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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


 途切れた未来


「‥‥ここで春休みに『事件』があったわけね」
 神聖都学園高等部のグラウンドにて、斎瑠璃は夕闇に染まるそれを見つめていた。本来なら部活動が行われているはずなのだが、今は一人もいない。
「瑠璃ちゃん、ここ‥‥『いる』よ」
「いなければわざわざ繭神さんが私たちを呼び出すわけないでしょう」
 瑠璃と瓜二つの少女斎緋穂は傍らに立つ繭神陽一郎を見上げて「そうだね」と笑った。
 春休み、このグラウンドでは倒れたサッカーゴールの下敷きになって四人の生徒が亡くなった。そして新年度を迎えて。夕方を過ぎてから一人でサッカーボールを蹴っていると、その四人と思われる霊が現れるのだという。
 ただ未練を残しただけではなく、明らかに攻撃的な意思を持ってその霊たちは襲い掛かる。すでに三人のけが人が出ていた。とりあえず今週一杯グラウンドの使用停止となったのである。
「ただ呼び出しただけでなく、地縛霊をいたずらに煽って攻撃的にさせている人がいるみたいだよ」
 陽一郎の言葉に瑠璃の眉がぴくりと動いた。
「とりあえず今夜浄霊をしましょう。相手がちょっと多いから‥‥少し、助けを呼んでね」
「頼んだよ」
 そういうと陽一郎は双子に背を向けて歩き出した。



 ー・ミグが宵の口のグラウンドにやってくると、双子がすでに待ち受けていた。
「また力を貸してくれるんだね、ありがとう!」
 緋穂の無邪気な笑顔に、ミグは器用に携帯電話を操る。
 ピロリロリロ〜。
 緋穂の手にした携帯電話がメールの着信を知らせ、そしてその画面には『気にするな』とミグからのメッセージが入力されていた。彼は人語を話せない代わりに器用に携帯電話を操作し、メールで意思疎通を図るのだ。
「あなたが以前緋穂を助けてくれたのね」
 前に緋穂が草間興信所に持ち込んだ依頼でミグは緋穂を助けていた。その時怪我で臥せっていた瑠璃が、礼を言う。
『それで、今回の事件の事だが』
「あ、うん。一度に四人も、だからね‥‥」
『偶然、倒れたサッカーゴールの下敷きになったか、何者かが何らかの形で四人の動きを封じた上、ゴールを倒したか』
 緋穂の手元の携帯を、瑠璃が覗き込む。
「私は故意に殺されたのだと思うわ。別に四人の中の誰かに恨みがあったとかいうわけではなくて、沢山殺してこの場に未練の霊気を溜めて連鎖的に事件を起こすのが目的じゃないかしら」
 今は元に戻されたサッカーゴールを時折見ながら、ミグは携帯のボタンを押す。
『霊たちは自分達の仲間を増やすべく、襲い掛かってきたんだろう』
 だがいくら未練があるとしても仲間を増やさせるわけにはいかない。これ以上の被害を出すわけにはいかないから彼らはここにいるのだ。
「じゃあ、そろそろ‥‥」
「ウキー!」
 と、緋穂がサッカーボールを地面に置こうとしたとき、どこからか甲高い声が聞こえた。ミグはその声に聞き覚えがあるのか、わずかに表情をゆがめる。
「ウキキ‥‥(訳:見つけたで、ミグ)」
「グルルルル‥‥(訳:佐介か)」
 しゅたっとその場に飛び出てきたのはニホンザルのー・佐介。ミグとは犬猿の仲らしく、喧嘩を吹っかけるために追いかけてきたようだが‥‥。
「ウキ、ウキキキ‥‥(訳:よりによってなしてこないな所におるんや)」
「グゥ? グルルル(訳:何? それはどういう意味だ)」
「えっと‥‥私達にもわかるように説明してくれると嬉しいな?」
 ミグと佐介は人語がわかるが、瑠璃と緋穂は狼語も猿語もわからない。二匹の側にしゃがみこんだ緋穂に首を傾げられて、佐介は喋りつつも携帯電話を取り出した。彼もまた、携帯メールの送信が出来るようだ。
『二日前の夕方にな、偶然ここをのグラウンドで高見の見物をしとったんや。そこにサッカー部員の幽霊が現れよって、幽霊やから太刀打ちできんかったんや』
「グルル、ルルルル(訳:つまり、逃げ帰ったということだな)」
「ウキー!? ウキキ、ウキー!(訳:なんや、逃げ帰ったちゃう、戦略的撤退というやつや!)」
「‥‥良くわからないけどつまり、サッカー部員の霊と、操っている術者を倒せば丸く収まるよわね?」
 顎に手を当てて考えるようにした瑠璃の顔を見て、佐介は顔色を変える。
「ウキキ‥‥(訳:そいつを片つければええんか? ほな、こないだのオトシマエつけたるでーっ!)」
「じゃあ、はじめようか」
「グルル‥‥(訳:わかった)」
「ウキー!(訳:やっつけてやるでー!)」
 こうして2人と2匹の討伐劇が始まったのである。



 瑠璃がサッカーボールを蹴ると、程なくして四体の霊が現れた。ミグは瑠璃を下げ、ロシア兵の霊を複数召喚した。
「グルル‥‥!(訳:行け!)」
 近づかれる前にロシア兵は機関銃の射程を利用して怨念を放つ。
 ダダダダダ‥‥飛んでいく怨念はサッカー部員の胸部に命中し、穴を空けていく。そこで不利を察したのか、サッカー部員達はゴール間際まで下がって行った。それを追いかけるようにするロシア兵。
「!」
 おびき出されている、ミグの直感がそう告げていた。
「グルゥ! グルルル‥‥!(訳:待て! 罠が仕掛けられているぞ!)」
 叫んだが一足遅く。
「あっ!」
 ロシア兵達がとある位置に辿り着いたその時、まばゆい光が爆発して――瑠璃も思わず声を上げた。
 光が爆発した後には、ロシア兵たちは一人も残っていなかった。
 この場に残っていたのが緋穂であったなら、設置されていた罠に気がついたかもしれない。だが残っていたのは浄霊能力に長けてはいるが感知能力はあまりない瑠璃。事前の感知はできなかった。
「霊気を地雷に変えたのね‥‥」
 瑠璃が爪を噛む。と、ミグが前へと走り出た。
「グルゥッ! グルルル‥‥(訳:このままじゃ済まさないぞ)」
 怨霊をミサイルに変えたミグは、他に設置されていたと思しき地雷を次々と破壊していく。一歩近づくごとに一つずつ。
 そして、サッカー部員の霊にひときわ近づいたとき。
「!」
 何かに阻まれるようにして、ミグの身体は動かなくなった。


「そこ、あの桜の木の陰!」
「ウキー!(訳:任せときな!)」
 緋穂と共に術者を探していた佐介は、明らかに挙動不審な男を見つけていた。グラウンドではミグと瑠璃が幽霊をおびき出して戦いが始まっている。それを眺めるようにしている男は、グラウンドの側の桜の木の陰に身を隠すようにしていた。
 緋穂に声をかけられて、佐介は一足飛びに術者との距離を詰めて仕込み杖を抜き放つ。
「うわぁっ!?」
 恐らくグラウンドの戦闘を注視していたのだろう、術者が情けない声を上げてよろめいた。その背中には斜めに傷跡が走っている。
「何だ、お前らは!」
「ウキキー!(訳:それはこっちの台詞や! お前があの霊を操っていた奴か!)」
「良くわからんが‥‥やってくれたな!」
 術者は背中から血を流しながら佐介と緋穂に向き直る。懐から何かを取り出そうとしていたが、それよりも佐介の動きのほうが早い。
「っ‥‥!」
 切り裂かれた手首。はらりと落ちた符。どうやら男は符で迎撃しようとしていたようだ。だが符を投げるよりも、印を組むよりも、間合いを詰めた佐介のほうが動きが早い。
「キキー!(訳:オトシマエつけさせてもらうで!)」
「あ、背後関係調べるから、殺さないでね!」
 佐介が仕込み杖を振りかざし、術者の足元を狙う。機動力を奪ってしまえば逃げられやしまい。後ろでは緋穂が束縛の符の用意をしていた。
「うがっ‥‥!」
 ふくらはぎを傷つけられた痛みで術者が膝を折る。緋穂が念のために束縛の符を投げる。
 その時――
「「!?」」
 グラウンドでまばゆい光が破裂した。



「ヴグルルル‥‥(訳:くそ、結界か‥‥)」
 ミグはサッカー部員の手前で動けずにいた。幽霊達にこのように芸当が出来るとはおもえないから、恐らく術者が事前に仕掛けておいたのだろう。サッカー部員達はじわじわとミグへと迫る。うつろながらまるで獲物をなぶるようなその視線に絶体絶命のミグだったが‥‥
「ウキー!」

 バリン‥‥!

 ミグとサッカー部員達の間に素早く飛び込んだ佐介が仕込み杖を一閃する。すると目には見えない『結界』が音を立てて割れた気配がした。佐介の結界斬りだ。
 結界が破れると同時に、ミグを束縛していたものが外れる。
「グルル‥‥(訳:一応礼は言っておく)」
「ウキー!(訳:せいぜい感謝するんやな)」
 得意げに笑う佐介だが、対霊能力は持っていない。そちらに関してはミグが頼りだ。ミグは再び怨念をミサイル化させてサッカー部員を狙う。
「グルゥ! グルルルル!(訳:まとめて片付けてやる!)」
 何弾ものミサイルが、素晴らしい破壊力をもってサッカー部員達を貫いた。



 グラウンドに渦巻いていた嫌な気が嘘の様に消えていた。
 霊気と殺気が無くなったことを確認し、2人と2匹は合流する。符と傷で動きを止めていた術者は、いつの間にか気絶していた。
「ウキー、ウキキキ(訳:こいつが、何のために霊を操っておったのかはわからへんが)」
 足元に転がっている術者を一瞥し、佐介は呟く。
「後は陽一郎さんに任せようか」
 緋穂がしゃがみこんで術者を覗き込みながら言った。
「グルル‥‥(訳:そうしてくれ)」
 陽一郎なら悪いようにはすまい。
「手伝ってくれた礼は言うわ」
 素直にありがとうと礼を言えばいいのに、瑠璃が可愛げのない言い方をする。
「彼に連絡をして、術者を回収してもらうまで、もう少し付き合ってもらってもいい?」
 瑠璃は携帯を取り出し、早速耳に当てた。

 春とはいえまだ夜風は冷たい。
「グル‥‥(訳:借りが出来た)」
 ミグは不本意そうに小さく呟いた。


■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
・7274/ー・ミグ様/男性/5歳/元動物型霊鬼兵
・7928/ー・佐介様/男性/10歳/自称 『極道忍び猿』


■ライター通信

 いかがでしたでしょうか。
 お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
 出来得る限り気に入っていただけるようにと心を籠めて執筆させていただきました。
 大阪弁に少し自信が無いのですが…(笑)
 楽しんでいただけましたら幸いです。

 気に入っていただける事を、祈っております。
 書かせていただき、有難うございました。

                 天音