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<東京怪談・PCゲームノベル>


 女神の生き血

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「ほんとに綺麗な人ばっかりだねぇ」
「そうか? 並じゃね?」
「早く捕まえなきゃ。私も不安だし……」
「ハハハハハ。大丈夫、それはない。何なら、鏡見て来い」
「何それ! バカっ!」
 ギャーギャーと言い争う灰蒔と目黒。
 いつものこと。放置して、白葉は再説明を続けた。
 テーブルの上に並ぶのは、女性の写真。
 灰蒔が言ったとおり、全員が美人さんだ。
 だが、彼女達は今、揃って監禁されている。
 3日前から都に出没しているコレクターの仕業だ。
 犯人は、美しい女性に狙いを定めて攫う。
 白葉の調査で理解った犯人の目的は "血"
 自称サイエンティストの犯人は、
 女性の穢れなき血液を "女神の生き血" として収集している。
 要するに、頭がイカれているのだ。奇犯以外の何物でもない。
 攫われた女性の親や兄弟から、涙ながらの依頼を受け、
 この度、CLCが犯人捕縛を承った。
 犯人の住処は、都南にある屋敷。
 おそらく、攫われた女性もここにいる。
 犯人の名前は、スライテラ。年齢27歳。
 かつては、どこぞの研究施設に勤務していた。
 初犯は3日前。自分の妻を殺めたことが始まり。
 相当イカれているようで、会話は成立しそうにもない。
 噂では、神経を麻痺させる針を持ち歩いているらしい。
 噂が事実ならば、女性を攫う際も、これを用いた可能性が高い。
 あくまでも噂だが、迂闊に近寄らないなどの警戒は必要だろう。
 最優先すべきは、攫われた女性の救助。
 白葉の調査で、必要な情報はほぼ揃っている。
 あとは現場へ乗り込み、遂行するだけ。
 決行時刻18時まで、あと1時間。

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「……こんなところかな。何か、質問はある?」
 読み上げた書類をテーブルの上に置き、朔と小華を見やって尋ねた白葉。
 灰蒔と目黒は、相変わらず言い争いをしている。
「……ちょっと、うるさい。そこ」
「だって目黒が―」
「そうだ。ウルサイぞ、灰蒔」
「……目黒もだよ」
 まず、緊張感というものがない。でも、いつものこと。
 どんなに凶悪な事件に携わることになっても、笑顔が絶えない。CLCは、そういう所。
 その姿勢を不満に思うことはないし、逆に良くも思える。救われるというか。
 油断すると深く難しく考えてしまう、そんな兄妹だからこそ。
 コクコクと紅茶を飲み、朔はポツリと呟いた。
「この人、狂ってる、ちょっと、わからない、僕、には」
 犯人、スライテラの写真を見やって呟いた朔。
 眼鏡をかけた、女顔のサイエンティスト。
 見た目こそ儚げに見えるものの、その裏には狂気。
 犯人を見やる朔の目は、軽蔑のそれに似ていた。
「僕、囮、なる。近づく、危ない、その、間、助ける」
 写真を見ながら提案した朔。
 自分が囮になるから、その間に女の子達を助けてあげて欲しい。
 大丈夫。僕には毒の類は効かない。神経系の麻痺も同様に。
 忌まわしき過去が、こんなところで役に立つとは思わなかったけれど。
 自ら囮になることを提案した後、朔は少しだけ過去を思い返して微笑んだ。
 そうか、きっと、こういうことなんだ。ね?
 納得した様子で、朔は首元にあるカウラの指輪をキュッと指で摘んだ朔。
 その行為に首を少し首を傾げた小華。
 兄の笑みが、あまりにも柔らかく優しくて。思わず感化されてしまう。
 何故かは理解らないけれど、置いていかれているような。そんな気がして。
「にぃに。小華も囮するのね!」
 クイクイと朔の袖を引っ張りながら言った小華だが。
「華、駄目。華、無理。危ない、ね」
 即効で却下されてしまった。
「うにゅ……」
 寂しい気持ちにはなるものの、落ち込みはしない。
 それならば、と小華は、すぐに別の提案を口にした。
「じゃあ、小華は女の子達の治療するのね」
「うん、それ、華、しか、できない」
 淡く微笑んだ兄。小華は微笑み返してウンウンと頷いた。
 一緒に歩く。距離を覚えてしまったら、すぐに追いかける。追いつけば良いだけの話。
 その為には、どうすればいいか。小華は、瞬時に客観的に自分を見つめることで答えを見出した。
 兄妹の絆。何気なくも、確かに確認できた、それ。
 白葉は目を伏せて微笑み、書類と写真をファイルに戻す。
「……じゃあ、そろそろ現場に向かおうか。目黒、車出して」
「へいへい」

 *

 犯人の住処がある南地区は、自然豊かな場所だ。
 交通の不便はあるものの、住めば都。
 余生を満喫しようと、老人が移住してくるケースが多い。
 犯人の趣味、趣向からして老婆が攫われることはないと思うけれど、
 それでも、近場に犯人が潜伏しているとあれば、老人達も不安だろう。
 ゆるやかに時間が流れる、とても和やかな場所に不釣合いな屋敷。
 犯人の住処を見上げて、一行は同じ想いを胸に頷いた。
 コソコソと隠れて潜入するだなんて真似はしない。
 間違いを正しに行くのだ。腰低くする必要なんぞ皆無。
 一行は、呼び出し鈴すら鳴らさずに、ドカドカと屋敷に踏み入る。
 屋敷の中は薄暗く、消毒液の香りが充満していた。
 各所に置かれているインテリアはアンティークの一点物ばかり。
 だが、折角のオシャレなインテリアも、この香りが染み付いてしまっては台無しだ。
 棚や壁に飾られたグロテスクな人形や絵も相まって、不気味な雰囲気をかもし出す。
「うにゅ〜……。可哀相なのね。悪趣味なのね。なのね」
 移動しながら、眉をひそめて小華は言った。
 アンティーク品を好む彼女にとって、この光景は "惨事" のそれだ。
 先頭を行くのは白葉。彼に続く形で朔と小華。
 最後尾を行く目黒は、キョロキョロと落ち着かない様子の灰蒔の後頭部をペシペシと叩きながら進む。
 事前の調査で、犯人の居所は判明している。
 最上階にある部屋。そこは、スライテラの研究室。
 おそらく、ここに攫われた女性たちもいるだろう。
 目的地へと辿り着いた一行は、顔を見合わせて頷いた。
 全員の心構えが完了したことを確認し、白葉はバンと勢い良く扉を開ける。
「はうっ……」
「くせぇ」
 扉が開け放たれた瞬間、ブワッと全身を包み込んだ奇妙な香り。
 すぐさま両手で鼻と口を覆って眉を顰めた灰蒔と、片眉を揺らして苦笑した目黒。
 無礼な来客に、窓際のスライテラは肩を竦めて笑う。
「何だい。無粋な人達だな」
 笑うスライテラの片手には、黒い注射器。
 今まさに、女の子の腕にそれを刺そうとしているところだ。
 女の子は気を失っているようで、こちらに気付いていない。
 部屋の隅には、黒い檻がある。鳥篭のようなものだ。
 檻の中には、攫われた他の女の子たち。
 中には意識のある子もいるようで、縋るような眼差しを向ける。
 非礼を詫びる? そんなこと、するはずがない。
 一行は、すぐさま二手に分かれた。
 犯人に向かって駆け出す朔、その後に続く灰蒔と白葉。
 小華は、目黒と共に女の子が幽閉されている檻に向かって駆け出す。
「うにゅ……。鍵が掛かっているのね」
「ま、そーだろな」
「鍵がないと開けられないのね」
「いや。ちょい、離れてろ」
 小華の腕を引いて後退させ、目黒は躊躇なく檻に掛けられた錠を蹴り付けた。
 ガシャァンッ―
 騒音が響き渡ると同時に、スライテラの腰に飛びついた朔。
 何の躊躇いもなく突っ込んできた朔を、浅はかだと笑って犯人は肩を竦めた。
 手に持つ注射器はそのままに、空いた方の手で懐から針を取り出して、
 それを朔の首へと差し込むスライテラの瞳孔が、カッと開く。
 初犯から3日。その間、こうして救助に来た連中は他にもいる。
 彼等は揃って地下室にある倉庫の中。異臭を放つ "汚物" として処理した。
 今回も同じ。麻痺させて、体の自由を奪ってから処理を施す。ゴミはゴミ箱へ。
「男の血は要らない。汚いからね」
 それは、決め台詞の役目を成した。
 そう、いつもなら。
「残念。効か、ない、よ」
「―!!」
 顔を上げて、ニコリと微笑んだ朔。
 すぐさまスライテラは朔から離れようとした。が……。
「てぇぇぇいゃぁぁぁぁっ!!」
 手遅れ。目の前には、閉じた傘、その先端。
 ドッー
「ぐっ……!」
 灰蒔の重く鋭い一突きに吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた犯人。
 両の手からポロリと、注射器と針が零れ落ちる。
 白葉は、すぐさま犯人に駆け寄って両手を拘束し、手錠を掛けた。
「……18時19分。確保」

 施錠の外れた檻から、女の子達を救い出した小華。
 気を失っている子を優先的に、小華は治療を施した。
 目を伏せて、歌うように何かを口ずさみながら触れれば、
 女の子たちの首元の紫痣は、スッと消えていく。
「おー。すげぇ。大したもんだ」
「静かにするのね。集中できないのね」
「あ、悪ィ」
「終わった子から順番に車に運んであげてなのね」
「へいへい」
 痣が消え、意識が戻った女の子を抱きかかえて運ぶ目黒。
 安心からか、女の子たちはポロポロと涙を零しながら目黒に抱きついた。
 全員が全員、揃いも揃って可愛い子だ。笑う目黒は、心なしか嬉しそうな表情。
「ま、女の趣味は悪くねーな」
 なんて呟きながら。来る前は "並じゃね?" とか言ってたくせに……。
 目黒を手伝う形で、女の子達を車へと運ぶ朔。
 執関(犯人を牢屋へ運んだり裁いたりする機関)への連絡を済ませた白葉と灰蒔も続く。
 ふと、灰蒔は朔の首元を見やった。不思議な現象が起きている。
 スライテラの針が刺さって傷付いた箇所が、みるみる治癒していくのだ。
 見やれど、小華は女の子の治療に専念している。ということは?
「朔くん、凄いね。それ、自分でやってるの?」
「ん、違う、勝手に、治る」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「……灰蒔。うるさいよ」
「だって! 凄いじゃんっ! 凄い凄いっ」
 目をキラキラと輝かせて言う灰蒔。
 お気に入りの特撮番組のヒーローと重ねているような感じなのだろう。
 興奮気味の灰蒔を横目に、白葉と目黒は苦笑した。
 果たして "凄い" と褒めて良いものなのか。喜ばしいことなのか。
 そう褒められて、朔は嬉しいのだろうか。
 何となく、踏み入ってはいけないところのような気がしてしまう。
 そんなことを案じて、目黒と白葉は苦笑を浮かべている。
 けれど、それは余計な心配だった。
 目を輝かせて、あれこれ尋ねてくる灰蒔に、朔は笑顔で応じている。
 遠慮なんてせずに、ズカズカと踏み入ってくる、そんな灰蒔の性格が救いになって。
「にぃに。凄いって。良かったのね。カッコいいのね」
 治療を終え、最後尾に合流した小華が、ポンと背中を叩いて言った。
 朔は、少し照れ臭そうに頷いて微笑む。
 振り返ってその表情を確認し、目を伏せた白葉。
 目黒は、朔に纏わり付く灰蒔を引っぺがしながら笑った。
「痛い痛い痛いっ! 離してよっ」
「ほんと、うるせーな。お前は」
「灰ねぇね、その傘、ねぇねの武器なのに?」
「んっ! そうだよー。カッコイイでしょ!」
「小華も欲しいのね」
「止めとけ、小華。女の子が、こんな物騒なもの持っちゃいけません」
「何それっ。あたしも女の子なんですけどー!」
「あー。ウルサイ」
 長居は無用。さぁ、帰ろう。
 今晩の献立でも相談しながら、賑やかなドライブで。

 一行が去った、そのすぐ後。
 連絡を受けた執関が到着し、犯人スライテラを拿捕。
 牢屋へと連行されるスライテラの口元には、奇妙な笑みが浮かんでいた。
 ヒラリと一枚、テーブルから落ちた書類。
 その書類は、シュワシュワと発泡し、やがて溶け消える。
 これで終わり? まさか。ゲームは、始まったばかり。
 ですよね? Mr.ジャムロッタ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7943 / 四葉・朔 / 16歳 / 薬師・守護者
 7944 / 四葉・小華 / 10歳 / 治療師
 NPC / 灰蒔 / ??歳 / CLC:メンバー
 NPC / 目黒 / 21歳 / CLC:メンバー
 NPC / 白葉 / 23歳 / CLC:メンバー

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 女神の生き血 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)