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Monastery of the blood.Y
闘志など、当の昔に無くなっていると思っていた。
床にうつ伏せに倒れこんだ瑞穂は、霞む視界の先にマリア像が転がっているのを見つける。それは、鬼鮫にぶつけた銅で出来たマリア像。
瑞穂は朦朧とする意識のどこかでそのマリア像を動かそうと試みているようだった。
カタン…と小さくマリア像が動く。これまでの打撃音と悲鳴が響いていた部屋からは想像も出来ないほど静まり返っている部屋に、その音は悲しいほどに大きく響き渡る。
鬼鮫はそちらを見ると、微かにマリア像が動いているのが目に入った。
こいつ…まだやるつもりなのか。
瑞穂の身体に足を掛け、少しの力を込めて向こう側へ転がすと何の抵抗もなく瑞穂の身体は天を向いた。
「面白い。まだやれるんじゃねぇか」
くっと短く笑うと、鬼鮫は両手を組むとゆっくりとそれを振り上げた。
「ひ…」
瑞穂は小さく怯えたように鳴く。
鬼鮫は振り上げた手を瑞穂の胸を目掛け、勢い良く振り下ろした。
ガスン! と押し潰され変形する胸に、とてつもなく重い振動が身体を突き抜け心臓が瞬間止まりそうになる。ビクッと身体を大きく振るわせた瑞穂の意識が鬼鮫に向く。その拍子にマリア像は動きを止め、ただの置物と化した。
「ひやあぁあぁっ!」
悲鳴を上げる瑞穂だったが、鬼鮫は非道にも再び同じ場所を目掛けその腕を振り下ろした。
グリュっと言う鈍い感覚。ドスンっと振動が全身を走ると同時に、両足がビクンと跳ね上がる。
瑞穂の胸は完全に変形してしまっていた。形の整っていたはずの二つの膨らみは、大きく窪んだ箇所と腫れ上がった箇所が一目瞭然だった。
その二つの膨らみを固定していた下着が衝撃で外れたのか、左右に流れるように広がっている。切れ目も更に広がり、変色した胸を垣間見せていた。
呼吸困難に陥りかけた瑞穂は、喉をヒューヒュー鳴らし大きく肩を揺らして苦し紛れの呼吸を繰り返した。
ビクビクと打ち震える身体は、無造作に投げ出されている。
鬼鮫は痙攣しているだけのように見える瑞穂の頭をガシッと力強く鷲掴みにする。
「良い度胸してるじゃねぇか…」
グッと手に力を込め、その力だけで瑞穂の身体を持ち上げる。
こめかみに走る激痛に、瑞穂は鬼鮫の手を振り解こうと数回両手で掻き毟った。が、当然のように手が離れる事はない。
キリキリ…とした鋭い痛みが頭全体を覆い始める。
「ひ…ぃ、あ、あぁ…あ…」
上体が浮き腰の辺りまで浮き上がると、鬼鮫は逆の手で瑞穂の首を掴み、更に空いた手で瑞穂のスリットから曝け出された白い太腿を掴み持ち上げる。
鬼鮫の身体の前で水平に持たれた瑞穂の身体は、強張ったように固くなっている。
ぐるりと辺りを見回すと、鬼鮫は瑞穂を抱えたままそちらに足を向けた。
「そろそろ終いとしようじゃないか」
ニヤリと笑い、次の瞬間には真顔になった鬼鮫は、瑞穂を勢い良く壁目掛け打ち付けた。
「ぃあぁあぁぁぁあぁっ!!」
頭上から降りかかる耐え難いほどの痛みに、瑞穂は涙を流す。目の前はチカチカとし完全に焦点が合わないのか、ガチガチ震えるように奥歯を噛み鳴らした。
ガツン! と言う壁と頭のぶつかる鈍い音。続け様に鬼鮫は再び瑞穂の頭を壁に打ち付けた。
ゴリン! と言う音と共に壁にピシリ…と亀裂が入る。
老朽化の為か、壁は割と脆くなっている。あと数回ぶつかれば大きな穴も空きかねない。
鬼鮫は3度同じ場所目掛け瑞穂の頭を勢い良く打ち付けると、ガツン、バラバラバラ! っと壁が崩れ、見る間に身体が腰の辺りまで壁の中に飲み込まれた。
完全に埋め込まれた瑞穂。壁から足を生やし、その足はビクビクと大きく痙攣を繰り返す。
垂れ下がった衣服の裾が瑞穂の長い足と変色した尻を大きく曝け出していた。
痙攣を起こす度に突き出た足はしなり、空を切る。
無様だ。まさかこんな風になるとは、本人も思っても見なかっただろうな。と、鬼鮫は小バカにしたように鼻先で笑った。
痙攣を起こしている足は時折意思を持って動くように何度も悶え、両足を摺り寄せたり大きくバタつかせた。
鬼鮫はそんな瑞穂の突き出た臀部に蹴りを喰らわせる。
バチン! と大きく打たれた音が響いた後に、腫れぼったくなった肉のブニュとした異様な感覚が鬼鮫の足に伝わる。
打たれた衝撃に瑞穂の足は激しく暴れまわった。その暴れ回る足が鬼鮫の頬を掠め通り頬に掠り傷を負わせる。
「…っち」
鬼鮫は苛立ったようにもう一度臀部に蹴りを食らわした。
ガスン! と音がなり、衝撃で瑞穂のめり込んでいる壁がパラパラと破片を落とした。
何度目かの蹴りの後、瑞穂は小刻みに痙攣を繰り返すようになっていた。鬼鮫はそんな瑞穂を壁から派手にガラガラ後音を立てつつ引き抜いた。
そのまま地面にうつ伏せに落下した瑞穂の姿は、当初からはとても想像すら出来ない哀れな姿に変わり果てている。
完全に意識が無くなり、無数の切り傷と打撲を負った傷まみれの顔は醜く歪んでいた。半開きに開かれた口からは唾液を垂れ流し、目は白目を剥きブヨブヨに腫れた顔はそれが女性だとは分からないほどに醜くなっている。
肩や身体をヒクヒクと小刻みに打ち震わせ、もはや目前に死が迫っていると言う事が明らかに分かるような状態だった。
鬼鮫はそんな瑞穂の様子を、冷たく見下ろしたまま黙って様子を窺っていた。
まだ、どこかに余力が残っているかもしれない。これだけしつこい女だからな…。
じっと眺めていると、瑞穂の開いていた左手がギュッと拳を握り締めたのを見つけると、鬼鮫は瑞穂の脇腹を今一度蹴り上げた。
ドスッと重い音がすると同時に、もはや悲鳴も上げない瑞穂の身体はゴロンと天を向き、間隔が長く浅い呼吸を繰り返した。
力なく倒れこみ、全身青痣と傷だらけになった彼女の姿は無様だった。
「…どこのどいつだかしらねぇが、随分と手こずったぜ…」
鬼鮫は起き上がる気配もない瑞穂を見下ろしながらコリをほぐすように首を左右に振り、肩を何度も動かした。
「こいつをここに残して置くと…まずそうだな。どこのどいつか素性は知れないが、ここまで手こずらせたんだ。ただの一般人じゃねぇだろうし…。誰かの任で来たんだとすれば…こいつが見つかる事と分が悪くなる」
独り言のように呟きながらしばし考え込む鬼鮫。地面でヒクヒクと痙攣を繰り返す瑞穂を見下ろし、しばし考え込んだ。
どちらにしてもここには置いて置けない。だとしたら、どこかに隠した方が身の為だな。
そう考えると、鬼鮫は瑞穂の首根っこを掴み、そのまま引きずり歩き出した。
扉を開き、大広間へ出ると天井や窓から傾き始めた陽の光が差し込んでいた。
照りつける西日は中央にあるマリア像を赤々と照らし、異様な不気味さをかもし出している。
地面に落ちた瓦礫を避ける事無く、鬼鮫は瑞穂を引きずり歩くと、ガツン、ゴツン、と瑞穂の身体が瓦礫にぶつかる音が聞こえてくる。
扉の傾いた入り口から鬼鮫は外へ出ると、その後瑞穂と共に行方を眩ませた…。
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