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<東京怪談・PCゲームノベル>


 魂銃タスラム

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 見た目がゴツいから、重いものかと思っていたけれど。
 めちゃくちゃ軽い。持ってる感覚がないくらいに軽い。
 メンバーの証として受け取った、魂銃タスラム。
 まさか、入手できるとは思いもしなかった。
 そもそも、組織に加入できたのが、まず凄い。
 しかも、来て早々にだし……。
 別に、組織に加入することを目的として来たわけじゃないけれど、
 この世界の中枢に触れることが出来るのは、色んな意味で美味しい。
 そんなことを考えていると、自然とニヤけて……。
 あぁ、いやいや。笑ってる場合じゃない。
 フルフルと軽く頭を振って、気持ちを切り替える。
 目の前には "いつでもどうぞ" と構える仲間。
 試し撃ちを兼ねて、擬似バトル。
 提案されたから応じてみたけれど……。

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 まぁ、試用ってことだし、あまり深く考える必要はないのだろうけど。
 銃を受け取った際、一通りの説明も聞いた。魔力の装填方法だとか。
 装填物が "魔力" であること以外は、他の一般的な銃と同じ。
 狙いを定めて引き金を引けば "ドーン" と出る。
 飛び出すのは銃弾ではなく魔法だけど。
 受け取った魂銃を見つめながら首を傾げたアリス。
 何だろう、とは思っていた。メンバーの腰元に、同じ銃。
 証か何かなのか、特別な意味のある武器なのか。そんな予想を。
 事実、その予想は当たっていた。魂銃は、メンバーの証。
 アイベルスケルスに身を置く "ハンター" だということを証明する唯一のもの。
 都内に "自称ハンター" が出現しないように作られたもの、らしい。
 まぁ、確かに。これを持っているかいないか。判断の決め手にはなる。
 けれど、同じようなものを似せて作ることは可能なのではないだろうか。
 そう思い、アリスは魂銃を見やっていたのだけれど。
(なるほど……。これは、不可能ですわね)
 魂銃を構成しているものが "魔力" だと把握したアリス。
 要するに、魔法が形を成しているもの。
 部品を組み立てて作る一般の銃とは、明らかに異なる仕様だ。
 この構築は、真似できるものではない。
 同時に、これを作った人物の凄さも痛感。
 アリスは、向かいを見やって尋ねた。
「これを作ったのは、どなた?」
 その質問に答えるのは、既に装填を終えて構えている梨乃だ。
 梨乃は、無表情のまま、ポツリと返す。
「……藤二」
 えぇと。あぁ、あの眼鏡の方ですわね。
 初日から、やたらと馴れ馴れしく接してくる、あの方。
 ふぅん……こういう特技があるのね。大したものですわ。
 言うほど簡単じゃありませんもの。魔力を具現化するのは。
 まぁ、誰にでも特技ってありますものね。うん。大したものですわ。
 ちょっと見下し気味に、それでも感心して頷いたアリス。
 仕組みを理解できたならば、すぐに装填を。
 アリスは、教えてもらったとおり、魂銃に魔力を装填し始めた。
 頭の中に思い描くイメージを、そのまま、銃へと注ぐ。
 難しくはない。この世界は、いわば "魔法の国"
 人は誰でも、魔法の才能を持ち得ている。
 ただ、世界によっては、その能力を開花させられないことも。
 そういう世界では、魔法は幻想・夢の話で片付けられてしまう。
 でも、違うのだ。誰にでも、その才能はある。ただ、解放できないだけで。
 キッカケさえあれば、誰だって簡単に、魔法を使うことができる。
 この世界、異都フィガロヴィアンテは、その "キッカケ" そのもの。
 ここにいれば、誰だって魔法を使うことができる。
 けれど、これまで魔法と無縁な生活を送ってきた人の場合、
 どうやって外に出すのか、魔法の使い方が理解らない。
 アリスも、その一人。
 彼女が扱う "魔眼" という能力は、
 その名前こそ似ているものの、魔法とは別物だ。
 どちらかというと、呪術に近い。魔法と呪術は似て非なるもの。
 教えてもらったとおり、やってはみるものの、なかなか難しい。
 装填に手こずっている様子のアリスをジッと見つめる梨乃。
 手助けはしない。こればかりは、自分で克服せねばならないところ。
 教えるのは簡単だけど、それじゃあ意味がない。
 この先、一緒に活動していく仲間だからこそ、ちょっと厳しく。
 装填が完了するまで、ゆっくり待とうと、梨乃は目を伏せた。
 だが、次の瞬間。
(……?)
 フワリと身体が浮かぶような感覚に、梨乃はすぐ目を開ける。
 足元を見やれば、揺れる水面のように波打つ床。
 この現象は、アリスの装填が引き起こしているもの。
 アリスの手にある魂銃が光っている。
 その光は即ち、装填中であることを意味するのだけれど。
 光の加減がバラバラだ。ビカッと眩く輝いたり、ボンヤリと光ったり。
 不慣れな所為もあるのだろうけれど。
(……不思議)
 梨乃が目を丸くしている理由は "ありえない装填" だ。
 アリスの手にある魂銃。そこに、複数の属性が装填されているという事実。
 温度を奪う、造形の "石" 変化の象徴、造形の "地"
 どちらも造形属性という、特殊なタイプである。
 複数の属性を装填できれば、より効率良く狩りが出来る。
 だからこそ、梨乃も挑戦した。これまで、何度も。
 けれど、どう足掻いても、ひとつの属性しか装填できない。
 欲張っちゃ駄目なんだと、梨乃は、そう自分に言い聞かせて納得してきた。
 梨乃だけでなく、他の既存メンバーにもできないことだ。
 誰もできないことだからこそ、無理なのだとメンバーは判断した。
 何だか悔しくはあるものの、無理なものは無理、と言い聞かせた。
 それなのに。アリスは、2つの属性を装填した。
 それも、無意識のうちに。さも、当然のことかのように。
 いったいどうして。何故、そんなことが可能なのか。
 疑問に思ったけれど、梨乃は口にはしなかった。
 いや、余裕がなかったというべきか。

 装填の最中、地が揺れていたのは暴発の類。
 上手く制御できないがゆえに、魔力が上に立ってしまう状態。
 要するに、持ち主・主人であるアリスを、魔力が見下している状態。
 高慢な魔力は、時として主さえも襲う。
 煌びやかでファンタスティックなものだと思われがちだが、
 魔法というものは、常に危険と隣り合わせなのだ。
 装填を終えたアリスの足がフラつく。
 まるで、小馬鹿にするようにグニャグニャと波打つ床。
 装填された地属性の魔力は、アリスの意思なんぞお構いなしに暴れ回る。
 不安定な足場を回避しようと、梨乃はピョンピョン飛び跳ねて移動。
 移動しながらも、躊躇なく発砲を開始する。
 制御できていないのは、明らかだ。
 だからこそ、躊躇わない。
 どうする? このままじゃあ、やられるだけよ?
 梨乃は、そう語りかけるように発砲を繰り返した。
 反撃しようにも、うまく扱えない。操ることができない。
 そんな状態に、アリスはクスッと笑う。
(ちょっと我侭なくらいが可愛いものですわ)
 わたくしの能力ですもの。そうでなくては。
 でも、さすがにこれは、いただけませんわ。
 好き勝手に暴れ回りたい気持ちは理解りますけれど。
 わたくしの許可が下りてから、にして頂けませんと。
 クスクス笑いながら、アリスは魂銃を構えた。
 その所作に、梨乃はもちろん警戒する。
 だが、気付いていなかった。気付けるはずもなかったか。
 構えたフリをしただけ。構えたかのように見せただけ。
 アリスの実の所作は "覆い隠す" ことだった。
 魂銃の銃身で、両目を覆い隠す。そう、それは即ち―
(……。……?)
 身体に覚えた違和感に眉を寄せた梨乃。
 何だろう。急に身体が重くなったような。思うように動かない。
 いや、違う。これは、身体に起きた異変じゃなくて……。
 眩暈を覚えながらも、発砲を続ける梨乃。
 だが、その精度は落ちていく一方だった。
 彼女らしくない。見当外れの方向へ発砲してしまうだなんて。
 梨乃の身体に起きた異変。その原因は、アリスの "魔眼" だ。
 今日はじめて使った魔法なんかとは比べ物にならないくらい何度も発動している能力。
 あからさまに発動して、面倒なことになっては厄介だから、少し控えめに。
 気持ち程度の催眠効果を、眼差しに乗せて。
 魔眼化したアリスの目と視線を交えてしまった梨乃は、軽い催眠状態へと陥る。
 その状態は、今もなお続いており、少しでも気を抜けば、すぐに意識が遠のいてしまう。
 異変を感じつつも、果敢に攻める姿勢。
 梨乃の、その姿に、アリスは妖しく笑んだ。
「いいですね……。もういっそ、このまま……」
 クスクス笑いながら、アリスは梨乃の足元めがけて発砲。
 足首にヒットするものの、痛みはない。
 妙だなと思いながらも、梨乃は動き回って発砲を続けた。
 だが、残念。動けば動くほど、足は鉛のように重くなっていく。
 おかしい。そう気付いた時には、手遅れ。
 見やれば、両足が膝のあたりまで "石" と化していた。
 そういえば、いつしか、足場の不安が解消されている。
 ハッと気付き、顔を上げて辺りを見回した梨乃。
 波打つことなく、平常な床。
 けれど、それは "強制的" に戻されている状態だった。
 時々、見当外れの方向にアリスは発砲していた。
 困惑させるための作戦なのだろうと梨乃は思っていたのだけれど。
 違った。アリスは、波打つ床を石化させることで "黙らせて" いたのだ。

 *

 常軌を逸した魔力。
 不慣れということもあり、少々乱暴な使い方ではあったけれど。
 どれだけ発砲しても、アリスの魔力は衰えなかった。無尽蔵なのかと思わされるほどに。
 そんな状態で足を石化されてしまっては、どうすることもできない。
 催眠状態に陥っていて身体の自由が利かないことも相まって。
 目を伏せ、溜息を吐き落としながら、梨乃は魂銃から手を離した。
 ガシャッと床に落ちる魂銃。それは、負けを認める合図。
 平然としているかのように見えるけれど、実際、かなり悔しい。
 何だかんだで、梨乃も負けず嫌いなところがあるようで。
 クスクス笑いながら梨乃に歩み寄って、足の石化を解いたアリス。
 フラつく梨乃を支えながら、アリスは、ゆっくりと腰を下ろした。
「大丈夫? ごめんなさい。ちょっと、遊び過ぎましたわ」
 顔を覗き込みながらニコリと微笑んだアリス。
 遊び過ぎた。そう自覚できるのか。
 要するに、自在に操っていたということか。
 暴発したのは、最初だけで。すぐに制御できるようになったのか。
 勝てるはずがない。自在に操れる上に、あの膨大な魔力。
 こっちは息切れしているというのに。アリスは、顔色一つ変えていない。
 あれこれと考え、敗因をハッキリさせた梨乃。
 梨乃は、素直に負けを認めて、フゥと息を吐き落とした。
「……これ」
 懐から何かを取り出し、アリスに差し出した梨乃。
 何かと思いきや。小さな麻袋。
 首を傾げながら受け取って、アリスは確認してみた。
 麻袋の中に入っていたのは、大きさ不揃いな桃色の……バスソルト。
 魂銃での疑似バトルは "必要過程" その一種。
 既存メンバーらも、それぞれ、こうして対戦した。
 勝ち負けよりも、同じ武器を用いて戦う姿勢の確立が大切で。
 誰が決めたわけでもなく、対戦を終えた後は、
 負けたほうが、勝ったほうに何かをプレゼントすることになっている。
 これからも、よろしく。
 次は負けないから。そんな想いをこめて。
 嬉しそうに微笑むアリスを見届けた後、
 梨乃は、アリスの肩にコテンと頭を預けて、眠ってしまった。
 つられるかのように、アリスも目を伏せる。
 危うく、我を忘れてしまうところだった。
 あのまま、全身を石化させてしまっていたら……。
 コレクションに加えたい気持ちは変わらず在るけれど。
 そんなに容易く手に入っては面白くも何ともない。
 ちょっとずつ、ちょっとずつ。
 歩み寄って、仲良くなって。
 追い詰めてから、手に入れるのが気持ちイイの。
「大切にしますわ」
 受け取った麻袋入りのバスソルトに口付けてアリスは微笑んだ。
 まだ、もう少しだけ、このままで。

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 7348 / 石神・アリス / 15歳 / 学生(裏社会の商人)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 魂銃タスラム 』への御参加、ありがとうございます。
 所有アイテム、ふたつ増えてます。ご確認下さい^^
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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