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<東京怪談・PCゲームノベル>


 三日月の手帳

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 アイベルスケルス本部内にあるトレーニングルーム。
 いつでも開放されており、メンバーなら誰でも使うことができる。
 ふと時計を見やれば、現在時刻0時50分。
 明日もきっと、ハントやら会議やらで忙しいはず。
 そろそろ眠らないと、とは思うけれど。
 もう少しだけ。もうちょっとで完成しそうなんだ。
 とっておきの "新技" が。

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「……とぉ〜っ!」
 トレーニングルームの個室、響き渡る声。
 何だか気の抜ける声だが。声の主は、秋樹だ。
 寝付けないということで、双子の妹と一緒に、ここに来た。
 せっかくだから、新技でも開発して、見せあっこしようか。なんて言いつつ。
 妹達は、それぞれ別の個室で新技習得に励んでいる。
 個室のトレーニングルームは完全防音なので、
 残念ながら、妹達の状況を把握することはできない。
 音さえ聞こえれば、ある程度状況が読めるんだけど。
 で、秋樹は何をやっているのかというと、だ。
「……とぁ〜っ!」
 別に遊んでいるわけではなくて。
 彼も、一生懸命、新技の開発にあたっている。
 しかも、それは、ほぼ完成状態にある。
 音や波動など、目には見えないもので攻撃することを得意としている秋樹。
 だが、もしも、その能力を使うのに必要なアイテム "魔笛" が壊れてしまったら?
 そう簡単には壊れないだろうけれど。もしもの話。
 壊れてしまったら、それこそ、能力が何ひとつ使えない状態になってしまう。
 そうなってしまえば、自分は足手まとい以外の何者でもなくなってしまう。
 そこで、秋樹は、魔笛を使わずに攻撃できる技を開発した。
 掛け声と同時に、ピョンと飛びあがって、蹴り。
 ただの体術ではなくて。
 蹴りを放つと、カマイタチのような鋭い風が飛んでいく。
 先日の魂銃を用いた疑似バトルにて、
 自分の適性を把握できたからこそ、開発できた技だ。
「なはは〜。何とな〜くだけど、完成だ〜」
 満足そうにニコニコと微笑む秋樹。
 トレーニングルームの各所に配置された標的代わりの人形が、どれも無残な姿になっている。
 百発百中とまではいかないけれど、それなりにヒットするようになったようだ。
 確実にヒットさせられるようにするには、もう少し練習が必要かと思われる。
「ちょっと休憩〜っと。……あっ、そうだ!」
 ペタンとその場に座って早々に、秋樹はポンと手を叩く。
「ついでに、作っちゃおうっと」
 そう言いながら、秋樹が手元に出現させたのは……白い箱。
 何やら、不思議な模様が刻まれている綺麗な箱だ。
 この箱は、白樺家に伝わる秘術の為に必要な道具。
 造獣箱と呼ばれている箱だ。
 どういうものなのかというと、その名のとおり……。
「抱っこできるくらいがいいな〜。む〜ん、む〜ん……」
 目を伏せて、箱の上で手指を踊らせている秋樹。
 傍から見ると、祈祷のようで、かなり珍妙な姿だけれど。
 やがて、造獣箱が、ぼんやりと輝き始める。
 自分の属性と想像力を混ぜて、護獣を作る。
 それこそが、白樺家に伝わる秘術 "造獣術" だ。
 妹達も、この箱を用いて、何体もの護獣を作りだしている。
 中には、作られたわけでも拾われてきたわけでもない特別な護獣もいるけれど。
 妹達が、いつも楽しそうに護獣と遊んでいる姿を目にしていた秋樹は、
 自分にも、一緒に遊べるような護獣が欲しい。と、そう思ったようで。
 秋樹がイメージしたのは、小さな鹿。色は黒。
 さきほど呟いていたとおり、抱っこできるサイズの鹿。
 ふわふわで、目がクリンとしていて、性別は……おんなのこで。
 思い描いたイメージが箱に伝わり、やがて。
 ポンッ―
 キラキラと輝く煙の中から、イメージどおりの黒い鹿が。
「できた〜。あはははは。可愛いや〜。よ〜しよし」
 擦り寄ってくる生まれたての護獣。
 秋樹は、ギューッと抱きしめて嬉しそうに笑う。
「名前、決めないとね〜。何がいいかな〜。む〜……」
 護獣をギュッと抱きしめながら、名前を考える秋樹。
 かなり真剣に考えているようだ。眉間にシワが寄っている。
 そうして、一生懸命に考えていたからか。まったく気付かなかった。
 秋樹が、その存在に気付いたのは、およそ2分後のこと。
「悩むなぁ〜」
 そう言いながら、一度目を開いたとき。
「……わっ」
 突然、目に飛び込んできた、その姿に秋樹はビックリした。
 目の前にいたのは、マスター。裁也だった。
 裁也は、クックッと肩を揺らしながら笑う。
「驚いたにしては、反応が鈍いのぅ」
「ビックリしたよ〜? ねぇ、いつからそこにいたの?」
「少し前じゃな。お前さんが、その鹿を誕生させてすぐくらいか」
「ふぅん。そうなんですか〜。 何か用です?」
「あぁ。これを。今後の為にな」
「? 何ですか、これ〜」
 秋樹が受け取ったのは、黒い手帳。
 表紙に、アイベルスケルスのシンボル、白い三日月が刻印されている。
 首を傾げながら、パラパラと捲ってみるけれど。
 手帳は、中紙も全て真っ黒だった。
 何だかカッコいい手帳だけど、使い勝手は悪そうだなぁ。
 なんてことを考えていると、見返し部分のポケットに、ちょっとしたでっぱり。
 何かな? と思い、手を差し込んでみると。
「ペン〜……じゃないねぇ。鍵かな〜?」
 中には、鍵のような細い棒が入っていた。
 長さは10cmくらい。先端が尖っている。
「適当なページに、何か記してごらん」
「? うん」
 言われるがまま、ポケット部分から取り出した棒の先端で文字を綴ってみようとする秋樹。
 けれど、当然、ペンじゃないから記すことはできない。
 ガリガリと削るようにして記せということだろうか。
 でも、そんなことしたら紙が破けてしまうのでは。
 むぅ〜と首を傾げた秋樹。そのときだ。
「んっ?」
 手帳がキラキラと光った。気のせい……じゃない。
 光を伴いながら、手帳は、ひとりでにパラパラと捲れていく。
「お〜! おぉ〜? お〜……!」
 何が起きているのか理解らないけれど、とりあえず綺麗だ。
 秋樹は、驚いたり見惚れたりしながら、ジーッと手帳を見つめていた。
 やがて光は収まり、背表紙を上にした形でパタンと閉じる。
「完了じゃな。開いて中を確認してみなさい」
「ん〜?」
 言われるがまま、確認してみると。
 先程までは何も書かれていなかったのに、記述が施されていた。
 記されていたのは、秋樹の能力、そのもの。
 描いた絵を具現化する能力や、魔笛を用いた魔法、果てには迷子の才能まで……。
 全てが、事細かに記されていた。秋樹本人しか知らないことまで、はっきりと。
 手帳は、3分の1程度が埋まった状態になった。
 驚くべきことに、ついさっき誕生させた、黒鹿の護獣のことまで記されている。
 秋樹は、楽しそうにページを捲りながら言った。
「すごいね、これ〜。僕の能力が記録されていくんだね〜」
「うむ。初回は自動記述じゃ。次回からは、紡鍵を用いて自分で書き留めるようにな」
「紡鍵って〜……。あっ、もしかして、これ?」
「そうじゃ。まぁ、空いているページの上に先端を乗せるだけで良いのじゃが」
「ふぅ〜ん。面白いねぇ。これ、みんなも持ってるの?」
「勿論。お前さんの妹達にも、渡してきたぞ」
「そ〜なんだ。ありがとうね」
「いいや。こちらこそ。では、またな」
「ん? うん〜」
 呪文を唱え、ポンッと煙になって消えていった裁也。
 残された秋樹は、まだ、微かに輝いている手帳を見やって首を傾げた。
「こちらこそ〜って、どういう意味だろ。ね〜?」
 尋ねられた黒鹿の護獣は、ちょっと困った顔。
 秋樹はニコリと笑い、黒鹿の護獣の頭を撫でた。
 よくわかんないけど、ま、いっか〜。
 面白いものを貰えたってだけで、ありがたいことだしねぇ〜。
 せっかく貰ったものだし、全部のページを埋めたいなぁ。
 あれ? でも、全部のページが埋まったら、どうすればいいんだろ。
 新しいのをくれるのかな? それとも……。
「ま、いっか〜。それより、名前。名前決めないとね〜」
 手帳を懐にしまって、秋樹は、その場にちょこんと座った。
 秋樹の膝上にいる黒鹿の護獣が、クリクリした瞳で見上げる。
 それは期待の眼差し? 秋樹は、クスクス笑う。
「そんな目で見ないで〜。プレッシャーだよ〜」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7365 / 白樺・秋樹 / 18歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
 NPC / 裁也 / ??歳 / アイベルスケルス責任者

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 三日月の手帳 』への御参加、ありがとうございます。
 所有アイテム、ひとつ増えてます。御確認下さいませ。
 黒鹿の護獣さんの名前、未決のままにしております。
 機会があれば、後日にでも教えて下さいね^^
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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