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描魔
ゴーストネットＯＦＦの掲示板にて最近噂されている事がある。
それは子供の鬼が現れているのだと言う。
その子供は『描くモノ』を全て具現化することが出来て、人々を苦しめているのだとか‥‥。
無邪気な子供が手にした大きすぎる力。
その力はついに最悪の形を迎える。
件 名・人死に
投稿者・ミソギ
本 文・ついに『子鬼』が人を殺したらしいよ。
件 名・ええっ、嘘！
投稿者・イズミ
本 文・うそぉ！ え、それっていつの話！？
件 名・一週間前
投稿者・ミソギ
本 文・母親を死なせたんだって。父親が子鬼を殺そうとしてるらしいんだけど、何と捕まえたら１００万円くれるって！
この投稿記事から若い連中が『子鬼』と呼ばれる少年（９歳）が見も知らぬ人間達に追い立てられ始めるのだった。
視点→レミス・アルフォード
今回の『子鬼事件』を解決する為にレミスは夜印と共に行動をする事にしていた。
「俺は父親とその友好関係、子鬼と母親の友好関係を調べる」
レミスは自分の後ろを着いてくる三匹の黒い狼を見ながらポツリと呟く。狼達は子鬼探索時のみ夜印を主人と思うように言いつけれている。
ちなみにレミスは夜印に自分が『悪魔神』だと言う事は伏せている。別に言う必要もないからだろう。
「それで、俺が子供の足取りを追い、発見後は隠れつつ監視――だね」
お互いに役割を確認するように呟き、それぞれの行動に移り始めたのだった。
「ふん、実の息子に懸賞金か‥‥」
パソコンで書き込みチェックをしていると父親だと言う書き込みを見つけ、住所や名前などが書かれていた。自らの名前や住所をネットに晒すという事は感心出来ないけれど、それだけの事をしてまでも『子鬼』を殺したいのだろう。
父親は外資系の仕事をしており、気難しく融通の利かない性格のようだった。会社などで彼が使用出来る『暗示系魔法』で会社の人間達から子鬼の父親に関する事、それと父親の友好について聞き込みを始める。
「社長は‥‥息子さんを疎ましく思っているようでした‥‥社長は優秀ですし、ご子息を跡継ぎのために厳しく育てていたのですが‥‥」
会社の受付嬢の一人をカフェへと呼び出し、詳しく話を聞いていた。
「ですが？」
レミスは後を促すように短く呟くと「‥‥ご子息は絵を描くのがお好きで、勉強などを疎かにする事が多かったようです」と受付嬢は俯きながら言葉を返した。
「父親‥‥いや、社長の友好関係について何か知らないか？」
レミスが問いかけると「いえ、その点でしたら私より秘書の田中さんの方が」と受付嬢は言葉を返してくる。
「タナカさん、ね。ありがとう――『此処での会話も俺の事も全部忘れてタナカさんを呼んだ後に仕事に戻って』いいよ」
レミスの言葉が終わると同時に「忘れ、そう、ですね‥‥仕事に行かなくちゃ」と受付嬢はよろよろとした足取りで受付へと戻っていった。
「さて、秘書のタナカさんか――‥‥何かを知ってればいいんだけどな」
少し冷えたコーヒーを口に含みながら『田中さん』を待つ事にした。
「お待たせしました、何でも急用との事ですが‥‥こういう場合はちゃんと連絡をしてもらわないと困るのですが‥‥」
秘書の田中は眼鏡をかけなおしながら何度も嫌味のような口調でレミスに話しかけてくる。
「社長と息子の事で聞きたい――『嘘偽りなく俺の問いに答えてくれ』」
「偽りなく‥‥何でしょうか？」
「社長の友好関係について教えてくれ」
レミスの言葉に田中は手帳を取り出しながら「社長の友好関係はこれに全て書かれています」とレミスに差し出してきた。
その中には公には出来ない関係などがずらりと並んでおり、きっと子鬼を狙わせているのだろうとレミスは心の中で呟く。
「それと息子と母親‥‥の関係も聞きたいんだが」
「奥方とご子息ですか？ 仲はすごく良かったですね、奥方はご子息の画家になりたいという夢を応援されていましたし‥‥」
田中の言葉を聞いて母親と子鬼との間に険悪な何かはなかったらしいことを知り、そのまま立ち上がり田中の方を振り向く。
「ありがとう、全てを忘れて仕事に専念してくれ」
それだけ言葉を残し、次は何処に調べに行こうかと考えていた所で夜印から「少年を人気のない所に誘導した」という連絡が入り、レミスもバイクに乗って向かう事にしたのだった。
「何で僕は‥‥こんな力いらない。僕は楽しく絵が描けたらよかったのに‥‥そうしたら、ママだってあんな事はしなかったのに‥‥」
ベンチに座りながら少年は声を震わせながら呟く。
「‥‥‥‥だれっ！」
人の気配に気がついたのか少年が大きな声で夜印、そして合流したレミスの方を見る。
「‥‥お兄さん達も１００万円に釣られて僕を捕まえに来た人なんだ――簡単に捕まると、思うの！？」
少年は叫びながらスケッチブックをぱらぱらと捲り、レミスと夜印にスケッチブックの中に描かれた怪物たちを仕掛けてくる。
しかしレミスの狼が巨大化して蝙蝠の翼をバサリと広げ、此方へ向かってくる化物たちを次々となぎ倒していく。
レミスも炎の竜を繰り出して化物たちを片付けていく。しかしレミスと夜印には少年を見ながら気になることがあった。
確かに描いたものを具現化する力は持っている、それは今目の前で見ているのだから間違いはない。
だけど‥‥母親を殺すような子供には見えなかったのだ。
「お前たちに僕の何が分かるっ！ ママから殺されかけて、逆にママを殺してっ！ 僕の何が分かるんだああああっ」
少年が大きな声で叫ぶと同時にスケッチブックに描かれている全ての物が具現化される。
「‥‥‥‥ッ ま、ママ」
最後のページには美しい女性が描かれており、それが具現化すると同時に少年を抱きしめ、その次に首に手をかける。
「‥‥僕が描いた、理想のママでも、僕を殺そうとするんだね‥‥」
少年は涙を流しながら目を伏せる、全てを受け入れるかのように。それを救ったのは‥‥夜印だった。
「これで、もうお前のスケッチブックには何も描かれていない」
退治された怪物たちはスケッチブックからも消え、白紙のスケッチブックだけが残されている。
「‥‥全てを話せ、何もかも」
レミスが呟くと‥‥「僕はママを喜ばせたかったんだ‥‥」と少年はポツリと呟いた。
そして少年は全てを語る。
「僕は‥‥自分の描いたものを現実の物に出来る力があるって気づいたんだ、だからママを喜ばせたくて‥‥色んなものを描いてママに見せた」
だけど、と少年はカタカタと肩を震わせながら呟き「ママは僕を殺そうとしたんだ、さっきみたいに僕の首に手をかけて」と涙をぼろぼろと零しながら言葉を付け足した。
「だけど、僕は死にたくないって思った、そうしたら‥‥僕の描いた絵が、ママを‥‥」
そんな姿を見て夜印は「悔いている？ お父さんには？」と問いかけた。
「こんな事いえない、パパはママが好きだったから‥‥こんな事いえない。僕がママを殺したのは間違いないんだから‥‥」
「だから、僕を殺して‥‥僕は死にたいんだからっ！」
そう言って少年は隠し持っていたノートから化物を呼び出す。それをレミスの竜の炎で威嚇攻撃をしながら少年の動きを封じる。
「いけ」
レミスが短く呟くと『多難討守』を構えて『心眼』と『瞬発＋剣術』で斬り抜けて、少年の中から子鬼としての能力だけを消滅させた。
その衝撃の中、少年は意識を失い「ぱぱ‥‥ごめんなさい」とだけ涙を混じらせて呟いたのだった。
その後、少年を父親の元へと連れて行った。今回の真相を全て話して。
「‥‥馬鹿な子だ、正直に言えば‥‥私だって、私もどうかしていた、自分の子を殺そうとしていたなんて‥‥本当にばかな‥‥」
父親は涙を流しながら何度も少年を抱きしめていた。
次に目覚める時には、少年の中から子鬼としての能力も、今回の事件の事も全て忘れていることだろう。
そして、笑顔の中で生きていけると信じたかった。
ＥＮＤ
――出演者―――
7923/レミス・アルフィード/23歳/男性/悪魔神
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レミス・アルフィード様＞
初めまして、水貴透子です。
今回はご発注下さり、ありがとうございましたっ！
内容の方はいかがだったでしょうか？
少しでもご満足して頂けるものに仕上がっていましたら、幸いです。
それでは、今回は書かせて下さり、ありがとうございました。
2009/5/5
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