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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


遅れてきた危険な雛祭り
●オープニング【0】
「お店の前にこんな木箱が置かれていたのですが」
 朝、店の前の掃除をしようとほうきを手に出ていったはずのアリアが、そう言いながら木箱を抱えて店内に戻ってきた。
「うん、木箱だって?」
 新聞に目を通していたアンティークショップ・レン店主の碧摩蓮は、新聞から顔を挙げて目の前に置かれた木箱に目をやった。なるほど、確かに木箱だ。それも年代物だと分かる物……100年は確実に経過しているのではないだろうか。
「どれ」
 木箱を開け、中を確認する蓮。そこには綺麗に着飾った女雛が鎮座していた。顔立ちもなかなかよろしいのではないだろうか。
「……これだけかい?」
「はい。それだけです」
 蓮の質問に間髪入れず答えるアリア。
「なるほど、男雛はなかっ……」
 そこまで言いかけて、蓮が何かに気付いた素振りを見せた。女雛に顔を寄せ、何故かくん……と匂いを嗅ぐ蓮。
「……ふん」
 蓮は木箱の蓋を閉じるとすぐさまアリアに指示をし、自身は店の奥へと向かった。
「悪いけれど、腕の立つ連中何人かにすぐ連絡しておくれ。時間は今日23時、場所は……近くに統合でなくなった小学校あったろう? そこのグラウンドでいいよ」
「分かりました。でもどうしてですか?」
 アリアのもっともな疑問は、店の奥から戻ってきた蓮の行動が答えとなった。
「そりゃあもちろん、こういうことさ」
 何やら呪文らしき物が記されたお札を、蓮は木箱を封印するかのように張り付けたのである。
「さて、あいつにも連絡はしておかないといけないかねえ……」
 ぼそっとつぶやく蓮。いったい誰に連絡するつもりなのだろうか。
 それはそれとして――アリアはあちらこちらに連絡を始めるのであった。

●煎餅片手に【1B】
 夜の20時過ぎ――アンティークショップ・レンを訪れる2人の姿があった。守崎啓斗と守崎北斗の兄弟である。
「こんばんはー……っと」
 入ってそうそう、店内をぐるりと見回す北斗。店に居るのは蓮とアリアの2人だけだった。
「ありゃ、俺たちが一番乗り? それとも他の皆は直接来んのかな」
「たぶんあんたたちだけさ。来たのは」
 北斗の言葉に、蓮がさらっと返した。
「……俺たちだけだってさ、兄貴」
 後ろに居た啓斗の方を向き、苦笑いを浮かべる北斗。
「そうか。それは……事と次第によっては……ふむ……」
 何やら思案顔で、少し言葉を選んでいる様子の啓斗。が、すぐに蓮の方へ向き直り尋ねた。
「で、件の女雛とやらは」
「ここだよ」
 親指を立てた右手をくるっと真下に向け、蓮は答えた。蓮の前にあるテーブルの上に、件の木箱は置かれていた。蓋の四方にお札が貼られている状態で。
「…………」
 その木箱を見た瞬間、啓斗の眉間にしわが寄った。だが、それはほんの一瞬のことだった。
「うわ」
 啓斗の後ろから木箱をひょいと覗き込んだ北斗が、短い驚きの声を上げた。
「何かこういうの、こないだ夜中にテレビでやってる映画で見たぜ。封印してんのに、面白半分で高校生たちが開けて次々に殺されてく奴で――」
「ああ、全ての黒幕は金星人だったってあのD級ホラーかい?」
 蓮が北斗を見ずに言った。見ているのは、啓斗の表情である。
「いや、俺途中で眠くなったから……って、え? あれそんな結末!?」
 思わず目を丸くする北斗。というか、あなた方は真夜中にどんな映画見てるんですか。
 そんなやり取りがされていた最中も、啓斗の視線は木箱に注がれていた。
「アリア。確か煎餅があったろう? 出してやると喜ぶだろうさ」
 蓮がふと思い出したようにアリアに言った。
「あ、はい。ではすぐに」
 アリアは一旦奥へ引っ込むと、すぐに煎餅の入った容器を持って戻ってきた。誰がそれを喜ぶかは言わずもがな、である。
「お、ラッキー。ちょうど小腹が空いてたとこでさー。いっただきまーす」
「……腹ごしらえはしてきただろうが」
 さっそく煎餅を手に取っていた北斗の姿をちらと見て、啓斗はやれやれといった様子で軽く頭を振った。
「食べてきても動いたら腹は減るよなー?」
 北斗がアリアに同意を求めようとしたが、別にアリアは食べなくともどうにかなるので、いまいち理解仕切れていない様子であった。
「もご……ひょーいやはー」
 北斗さん、とりあえず口の中の煎餅を飲み込んでから喋ろうか。
「んぐっ。そういやさ」
「はい、何でしょうか」
「箱の裏側なんかに銘が入ってたりしてねえの? 雛って確か、いいのになるとそんなのがあるらしいし。あったら、何かの手がかりになるんじゃねえの?」
「でしたら、それらしき跡はありましたが」
「跡? どーゆーことだよ?」
「削られていたんです。綺麗に」
「あー、調べられたくない……ってことか。男雛の行方、それじゃ分かんねぇなー。作った人形師のこととかも分かるかと思ったんだけどなあ」
 ふう、と小さな溜息を吐きながらも、北斗の右手は新たな煎餅を摘んでいた。
(しかし……女雛だけが暴れるって……男雛が居なくて暴れてるとか……。それじゃまだまだ暴れ続けて……バイオレンス女雛……)
 その様子を想像して、思わず天井を見上げてしまう北斗。
(男雛、頑張れ)
 などと、ついつい心の中でエールを送ってしまう。だけども……男雛が暴れていないだなんて、何故言い切れるんです、北斗さん?
「あ、ところでさあ」
 ふと思い出したように北斗はアリアに尋ねた。
「はい?」
「うちに連絡くれたのはアリアだったけど、あっちは他に誰か連絡したりしてねえの?」
 北斗は、啓斗と話している最中の蓮をそっと指差して聞いた。
「お相手はちょっと……。ですが、ずいぶん親し気なご様子でしたよ」
「ふうん。じゃあ、あいつじゃないよなあ……うん」
 北斗の脳裏に懐かしい顔が浮かんで、すぐに奥へと戻っていった。さて、蓮が連絡していた相手は果たして誰なのだろうか。

●準備【2】
 夜23時前――4人の姿は、統廃合によって今は使われていない小学校のグラウンドにあった。
「よし。これでいいだろう」
 啓斗は最後のお札を足元の地面に貼り付けて言った。それは木箱に貼られていたお札と同じ物。よくよく見てみれば、木箱を中心として半径数メートル程度の円陣がそのお札によって施されていた。
「戦い慣れてるねえ」
 蓮が啓斗の背後から声をかけた。お札を提供したのはもちろん蓮である。『広い場で戦うとしても、相手の行動範囲は狭めた方がこちらには有利だと思う』と言って、啓斗が蓮に交渉したのであった。
「言っとくけど、そのお札がどれだけ持つかはあたしにも分かんないよ。恐らく……初っ端から全力で来るだろうからさ」
「最初の一撃だけでも防げれば問題はない」
 振り返らず答える啓斗。思うに、相手の最初の一撃は奇襲にも似た状態になっているはずだ。相手の出方がまるで分からないのだから。ゆえに、最初の一撃を防ぐことには大きな意味があるのだ。
「雛供養。ばーん! と燃やせば万事解決! ……字足らず」
 北斗はそう言って蓮の方を見た。
「て、ほんとにやっちゃっていいのかよ」
 すでに何度か尋ねていたが、これが本当の最終確認。蓮はこくっと頷いた。
「ああ、綺麗さっぱり燃やしてやればいいさ」
 そして蓮はアリアの方を見て声をかける。
「アリアも準備は出来てるかい?」
「はい、いつでも問題ありません」
 と答えたアリアの右手にはロンギヌスの槍が握られていた。合図とともに、この槍で木箱の蓋を破壊する手筈になっているのだ。
「じゃ、任せたよ」
 啓斗に声をかけ、蓮はさらなる後方へと下がってゆく。
「北斗。アリア」
 啓斗がすっ……と右手を上げる。同時に北斗とアリアが散開し、ちょうど木箱を重心とした三角形を構成するような位置取りとなった。
 それを確認した啓斗は――一息に右手を振り降ろした。次の瞬間、木箱の蓋はアリアのロンギヌスの槍によって吹き飛ばされていた。

●飛び出せし者【3】
 木箱の中より禍々しい気配が一気に噴き出した。それは啓斗、北斗、アリアの3人の動きを一瞬止めさせてしまったほどであった。
 木箱の中から小さな影が飛び出してきた……かと思いきや、その影は巨大化しながら襲いかかってきた。北斗の方へ、一目散に。
「うおっ!?」
 本能的に後方へ向かって大きく宙返りする北斗。だが運悪く着地に失敗し転倒してしまった!
「北斗!!」
「ちいっ!!」
 啓斗の声を耳に北斗は転倒したまま地面を転がり、少しでも後ろへ離れようとする。しかし巨大化した影が北斗まで僅か数センチの距離まで迫り――。
 バチィィィィィィィィッ!!!!!
 突然、稲光りにも似た激しい光がその場に放たれた。お札による円陣の結界に、その巨大化した影が阻まれたのである。
「オノレ……コザカシイマネヲ……ニンゲンゴトキガ……」
 巨大化した影……いや、身の丈3メートル以上にもなった女雛から低い低い声が聞こえてきた。それはどう考えても女性のものではない。
「ダガ……! コンナモノ……!!」
 女雛はぎろりと北斗を睨み付けると、見えない障壁に向かって拳を振り上げた。尋常じゃない速さで、何度も。何度も。
 バチィィィィィィィィッ!!!!!
 バチィィィィィィィッ!!!!!
 バチィィィィィッ!!!!!
 幾度となく、先程同様に激しい光が放たれる。けれども、少しずつ……光が弱まってきているような……?
「フハハハハ……! コンナモノデワレヲトラエタトオモッタラオオマチガイダ……!! スグニコウカイサセテヤロウ……フハハハハ!!!」
 笑いながら拳を振るい続ける女雛。そしてあと一撃ほどで結界が破られるのではないかと思われた時――女雛の背後から声がした。
「どうやら力は強いようだが……あまり利口ではなかったらしいな」
「ナンダト……!?」
「こういうことだ!」
 女雛が背後を振り返ろうとした瞬間、その身体は炎に包まれていた。女雛の背後に回った啓斗が、火遁の術を使ったのである。巨大化したとはいえ、元々は雛人形である。火など放たれたらたまったものではない。
「グ……グオオオオオッ!? オ、オノレ……オノレェェェェェェッ!!」
 怒り狂った女雛が炎に包まれた拳を啓斗に向かって振り降ろそうとした。しかし啓斗は一瞬早く後方への宙返りで逃れ――その背後にしゃがんで隠れていたアリアの姿が出現した。女雛の胸元目がけ、ロンギヌスの槍を突き刺そうとしていたアリアの姿が。
「もう勝負はついています!」
 ロンギヌスの槍で女雛の胸を貫きアリアが言い放つ。
「ヌオォォォォッ! ナラバ……オマエタチゼンイン、ミチヅレニシテヤルゥゥゥゥッ!! ジャァァマダァァァァァッ!!!」
 女雛はロンギヌスの槍をつかんで、自らそれを身体から一気に引き抜いた。
「きゃあっ!!」
 その衝撃でよろけてしまうアリア。女雛はそんなアリアに向かおうとするが……。
「おいおい、もう1人居たろ? 忘れてんのかよ」
 女雛の後方から北斗が声をかけ、手にしていた炸裂弾を投げ付けた――アリアがロンギヌスの槍で貫いた背中目がけて。
 激しく炸裂し、女雛の胸部を吹き飛ばす炸裂弾。
「ガァァァァァァァァァァァァッ!!!」
 女雛が激しく咆哮した。
「もう一丁!!」
「……根絶か……」
「はあっ!!!」
 北斗が再び炸裂弾を投げ付け、啓斗がまた火遁の術を試み、アリアが両手から光のチャクラムを呼び出し飛ばし攻撃した。
「ギャァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
 絶叫した直後、女雛は爆発とともに巨大な火柱へと姿を変え……その存在を消滅させた。

●慰労【4】
「はい、ご苦労さん。頑張ってくれたねえ、あんたたち」
 事が終わったのを見届けて、蓮が3人のそばへやってきた。啓斗が、そんな蓮の方へ振り向いた。
「あれはいったい……?」
 今の戦いの最中に浮かんでいた疑問を、啓斗は蓮へぶつけてみた。倒すことは倒したが、その正体などはよく分からない。1つ考えられるのは、女雛に何かが憑いていたという線だが……。
「……さあて、ね。少なくとも、敵意を持ってる存在だろうさ。それだけは間違いないね」
 そう言って蓮は苦笑した。本当に正体を知らないのかどうか、その表情からは分からなかった。
「ま、今回の礼はそう遠くないうちにするさ。楽しみに待ってるといいよ」
 と言って、踵を返す蓮。一足先に店へ戻るつもりのようだ。
「ここの始末が済んだら戻っといで。出前頼んでおくからさ。ピザでいいかい?」
「はいはい! 俺Lサイズ!!」
 間髪入れず答える北斗。どうやら1枚丸ごと食べるつもりのようだ。
「適当に何種類か頼んどくさ。じゃ、アリア頼んだよ」
 そして蓮はアリアに後を任せ、先にグラウンドを去ったのだった。

●内緒の話【5】
 さて、蓮が裏門から出てきた時である。その前に、黒いドレスを纏った1人の女性がすぅ……っと姿を見せたのは。
「はは、やっぱり来てたんだねえ。中に入ればよかったのにさ」
「遠くからで十分よ、私には」
「相変わらずだねえ……沙耶」
 と言って笑みを浮かべる蓮。そう、そこに居たのは高峰心霊学研究所所長の高峰沙耶であったのだ。
「ま、見てたんなら分かってるだろうけど、こっちは片付いたよ。そっちは……」
 そう蓮が言いかけた時、常に高峰のそばに居る黒猫が蓮の足元へやってきた。そして何やらくわえていた物を落とすと、蓮の顔を見上げ黒猫は鳴いた。
「ナー」
 蓮の足元に転がっているのは、半分に砕かれた人形の顔。……よくよく見ればそれは男雛の顔ではないか。
「なるほど、よく分かったよ。あんたが対処出来ないとはまるで思ってなかったけどさ」
「……礼儀知らずな来客者だったわね」
「全くさ。もう1つ言えば、その礼儀知らずたちを送り込んできたのが居る訳だよ。心当たりはあるかい、沙耶?」
「さあ?」
 くすりと微笑む高峰。
「あると言えばある、ないと言えばない……でしょう?」
「あんたらしい答えだねえ。ともあれ……あたしらを邪魔に思ってるのなんて限られてくるさ」
「私たちだけ、かしら?」
 高峰の、意味深な言葉。
「……どこかの誰かさんも邪魔だろうねえ、相手が思ってる所ならさ」
「ええ」
 高峰は短く答えると、すっと身を屈めた。
「ゼーエン。行くわよ」
「ニャー」
 高峰が黒猫の名を呼ぶと、黒猫はぴょんと高峰の腕の中へ飛び込んでいった。
「ああ、また連絡するよ。ちょっと頼みたいことがあるからさ」
 行こうとする高峰を呼び止め蓮が言った。
「……あら珍しいこともあるものね」
「あんたに頼むのが一番だと思ってさ」
 と言って笑う蓮。そして立ち去る高峰の姿を見送ったのだった――。

【遅れてきた危険な雛祭り 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、こんな雛人形で雛祭りなどしたくはないと思えるお話をここにお届けいたします。普通の雛祭りなお話はまた来年に行えたらいいなあと思っております。
・さて今回のお話ですが……方法を誤っていたら結構危険なことになっていたのかなあ、とは思います。皆さんの行動の結果、当初高原が想定していたよりも、だいぶ戦闘は楽になっていますが。
・で、一応は解決したものの、色々と含みのあるお話でもあります。正直……高原のお話はじわじわときな臭くなってます、レンだけに限らずほとんどどこも。さあ、どこが暗躍しているのでしょうねえ……。
・業務連絡です。高原のお話でいくつか不成立になっているものがありますが、それらの扱いは基本的に『NPCは動いているが、解決し切れていない状態』となっています。後のお話にまともに影響してくることもありますので、何はともあれご注意を。
・守崎北斗さん、37度目のご参加ありがとうございます。雛人形を作ったのが誰なのかは結局分からずです。まあそれなりに腕はある人なのでしょう……ええ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。