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<東京怪談ノベル(シングル)>


Monastery of the blood.T

「鬼鮫、ね…。どれだけの凶悪な人材か知れないけど、私の敵ではないわ」
 鬼鮫…IO2に所属するエージェントであり、過去に何度も無残な殺戮を繰り返している問題の男。
 瑞穂はその男が今はもう使われていない、人も寄り付かない廃墟と化した修道院を根城にしていると言う情報を、彼女の所属する特務近衛警備課から仕入れた。そしてその警備課より、後にも先にも問題視されているこの鬼鮫の捕縛を命令されているのだ。
 まだ日は高い。燦々と照りつける太陽の日差しは、修道院の周りを鬱蒼と茂る雑草たちに惜しみなく降り注いでいる。
 壁に蔦が無造作に這い、その修道院の入り口の扉は左半分が開いた状態で半ば崩れ落ちそうになっている。
 錆びた扉からは鉄臭い臭いが瑞穂の鼻を掠め通った。
 中を覗き込めば、所々抜け落ちた天井から、属に言う“天使のはしご”が降り、床を照らしている。左右に設けられた長椅子は朽ちて、無造作に散らばっている。教会の中心にあるマリア像もまた、無数の蔦が這い雨風に晒されたせいかその神々しさはまるで消え失せて苔が所々生えているのが目に付く。
 まさに根城にするには打って付けの場所だ。人里から離れ、瑞穂の背の高さほどある葦や草木に覆われた、薄気味の悪い廃墟の修道院。
 瑞穂はその修道院の入り口から中の様子を窺っているが、特別人の気配は感じられない。もっと奥の部屋にいるのだろうと、瑞穂は足を踏み入れた。
 陽の光を浴び、瑞穂のかぶるヴェールがはためいた。
 廃墟とはいえ修道院。かつては神がそこにいた神聖なる場所としてあった所への潜入と言う事もあり、瑞穂はそれなりの格好をしてきていた。
 黒に近い紺色の肩までの長さのヴェールを頭にかぶり、その首元には白のケープ。白々しくもその胸元には十字の首飾りを下げている。
 パッと見れば普通のシスターのようにも見えるが、彼女の見事なまでの豊満な身体つきと動きやすいよう工夫がなされているのか、神に仕えるには少々過激すぎる修道服を身にまとっていた。
 細く良い香りのする首から肩にかけてかかる白のケープに、隠れきらないほどの大きな胸が彼女が動く度に上下に揺れた。その大きな胸を更に強調するべくして付けられたコルセットが、彼女の胸を支えている。
 とても手のひらに収まるような大きさではない彼女の豊満な胸は、大きさとは相反するように形が良く、常に上を向いた理想的な形をしていた。しかも左右とも寸分違わぬ見事な形状をしている。
 多少肌にピッタリとした修道服に押さえつけられているようだが、その存在感は圧倒的だった。何か先の尖った物が触るだけで、弾けそうな印象をもたらしている。
 細くくびれたウエストでは修道服をきつく絞り上げ、ただでさえボディラインを強調するような薄手の生地の修道服であるのに、更にその艶かしい腰つきを露にしていた。
 修道服の上からでも分かるほど、ピッタリと肌に吸い付いている修道服から見たウエスト周りには少しの余分な物も付いていない。ほど良く鍛え、引き締まったウエストは誰もが憧れるラインをしている。
 そしてその腰の辺りまで切り込まれた深いスリット。そのスリットからは彼女の妖艶なまでに細く、それでいて引き締まった白い大腿部と黒のストッキングがハッと息を呑ませるほどの色香が漂っていた。
 瑞穂が歩く度に、スリットからは惜しげもなくその美脚を晒す。その右の太腿にはベルトでしっかりと留められた短刀が付けられていた。
 歩みを進める毎に覗く色香溢れる大腿部。そして時折はだけた修道服からは、胸同様に形が整った白く柔らかな尻が見える。
 キュッと引き締まり、ヒップラインが非常に高い。艶かしいほどに歩く足の動きに合わせて良く揺れた。
 全体を見ると、そこらのモデルにも決して引けをとらない。それどころか、更にその上を行くのではないかと思われるほど完璧なボディだった。
 瑞穂はその完璧なボディラインを惜しげもなく見せる事に、特別気に留める事は無かった。
 履き慣れた編み上げのロングブーツでコツコツと足音を立て修道院の中へ潜入する。
 こちらの隙を見せぬよう、辺りの様子を注意深く窺いながら瑞穂は歩みを進める。
 教会の中心としてミサの行われるこの広場には、人の気配はやはりなかった。
 瑞穂はマリア像を挟み左右に備えられている扉の内、左の扉を慎重に押し開いた。そして中の様子を窺うが、そこにはバネが飛び出し、埃にまみれて汚れきったマットの敷いてあるベッドが3つと、数冊の本を立てかけてある朽ちかけた木の本棚があるだけ。
「ここでないとすれば、右の部屋しかないわね」
 瑞穂は誰に言うでもなくそう呟くと、その部屋の扉を閉めずに右の部屋の扉へと向かった。
 扉に耳を押し当て中の様子を窺うと、ガタリ、ゴトリ、と物音が聞こえてくる。
 瑞穂は小さくほくそえむと、太腿に備え付けてある短刀に手をかけ、勢い良く扉を押し開いた。
「……!?」
 中には瑞穂の睨んだ通り、鬼鮫の姿がある。鬼鮫は突然押し開かれた扉に驚いたように顔を上げ、瑞穂を振り返った。
「鬼鮫。お前を捕獲しに来たわ」
「…はぁ? 何だと?」
 開口一発。瑞穂は自信ありげにそう言い放つと、鬼鮫は眉間に皺を寄せ瑞穂を小バカにしたような顔を浮かべる。
「ここで何をしていたのか聞かないでいてあげる。その分後でたっぷり聞かせてもらうけどね」
「何言ってんだ、女」
 頭が狂ってるんじゃねぇのか?
 鬼鮫は瑞穂を女としてかなりなめてかかっていた。
 そんな鬼鮫に気を悪くしかけた瑞穂だったが、ニンマリと微笑む事で気を持ち直す。
「私はお前を捕獲する任務があるの。大人しく着いて来るなら、痛い目に遭わずに済むけど…どうする?」
 鬼鮫は瑞穂の方へ完全に向き直ると、鼻で笑った。
「どの口がそんな事を言ってるんだ? お前のような小娘に俺がやられるとでも?」
「あら、そんな事言っていいのかしら?」
「見るからにか弱そうな女に手を出すほど、俺は落ちぶれちゃいないつもりだがな」
「…そう。そんなに痛い目に遭いたいのね!」
 瑞穂は短刀を留めているボタンを外すと、それを横一文字に振り切った。
 鬼鮫の目の前にはヒュッと言う音を立て銀色の旋律が走り抜ける様が見えた物の、不意打ちの攻撃に避ける事ができずその胸元が切り裂かれた。
 着ていた衣服が切られ、鍛え上げた鬼鮫の厚い胸板に赤い線が付き、血を滲ませた。
「あら? もしかして怪我をしたのかしら?」
 わざとらしくとぼけたように呟く瑞穂の顔は、明らかに嘲笑うかのように微笑んでいた。
 随分となめた真似をしてくれじゃねぇか。と、鬼鮫は心の中で苛立ち、殺気立った。
「俺を捕獲できるというなら、やってみろ」
「ふぅん…。随分と自信満々じゃない。不意打ちで攻撃を喰らったくせに」
「っち、ふざけやがって…」
 瑞穂はほくそえんだまま、鬼鮫を小バカにしたように上から見下ろした。
「私の今の攻撃を避けられなかったと言う事は、お前は戦慣れをしていないただの荒くれ者。私がお前を捕獲するのにそんなに言うほど手はかからなさそうね」
 プチ…と小さな音がした。
 自信満々に語る瑞穂の姿に鬼鮫は更に殺気立ち、鋭く光る眼光には怒りの炎が燃え上がった。
「頭に乗ってんじゃねぇぞ! このアマ!」
「ふふ。その言葉そっくりそのままお返しするわ!」