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<東京怪談・PCゲームノベル>


 アイベルスケルス

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 異世界というのは、実に多種多様だ。
 数え切れぬほどに存在し、それぞれが独自の文化を持つ。
 その全てを把握することなんぞ出来ない。
 把握したいだなんて、それこそ傲慢というもの。
 けれど、好奇心というのはどう足掻いても拭えぬもので。
 今日も今日とて、こうして足を運んでしまう。

 異都フィガロヴィアンテ―

 広大な都、その空間は、もはや一国を成している。
 確か、この世界には "魔法" なるものが存在していたはず。
 世界によっては、幻想でしかないそれも、ここでは現実。
 雑踏さえも音楽のように聴こえる都の雰囲気は、何ともオシャレだ。
 良い意味で発展していないというか……妙に和む。
(さて……と)
 とりあえず、宿を探さねば。
 あれこれ見て回るなら、拠点を決めてからのほうが良い。
 どのくらい滞在するかというのも、おおよそ決めておく必要がある。
 いつだって興味本位だ。何の計画もなくフラリと。
 何度か酷い目に遭ったことはあるものの、
 こうして、また足を運んでいるあたり、改める気はないのだろう。
 客観的に自分を見つめると、何だか可笑しなものだ。
 一人、クスクスと笑いながら道を行く。
(……ん?)
 その途中、ピタリと足を止めた。人だかりが出来ている。
 いや、そればかりか悲鳴のようなものまで聞こえて……。
 何事かと思い、距離を保ちながら様子を窺えば、そこには白い獣。
 あぁ、路上パフォーマンスか。なかなか迫力のある……って違う。
 無計画な来訪ではあるけれど、それは、ある程度の情報あってこそだ。
 あの獣は確か "魔獣" と呼ばれている存在。
 この世界で最も理解りやすい "悪" なるものだ。
 こんな街中にも出現するのか。知らなかった。
 何て呑気なことを考えていたから……こうなってしまったのか。
 逃げ惑う人々を無差別に襲いながら、獣は暴走した。
 で、今。 獣はどこにいるのかというと。
 すぐそこ。目の前だ。
 外界から来た者だということに気付いたからなのだろうか。
 獣は、探るように、こちらを見やって唸り声を上げている。
 このまま見つめ合うだけというわけにはいくまい。
 やれやれと肩を竦めながら荷物を下ろして身構える。
 あれ……。そういえば。この獣は、一般人が始末して良いんだったかな?
 違ったような気がする。何だっけ。確か、特別な組織があって……。
「グルゥゥゥゥゥゥ……」
 ……うん。考えている暇はナイ、と。
 とりあえず、始末してしまおう。
 罰せられるなら罰せられるで、仕方ない。
 いや、おとなしく罰せられる気は毛頭ないけれど。
 弁解は、この状況を何とかしてから。いくらでも。

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 この世界に、足を踏み入れた理由から。
 アリスの目的は、ただひとつ。
 コレクションを増やす為。
 いつだって彼女は、探し求めている。
 美しい存在。ただ、それだけを追い求めている。
 男性でも女性でも、どちらでも構わない。美しければ、それで良い。
 内面の美しさも、そりゃあまぁ、多少は大切だとは思うけれど。
 何よりも重視するのは、外見。その、見た目。
 作品として保管するのだ。醜いものに、その価値はない。
 まぁ、何だかんだで因果関係というか。そういうのは、ある。
 見た目が冴えずとも、やたらと美しく見える人もいる。
 要するに、内面というのは外に出るものなのだ。結果的に。
 アリスが、この事実に気付いたのは、つい最近のこと。
 それまでは、とにかく綺麗な人だけを求めてきた。
 見ているだけでウットリできる、そんな極上の美しさを誇る人を。
 けれど、因果関係に気付いてからは、ちょっと変わった。
 見た目だけで判断するべきではない。
 そう理解してから、選別に手間取るようになった。
 可能性は、そこらじゅうに転がっている。
 パッと見、てんで冴えない人でも、実は美しかったり。
 更には "磨けば光る" タイプの人もいたりする。
 内面は、一朝一夕では把握することが出来ない。
 可能性を感じたら、把握できるまで接触する必要がある。
 かなり手間取るように、面倒になってしまったけれど。
 それでも、アリスの毎日は充実していた。
 そう、それは、まるで、新しい玩具を与えられた子供のようで。
(獣は……対象外ですわね)
 身構えながら、小さく頷いたアリス。
 目の前で牙を向く魔獣。
 自宅にあった書物で見たとおりの外見だ。
 艶やかな銀色の毛並み。宝石のように綺麗な瞳。
 確かに美しい。けれど "人" ではない。
 たまには、こういうのもアリかな……とは思ったけれど。
 コレクションに加えるのなら、やっぱり "人" が良い。
 あの生々しい、独特の仕上がりは "人" ならではだと思うから。
 さて。どうやって始末しようか。
 暫く考えた後、アリスは頷く。
 後々、面倒なことになっては厄介だろうから。
 原型を留める形で処理しよう。一先ず、この状況を何とか出来れば。
 ただ、その "処理" を施すのなら、ここじゃマズイ。
 大勢の人に見られてしまっては、それこそ面倒なことになってしまう。
 アリスは、伏せていた目を開くと同時に、タッと駆け出した。
 大通りを駆け抜ける、小さな身体。風のように、人の合間を縫って。
 逃げた、と思ったのか。魔獣は、アリスを追いかけてくる。
 こんなにたくさん人がいるのに、どうして自分が標的になるのか。
 魔物なりに、危険な匂いでも感じ取った?
 アリスは、クスクス笑いながら逃亡を続けた。

 都を出て、森の中。
 ここなら、誰もいない。誰も見ていない。
 アリスは、立ち止って振り返る。
 身構えるアリスの姿に、魔獣も臨戦態勢。
 さんざん逃げ回られたこともあってか、かなりイライラしているようだ。
 フゥーフゥーと鼻息を荒げながら、不気味な声で唸っている。
(やはり、所詮は魔物……ですわね)
 クスッと笑ったアリス。
 先ほどまでは、それなりに "見れるもの" でしたのに。
 今のあなたは醜いですわ。見るに堪えないとは、まさに、このこと。
 まぁ、人間にも似たようなタイプはいますけれど。
 美しいフリをするのが上手な人、といいますか。
 化けの皮が剥がれると、そのギャップに驚かされます。
 それはそれで面白いんですけどね。
 コレクションに加えるには、少々難があります。
 いわゆる "欠陥品" ですから。ちっとも美しくない。
 美しくないものには、死を。
 美しく生まれ変われると良いですねと労いながら。
 クスクス笑いながら、アリスは自身の両目を手で覆い隠した。
 手が離れる頃には、アリスの目は変色・変化を遂げている。
 冷たい、氷のような眼差し。
 その瞳は、心を奪う。
 バチリと視線が交わった瞬間、魔獣の身体が波打った。
 異変に気付いたところで、もう遅い。
 目を逸らすことは出来ない。許されないこと。
 焦がれるように、蕩けるように。溺れて、溺れて、溺れて。
 気持ちイイでしょう?

 *

 アリスの瞳が持つ魔力。
 それによって、石と化してしまった魔獣。
 恍惚の表情は、とても心地良さそうだけれど。
(……やはり、仕上がりも醜いですわね)
 苦笑しながら、アリスは石と化した魔獣に触れた。
 このまま、粉々に粉砕してしまっても構わないけれど……。
 面倒なことになったら厄介だから、このまま、ここに放置していこう。
 石化が解けることはないから、結果的には始末したのと同じことだけれど。
 大勢の人の前で始末して注目を浴びるよりはマシ。
 騒がれてしまって、二度とこの世界に来られなくなったりしても嫌だし。
 この世界に来たのは、今日が初めて。
 目を見張るほどの素材、逸材がいるやもしれぬ。
 取りこぼしがないように、隅々まで観察するには、時間と自由が必要だ。
 フゥと息を吐き落として、アリスは魔獣を放り、立ち去ろうと―
 ガサッ―
「!」
 突如、茂みが揺れた。
 もしかして、もう一匹?
 アリスは咄嗟に身構えた。
 いちいち構っていられない。
 すぐさま魔眼で始末してしまおうと、同時に両目も覆う。
 けれど、指の隙間からアリスの目が捉えた姿は、魔獣のそれではなかった。
 キョトンとしながら、アリスは、ゆっくりと腕を下ろす。
 茂みから姿を見せたのは、少年だった。
 黒い帽子に、黒いパーカー。
 どこにでもいそうな、普通の男の子。
 アリスは少年を見やりながら、小さな声で尋ねる。
「こんなところで、何を?」
 アリスの質問に、少年は欠伸をしながらケラケラ笑った。
「そりゃー、こっちのセリフだよ」
「もしかして、あなた、ずっと……?」
「うん。見てた。バッチリね」
「…………」
 笑う少年をジッと見つめたまま、アリスは沈黙。
 見られていたのか。バッチリ、というからには……全部なのだろう。
 マズイ、というわけでもないけれど。
 魔眼の能力は、極秘なるものだ。
 他人に知られてはいけない秘術とされている。
 事実なのかは理解らないけれど、
 他人に知られてしまうと、精度が落ちてしまうのだとか。
 最悪、能力そのものが消失してしまうケースもあるらしい。
 まぁ、古書で目にした情報だから、信憑性はどうか……といったところだけれど。
 絶対にそれはない、と言えるわけでもないし、
 その可能性がゼロじゃない限りは、阻止しなくては。
 アリスは苦笑しながら、両目を手で覆った。
「うおっ。ちょ、ちょっと待った!」
 少年は、慌ててアリスに駆け寄って両腕を掴む。
 その所作が、何を意味するか、どんな現象に繋がるか、
 目で見て確認していたからこそ、慌てて止めた。
 いや。石化させてしまおうだなんて、そんなつもりはなかったのだけれど。
 ただ、催眠をかけて、記憶を一部だけ忘却させようとしただけなのだけれど。
 少年は、ちょっと困り笑顔を浮かべながら言った。
「あのさ。お前、ヒマ?」
「……はい?」
「あー……と。何て言えばいーかな……。えーと……」
 随分と、やぶからぼうな、センスの欠片もないナンパ。
 ということでもないようで。
 少年は、アリスを "勧誘" しようとしていた。
 昼寝していたところ、突然やってきた見知らぬ女の子。
 魔獣に追われていることを確認した少年は、すぐさま助けようとした。
 けれど、あっという間にアリスが始末してしまったもんだから、ボーゼン。
 不思議な能力を使うアリスは、少年の目に "なんか面白い奴" として映る。
 少年の名前は、海斗。職業は、魔獣ハンター。
 アイベルスケルスという組織に身を置いている。
 思い出すことができずにいた "特別な存在" というのが、これ。
 魔獣を狩ることを専門としているチーム。それが、アイベルスケルス。
 海斗いわく、最近、魔獣の発生頻度が高くなっているらしい。
 もともと、メンバーが5人しかいない為、手こずっているそうで。
「お前さ、外界から来たんだろ?」
「まぁ、そうですね」
「住むとことかは、こっちで用意すっからさ」
「…………」
 少年の熱心なスカウトに心を打たれて……だなんてことは、ない。
 けれど、アリスは、少年のスカウトに応じた。小さく頷いて。
 どうして承諾したのか、その理由は至って簡素なものだ。
 ハンターになれば、それだけ獲物を狙いやすくなる。
 獲物とは魔獣のことではなく。コレクション候補の素材。
 アイベルスケルスという組織について、大体は把握している。
 所属すれば、かなり自由に好き勝手に都を徘徊できるだろう。
 願ってもないチャンスだ。それに何より、良い暇潰しにもなる。
 一石二鳥。断る理由なんて、どこにもない。
「よっしゃ。んじゃー早速、本部に案内する」
「えぇ。よろしくお願いしますわ」
 嬉しそうに笑って、テクテクと先を歩いて行く海斗。
 寝癖が跳ねている後頭部を見つめながら、
 アリスは、サッと両目を手で覆って小さな声で呟いた。
「……Oblivion」
 念の為、ですわ。

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 7348 / 石神・アリス / 15歳 / 学生(裏社会の商人)
 NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 アイベルスケルス 』への御参加、ありがとうございます。
 Oblivion【オブリビオン】意味:忘却 です。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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