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<東京怪談・PCゲームノベル>


 アマヤツリ

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「…………」
 アイベルスケルス本部、情報室にある巨大なモニターを見上げる梨乃。
 モニターに映し出されるのは、都の各所。
 都には、至る所に監視カメラが設置されている。
 魔獣が出現した際、すぐに急行できるように設置されているものなのだが。
 アイベルスケルスの本部は、ご覧のとおり地下にある。
 即ち、地上に出ねば、天気を肌で感じることは出来ない。
 モニターを見やることは、天候確認の役割も成しているのだ。
 現在の天候は、雨。
 ほんの数分前までは快晴だったのだけれど。今や、どしゃぶり。
 バケツの水を引っくり返したような……って表現が、まさにピッタリ。
 水属性の魔法を扱うからというわけでもないけれど、梨乃は雨が好きだ。
 見ていると、何だか心が安らぐというか、落ち着く。
 けれど。
(……何か、変)
 モニターを見上げる梨乃の表情が冴えない。
 確かに、雨であることに変わりはないのだけれど。
 何だろう。何かが、おかしい。そんな気がしていた。
 例えて言うなら、そう、まるで……作り物の雨のような。
 ビーッ ビーッ―
「―!」
 そんなことを考えていた矢先、ブザーが鳴り響いた。
 警告音。このブザーは、魔獣出現を知らせるもの。
 梨乃は慌てて、手元にあった赤いスイッチを押した。
 都に設置された監視カメラが、標的を映しだそうとフル稼働。
 やがて、ひとつのカメラが捉えた。
 今まさに、出現したばかりの魔獣の姿。
 どしゃぶりの雨の中、人気のない路地裏を歩く魔獣。
 不思議なことに、魔獣の毛並は濡れることなく、優雅に揺れている。
 まるで、雨粒が弾き飛ばされているかのようにも見えて。
(……もしかして)
 ひとつの仮説を胸に、梨乃は情報室を飛び出した。

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「終わりと始まり、ね」
 ポツリと呟いた夏穂。銀色のテーブルの上には、タロットカード。
 どうやら、自室で占いをしていたようだ。彼女の趣味のひとつ。
 結果として導かれたカードは "逆位置" の "塔"
 逆位置の塔が伝えているのは、終わりと始まり。
 古きものが崩壊し、新たなものが生まれることを意味する。
 良い意味に捉えるか悪い意味に捉えるかは、そのときの状況次第だけれど。
 一般的には、良くないことの前触れ……な要素が強い。
 回りくどく言うなれば、変化と、その過程だとか、そういう言い回しもできるけれど。
(雨の音が聞こえるわ)
 この結果が出て、良事が起こったことは一度もない。
 今日もきっと、何か面倒なことに巻き込まれるのだろう。
 そんな想いを胸に、夏穂は溜息を落とした。別に、ウンザリしてるわけじゃない。
 ただ、どこにいても、何をしてても、結局、毎日は忙しないんだなと。そう、実感。
 コツコツコツ―
「…………」
 扉を叩く音に、夏穂は、ふっと目を開けた。
 足音が近づいてきていることも把握していたけれど。
 この叩き方は、おそらく梨乃。でも、いつもと違って少々乱暴?
 さっそく、厄介事が舞い込んできたか。
(本当、忙しないわね)
 夏穂は苦笑しながら、扉を開けた。
 扉を開けて早々に目に飛び込むのは、既に魂銃に装填を終えた状態の梨乃。
 銃口で揺れる、青い光を見つめながら、夏穂は冷静に尋ねた。
「どうしたの?」
「……ごめん。何も言わずに、ついてきて」
 キュッと夏穂の手を掴んで言った梨乃。
 明らかに妙な言動だ。嫌でも異常を感じ取ることができる。
 夏穂は苦笑しながらコクリと頷き、梨乃の手をキュッと握り返した。
 断る理由なんてない。気分が乗らないから、だなんて。言うはずもない。

 情報室にて異変を感じ取った梨乃は、すぐさま都全域に警声を放った。
 すぐさま屋内に入って、許可するまで絶対に外に出ないでくれ、と。
 的確かつ迅速な対応の賜物か。現状の被害はゼロ。
 けれど、ここで安心するわけにもいかない。
 民の安全を確保することが出来たら、次は悪凶を始末せねば。
 モニターを見やっていた梨乃が感じ取った異変、それは "新種" の可能性。
 突然降りだした雨と、それに続くかのような警告音。
 空は、あいかわらずの快晴なのに、この大雨。
 しかも、普通の雨じゃない。何だか、身体に纏わりつくようなベタついた雨。
 全ての元凶は、前方に確認できる魔獣かと思われる。
 物陰に隠れて、魔獣の様子を窺う夏穂と梨乃。
「……やっぱり、変」
 ボソリと呟いた梨乃。
 確かに、おかしい。こんな大雨なのに、濡れていないのだ。
 魔獣の身体は、ちっとも濡れていない。白い毛も、ふわふわと揺れている。
 この雨が、魔獣の仕業だとしたら。即ち、水属性を宿している魔獣だとしたら。
 そんな魔獣の発生例は、これまで一度も目耳にしたことがない。
 もしかして、と思ったのだけれど、まさか的中してしまうとは。
 いつもならば、すぐさま千華や藤二に連絡して調べてもらうところだけれど……。
 残念ながら、彼等は外界に出張中。海斗と浩太も同行している。
 マスター裁也は、例によって今日も、どこかへフラッと出かけてしまっているし。
 要するに、本部にいた既存メンバーは梨乃だけ。
 責任感と、ありえないと思っていた推測が的中してしまったことが相まって、
 梨乃は、かなり困惑しているようだ。パッと見では、焦っている様子は見受けられないけれど。
 獲物を探すかのように都を徘徊する魔獣を見やりながら、あれこれ考えている梨乃。
 思いつめているかのような梨乃の姿に、夏穂はクスクス笑った。
 そして、梨乃の肩にポンと手を乗せて言う。
「氷は水の派生。水は氷の派生。兄弟のようなものじゃない?」
 夏穂が触れた箇所に、ひんやりと冷たい感触。
 平常心を取り戻した梨乃は、そこでようやく気付いた。
 身体を包み込む、柔らかな水の膜。
 魔獣だけじゃなく、夏穂も、ちっとも濡れていない。
 何故ならば、水の魔法、この水膜で身体を覆っているから。
「……そっか。要するに、あいつも同じってことね」
「そういうことだと思うわ」
「……どうしようか」
 魂銃を構えながら小さな声で言った梨乃。
 そういうことなら、とりあえず、標的の身体を覆っている膜を剥がしてしまおうか。
 水膜を剥がすには、雷属性での攻撃がベストだけれど。
 残念ながら、夏穂も梨乃も、雷属性は専門外。
 となると、上手く接近して無理やりにでも体術を絡めて剥がすしか―
 あれこれと考えていた梨乃だったが、夏穂の突飛な行動に目を丸くした。
「……あっ、ちょっと」
 夏穂は、テクテクと歩いて魔獣の傍へと移動。
 すぐさま気配に気付き、魔獣は振り返って唸り声を上げた。
 無鉄砲な行動? まさか。どこかのおバカさんじゃあるまいし。
 夏穂には、ちゃんとした考えがあるのだ。
 まぁ、作戦とまではいかないけれど。そんな立派なものではないけれど。
「凍ってしまえば、川も海も揺らがない。あなたも一緒。凍ってしまえば、動けないわ」
 クスッと微笑んで言った夏穂。可愛いんだけれど、少し怖い、どこか冷めた笑み。
 嘲笑かのようにも思える微笑みを浮かべたまま、夏穂は魂銃の引き金を引いた。
 ガシャッ―
 手錠を掛けるかのような音と共に。
 一瞬で、氷柱の中に閉じ込められてしまった魔獣。
 天まで届けといわんばかりに高く伸びた氷柱を見上げて呆然とする梨乃。
 てっぺんが見えない。たった一度の発砲で、ここまで……?
 ぽかーんとしている梨乃に、夏穂は笑いながら指示を飛ばした。
「蒸発処理、御願いしてもいいかしら?」
「……あ、うん」
 我に返って頷いた梨乃。その姿を確認した夏穂は、パチンと指を鳴らす。
「溶けろ」
 雨音の中、鈴の音のように響き渡った一言。
 次の瞬間、魔獣は、氷柱と共にメルトダウン。
 あれほど巨大な氷柱が一瞬にして溶けてしまうのだ。
 結果として発生する水の量は半端ない。それこそ、津波のように都を包んでしまう。
 最後の最後で水害まがいだなんて、あまりにもカッコがつかない。
 だから、蒸発処理を施す。水を蒸気に変えて消してしまうのだ。
 水属性の魔法を扱う者ならば、誰でも出来る処理。
 けれど、こんなにも膨大な量を処理したことはない。
 梨乃は、漏れがないようにと必死に処理を続けた。
 梨乃だけに全部を任せるだなんて真似はしない。
 当然、夏穂も魂銃を懐に戻してから処理を手伝う。
(終わりは、始まり)
 それまでの常識を覆すかのような変化と過程。
 ありえないと思っていたことが、現実になる。
 でもね、もともと、ありえないだなんてことこそ、ありえないことだと私は思うの。
 可能性は無限に。絶対的な "ゼロ" なんて存在しないんだもの。
 属性を宿した魔獣……か。確かに厄介ではあるけれど。
 この先、別の属性を宿したタイプも出てくるでしょうね。
 それこそ、絶対的な可能性で。
 本当、面白いわね。
 次から次へと、興味深いことばかりで退屈しない。
 クスクス笑いながら蒸発処理を続ける夏穂。
 その姿を横目に、梨乃は苦笑した。いや、苦笑することしか出来なかったというべきか。

 タロット占いの、何が楽しいのかって?
 今まさに、この状況。それが答え。
 結果を肌で感じて理解する瞬間が、すごく気持ちいいの。
 あぁ、そうか。こういうことだったんだ。って、ね。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 梨乃 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 アマヤツリ 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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