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志願書
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正解、不正解はない。
当たり、外れもない。
要は、気持ちの問題だ。
向き不向きもあるかもしれないけれど。
一番大切なのは、自分の意思だろう。
都の安全を確保し、都に尽くす【CLC】か。
教えを説き、迷い子を救う【ZERO】か。
時は満ちたのだ。もう迷っている暇はない。
何の為に、ここへ来た? 目的は何だ?
ただ、存在意義を。
散々悩んだ。散々迷った。これ以上ないほどに。
悔いなんぞあるものか。寧ろ清々しい。
フゥと息をひとつ吐き落として立ち去る。
ポストへ投函した志願書。
たかが志願書、されど志願書。
目に留めて貰えねば、志願もクソもないけれど。
意思を伝えねば、何も始まらない。
異都【カウンシルブレイス】
赴いた、その目的を果たす為に。
さぁ、どうなる。
宿泊先であるホテルへと戻る最中、高揚。
数日以内に結果は理解ることだろう。
このまま都の住人になれるか。
尻尾を巻いて逃げることになるのか。
どっちだ。イエスか、ノーか。
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幼い頃から、祖父に聞かされていた話。
それは、まるで御伽話のようで。
聞く度にワクワクした。
魔法の世界。魔法が、当然の如く存在する世界。
祖父の話し方が、また巧みで。つい、先をせがんでしまうくらい。
耀司は、毎夜聞かされる、その話に夢を馳せた。
本当に存在するのなら、いつか行ってみたい。
そして、自分も魔法使いになりたい。
色んな魔法を覚えて、強くなるんだ。
そして、たくさんの人を助けたい。
困っている人を、魔法の力で助けてあげたい。
いつかは、ドラゴン退治なんかもしたりして。
そうやっていく内に、どんどん有名になって。
いつか "大魔法使い" として名を轟かせたりして。
それから、それから、それから……。
思い描いているうちに、いつの間にか眠ってしまう。
ふと目を開けば、いつだって朝で。
その度に、ちょっと悲しい気持ちになったりもした。
所詮は、御伽話。夢の話。幻想の話。
自分が魔法使いになるなんて、夢のまた夢。
魔法の世界が実在するのは、夢の中だけ。
子供心に、それは "悟り" だった。
そんなこと、ありえない。
いつしか、耀司は、そう自分に言い聞かせるようになった。
そうすることで、妄想に歯止めを効かせた。
*
「…………」
ふっと目を開けば、見慣れぬ天井。
耀司は、ゆっくりと体を起こして辺りを見やる。
あぁ、そうだ。俺は今……―
ここは、異都カウンシルブレイス。
どこともいえぬ世界。例えて言うなら、そう、異世界。
耀司は、自らの意思でここに来た。
来訪の目的は、夢の実現。
何を言っているのやら、と自分でも思う。
けれど、実在したんだ。魔法の世界は実在した。
爺さんが聞かせてくれた御伽話は……実話だった。
現に、俺はこうして来訪している。夢じゃない。
夢だったのは、さっきまで。眠りの中での回想まで。
目を覚ました今、映る景色は、世界は、どれも事実で本物。
窓辺に歩み寄って見下ろせば、魔法の小瓶を売る老婆。
空には、魔力で飛行している魔空挺。
道の隅には、未熟な魔法を撃ち合って遊ぶ子供たちの姿。
今、この目が捉えているのは、夢でも理想でもなくて……現実。
窓から景色を見下ろす耀司の口元に、淡い笑みが浮かんだ。
ワクワクしている。そんな自分が滑稽に思えた。
何も変わっちゃいない。俺は、昔から何ひとつ。
ありえないって言い聞かせてたんだけどな。
結局、認めることが出来ないまま、今日まで生きてきたのか。
夢の話だと、そう割り切ることができたフリをして。
(ガキだな。まるっきり)
苦笑しながら、ソファに腰を下ろした耀司。
ふと見やる時計。時刻は、14時20分。
時刻を把握した耀司は、フゥと息を吐き落とした。
平然を装ってはいるものの、内心そわそわ。
落ち着かぬ理由は、ひとつ。
"結果待ち" の現状。
昨晩、この世界に到着するや否や、耀司はポストに投函した。
CLCという組織への加入を希望する旨を記した手紙を。
幼い頃、夢を馳せた夜。
魔法の力で人を助けたい。
その願いを叶える為に、必要な過程。
御伽話の中、登場した組織。ヒーローが集う組織。
それもまた、ちゃんと実在していた。
耀司が、すぐさま志願書を投函したのも、当然の成り行き。
いわばこれは、夢の続き。幾夜も馳せた想いを、現実で。
誰も見ていないとはいえ、今の自分は酷く滑稽だ。
いい歳してワクワクしてるだなんて、みっともない。
俺らしくもない。落ち着けよ、ちょっと落ち着け。
そうして言い聞かせていると、コツコツと扉を叩く音。
どうぞ、と促せば、滞在しているホテルの従業員が扉を開けてペコリと一礼。
「お届けものです」
そう言って従業員が差し出したもの。
それは、CLCからの通達だった。
受け取った葉書を引っくり返して見やれば、そこには吉報。
CLCから、面接をさせて欲しいとの要望が記されていた。
耀司は、すぐさま部屋を飛び出す。
慌てて飛び出して行った耀司の背中を見やって従業員は笑った。
何度も目にしている光景。
入団を希望して、外界から来訪する者。
まだ、正式に入団が決まったわけじゃないけれど、
面接までこぎつけることの難しさは、一般民も知り得ている。
だからこそ、嬉しい気持ちになるのだ。
合格できますように、だなんて祈ってしまうくらい。
他人事だとは思えない。ここは、始まりの場所だから。
去りゆく耀司の背中に、従業員は、またペコリと頭を下げた。
14:40 CLC本部―
迷うことなく到着した。
そのスピードは、常軌を逸していたのではないか。
この世界に来たばかりの者とは思えぬほどの速さ。
あまりの迅速さに、驚きを隠せない様子。
耀司の向かいに座っているのは、目黒と白葉。
名は体を表すとは言うもので。黒髪のほうが目黒で、銀髪のほうが白葉だ。
二人は、CLCの中心メンバーで、至る所で活躍している。
都で彼らの名を知らぬ者はいないほどだ。
「……えぇと。耀司。早速だけど、面接良いかな」
暫しの沈黙の後、志願書を手にして言った白葉。
耀司が頷くと、白葉は志願書を確認しながら確認を進めていく。
「……この、性分っていうのは、どういうことかな」
「何かを、誰かを護っているほうが、俺の性分に合っていると思うんでな」
「……なるほどね。それなら、うちのほうが向いてるね」
「あぁ。人に教えを説いて導くなんぞ、俺には無理だ」
「……ちょっとトゲのある言い方に聞こえたけど」
「そうか? そんなつもりはないが。向こうは向こうでアリだとも思う」
「……そっか。まぁ、いいや。じゃあ、この特技っていうのは?」
「身体能力には自信がある。特に機動力だな。人並み以上だと自負している」
「……へぇ。自信満々なんだね」
「都内外問わず、何かを探す、追うなどの時には重宝するはずだ」
「……うん。本当なら、頼もしいかな」
「何なら、見せようか。いま、ここで」
「……あ。ううん。大丈夫。その必要はないよ。目黒がいるからね」
極めて無表情に近い状態で目黒を見やった白葉。
何でも、目黒は一目見ただけで、潜在能力を、おおよそ把握できるのだそうで。
本当なのかどうかは理解らない。
けれど、白葉の表情を見る限り嘘を付いているようには思えない。
腕を組んで座る目黒を見やりながら、耀司はフムと頷いた。
「……能力的には問題なさそうだよね?」
ポツリと呟くようにして尋ねた白葉。
目黒は、組んでいた腕を解いて、ググッと伸びながら言った。
「そーだな。いいんじゃないか」
「……うん。じゃあ―」
「あ、ちょっと待った」
「……ん?」
「俺からも質問させてくれ。一個だけ」
「……別に良いけど。すれば?」
目を伏せ、志願書をファイルに収めながら白葉が言うと、
目黒は、ジーッと耀司を見つめながら尋ねた。
「お前、初めてじゃないだろ」
「? 何がだ?」
「ここっつーか、この世界に来たの」
「いや……」
「だって、どう考えてもおかしいんだよ」
笑いながら目黒は言う。
ここ、CLC本部は、都の繁華街にある。
特に看板のようなものを出しているわけでもなし、
パッと見は、どこにでもある普通のビルなのだ。
この世界を知らぬ者ならば、まず素通りしてしまう。
散々ウロウロして、人に尋ねたりしながら探す。
見つけるまでに、かなりの時間を要するのだ。
そう、普通なら。外界から来たばかりの者なら。
けれど、耀司は迷うことなく辿り着いた。
確認もなしに、ズカズカと入ってきた。
目黒は、2階の窓からそれを見ていたのだ。
その姿は、まるで、何度も足を運んでいるかのようだった。
迷いも躊躇いもない。
間違っているかもしれないだなんて、微塵も感じさせない足取り。
「…………」
目黒の推理的発言に、耀司は口ごもってしまう。
どうするべきか。素直に言うべきなのか。
何度も聞かされた、御伽話の中に出てきた場所だからと。
いやいや。そんなこと言ったら馬鹿にされてしまうのではないか?
見た目こそクールなのに、以外と可愛いところがあるんだなぁと笑われてしまうのでは?
そう思うと、ますます口ごもってしまう。
だからといって、沈黙を続けるのもどうだ。
結局、同じことになってしまうのではないか。
26年間生きてきて、その中で確立した "自分らしさ" という名の自尊心。
揺れる耀司の心は、見かねるほどに不安定なものになっていった。
「ハハハハハハ!」
「な……」
突然、目黒が笑いだした。
耀司は微妙に驚き、僅かに肩を揺らしてしまう。
笑う目黒に苦笑し、白葉は言った。
「……やめなよ。本当、意地悪だね」
その言葉の意味は? 理解らない。どういうことだ。
どうすべきか悩んでいた俺の姿を面白可笑しく見ていたということか?
それとも、まさか、悩んでいた理由も何もかも把握してー
「よっしゃ。入団記念だ。とりあえず飲もうぜ」
クックッと笑いながら、立ち上がってキッチンへと向かって行く目黒。
新しい仲間を歓迎する為の、とっておきのワインがあるらしい。
面接の結果、晴れて合格し、CLCに加入できたわけだけれど。
耀司の心中は、微妙に濁っていた。
どういうことだ。さっきの言葉の意味は?
あぁ、くそ……。気になる……。俺らしくもない……。
*
歓迎酒を飲みながら、白葉から説明を受けた耀司。
都についての説明から、組織の活動について、組織のルールについて。
あれこれ聞かされたけれど、その中でも耀司が一番真剣に聞き入ったのは、
この世界、この空間にしか存在しない "魔法" に関する事柄だった。
神聖なものとして、神の業として、都で大切にされ続けてきた魔法。
体術に該当する動きに乗せて放つ攻撃的なタイプと、
人体の傷や物体の損傷を癒し、或いは元に戻す治癒タイプ。
「……多分、君ならすぐ使えると思う。明日にでも教えるよ。簡単だから」
「あぁ。よろしく頼む」
白葉の言葉に、そう返した耀司の目は、少年のように輝いていた。
まぁ、当然の如く、それを悟られぬように、
すぐさまクールな表情に戻して、はぐらかしたわけだけれど。
夢の続きを、いま、この瞬間から。想い馳せた、夢の続きを。
メンバーの証として受け取った指輪を "存在意義" だと誇れるように。
Paradox of feelings. Never try to disguise your heart.
相反混在。心の願いを偽るなかれ。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7426 / 秋月・耀司 / 26歳 / 退魔士
NPC / 目黒 / 21歳 / CLC:メンバー
NPC / 白葉 / 23歳 / CLC:メンバー
こんにちは、はじめまして。いらっしゃいませ。
シナリオ『 志願書 』への御参加、ありがとうございます。
証アイテムである "カウラの指輪" を贈呈致しました。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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