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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


 途切れた未来


「‥‥ここで春休みに『事件』があったわけね」
 神聖都学園高等部のグラウンドにて、斎瑠璃は夕闇に染まるそれを見つめていた。本来なら部活動が行われているはずなのだが、今は一人もいない。
「瑠璃ちゃん、ここ‥‥『いる』よ」
「いなければわざわざ繭神さんが私たちを呼び出すわけないでしょう」
 瑠璃と瓜二つの少女斎緋穂は傍らに立つ繭神陽一郎を見上げて「そうだね」と笑った。
 春休み、このグラウンドでは倒れたサッカーゴールの下敷きになって四人の生徒が亡くなった。そして新年度を迎えて。夕方を過ぎてから一人でサッカーボールを蹴っていると、その四人と思われる霊が現れるのだという。
 ただ未練を残しただけではなく、明らかに攻撃的な意思を持ってその霊たちは襲い掛かる。すでに三人のけが人が出ていた。とりあえず今週一杯グラウンドの使用停止となったのである。
「ただ呼び出しただけでなく、地縛霊をいたずらに煽って攻撃的にさせている人がいるみたいだよ」
 陽一郎の言葉に瑠璃の眉がぴくりと動いた。
「とりあえず今夜浄霊をしましょう。相手がちょっと多いから‥‥少し、助けを呼んでね」
「頼んだよ」
 そういうと陽一郎は双子に背を向けて歩き出した。



「面白い、依頼が……あるみたい、なんだ…。手伝って、くれない…?」
「面白い、依頼?」
 陽一郎から今回の事件の助っ人を頼まれた青砥・凛は、隣に立つ鐶葉・桂を見上げて頷く。
「神聖都学園の、高等部グラウンドに……霊が、現れて…。人を、襲っているみたい…なんだ」
「それは穏やかじゃないな」
「しかも…その霊を煽っている人物が、いるって…」
 凛の言葉に桂は眉間にしわを寄せた。
「人を襲ってる、か。ム、もし見逃して、死人が出たら嫌だからな」
 桂はその言葉で承諾を示す。正義感からではなく、見逃したせいで誰かが死ぬのが怖い――そんな心中を押し隠すように表情を硬くして。
「じゃあ…行こう…?」
 神聖都学園男子制服に身を包んだ凛は、桂を促して現場へと足を動かした。



「ここは……間違いなく、居るね……」
 夜の闇に包まれつつあるグラウンド。凛はそれをぐるりと見渡して呟いた。
「いるよー。サッカーボールを蹴ってたら出てくると思う」
 校庭で合流した双子のうち、髪の長い緋穂がサッカーボールを手に頷いた。
「僕たち…は、術者を探す…から、霊の呼び出しと浄霊は……任せるよ」
「ようは私達が囮ってことね」
 凛の言葉に短い髪の少女、瑠璃が呟いたが、彼女は否定しない。
「ムゥ……」
 その話を横で聞いていた桂は、年下の少女達を囮に使うという事に少しばかり抵抗を持ったが、これは必要な役割分担だった。霊を浄化できても操っていると思われる術者を退治できなければ、また同様の事件が起こる可能性が残ったままになるといえる。だとしたら、見逃すわけにはいかない。見逃したせいでこれ以上、誰かが死ぬのはごめんだ。
「では、屋上にいる」
 短く告げてコートをなびかせながら桂は校舎の方へ歩んでいく。
「よろしく……ね」
 凛も素早く彼の背中を追った。



 ――屋上。
 春とはいえ日が落ちれば若干肌寒い。そんな冷たい空気が凛と桂の肌をなでていった。
 フェンス越しにグラウンドを見下ろせば、緋穂がサッカーボールを蹴り始めている。
「殺気が漂ってる。煽って…操って、いるのは…誰…? どこに…」
 グラウンドでは出現した霊に対し、瑠璃と緋穂が応戦している。凛は術者の発する殺気を辿るように瞳を閉じた。周囲の気配を感じるように、感覚を研ぎ澄ませて行く。
 グラウンドから感じるのは4人の霊の殺気。それとは別に感じるのは、支配者のような気配。
「………桂、あそこの桜の木の…陰」
 目を見開いて凛が指したのは、校舎に程近いところに咲いている桜の木のうちの一本。グラウンドの照明を消しているせいではっきりと姿を見ることは出来ないが、凛が感じた気配は間違いなくあそこからで。昇ってきた月明かりが、わずかにそのシルエットを浮かび上がらせた。
「ム、桜よ」
 桂が小さく命令を送る。すると術者の足元で桜の根が、意思を持って土から姿を現し、術者の足首に絡みついた。
「ひぃっ!」
 小さく、悲鳴が聞こえた。対霊している双子には聞こえていないだろう。術者はどこに敵が居るのかと辺りをきょろきょろ見回している。
「――!」
 桂がフェンスを乗り越えた。そして上手く着地を決め、インラインシューズで一気に距離を縮める。その間に凛は手に持った符を投擲した。狙い過たずに命中した符は、足を束縛された事で暴れていた術者の上半身の動きを止める――束縛の符だ。
 動きが止まってしまえばそれは絶好の的でしかなく、桂の拳が術者の腹部にめり込む。
「ぐえぇっ‥‥」
 嘔吐に近い叫び声を上げた術者は中年の男で、あまり強そうには見えなかったがそれでも少しばかりの防御はしているらしく、顔をしかめて符を剥ぎ取った。
 自由を取り戻した術者は桂に反撃すると思いきや、狙ったのは彼の後方――屋上から降りて駆けつけてきた凛だ。霊力を凝縮させたような玉を、彼女に投げつける。
「っ……」
 紙一重で避けたように見えたが、その玉は凛の足首をかすっていた。ズボンの裾に切れ目が走る。
 だが術者が凛に攻撃した隙を、桂は見逃さない。勢いつけて装甲つきのインラインシューズで術者のわき腹を打ち据える。
「余所見、しないほうが……いいんじゃない、かな……」
 凛が、呟いた。それは警告のようでもあり、ただの感想のようでもあった。
 そして彼女は名刀【兼定】を取り出し、符をぺちりと貼り付ける。
 相手は今、桜の根に足を取られて動けない。飛んでくる霊気にさえ気をつければ、武器を調える余裕もある。
 桂に打ち据えられた男は上半身を折るようにしながらも印を組もうと悪あがきをする。だが側に居る桂が、それを許さない。拳と蹴りで、術者の動きを封じる。
「…桂」
 近づいてきた凛を伸ばし放題の前髪の下から見つめ、桂は頷いた。
「――せめてこの月光、送り火代わりにくれてやる」
 月を背負って発せられた桂の言葉。
 兼定を構える凛。
 術者が見た2人は、月の魔力もあってか恐怖をかき立てるもので。
「ギャァァァァァァァァァッ!」
 痛みと恐怖に彩られた術者の叫びが、夜のグラウンドに響き渡った。



「そっちは、終わった……ようだね」
「そうね。そちらも首尾は上々みたいね」
 霊気と殺気が無くなったことを確認し、凛&桂と瑠璃&緋穂は合流する。浄霊に当たっていた双子のほうも無事に終了したようだった。
「こいつが、何のために、霊を操っていたのかはわからないが」
 足元に転がっている術者を一瞥し、桂は呟く。
「後は陽一郎さんに任せようか」
 緋穂がしゃがみこんで術者を覗き込みながら言った。
「…そう、だね……」
 陽一郎なら悪いようにはすまい。
「手伝ってくれた礼は言うわ」
「……繭神さんに頼まれた…から…ね」
 理由はどうであれ、双子と協力して事件を解決させた事には変わりない。
「彼に連絡をして、術者を回収してもらうまで、もう少し付き合ってもらってもいい?」
 瑠璃は携帯を取り出し、早速耳に当てる。
 陽一郎を待つ間術者が目覚めてしまった時のことを考えれば、もう暫く側についていたほうがいいだろう。
 凛と桂は顔を見合わせて、頷いた。



■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
・3636/青砥・凛様/女性/18歳/学生、兼、万屋手伝い
・7928/鐶葉・桂様/男性/18歳/学生×月夜駆り×ゴーストスイーパー

■ライター通信

 いかがでしたでしょうか。
 お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
 出来得る限り気に入っていただけるようにと心を籠めて執筆させていただきました。
 楽しんでいただけましたら幸いです。

 気に入っていただける事を、祈っております。
 書かせていただき、有難うございました。

                 天音