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<東京怪談ノベル(シングル)>


Monastery of the blood.V

「このままじゃあ、どうする事もできねぇよなぁ?」
 鬼鮫は口の端を引き上げ、意地悪く笑う。
「ど…どうして…。さっきの腹部の傷は…相当致命的だったはず…」
 苦しさに言葉を詰まらせながら、瑞穂は鬼鮫の脇腹の傷を見た。あれだけの深手を負いながらその傷はいつの間にやら塞がり、出血は完全に止まっている。
 驚いた表情を浮かべる瑞穂に鬼鮫はほくそえんだ。
「お生憎さま…とでも言っておくか? 俺には治癒能力があるんだよ」
「ち、治癒能力…ですって…?」
 苦しそうに息をつき苦痛に呻きながら瑞穂は鬼鮫を睨み上げる。
 最初に名前も顔も割れていたと言う事は、その辺は調査済みだったんだろう。しかし、この驚き方から能力までの調査は出来ていなかった、と言う事か。
 鬼鮫は鼻で笑い、痛みに呻く瑞穂を見下したように見下ろしている。
 瑞穂はじんわりと後から遅い来る鈍痛に顔をしかめていたが、片目を開き悟られぬよう視線だけで辺りをさりげなく探るように見渡している。
 この部屋はおそらく神父が使っていた個室になっていたのだろう。隣の部屋と同様に朽ちかけた本棚が一つとベッドが一つ。後は自室でも祈りを捧げられるようにと作られたベッドサイドに置かれている小さな机に小さなマリア像が一つ…。
 瑞穂はそのマリア像に狙いを定めると、意識をそちらに集中し始める。
 そんな瑞穂の様子に気づかない鬼鮫は、太腿を掴み上げている手に力を込めた。ギリギリと食い込む太い指が白く柔らかな内腿に痛みを与える。
 このまま握りつぶす事も出来なくは無い。しかし、それでは面白みにかける。
 鬼鮫は瑞穂をどのように料理するか頭の中で思考を巡らした。
 そんな鬼鮫の死角にあるマリア像が小さくカタカタと震え出し、フワリと宙に舞い上がる。
(銅で出来ている像だもの…。これがぶつかれば致命傷になるはずだわ)
 瑞穂はすっかりそちらに気をとられて、鬼鮫がその怪しげな瑞穂の様子に気がついた。そしてその視線の先に鬼鮫も顔を向けると同時に、ビュッ! と音を立ててマリア像が鬼鮫目掛け飛んで来た。
 ガツンッ! ゴリっ! と鈍い音を立て、明らかに頬骨辺りが砕けたような音が瑞穂の耳に飛び込んでくる。
 鬼鮫はマリア像のぶつかった衝撃に後方に仰け反るようによろめいた。そして掴んでいた瑞穂の足を解放する。
 鬼鮫はそのまま後ろ向きに倒れ、突然解放された瑞穂もまたその場にドサリと倒れこむ。
 白かった瑞穂の大腿部は、鬼鮫のきつく握り締めた痣がクッキリと残り、痛々しく見えた。
 砂埃を巻き上げながら倒れた鬼鮫は、マリア像の衝突に眉間を切り顔面を真っ赤に染めるほど大量に出血していた。砕けた頬骨は赤く腫れ上がり歪に窪んでいる。
 そんな顔面を押さえ、鬼鮫はゆっくりと起き上がる間に、瑞穂もズキズキと痛む大腿部、そして腹部と胸部を庇うようにふらつきながら立ち上がる。
「女…。てめぇ…」
 ギリギリと奥歯を噛み鳴らし、凄んだ表情はまるで般若のごとく歪んでいた。
 なめた真似しやがって…。鬼鮫は殺気立つ。
 瑞穂は荒く息を吐きながら、そんな鬼鮫の様子を窺っている。
 腰を低く落とし、攻撃態勢を取った鬼鮫は2度、3度足場を踏み鳴らすと先手を打ってくる。
 唸りを上げ繰り出された拳を、瑞穂はその細い腕でガードする。ガチンと痺れるような感覚が腕を駆け抜けた。
 瑞穂もその攻撃に応戦するように、ガードした腕とは逆の腕で鬼鮫の腹部に拳を繰り出す。が、攻撃を受けた事で先ほどのようなキレが多少欠けている。
 鬼鮫の腹部にミシリ…と当たるも、決して唸らせるような重さはない。
 腕をブロックされた鬼鮫はすかさず瑞穂の胸元を突き飛ばすように拳を繰り出す。
 ドフッ! と胸を強打した瑞穂は息がつまりそうになりながら後方へ数歩退く。続け様に鬼鮫は瑞穂の脇腹辺りを目掛け蹴りを繰り出した。
 ガツン! と音を立て、ギリギリでガードした瑞穂だったが勢いに押されよろめく。
 瑞穂も負けじと足を振り上げ、その細くしなる足を振り上げて鬼鮫のこめかみを目掛け蹴りを繰り出す。修道服の裾は大きくたなびき、形の整った仄白い尻が覗き見える。
 鬼鮫はそんな瑞穂の足を救い上げるように取り固めると、背中に膝蹴りを食らわした。
 ゴキンっ! と鈍い音を立て微かに瑞穂の身体は反り返った。
「うぎゃうッ!」
 まるで叩かれた犬が鳴くように瑞穂は大きな声を上げる。
 前のめりにふらつきながら歩みを進める瑞穂の腹部を、鬼鮫は重い蹴りを喰らわせた。
 ズドン! と腹部にかかる重圧。衝撃が身体を突き抜け、全身の感覚を麻痺させるかのような痛烈な蹴りだった。
「があぁあぁあぁぁぁっ!」
 大きく目を剥き、口からは胃液を吐き出す。後ろへ後ずさるように足を運ぶ瑞穂の足を払い上げた。
 バチン! と音を立て、ガン! と勢い良く瑞穂は地面に叩きつけられる。
 顔面を庇う余裕なくそのまま額を強く打ち付けるように地面に倒れこんだ瑞穂は、額を押さえ、背中と腹部に走る痛みから地面に倒れこんで身悶えを繰り返す。
 腹部を両手で押さえると、大きな胸は零れ落ちそうなほど突き出、丸めた身体によってその美脚も妖艶に宙を掻く。
「う、あ、あぁ…」
「オラ、立てよ」
 鬼鮫は瑞穂の髪を鷲掴みにするとそのまま上へ引き上げ、無理やりにもその場に立たせた。
 こいつの目はまだ死んでねぇ…。まだ存分に戦えるはずだ。
 鬼鮫は苦痛に歪む瑞穂の顔を睨み付けると、鬼鮫の目測通り瑞穂は攻撃の手を止めようとはしない。
 足を踏ん張って立ち、痛みに耐えながらも果敢に攻撃を仕掛けてくる。が、回数を重ねて攻撃を繰り返す度に瑞穂の動きは鈍くなっていく。
 鬼鮫はその瑞穂の頬を力いっぱい殴り上げた。
 バチッ! と大きく音を立て、瑞穂は叩かれた方とは逆の方へ思い切り首を振られる。その瞬間にかぶっていたヴェールが脱げ、グキリ…と骨の筋をおかしくするような感触もあった。
 よろめき、迂闊にも鬼鮫に背後を見せた瑞穂の臀部を、鬼鮫は思い切り蹴り飛ばすと瑞穂はそのまま地面に再び倒れこんだ。
 モクモクと砂煙が舞い上がり、瑞穂の着ていた修道服はたちまち白く汚れていく。
 勢い良く倒れた事で、スカートは捲れ上がり、瑞穂の白い両側の裏腿がやけに目立って目に映る。
「フン、大そう自信があったみたいだが、それほどでもないんんじゃないか? お前の方が…」
 鬼鮫の眉間の傷はいつの間にか塞がり、顔に血の跡を残して出血も完全に止まっている。
 うつ伏せに倒れこんだ瑞穂は、全身を抱くように両手で自分の身体を抱き、脂汗を浮かべながら左右に実を捩った。
 顔中埃まみれになりながら、脂汗で顔に張り付く茶色の髪がやけに色っぽい。振り乱した髪もそのままに、苦痛に顔を歪め何度もむせ返った。
「ゴホッゴホッ…ゴホッ…うぅ…」
 鬼鮫は小さく舌打ちをした。そして転がる瑞穂の腹部を目掛け、足を振り下ろした。
 ゴキッと骨の折れる音が響く。
「ぎゃああぁあぁぁぁあぁあぁぁぁッ!!」
 腹の底から湧き上がるような大きな悲鳴は、女性が発するには余りにも醜い悲鳴だった。
 鈍い音を立てて折れたのは瑞穂の肋骨の一部。先ほどとは比べ物にならないほど身を捩り、大きく身体を震わせていた。
 瑞穂の意思に全く反して無意識にビクビクと跳ねる体が、その傷の重さを表していた。