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<東京怪談・PCゲームノベル>


 お菓子が止まらない

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 特に討伐要請もなく、のどかな昼下がり。
 自室、窓際でノンビリしていたところ。
 どこからか聞こえる、けたたましい声。
 あの騒々しい声は……海斗かな。
 本当、いつでも賑やかな人だなぁ。
 なんてことを考えていたんだけれど。
(……あれ?)
 声が、どんどん近付いてくるような気がした。
 遠くから、どんどん、どんどん、こっちへ―
(……?)
 扉の前で、止まった。声も、騒々しい足音も。
 どうしたんだろうと思い、立ち上がって扉へと向かおうとしたとき。
 バァンッ―
「たっ、たす、助けてー!!」
 扉を開け、海斗が凄い顔で懇願してきた。
 何があった? どうした? そう尋ねる間もなく気付く。
 海斗の手には、何やら妙な壺。変なデザイン……。
 その壺から、次々とお菓子が飛び出している。
 キャンディー、グミ、チョコレート……。
 えぇと。手品の練習? ……じゃないよね。うん。

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「あははははっ! すごいね〜! 溢れてる!」
 ピョンピョン飛び跳ねながら笑う雪穂。楽しそうだ。
 だが、海斗はパニック状態。壺を抱えたまま、右往左往している。
 雪穂は慌てることなく、部屋の外、廊下を見やってみた。
 すごい光景だ。あちこちにお菓子が落ちている。
 海斗が、どれだけ焦って走り回ったかが窺える。
 雪穂は、クスクス笑いながら、どこからかカゴを出現させて、
 鼻歌しながら、散らばっているお菓子を拾い始めた。
「あ〜。これ美味しそうだね〜。あっ、こっちも美味しそう〜」
 呑気なことを言いつつ、お菓子を拾う雪穂の後を追いかけて海斗は言った。
「うぉぉぉぉぉい! 助けてくれってば!」
 海斗が持っている壺からは、絶えず、お菓子がポンポンと飛び出している。
 キリがない。雪穂は笑いながら、海斗を自室へと押し込んだ。
 一目見れば、その壺が魔具であることは容易に理解できる。
 同時に、どうして、お菓子が飛び出してきているのか、その原因も。
 壺は、さほど大きなものではない。片手でも持ち歩けるサイズ。
「はっ!! そうだっ!!」
 何かを閃いた海斗。
 壺を床に置いて、何をするのかと思いきや。
 ニット帽を被せた。蓋をするかのように被せた。
 けれど、無意味だった。帽子を吹き飛ばして、お菓子は飛び出してくる。
「どーすりゃいーんだよー!」
 自暴自棄になったのか。海斗は、その場に寝転んで手足をジタバタさせる。
 まるで、駄々を捏ねる子供のような姿だ。
 雪穂は、クスクス笑いながら、壺にそっと触れた。
 ほんのりと温かい。それは、故障の証だ。
 本来、魔具は、いつでも氷のように、ひんやりと冷たい。どんな物でも。
 熱を放つということは、故障を意味する何よりの証拠。
「ん〜。入れ過ぎだよ〜。海斗〜……」
「んあー!?」
「これね、魔空間が、ぶっ壊れちゃったんだよ」
 不調の原因。それは、魔空間の乱れ。
 この壺は、海斗が、とある露店で購入したもの。
 小さな壺だけれど、たくさん物が入る。仕組みは簡単。
 壺の中が、魔空間になっているのだ。
 どの世界にも属さない、どこに在るのかも理解らない空間。
 収納系の魔具に用いられることが多い便利な空間だ。
 飛び出してきているものから理解るとおり、
 海斗は、壺の中に、お菓子を貯蔵していた。
 暇さえあれば、口の中にお菓子を放っている彼にとっては、欠かせない代物。
 毎日、都の商店街で何らかのお菓子を買ってきては追加してきた。
 今日も今日とて、いつもどおり、お菓子を追加しようとしたのだけれど。
 壺が、ひとりでに動き出した。震えるかのようにカタカタと揺れた。
 何か変だな? と思って覗き込んで見たところ、
 お菓子が飛び出してきて、額にスコーンとヒットした。
 初っ端に飛び出してきたのは、大好きなソーダキャンディ。
 そういえば、海斗の額が、微妙に赤くなっている。
「魔空間は便利だけどね〜。入れ過ぎると、空間が乱れちゃうんだよ〜」
 ガサゴソと棚を漁りながら笑う雪穂。
 不安そうな顔をしている海斗に笑い、雪穂は取り出した黒い手袋を右手に嵌めた。
「ちょっと待ってね。それにしても、いっぱい入れたね〜。あぅ。いてててて……」
 ポンポンと飛び出して、頭や頬に当たるお菓子。
 雪穂は、その微々たる痛みに苦笑しながら、壺の中に手を入れて、首を傾げながらモゾモゾ。
 乱れてしまったのなら、元に戻してあげればいい。
 けれど、この調整は、魔具に精通していないと出来ない。
 "本来の状態" を知っていなければ、元に戻すなんてことは出来ないから。
 寝転んだまま、ジーッと雪穂の作業を見つめていた海斗。
 やがて、落ち着きを取り戻す壺。お菓子は、飛び出してこなくなった。
「はい。なおったよ〜」
「すげー! 早っ!」
「ついでに、ちょっと魔空間広げておいたよ」
「マジで?」
「うん。でも、入れ過ぎは駄目だよ。程々に〜」
「さんきゅー! 助かったー! って、あああああっ!」
 喜びも束の間。またもや大声で騒ぐ海斗。今度は何だ、と思いきや。
「勝手に食うな、お前らぁぁぁぁ」
 雪穂の護獣、正影と白楼が、散らばったお菓子を食べていた。
 爪や牙を使って、器用に包み紙を解きながら。
 しかも、食べられたのは、入手が困難なチョコレート。
 週末にしか営業しない店の、人気ナンバーワン。
 競争率が高い為に、容易く補充できないお菓子のひとつ。
「吐き出せぇぇぇぇぇぇ」
 飛びかかって、白楼の背中をバシバシ叩く海斗。
 既にゴックンしているので、出せません。というか。
 ゲシッ―
「痛ぇっ!」
 正影が黙っていない。海斗は、蹴り飛ばされて転がった。
 それでも諦めず、再び飛びかかっていくのだけれど。哀れだ。
 まるで、サッカーボールかのように、二匹に弄ばれてしまう。
 人様の部屋で、何をギャーギャーと騒いでいるのやら。大迷惑である。
 けれどまぁ、大切なお菓子を食べられてしまって悲しい気持ちは理解る。
 自分の護獣がしてしまったことでもあるし。
 雪穂は苦笑しながら、お詫びにと壺の中にお菓子を補充した。
 美味しそうなココアクッキーや、マカロン、プチマフィン。
 次々と壺の中に放られていくお菓子を目にした海斗は、
 髪の毛ボッサボサの状態で起き上がって尋ねた。
「それ、手作りじゃね?」
「そうだよ〜。よくわかったね〜」
「見りゃわかるよ。 ……もしかして、雪穂が作った?」
「ううん〜。僕は料理苦手だから無理だよ〜」
「だよな! じゃ、いったい誰が―」
「ふふふふ〜。誰だろうね〜」
 笑いながら、壺にお菓子を入れて行く雪穂。
 何だか、大釜をかき混ぜる魔女のような姿。
 海斗は、雪穂の小さな背中を見やりながらクククと笑った。
 うん、まぁ、楽しそうで何よりだけれど。
 修理してもらえて良かったねと言いたいところだけれど。
 とりあえず、さっきの "だよな" って発言。
 失礼だから謝りなさい。今すぐに。
 事実なんだからイイだろとか、そんなことはどうでもいいから。
 ほら、早く謝らないと。めっちゃ睨んでますよ。二匹が。
 それから、本部各所に散らばった お菓子も拾っておくように。
 ほら、早く片付けないと。みんなに怒られちゃうよ?
 せっかく珍しくジャンケンで勝ったのに、今週もトイレ掃除なんて嫌でしょう?
「お菓子、拾いに行こっか〜」
 ニッコリと微笑んで言った雪穂。
 海斗は、元に戻った壺を大切そうに抱えて雪穂の後を追った。
「あっ、何? 手伝ってくれんの?」
「一人じゃ大変でしょ〜。さすがに〜」
「さんきゅー!」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 お菓子が止まらない 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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