意地悪な高さなのね」
 大きな椅子だ。小さな身体の小華は、床に足がつかない。
 落ち着かず、パタパタと足を動かしながら見回す小華。
 朔は、姿勢を正してお行儀良く座っている。
 酒の匂いが充満し、笑い声が響くリビング。
 こじゃれたカフェのようなそこは、和気藹々としていた。
 二人が面接に来たことを知っているのだろう。
 酒を飲みながら、嬉しそうに笑っている。
 CLCのメンバーは、気さくな者が多いようで。
 どこから来たの? だとか、何歳なの? だとか。
 待機する二人に、次々と質問してくる。
 人と話すことを好む小華は笑顔で対応するが、
 普段から口数の少ない朔は、ここでもぶっきらぼうな態度。
 そうこうするうちに、二人は場の雰囲気に溶け込んだ。
 既にメンバーかのように。違和感が、まるで感じられない。
「あー。ちょっと、お前らどけ。面接できねーだろうが」
 小華と朔を囲うメンバーを押しのけながら言った黒髪の男。
 男の後ろには、書類を持つ銀髪の男の姿。
 ハックした情報にあった、CLC現メンバーのリスト。
 その中にいた二人と一致する。黒髪の男は目黒、銀髪の男は白葉。
 彼等がメンバーを束ねているという実態も把握済みだ。
 あれ。でも確か、もう一人。
 彼等といつも一緒にいる女の子がいたはずだけど。
 キョロキョロと辺りを見回して探す小華と朔。
 目黒と白葉は、二人の向かいに腰を下ろした。
「……予想以上に若いね」
「若いっつーか、幼いな」
 淡い笑みを浮かべてポツリと呟いた白葉。
 白葉の言葉に、肩を揺らしてクックッと笑う目黒。
 二人のその反応に、小華と朔はハッとした。
 しまった。年齢を書くのを忘れた。
 まぁ、年齢制限はないようだから問題はないと思うけれど。
「書き忘れて、ごめんなさいなのね」
 ペコリと頭を下げて言った小華。朔も一緒に頭を下げる。
 目黒は笑い、グラスにワインを注ぎながら言った。
「無問題。能力も申し分ないし」
「む? まだ何もしてないのね」
「あぁ。そーいうのはナシ。面倒くせぇ」
「面倒くさがりやさんなのに?」
「あ? あぁ、まー。否定はしないけど。見りゃわかるもんだしな」
 CLCが実行する面接は、面接というより顔合わせだ。
 特に質疑応答があるわけでもなく、能力の審査もない。
 目黒いわく、意思は志願書で確認済みだし、
 能力に関しては、パッと見れば理解る。らしい。
 では、肝心の結果は……?
 ジーッと白葉を見つめる小華と朔。
 何となく、白葉が決定権を握っていると思ったのだろう。
 正解である。合否は目黒ではなく、白葉が決定する。
「……うん。良いんじゃないかな」
 白葉の言葉に、目を丸くして小華は尋ねた。
「えと、それは、どっちなのに?」
「……うん。合格で。これから、よろしくね」
 淡く微笑んで言った白葉。小華は、朔に抱きついて喜んだ。
「やったのね! にぃに! 合格なのね!」
「…………」
 言葉は発さないけれど、朔も嬉しそうだ。何度も頷いている。
 二人が合格し、晴れて正式メンバーになった瞬間。
 リビングにいたメンバーが一斉にクラッカーを鳴らした。
 用意周到すぎるような気がする。
 もしかすると、既に合格が確定していたのかもしれない。
 四方八方から鳴り響いたクラッカー音にビックリしている様子の小華と朔。
 目黒は苦笑しながら、入団記念にと二人にワインを勧めた。
 未成年だから、それはマズイだろうと止める白葉。
 面接前よりも賑やかになったリビング。
 大騒ぎの中、朔はキョロキョロしながらポツリと尋ねる。
「灰蒔、どこ、ここ、いない?」
「お? 何だ。知ってんのか。うちのじゃじゃ馬」
「知ってる、目黒、白葉、いつも、一緒、いる、今日、いない?」
「午前中に無茶しすぎてなー。馬鹿だから。いま、緊急充電中」
「無茶、危ない」
「ははっ。ま、そのうち降りて来るだろーから。それより、飲め。ほれ」
「にぃに、これ美味しいのね! ふわもにょするのね!」
「…………」

 *

 いつも一緒。二人は仲良し兄妹。
 手を繋ぎ、二人は一歩を踏み出した。
 不満なんてなかったけれど。刺激なんて求めていなかったけれど。
 でも、違ったのかもしれない。心のどこかで、欲していたのかもしれない。
 どんなに足掻こうとも消せない過去を払拭できるような場所を。
 今も二人の首に掛かるタグ。首輪の役割を成していたタグ。
 今度は、メンバーの証として受け取った指輪が "存在意義" を成しますように。
 Paradox of feelings. Never try to disguise your heart.
 相反混在。心の願いを偽るなかれ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7943 / 四葉・朔 / 16歳 / 薬師・守護者
 7944 / 四葉・小華 / 10歳 / 治療師
 NPC / 目黒 / 21歳 / CLC:メンバー
 NPC / 白葉 / 23歳 / CLC:メンバー

 こんにちは、はじめまして。 そして、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 志願書 』への御参加、ありがとうございます。
 CLCメンバーの証となるアイテムを贈呈しました。
 お手数ですが、詳細はアイテム欄で御確認下さい。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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