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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。



〈あれから2年後〉
 レノアはキャンピングカーの車窓から景色を眺めていた。街の景色から徐々に畑や田圃の風景。彼女はただ、其れを見ているだけだった。
「はい、ジュース」
「ありがとう、紗枝」
 柴樹紗枝が、彼女にジュースを渡す。普段着のひとつである、デニムパンツにそれに似合うシャツを着て自分もリラックスしていた。
「次の興行先は、ここから20キロ先です。前に言った打ち合わせ通りにお願い」
「はい、わかりました」
 紗枝とレノアは微笑みあった。

 あの戦いから、絆が深まった。紗枝の説得によって、レノアは今サーカス団に残っている。猛獣使いのアシスタントとして今此処にいるのだ。
 素養がいいと思われたが、実は彼女は動物の言葉が分かるようなので、上下関係さえ分かれば動物は言うことを聞いてくれるのだ。元々、動物にはレノアの神々しいオーラが常に見えているようなので、言うことは普通聞く。しかし、とても優しい彼女はあまり危険な芸をさせたがらないので、紗枝には劣ることがあるし、まだやり方をマスターするには時間がかかるのだ。餌のやり方やケアも含めて。

「ま、将来、あの豹とコンビ組みそうよね」
「そうですか? 確かに懐いてますけど」
 むむうと考え込むレノアを紗枝はフフリと笑う。
「そうそう、これ着てみない?」
 紗枝はクローゼットから前に買って置いた服の数々を見せた。
「えええ!? またですか!? サーカスだともう少し違う物だと!?」
「細かいことはいいから!」
「うむむむう」
 アシスタントと言うより、着替え人形になっている気がしない訳ではない。
 この数年の巡業中、メイド服からナース、バニーになっていくとかなんとか。

 到着してから、小一時間の準備。白虎・轟牙と豹の檻に紗枝とレノアが近づくと、豹は喉を鳴らし、レノアに近づいていた。彼女が手を伸ばすと、頭をすりつけてくる。
「いい子にしてた、車酔いはないのね。一緒に遊びたいの?」
「ぐるる」
 とても仲がよかった。
「一寸やきもち妬いちゃうわねぇ」
「がるる(仕方あるまい)」
 轟牙は紗枝のぼやきに冷静だった。


〈牛〉
「た、大変だ!」
 その地域の子供や大人が騒ぎ出していた。
「どうしたのですか?」
 紗枝が訊ねる。
「牛が! 牛を運ぶトラックが転倒して! 牛が逃げていっただ!」
「!?」
 その言葉でレノアが直ぐに動いた。
「行きましょう」
「え、そうね。場所は?」
「こっち!」
 大人が紗枝とレノアを連れて行く。
 大人しい乳牛なのだが、パニックで暴れている。もしこのまま集中した集落に向かえば、大惨事になるだろう。パトカーや救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。投げ出されるように運転手が倒れている。このままだと、パニックになっている牛に踏みつけられそうだ。
「大丈夫ですか?」
 紗枝が怪我人を何か助けて、レノアが応急処置をした。
「轟牙を呼ばないと」
「轟牙を呼んだら町の人が怖がりますよ」
「あ、そうだった」
 意思疎通できる2人で、暴れ牛をなだめることに。
「怖くないよ、落ち着いて」
「こっちですよ……はい、いい子いい子」
 話しかける紗枝とレノアを止めようとする人もいたが、自信ありげな笑みと、実際の牛の動きに驚きをもって傍観するしかなかった。
 牛達は大人しくなり、2人の活躍で牛の突進事件を回避できた。

『サーカス猛獣使い。牛を纏める』
 地方の新聞の見出しに、紗枝とレノアが載ったのであった。其れは噂で怪奇探偵の所まで届く。
「元気にしているのか……」
 草間はそのニュースを新聞の片隅に載っている小さな記事に目を通した。
「よく、確保・保護しなかったですね」
 応接のソファーに影斬が座っていた。
「なに、目立った超常現象問題を起こさないなら別に天使だろうと悪魔だろうと、あまり動かせないさ。カルトを結成したら、そうはいかんさ」
 草間は肩をすくめた。
 影斬は何も言わずコーヒーを飲んでいた。

 この、ニュースでサーカス団はその地域で人気を集めたのであった。それが東京まで届くのは、時間の問題だろう。道中で、猿の縄張り争いと人間との抗争の仲裁や、崖に取り残された野生のタヌキを見つけて救助など、2人がいるところで穏やかな事件を解決していったのだった。紗枝に「アットホームビーストテイマー」とか付いたとか何とか。


〈東京へ〉
 再び東京の大きな平地にテントを構えるサーカス団。
「此で暫くしたら休業かな」
 旅の疲れを取るために、オフにはいるという。それでも、小さな動物を引き連れて、ふれあい動物園を行うという計画もあった。
「これ着なきゃ駄目なの?」
 着替えテントの中から顔だけ出すレノア。
「そうよ。決まりですよ」
「うう、でも、よくこんな恥ずかしいの着れるよね」
 紗枝の言葉にレノアは困った顔をする。顔が紅潮している。
「慣れれば身軽ですよ」
 ハイレグの露出のあるハイレグレオタード。このサーカス団での制服だった。露骨にそう言うのは好ましくないのだが……。
 着替え終わったのかレノアが出てくる。
「どう似合いますか? 股辺りがすーすーします……」
「おお、似合う、似合う! サイズもバッチリ!」
 恥ずかしいレノアに紗枝は抱きついて喜んだ。
「がるうる(似合うぞ)」
 獣くせに轟牙は赤面して褒めていた。
「ありがとう……轟牙」
 レノアは轟牙を撫でてあげた。

「2人とも出番だよ」
 仲間の一人が呼ぶ。
 そう、2人でステージがはじまろうとしている。
「行こうレノア」
「はい!」
「がるる!」
「がうー!」
 2人と2頭はステージのスポットを浴びに、ゆっくりと歩き出した。
 新しい人生をこのままずっと過ごすために。


〈レノアの手記(?)より〉
 さて、私、レノアはこのまま紗枝の元に過ごす事になるでしょう。しかし、私の使命というのは、この混迷の事象のなかで大きく関わる物。いつか、私の力が必要なときもあるだろう。門番として、超常の存在として。
 でも、家族がいるならその使命も、ずっと軽く感じることが出来ると信じています。

 とは言っても此は、ひとつの未来で可能性。私は何処にも干渉し、何処にも干渉できない。並行世界の狭間にいる欠片。このひとつの結末を考えて下さってありがとう、紗枝と轟牙。
 でも、私はあまり露出が凄いのは好きじゃないのですよ。その辺は……きをつけてね。

END


■登場人物
【6788 柴樹・紗枝 17 女 猛獣使い&奇術師【?】】
【6811 白虎・轟牙 7 男 猛獣使いのパートナー】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 このたび、『蒼天恋歌 7 終曲』 に参加して頂きありがとうございます。
 此もひとつの結末です。
 この先レノアがどう成長するのかは、紗枝さんと轟牙さん次第であります。
 あまり、ハイレグなどを着せたりしない方が、レノアは喜びそうです。苦手意識が強いようなので。それはさておき。楽しんで頂けましたでしょうか?
 正直もうしあげますと、私滝照も露骨な露出物は不得手としております。その中で、努力して楽しめるようには書いたつもりであります。

 本編全話参加誠にありがとうございました。

滝照直樹
20090422