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<東京怪談・PCゲームノベル>


 冒涜の箱庭荒らし

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 異都カウンシルブレイス、その中心部にある公園。
 公園と呼ぶには広大すぎる、そこは民の憩いの場。
 この世界を創造したとされる神 "カウラ" を崇める場所。
 かつて、カウラが愛した庭。神の箱庭と語り継がれる。
 天気の良い昼時には、散歩を楽しむ家族の姿。
 日が沈んでからは、愛を語らう恋人達の姿。
 都に住まう民にとって、この箱庭は縁深い場所。
 神聖な場所であることは、誰もが把握している。
 それなのに。
 近頃、箱庭荒らしが出没している。
 咲き誇る花が無残に切り刻まれていたり、
 カウラの像に下品な落書きが施されたり……。
 犯行時刻は、箱庭が静まり返る明け方か。
 荒らしが広範囲なことから、複数犯かと思われる。
 この惨事を目の当たりにして、黙っているわけにはいかない。
 CLCとZERO、双方は揃って犯人の捕縛に乗り出した。
 双方が協力すれば、効率よく事を運べそうな気もするが。
 ……おそらく、その可能性は低いかと思われる。

 冒涜の箱庭荒らし。
 救えぬ愚人へ制裁を。

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 犯人を捕まえる。その算段を考じる為に。
 朔と小華は、現場であるカウラの箱庭へと赴いた。
 一応、事件現場ということで、今朝から一般民は立ち入り禁止になっている。
 予想以上に荒れている。かなり酷い有様だ。
 悪戯だとか、そんなレベルじゃない。悪意に満ちた荒行。
 何故に、ここまで躊躇無く荒らすことが出来るのか。
 妙に不気味で、少し怖くも思える光景。
「……酷い、ね、誰、やった、覚えて、る?」
「うにゅ〜……。泣いてるのね。可哀相なのね。よしよしなのね」
 同時に口を開いた朔と小華だが、二人の間には3メートルほどの距離がある。
 ポーチからとっておきの "薬" を取り出し、
 それを塗った布で、下品な落書きを施されたカウラ像を拭きながら語りかけている朔。
 見るも無残、バラバラに切り刻まれた花を手にとり、
 優しい手つきでそれを撫でながら語りかけている小華。
 表情こそ無表情であるものの、声色は沈んでいる。
 二人は別世界から来た移住者で、この都生まれではないけれど、それでも悲しいし理解る。
 ここが、どういう場所か。カウラとは、どういう存在か。
 CLCに入団してすぐ、白葉と目黒が教えてくれた。
 許すまじ、あるまじき行為。二人の内には、沸々と怒りが込み上げる。
 距離を保ったまま別々に語りかけて、およそ5分後。
 朔と小華は、また同時に口を開いた。今度は、顔を見合わせて。
「この人、鳥達、協力、して、くれる、って、言ってる」
「にぃに、この子達が協力してくれるって! 一緒に頑張ろって言ってるのね」
 朔の言う "この人" とは、カウラ像のこと。
 小華の言う "この子達" とは、植物のこと。
 お互いの言葉を耳にして、二人はニコリと微笑んでパチンと手を合わせた。


 現場下見、算段の考案を終えた朔と小華は、カウラ像の陰に隠れていた。
 時刻は、午前4時。箱庭はシンと静まり返っている。
 本部で夜食を食べてきたものの、退屈な待機時間は口寂しい。
 朔と小華は、お互いにポーチからお菓子を出し合い、頻繁に口へ放りながら待機。
 おそらく、そろそろ犯人が姿を見せるはず。時間的に。
 お菓子を頬張りながらも、朔と小華の表情は神妙なものへと変わっていった。
 そんな二人の背中を、ポンと叩く人物がいた。
「!!!」
 まさか、先に見つかってしまったのか。
 朔と小華はビクッと肩を揺らし、ゆっくりと振り返る。
 振り返った先にいたのは犯人ではなく。目黒だった。
「お疲れさん」
 その場にしゃがみ、気だるく敬礼をしながら苦笑して言った目黒。
 朔と小華は、フゥ〜と安堵の息を漏らした。
 明け方とはいえ、幼い二人だけでは心配だということで、目黒は様子を見に来たらしい。
 表向きは、ぶっきらぼうな男ということで通っているけれど、実はお節介なところがある。
 その実態を実感して、淡く微笑む朔とクスクス笑う小華。
「あのね、黒にぃに」
 犯人がまだ出現していないことを含めて、
 小華は、朔と一緒に考じた作戦を目黒に教えようとした。
 だが、すぐさま朔がバッと小華の口を塞ぐ。
 小華は目を丸くしたけれど、その理由をすぐに把握する。
「もうさ、真っ黒に塗り潰しちまおうぜ」
「ぶははは! いいな、それ」
「女神を染めるって、妙に興奮するな。くくくく……」
「ぷっ。俺色に……ってか? ぎゃはははは!」
 大声で喋りながら、カウラ像に近付いてくる男が3人。
 先頭を歩く男の手には、バケツ。 出た。犯人のお出ましだ。
 会話から察するに、持ってきたペンキで、またもや像に落書きを施そうとしているようだ。
 年齢は、おそらく20そこらか。ちょっとガラの悪い青年達。
「うーわ……。いかにもって感じだな」
 犯人らを見やってクックッと苦笑する目黒。
 おや。気付けば、朔がいない。目黒は首を振って探す。
 朔は、スタスタと犯人達に歩み寄っていた。目黒には、それが突飛な行動に思えた。
 何の考えもなしに、フラリと歩み寄ってしまったのではと。
 だが、違った。
「おっ? 何だ、このガキ」
「こんな時間に何やってんだ〜?」
 立ち止まり、進路を塞ぐ朔を見下ろして笑う男達。
 品位のカケラもない男達を見上げ、朔はポツリと言った。
「あなた方ですか。この人にあんなことをしたのは」
 いつもどおり、淡々とした口調ではあるけれど。
 その発言には、普段と明らかに異なる点があった。
「アレ? 朔、普通に喋って……」
 疑問を口にしようとした目黒だったが、小華がその口を塞ぐ。
 ニコリと笑い、小華は "ここにいて" のジェスチャーを残して朔の傍へ。
「花さんや木さんを傷つけたのは君たちなのに? みんな、怒ってるのね」
 朔の隣に立ち、同じように男達を見上げて言った小華。
 二人の発言と態度に、男達はゲラゲラと笑った。
「ナニナニ? もしかして説教?」
「ぎゃっはっはっ! イイコだねぇ〜」
 笑いながら、バケツを持つ男が一歩退いた。
 朔と小華に、ペンキを浴びせようと。
 だが、次の瞬間。
 フワリと、どこからか優しい風が吹き、小華を包む。
 風が止むと、小華の姿は別人と化した。
 長い黒髪を彩る小さな鈴蘭の花。バチバチの睫毛。頬は、ほんのりと桃色。
 能力を用いて "木精霊(ドライアド)" へと姿を変えた小華。
 瞬時に姿変したことに、男達も驚きを隠せない。
 怯んだ隙を突くようにして、小華は人差し指で空に文字を描いた。

 " L. s a n c i r e *** t o m a k e  s a c r e d ... "

 何だ? と男達は首を傾げる。
 その間抜け面は、すぐさま驚顔に変わった。
 小華が記した文字に応じるかのように、木や花が一斉に男達を襲ったのだ。
 枝の鞭がビシバシ。花びらのビンタがビシバシ。絶え間なくビシバシ、ビシバシ。
 ギャーギャーと騒ぎながら、慌てて逃げ出そうとする男達。尻尾を巻いて逃げるとは、このことだ。
 でも、逃亡は叶わない。そんなこと、許さない。制裁はキッチリと。
「逃がしませんよ」
 そう呟き、追い打ちをかけんと朔は吹き込んだ。魂を。
 魂を吹き込まれたカウラ像は、朔と一緒に逃げる男達を追いかける。
 箱庭に響き渡る男達の悲鳴、怒れる草花の叫び、カウラ像の優美なる足音。
 ただ闇雲に追い掛け回すだなんて愚かな真似はしない。着実な誘導追尾。
 とある場所、男達が同時に網を踏んだ。
 ザザザザザザザッ―
「!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「うぉー!?」
 まんまと罠に掛かった男達。
 ガバッと持ち上げられて、男達は網の中。
 見上げれば、嘴に網を咥えてバサバサと羽を揺らす鳥の大群がいた。
 捕縛されて悪足掻きすらできなくなってしまった男達。
 朔と小華、そしてカウラ像は男達を見上げて微笑み、んっ? と可愛らしく首を傾げた。
 無言の催促。男達は観念すると同時に、その催促の意味を把握し、声を揃えて言った。
「すみませんでした……」

 *

 事を終え、犯人らを都の東にある牢屋へ放り込んだ後。
 二人は箱庭へと戻り、報告を済ませた。
 この地を愛した、カウラへ。
 元の場所に戻って、いつもの優美な構えで箱庭を見やるカウラ像。
「元通り、良かった、ね」
 像を見上げ、淡く淡く微笑んで朔は言った。
 その隣で、目深くティガロンハットを被った、いつもどおりの姿の小華も続く。
「お仕置き完了なのね」
 肩を並べて大きな像の前に立つ小さな二人。
 その背中を見やって目黒は肩を竦めて笑った。
 様子を見に来るまでもなかったか。むしろ、余計なお世話だったか。
 何かあれば、すぐにでも加勢しようと思って来たのだけれど、出る幕ナシだった。
 苦笑する目黒は、二人が入団した事実を今更ながら嬉しく思った。
 訊きたいことなら、たくさんある。ほんの数十分の間に、疑問は山ほど。
 普通に喋れるのか? だとか、姿が変わったのはどういうことだ? とか。
 でも、口にはしない。何故って、そんなの野暮だから。
 ここは素直に、ただ一言。 "お疲れさん" だけで事足りるさ。
 気のせいかもしれないけれど、カウラ像の表情が、いつもより柔らかく見える。
 愛した場所。ここで、神は想いを馳せた。
 絶対無二の祈れる場所を。護るは民の務めかな。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7943 / 四葉・朔 / 16歳 / 薬師・守護者
 7944 / 四葉・小華 / 10歳 / 治療師
 NPC / 目黒 / 21歳 / CLC:メンバー

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 冒涜の箱庭荒らし 』への御参加、ありがとうございます。
 L. sancire *** to make sacred ... は、
 "神聖なる…" そんな感じの意味合いです。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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