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<東京怪談・PCゲームノベル>


 三日月の手帳

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 アイベルスケルス本部内にあるトレーニングルーム。
 いつでも開放されており、メンバーなら誰でも使うことができる。
 ふと時計を見やれば、現在時刻0時50分。
 明日もきっと、ハントやら会議やらで忙しいはず。
 そろそろ眠らないと、とは思うけれど。
 もう少しだけ。もうちょっとで完成しそうなんだ。
 とっておきの "新技" が。

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「ふ〜……」
 息を吐き落としながら天井を見上げた雪穂。
 本部のトレーニングルームは、全部で5つある。
 1つは、大人数で同時にトレーニングが行えるラージスペース。
 残りの4つは、個人のトレーニングに最適な個室スペース。
 メンバーらは、その時折に必要なトレーニングを考慮して場所を選ぶ。
 雪穂が今いるのは、個室スペースだ。
 彼女だけじゃなく、他にも個室スペースを使っているメンバーもいる。
 個室スペースは完全防音で、余所の状態を把握することはできない。
 完全に隔離された状態。集中するには、もってこいである。
 一緒にトレーニングルームに来た兄妹が、外に出た気配はない。
 おそらく、彼等もまた、新技の開発に夢中になっているのだろう。
 雪穂は、天井を見上げながらブツブツと独り言を呟く。
「意外と難しいもんだね〜……」
 いつもみたく、サッと出来るとは思ってなかったけどさ。
 まさか、ここまで苦戦するとも思わなかったんだよね〜。
 雪穂が開発中の新技。如何なるものかというと。
 簡単に言うなれば、全体魔法だ。
 単発での攻撃精度ならば、おそらく雪穂に敵う者はいない。
 専門魔術師というだけあって、実力はもちろんのこと、センスも良い。
 加えて、魔具制作という特技も持ち得ている。
 魔具制作は、言葉以上に難しい。
 魔法の基礎構成を完璧に把握した上で、
 そこへ独創的な発想を組み込んでいかねばならない。
 魔力という、本来ならば目に見えぬであろうものを形にすることは、容易いことではない。
 現に、魔具制作を可能とする魔術師は、この世界でなら、雪穂を含み3人しか存在しない。
 外界へと赴けば、もう少し数は増えるだろうけれど、微々たる増加だ。
 希少だからこそ、魔具制作を可能とする魔術師の評価は、必然的に高くなる。
 数少ない "魔具を制作できる魔術師" は、その殆どが高慢で自信家だ。
 まぁ、雪穂は、自分が、いかに凄い存在か、現状では自覚がないようだけれど。
 いつかそれを理解するときがきたとしても、彼女は変わらないだろう。
 そんな "魔具生成" のセンスも混ぜた新技が、全体魔法。
 厳密に言うなれば、倒置。
 魔法を全体化させること、それが真意。
 兄や姉のような、全体攻撃を苦手としている雪穂。
 魔法の威力が二人よりも若干上なことから、勿体ない点でもあった。
 そのあたりを克服する意味でも、全体魔法の完成は必要。
 そう判断したから、こうして開発にあたっているのだけれど。
「もっかい、やってみよ〜っと」
 一人頷き、天井に腕を伸ばす。
 右手の人差し指で、空中に描く魔方陣。
 描かれた魔方陣は、フワフワと昇っていき、やがて、ペタリと天井に張り付いた。
 固定できたことを確認して、雪穂はパチンと指を鳴らす。
 すると、魔方陣から次々と魔法が放たれる。
 上空から降り注ぐ、炎の矢。
 それは、まさに雨のようで。
 雪穂は、次々と降ってくる炎の矢を避けながら感覚を確かめる。
 実質、この新技は、ほぼ完成状態にある。
 ここは屋内で天井があるから際限されてしまうけれど、
 屋外ならば、うんと空高くまで魔方陣を上げることが出来る。
 視認できないくらい高いところに固定すれば、それこそ最強の技と化す。
 どこから飛んでくるのか、降ってくるのか、敵は把握できずに戸惑うだろう。
 ただ、この新技には、ひとつ大きな問題があった。
「ん〜……。これ、仲間に当たる可能性もあるんだよね〜……」
 パチンと指を弾いて、魔方陣を消しながら雪穂は苦笑した。
 そう。ランダム性が強すぎるのだ。
 威力は、見事なもの。
 雨のように降り注ぐ魔法攻撃から逃れるのは至難の業。
 でも、標的を定めることができない。
 一度に大量の魔力を消費するがゆえ、そこまで対応できないのだ。
「ん〜……。あと少しなんだけどな〜……」
 床にゴロンと転がり、仰向けになって頬を膨らませる雪穂。
 どうすれば、より完璧な状態に持っていくことができるだろう。
 思いつくのは、やはり魔力をもっと上げて余裕を持たせることか……。
 それか、魔方陣を魔具にしてしまって、丸ごと調整してみるか……。
 何にせよ、すぐに解決する問題ではなさそうだ。
 もどかしさから、パタパタと両足を揺らす雪穂。
「悔しいな〜。もうちょっとなのになぁ〜。う〜……」

 コツ、コツ―

 扉を叩く音。雪穂はピタリと静止して扉を見やった。
 もしかして、兄か姉だろうか。新技が完成したのだろうか。
 それとも、今日はもう遅いから、また明日にしようと迎えにきてくれたのか。
 雪穂は起き上がり、駆け寄って扉を開けた。
 個室スペースの扉は重く、めいっぱいの力で押しても、少しずつしか開かない。
「んんんん……。もう終わったの〜? それとも〜……。 あれ?」
 踏ん張って扉を開けながら、雪穂は目を丸くした。
 僅かに開いた扉の隙間から確認できたのが、意外な人物だったからだ。
 訪ねてきたのは、兄でも姉でもなくて、裁也だった。
「マスターだ。どしたの〜?」
 ようやく開け放った扉。雪穂は、ニコリと笑って言った。
 裁也は、その笑顔を見て、ゆっくりと瞬きしながら頷くだけ。
 こんな夜遅くまで無理するなだとか、そういう感じなのかと。
 心配の類かと思ったのだけれど、裁也は無言のまま、ジッと見つめるばかり。
「???」
 キョトンとした顔で首を傾げる雪穂。
 いったい、何の用だろう。さっぱり理解らない。
 どうすべきか。困った雪穂は、とりあえず微笑んだ。首を傾げながらも、ニコリと。
 すると、裁也はスッと目を伏せて。
「これを。今後の為にな」
 そう言って、黒い手帳を差し出した。
「へ? なに? これ〜?」
 思わず受け取ってしまったけれど。これは何だろう。
 手帳を手にしたまま、雪穂は何度も尋ねたのだけれど。
「あっ、ねぇ、ちょっと待って〜。これ、何なの〜?」
 裁也は、何も言わずに立ち去ってしまった。
 残された雪穂は、首を傾げたまま唇を尖らせた。
(マスターって、よくわかんないな〜)
 今後の為にって言ってたけど……。この手帳、何なんだろ〜。
 受け取ったのは、黒い手帳。
 表紙には、アイベルスケルスのシンボル、白い三日月が刻印されている。
(このシルシがついてるってことは〜)
 メンバー専用の物ってことかなぁ?
 ん〜? でも、海斗とか梨乃姉とか、持ってたっけなぁ?
 首を傾げながら、パラパラと捲ってみる。
 手帳は、中紙も全て真っ黒だった。
 これじゃあ、何かを書いても確認できないのでは。
 白いペンで書けば見えるだろうけど。使い勝手は悪そう。
(ん?)
 見返し部分にあったポケットに、硬い感触。
 中に何か入ってる? 雪穂は、ポケットの中に指を差し込んでみた。
 入っていたのは、これまた黒い……棒? 長さは10cmくらい。
 先の尖った、その細い棒を取り出して、雪穂は、また首を傾げた。
 もしかして、これがペン代わりになるものなのだろうか。
 そう思った雪穂は、棒の先端を、手帳の1ページ目に乗せてみた。
 試すかのように棒を踊らせて、適当に文字を綴ってみる。すると。
 パンッ―
「わぁっ!!」
 突如、手帳から発砲音のような音が鳴り響く。
 驚いて、ドサッと尻もちをついてしまった雪穂。
 手帳は、手を離れて床に落ちたのだけれど。
 不思議な現象が起こった。
 手帳が、ひとりでにパラパラと捲れていくのだ。
 それも、白い光を伴いながら。
「え〜〜〜? なになに〜? これ、なに〜?」
 そーっと、覗き込むようにして手帳を見つめていた雪穂。
 やがて、光と共に手帳は静まり返り、また、ひとりでにパタンと閉じた。
 おそるおそる手を伸ばして、指先でツンツンと突いてみる。
 何事もなかったかのように静まり返っている手帳。
 雪穂は、手帳を再び手に取って、パラパラと捲ってみた。
「あっ!」
 中を確認した雪穂の目が、クリンと丸くなる。
 どういうことか。手帳の数ページに "記述" が施されていたのだ。
 その記述内容は、雪穂の持ち得ている能力。
 得意としている魔法から、魔具制作などの特技、
 普段は隠している紅蓮の能力、いつも傍にいる護獣のことまで。
 雪穂に関する事柄という事柄が、全て事細かに記されていたのだ。
「不思議な手帳だ〜!」
 目を丸くしながらも、雪穂は微笑んだ。
 深く考えることはせず。ただ "不思議なこと" で片付けてしまう。
 どういう仕組みなのか、どうして裁也は、自分にこれを渡したのか。
 その辺りは不明なままだけれど、面白いものに変わりはない。
「もしかして、完成したら、これも載るのかな〜?」
 先程まで、一生懸命開発にあたっていた新技。
 手帳に掲載された情報から察するに、
 おそらく、この新技も記録されるだろう。完成したら。
 そう判断した雪穂は、ピョンと立ち上がって嬉しそうに笑い、再び、空に魔方陣を描き出した。
 仕組みは理解らないけれど。
 覚えた事柄、習得した技、そういうものが記録されていく手帳だというのなら。
 たくさんの技を作って、全てのページを埋めてみたい。
 新技開発を再開した雪穂の表情は、イキイキしていた。
「よ〜し! 頑張るぞ〜!」
 開いたままの扉。その隙間から聞こえてきた雪穂の声。
 その声を猫背に移動しながら、裁也は微笑んでポツリと呟く。
「あの技が記録されるのは、何ページ目になるかのぅ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 NPC / 裁也 / ??歳 / アイベルスケルス責任者

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 三日月の手帳 』への御参加、ありがとうございます。
 所有アイテム、ひとつ増えてます。御確認下さいませ。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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