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<東京怪談・PCゲームノベル>


 出張ハント:AH−33

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 恐れていた事態。
 既存メンバーは口を揃えて、そう言った。
 本来、この世界にしか出現しないはずの魔獣。
 奴等が、外の世界にまで出現して被害を生むという事態。
 ここ最近の新種出現例からしても、
 いつ、このような事態に陥ってもおかしくはなかった。
 事前の対策が甘かっただなんて公開は、いまさら。
 現に、魔獣は外界に出現して混乱を招いている。
 事前に防ぐことができなかったなら? やるべきことは、ひとつ。
 出現してしまった魔獣を、討伐するのみ。
 外界へ赴いて。それが、責任。

「ハント要請は外界、東京からよ」
 纏めた書類を差し出しながら千華が言った。
 唐突なる魔物の出現に困惑している人物からの緊急要請。
 現場は、外界。東京という街にある……骨董品店。
「すぐに向かって。誰か、手の空いてるメンバーがいたら連れていっても構わないわ」
 神妙な面持ちで言った千華。頷いて、すぐさま現場へと急行。
 受け取った書類に目を通しながら、外界に通ずる門へ向かう。

 緊急ハント要請:処理コード:AH−33
 現場:アンティークショップ・レン(外界 / 東京)
 要請人:店主(名前、詳細不明 / 記載なし)
 内約:出張ハント、報告魔獣数2

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「おや。あんた達が、アレかい。魔獣ハンターとかいう……」
 赴いた先、現場:外界東京にあるアンティークショップにて。
 出迎えた店主の蓮は、雪穂たちを見ながら苦笑を浮かべた。
「大丈夫なのかい。あんた達みたいな子供に無理をさせるのは気が引けるんだよ」
 書類を棚にしまいながら、蓮はクスクス笑った。
 その言葉に、秋樹はニッコリと笑う。
「大丈夫ですよ〜。僕達、イイ仕事しますから」
「ふ……。大層な自信だこと。それじゃあ、期待させてもらおうかね」
「どうぞどうぞ。えっと〜。それで、魔獣の出現時刻についてなんですけども〜……」
 率先して情報収集していく秋樹。さすが、お兄ちゃん。とでも言うべきか。
 三人で何かを成す時は、いつもこんな感じで秋樹が先頭に立つ。
 情報収集している間、雪穂と夏穂は店内をウロウロ。
 別に、ただボンヤリと歩き回っているわけじゃない。
 どこかにヒントはないか、慎重に探っている。
 情報収集の結果、判明した事柄は大きくふたつ。
 ひとつ、魔獣の数は2匹で、出現は深夜0時を過ぎたころ。
 ふたつ、片方の魔獣が痛むと、もう片方の魔獣も痛む。
 二つ目については、実際に目にしないと何とも言い難い。
 痛んでいるフリをしているだけかもしれないし。
 けれど、果たして、そんな演技をする必要があるだろうか。
 得た情報のうち "連動しているらしき痛み" について、夏穂は難しい顔をした。
 情報を伝え終えた店主の蓮は、邪魔をしてはいけないだろうからと、店外へ。
 どうやら、落ち着くまでは友人宅に世話になる段取りを済ませておいたそうだ。
 その辺りから、解決まで時間を要するだろうと考えていることが理解る。
 店に残って、魔獣の出現時刻まで待機する三人は、微妙な心境だった。
 子供だからと馬鹿にされているような。そんな気がして、ちょっと悔しい。
 薄暗い店内で、三人は作戦会議。
 単独ではなく、三人で遂行できるのは強み。
 自慢のチームワークを生かして遂行しよう。
 会議の結果、三人は役割を分担した。
 逃げ道を塞ぎ、拘束する "A"
 一匹に集中攻撃をする "B"
 もう一匹を観察しながら援護する "C"
 秋樹はAを、雪穂はBを、夏穂はCの役割を担当。
 それ以上の細かい作戦は要らない。彼等の場合、これだけで十分。
 作戦が固まったら、後は標的が出現するのを待つばかり。
 薄暗い店内で、おしくらまんじゅうのようにくっついて待機する三人。
 小腹が空いたからと、お菓子を頬張る雪穂と秋樹を見ながら、夏穂は呟いた。
「何か……引っかかるのよね」
「うん〜? 何が〜?」
「もしかして、何かヒントっぽい感じ?」
「うん……。多分、そんな感じだと思うわ」
「ふふ。夏ちゃんのそういうカンって当たるよね〜」
「まぁ、無理して思い出す必要もないと思うけどねぇ。あ、これ美味しいねぇ」
「そうね。まだ、時間あるし……。ゆっくり思い返してみるわ」
「うんうん。っていうか、秋兄さ、その喋り方やめよ〜よ〜」
「ほふ? どうして?」
「どうせ僕達しかいないんだしさ。いつもどおり喋ってよ〜」
「あぁ、そうか。そうだね。うん、了解」

 深夜0時12分―

 店のすぐ傍に、魔獣が二匹出現した。
 直接目で確認できたわけじゃないけれど、感覚で理解る。
 この、何とも言えない重苦しい淀んだ空気が、何よりの証拠。
 店の窓から様子を窺っていると、やがて魔獣がノッシノシと歩いてきた。
 店主の言っていたとおりだ。特に何をするわけでもなく、ウロウロするだけ。
 危害を加える気配は、感じられないように思える。
 何かを探しているかのような動きにも見えるような……。
 まぁ、危険性がないからといって見逃すわけにはいかない。
 外界にまで出現してしまうこと自体、良い兆候とは決して言えないから。
 標的の姿を確認した三人は、顔を見合わせてすぐさま行動に移る。
 一番に動いたのは、秋樹。
 懐から取り出した魔笛で、始まりを告げる。
 演奏するのは "前奏曲" オルゴールの音色のような綺麗な音。
 けれど、その美しさとは裏腹に、この曲は恐ろしい効果を秘めている。
 辺りの雰囲気が変わり、異変に気付いた魔獣達は、逃亡を図った。
「駄目ですよ、お客様。まだ、舞台は始まったばかり。どうか、席をお立ちになりませんよう」
 目を伏せて微笑みながら、小さな声で呟いた秋樹。
 前奏曲の音色によって、辺りは別空間へと化した。
 どことも言えぬ空間。強いて言うなれば "時の狭間" とでも。
 隔離された、その空間を外視することは出来ない。
 逆に、この空間から外に出ることも叶わない。
 要するに、これで完全に逃げ道は封じられたということ。
 隔離が済んだら、次は雪穂の出番。
 ふふふと笑いながら、雪穂はスペルカード【大鎌】を詠唱した。
 ちんたらやってる暇はないというか、なるべく早くカタをつけたいこともあり、
 今回は、人格ごと大鎌に預けた。その結果、雪穂の性格は変貌する。
「とりあえず、殺さない程度に痛めつけ……だな」
 不敵な笑みを浮かべ、大鎌をヒュンヒュンと振り回して準備運動。
 辺りの様子が一変し、隔離されたことに気付いた魔獣が牙を剥く。
 雪穂は、表情ひとつ変えずに、バサバサと魔獣の方割れを痛めつけていった。
 一撃で仕留めることは容易いけれど、抑えていかねばならない。
 痛みの連動が真実か否かを見極める為。
 方割れの魔獣に攻撃を続ける雪穂。
 その援護をしながら、夏穂は、つぶさに観察した。
 攻撃を受けていない、もう一匹の魔獣の様子を。
 連動説の正否。それは、すぐにハッキリした。
 どうやら、本当に連動しているようだ。
 微塵も攻撃を受けていないはずの方割れも、痛んでいる。
 まるで、鏡のように連動して痛む魔獣二匹。
 魔扇子を振りながら援護魔法を放つ夏穂は、その様子にハッと気付いた。
 いや、気付いたというより、思いだしたというべきか。
 夏穂は、すぐさま雪穂に駆け寄った。
 手招きされて、秋樹も、すぐ傍まで近寄ってくる。
 痛めつけられた魔獣は、揃って瀕死の状態。
 実際に、雪穂が攻撃したのは片方だけだけれど。
 もはや、ロクに動けもしない。
 あと一発、攻撃を打ち込めば消滅するだろう。
 雪穂と秋樹、二人の間に立つ夏穂は、魔扇子を懐に戻しながら言った。
「ねぇ、この子達と私達に "共通点" があるんだけど。何だと思う?」
 突然の謎々? 一見、不可解なものに思えるけれど。
 夏穂の言葉に、雪穂と秋樹は、すぐに悟った。
 その答えは、すぐに導き出された。
 大鎌の刃をサクッと地面に刺して雪穂は苦笑する。
「なるほどな。で? トドメを刺して良いのか?」
「ふふ。冗談だよね?」
 雪穂の発言に、肩を竦めて笑いながら言った秋樹。
 雪穂は、大鎌を消しながら目を伏せて言った。
「あぁ。もちろん」

 *

 テレパシーだとか。そういう超能力的なものに近い。
 極めて親しい間柄、一心同体ともいえる関係。
 連動は、その条件を満たしている証拠。
 トドメを刺さずとも、魔獣は揃って消滅していった。
 衰弱した身体を寄せ合うかのように、ぴったりとくっついた状態で。
 魔獣が消滅した後、討伐の証として残る宝珠 "ラクリマクロス"
 それを、そっと拾い上げて夏穂は淡い笑みを浮かべた。
 詠唱効果時間を過ぎ、元に戻った雪穂は、となりに屈んで微笑む。
「夏ちゃんが思いだそうとしてたのって、こういうことだったんだね〜」
「ふふ。何だか、懐かしい気持ちになるね」
 目を伏せて笑いながら、秋樹が続いた。
 引っかかっていた、その理由は、デジャヴ。
 自分達も、同じような経験をすることがある。
 正確すぎるほどの連動。他人事じゃない。
 夏穂が傷付いた時は、雪穂も同じところが痛み。
 雪穂が傷付いた時は、夏穂も同じところが痛む。
 二人の間に、どれだけ距離があっても連動は成立する。
 秋樹と、その双子の弟も然り。
 即ち、この魔獣は双子だったということ。
 加えて、まだ幼くもあった。
 自ら望んで外界に出現したわけじゃない。
 よくわからないうちに、迷い込んでしまった。いわば、迷子。
 特に何をするわけでもなく、ただウロついていたのは、戸惑っていたから。
 魔獣に同情や憐みなんて無用だと、メンバーには叱られてしまうだろうけれど。
 始末せず、在るべき場所に戻す術はなかったんだろうか……なんて考えてみたり。
 採取したラクリマクロスをポケットにしまい、夏穂は立ち上がって言った。
「今日は、雪ちゃんと秋兄のステージだったわね」
「そんなことないよ〜。夏ちゃんのヒントあってこそだよ〜」
「そうだよ。気付いたのが事後だったら、後味悪かっただろうしね」
 それも、どうかな。事前に気付けても、こんなに悲しい寂しい気持ち。
 仕事はキッチリとこなしたけれど、心にポッカリ穴が開いたかのような。
 ……さぁ、店の店主に報告しに行こうか。
 御期待に添えましたか? って、微笑みながら。
 まだ、ほんのりと温かいラクリマクロスを胸元に。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7365 / 白樺・秋樹 / 18歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 千華 / 24歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
 NPC / 碧摩・蓮 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 出張ハント:AH−33 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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