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<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 28 featuring 黒蝙蝠スザク

 薄闇広がる黄昏時。
 草間興信所に舞い込んだ依頼の為にここに来た。
 依頼者の談に寄れば、問題の『怪異』が起きたのはこの時間帯であるらしい。
 黄昏時――それは『誰そ彼』時とも書き換えられる訳で。
 怪異が起きる時間としては似合いでもある。
 …いや。
 単に怪異、などと言う簡単な言い方だけで済ませられないからこそ、わざわざ『依頼』などと言う形になる訳で。

 実際に被害者が居る。
 被害者は被害の前後には混乱している事が多く、状況の詳細はよくわからないらしいのだが…ともかくその『怪異』に、襲われ、傷付けられてしまうのだとか。

 被害者に残される傷は、何かに切り裂かれたようなものが、複数。
 被害者証言からしても現場の状況からしても、何かの事故と言う可能性は考え難い。
 けれど、誰か人相手に普通に――いや襲われるのに普通も何もないだろうが取り敢えず一般人の範疇に含まれる者に襲われたと考えるにしては、その傷を付ける為に切り付けたのだろう角度があまりにも滅茶苦茶なのだとか。一般人の仕業であるならどう考えても一人の仕業とは思えない、いや、二人、三人でも切り込んだ角度とそこから想定され導き出される加害者の位置関係、そして被害者が切り付けられたと体感している間の時間からして難しいかもしれない。そもそもそれだけの人数と相対していたのなら、被害者の証言からもう少しくらいは詳細が知れているようなものである。…事件に際し、気を失っている被害者は居ないのだから。
 なのに、はっきりしない。
 …それで、この事件は『怪異』の範疇に入れられてしまう事になる。

 まだ然程の重傷者は出ていないが、手口からしてそれは単に運が良かっただけとも思われ。
 放っておけば重傷者が出てしまうのは時間の問題のようでも、ある。
 …だから、その筋の機関に何とかしてくれと持ち込まれた『依頼』になっている。
 調査もする事になる。



 服装に合わせたようなおしゃれな傘を持った黒衣の少女が軽やかに歩いている。
 腰まである黒髪を頭の両横でリボンで括りツインテールに纏めた、小柄で華奢な体型のまだ年若い少女。
 時々立ち止まっては、それとなく周囲を見渡している。
 再び歩き始める度、ふんわりとしたフレアになっている黒ワンピースのスカートが空気を孕んで揺れる。
 ちょっとした戯れのように――スカート同様ふんわりしたフレアで縁取られ飾られている閉じた傘の先端をくるんと回してみたりする。
 …依頼の『怪異』は何処だろう。
 ここで、何を目的にしていたんだろう。
 少女はちらりと考える。
 考えながら、歩く。

 擦れ違う人の姿さえ何故か不確かに――朧げに思えるその時間帯。
 少女が歩いているその正面、反対側から。
 こちらに向かって淀みなく歩いてくる、二十歳前後と思える細身の青年の姿が見えた。
 カラーの付いた詰襟の、何処か宗教的な印象を与える黒い長衣を無造作に羽織り、悠然とした足捌きに合わせ裾を靡かせているような。
 短い髪と瞳は染めたような鮮やかに赤い色。
 両の耳許には黒い十字架型のピアス。
 それだけが目立つ特徴。
 …だけ、と言ってもそれだけで充分過ぎる程に目立つ。が、その一つ一つを取り上げてみれば充分目立つ筈なのに――何故か、全体の印象としてはどうも目立つ気がしない。
 青年は片手に細く長い棒を無造作に握って持っている。その棒は棒の先端側を一、持ち手側を四の比率にした辺りになるだろう境の点に、同じ直径になるやや短い棒を垂直に交差させたように作られてもいる。それはまるでシンプルな――見ようによっては大きな十字架にも見える杖のようでもあり。
 …持ち方が無造作過ぎて――あまりにも自然にそうして居過ぎて、それもまたこの青年の持つ目立つ特徴の一つだと――不自然なのだと気付くのに少し遅れた。
 青年は歩いている。
 歩みを止めない。
 逆に威圧さえ思わせる程に感情の無い目で真っ直ぐに少女を見据えたまま。

 見られている事に少女もすぐ気付いた。
 足を止める。
 …なんだろうと思う。
 纏う空気がまともじゃないと思った。
 …それは今時の東京はまともじゃない人も多いのだけれど。どんな人でもある程度好きな格好で好きに居られるような場所ではあるのだけれど。
 けれど今この場所は、少女にとっては受けた依頼を果たす為に事前調査に訪れた、と言う事情の場所でもあり。
 そんなこの場所で、こんなまともでない気配を――それも真っ直ぐ叩き付けてくる相手に遇うならば。
 …この青年こそが依頼の怪異と何か関わりがあるのかもしれない、と少女は思う。
 だからこそ、調査に来た自分を見ているのかもしれないと。

 思ったところで、少女は微かな違和感に気付く。
 知覚しているのと実際の時間感覚が狂ったような気がした――そう思えたのは、その時よりほんの少し後になってからになる。
 その時その瞬間は何もわからなかった。
 ただ、いつの間にか青年がすぐ目の前に居て自分を見下ろしていた事しか。
 …少女は青年を見て立ち止まっていた。青年は少女の居る方に向かって歩いていた。少女は青年が歩いている姿をほんの数メートルだが離れた位置で見ていた筈だった。だからと言ってその時から今に至るまで、青年が何処かの時点で急に移動したような――消えた気もしなかった。なのに気が付いた時にはすぐ目の前に居た。見下ろす目。少女と同じ赤い色の瞳。けれどその瞳には僅かな感情すらも浮かんではおらず。
 その目を見たその時、少女は自分が何を感じたか自覚していない。
 ただ、何を感じたか考えるより動く方が先だった。
 咄嗟に顔の前、横一文字に閉じたままの傘を振り上げ掲げていた。己が身を守るように。
 まだ何も意識していない段階で、凄まじい風圧が来た。
 同時に、衝撃と重みが両腕に――全身にかかってくる。咄嗟に自分の身を守る形に掲げて両手で構えた傘。そこに叩き付けられていたのは十字の杖。青年が握っていたもの――勿論、叩き付けたのも青年。少女はその攻撃を受けるのみならず反射的に己の体幹を置く位置をずらしている――ずらせている。ずらした事で受けた衝撃と重みを――攻撃のダメージ全てを受け止めなくて済んでいる。他に力が逃がせる余地が出来ている。少女は杖の打撃を受けたそこで傘の持ち手側を手前に引き、構える角度を変えて杖の攻撃を脇に受け流している――受け流すと同時に逆側に身体を捻り、梃子の要領で膂力を上乗せ反撃、槍の如く傘の尖った先端側を青年の頭部に向け鋭く突き出している。
 が、その打突が繰り出された位置に青年の姿が無い――移動した訳では無くすかさず上体を反らす事で打突を躱している。そう見た時点で少女は突き出した形にあった傘をすぐさま鋭く手前に引く。引いた反動で今度は己が身を前に出す――引いた反動に乗せる形で同時に地面を蹴り、上空に向かって勢い良く前転気味に転がり込む。…少女はそこまでの自分の行動を殆ど意識していない。
 少女は青年の肩を越えたところで足を止め急制動、滞空。殆ど天地が逆の状態。そのまま何も無い筈の空中を地面と同様に扱い、確りと『空中を』踏み締めつつくるりと傘を反転。青年の斜め上に居るまま殆ど間を置かず、今度は少女の方から横薙ぎに――青年が十字の杖を振るのと同様の、手慣れた鮮やかな形で傘を振るう。振り抜いたそこで傘に抵抗を感じる――青年の十字の杖が少女の傘を止める形に翳されている。…空中で留まった上、斜め上から地上同様の力強さを備えた反撃が来るとはまず思わないだろうに、青年の反応もなかなか速い。
 杖で止められた傘の先端を回して逃がしつつ少女は着地。それから再び青年に打ちかかる。打突。打ちかかった傘の打撃はまた受けられて先端を杖で絡められている――絡められるだけでなく少女の方でも己の傘を絡め弾こうとしてくる向こうの回転を利用、弾かれるままに己が身を翻し独楽のように横に旋回、回転したその勢い――遠心力も込め今度は逆側からぐるりと弧を描きまた青年に打ち込んでいる。打ち込んだ位置にまた杖。殆ど同時、青年の放った打撃も少女の打撃と同じ位置に来ていて互いの得物が思い切りかち合っている。
 そのまま、ほんの僅かな時間ながら膠着。青年と少女は互いの姿を改めて確認。…片方はゴシック系趣味に見える黒ワンピースにツインテールの少女。一見どう見ても武器に転用出来るとは思えない装飾品めいた傘。けれど実際に武器としての利用に足るとしか思えない使われ方をしている上に、その使われ方の通りに頑丈で全く折れそうに壊れそうにない。その傘の扱いと身のこなしからして、華奢な見た目にそぐわず少女には練達な棒術の心得は見える。更には当然のように滞空し攻撃を仕掛けてきたと言う事実。ここまで動けるまだ年若い娘。…それだけで青年には今ここで手を緩めると言う選択は無い。
 青年の姿もまた少女同様ゴシック系の風体と言える。カトリックの神父のような衣裳と言えるかもしれない――但しその服装に加え派手な髪色やピアス、そしていかにもな十字杖からしてむしろヴィジュアル系バンドかカルト的な何かの人、と思った方がしっくり来そうではあるが。けれど少女の見る限りではその身のこなしは自分と同じく棒術の心得がある――それは途中からは少女の方も実は同じなのだが、青年の方もまたこの対峙は様子見であるような――まだ相当に余裕があるように見えさえする。先程少女を見下ろしたあの目、感情の起伏が感じられない表情、戦いに動く時なら自然に出てしまう筈の鋭い呼気や気合いさえも殆ど表に見せていない姿。…それでいて動きは鋭くて的確だし、攻撃も重い。その事からして、何処か人間ではないような機械的な印象すら受けてしまう。
 ただ、そう言った手応えとは別に、少女はこの青年に対して何か…ちょっとした、けれど決定的な違和感を感じてもいる。違和感の正体。なんだろうと思いつつも深く追及している場合でもない。打ち合ったまま――ぎりぎりと力を込め合っている状態にある互いの得物――傘と杖。まだ時間にして数秒も経っていない。けれど限界。思ったところで少女は傘で杖を突き放しつつ飛び退る。
 飛び退り互いの間合いが離れたところで、青年は杖をも下げたかと思うと腰の後ろから素早く拳銃を抜いている。そのまま流れるように少女をポイント――途端、何故か青年が瞠目する。瞠目したかと思うと、その手許で――拳銃を持ったその手許付近で、ゆらりと黒い炎が揺らめいた。
 一拍置いて、轟音。
 青年の手許で、小爆発が起きた。



 …間一髪。
 青年が銃を抜き少女――黒蝙蝠スザクにポイントした――ポイントしようとしたその時点、そこを狙ってスザクは青年の握る拳銃の位置に極少範囲で黒の業火を生み出した。燃え上がる直前の時点で青年も違和感に気付いているのは表情でわかった。黒炎が生まれる前、咄嗟に拳銃を放り出し防御態勢を取ろうとしていたのもわかった。けれど完全には間に合っていない。放り出されはしたが、まだ手許から殆ど離れていない位置で青年の握っていた拳銃は炎に巻かれ引火し暴発。スザクはそれを見届けるより前の時点で――己が引き起こした拳銃暴発そのものを囮にしたタイミングで地面を蹴り青年に向かって突進している。
 暴発の爆風は傘を開き遮る事で対応、その傘の下で身を守りつつ、スザクの意識の方はもう次に繰り出す攻撃の一手に移っている。青年の反応がもう少し鈍ければ今の拳銃暴発だけで片は付いただろうが、今の様子を見る限りはこれでは足りないと判断。まだ青年の動きは止められない。だから、己が身で――大切な大切な相棒であるこの傘と共に、直接青年へと攻撃を仕掛ける事を選ぶ。
 拳銃暴発の――小爆発の煙と爆風は結構すぐに収まる。傘の下に身を置きながらも少女は青年の位置を見失っていない――時間で言うなら殆ど経っていない。青年側にしてみれば拳銃暴発の直後になるだろうタイミング。拳銃暴発からその身を防御する為に自ら地に転がったと思しきそこ。スザクは開いていた傘を閉じつつその先端を青年の顔、真正面に突き付けている。青年は咄嗟に動こうとはしたようだったが、対応出来ていない。スザクの方もスザクの方で、獲れるタイミングではあったがそのまま穿ちはしない――まだ何もわかっていないから。受けた『依頼』を果たすには不充分。だからまずは話を聞き情報を得る事を選ぶ。
 青年は転がったままでスザクを見上げている。…一応は観念したらしくもう身構えようとはしていないが、この期に及んでもまだその顔に感情は見えない。怯えも怒りも見えない。
 む、と思う。
 けれど、我慢。
 自分に言い聞かせるように声に出す。
「…簡単に殺しちゃう訳には行かないものね。全部スザクに話してもらわなきゃ」
 ここでの『怪異』の事。
 スザクを襲った理由。
 …と、そこまでまだ言わない内に、青年は初めて表情を変えていた。
 己を見下ろすスザクを見返し、訝しそうに眉を顰めている。
 それで、逆に問うて来た。
「…卿は何者だ」
「それはスザクの科白。…立場わかってるの? 今あなたはスザクに命を握られてるんだけど? あなたはスザクの言う通り全部話せば良いだけ」
「…。…ここに現れる怪異は標的に対して事前に問うような悠長な真似はしないと聞いている」
 言われて、思わず停止した。
 ちょっと待て。
 …これはひょっとして、依頼の怪異では無く――『自分と同じ目的』でここに訪れている相手、と言う事ではなかろうか。
 考えてみれば、ここに出る怪異として話に聞いている現象と同じ能力をこの青年は一度も使ってはいないし使おうとしている気配もない。…使えるならば、拳銃など持ち出すより余程確実な攻撃手段だろうに。
 スザクは改めて青年を見る。
 青年は己に突き付けられている傘の先端も特に気にしている様子無く、軽く溜息を吐いている。
 何だか、安堵の息のようにも見えた。
「…済まない。闇の力を持つ者が周囲を探っているような気配を感じたので勘違いをしたらしい」
「…それであなたはスザクにいきなり攻撃し掛けてきた訳?」
「相手がここに現れると言う怪異であるなら僅かな隙も与える訳には行かない。問う余裕は無かった」
 まぁそれはそうかもしれないが。…それでもいきなりあんな風に攻撃されれば面白くはない。
 だから、そんな意志表示のつもりで――突き付けた傘は引かない。
「…それであんなやり方だったのね」
 杖での対峙。
 本気――は本気だったのだろうが、それでも何処か、様子見のような感触の手合わせで。
 …例えば、スザクをただ殺傷しようとしていたのならこの青年の場合――まだ離れた位置、まだスザク側が青年の事を確り認識していない時点で――いやそれより何処か、スザクに見付からないように物影に身を隠した上で拳銃を撃ってきた方が余程確実だった気がする。
 けれど青年はそうしていない。
 まず、杖を使っている。
 …事前に問う余裕がない。ならば実際の手合わせの中で相手が『目的の怪異』と関わりがあるかどうか見定めようとでもした、と言う事か。けれどそれでやられてしまっていれば世話は無い。…まぁ、相手が悪かったって事かもしれないけれど。
 そこまで考えてから、スザクもスザクで、はぁ、と息を吐く。
 それから漸く、傘の先端を青年から――青年の真正面からは逸らした。
 ぷくっと頬を膨らませる。
「もうっ。余計な労力使わせないでよね」
 と。
 むくれて文句をぶつけた途端――脈絡無く、いきなり青年に傘が引っ張られた。
 スザクは、きゃっ、と短い悲鳴を上げてしまう。
 が。
 青年に傘を引っ張られて前につんのめり掛けたのとほぼ同時、背後――元々スザクが立っていたその上半身のあった位置に、何か酷く危険なものが通り抜けたのが感覚でわかった。首筋がひやりとする。それで今青年が傘を引っ張った理由も察する――今の態勢から唯一可能な手段でスザクを助けようとした。引っ張られた時点では怒りを覚えたが、意図を察するなりその感情は逆転。スザクは倒れ掛けているそこですかさず振り返り、態勢を整えるより先に自分を襲ったものの正体を確認する事を選ぶ。何も無い――いや、少し間合いを置いた向こうにがっくりと力無く項垂れた何者か――人ではない――が茫洋と佇んでいる。そいつとの間に巻き起こっている風――風の刃。その鋭い刃先の一つがたった今スザクの居た位置を勢い良く通り過ぎた。
 その刃の使い手は『風』の向こう側に居る項垂れた何者か――そしてその状況を見るなり、依頼にあった『怪異』についての数少ない情報が頭に浮かぶ。…凶器が『風の刃』であるなら、被害者が混乱するのも無理は無いし残された傷にも合致する。…犯人は、あいつ。そう判断するなりスザクは即座に黒い業火を生み出す事を選ぶ。
 巻き起こっている風を通り越し、一瞬にしてその『何者か』の身を包む黒い業火。…たった今『風の刃』が通り抜けた位置。青年がスザクに一番初めに向けて来た杖の一撃どころでは無かった。あの『風の刃』はあれよりも確実にスザクの命を獲りに来ていたと皮膚感覚でわかる。そう来るならば容赦する必要は何処にも無い。『依頼』を果たすより『お礼』をする方が先。…スザクを殺そうとするなんて赦さない。スザクは意志のままに生み出せる黒い炎でそいつを直接燃やしにかかる。…そいつの仕業と思しき巻き起こっていた風が止む。黒炎が高く燃え上がる――炎に包まれたその姿がまるで踊っているような動きを見せる。暫くそうしていたかと思うと、やがてその姿は倒れ、動かなくなった。…これではもう詳しい話は聞けそうにないが、まぁここは仕方無い。
 これで『怪異』が起きなくなれば、依頼を果たした事にはなるだろう。

 まず『お礼』をすると言う目的は達したが、スザクは結局態勢を整えられず、青年の上に倒れ込んでしまい――思い切り圧し掛かる形になってしまう。避け損ねた、と言うかそこまで考えて行動している余裕が無かった。…今のタイミングで自分に得物を向けている相手すら助けようとしてくるような青年なら、害は無いと判断したので後回しになった。
 が、それで――さっき戦っている最中に青年に対して感じた違和感の正体に気が付いた。
 幾ら細身とは言え、二十歳前後の青年、と言った見た目にしてはやけに力が弱い気がしたのだ。一番初めに打ち込まれた時然り、それから何と言っても――余裕を持った様子見の打ち合いの中でとは言え、いかにもな手加減は一切感じられなかったと言う事もある。ごくごく自然にスザクに合わせられるくらいの力と感じた。それに、対峙している時の身のこなしから、体格の細さが何かそぐわないようにも。それから、動きの一つ一つも何処となく柔らかいような気がした。
 今聞いた声の感じも、テノールともアルトとも取れる微妙な高さ。
 決定的だったのは、その身の上に倒れ込んでしまっての感触。
 この青年は――女だ。
 スザクは思わず退くのも忘れて、まじまじとその顔を見てしまう。
 訝しそうに見返された。
「…なんだ?」
「あなた、女の子なんだ?」
「…そうだが」
 あっさりと返って来る。
 …別に隠している訳でも無いらしい。
「男の人だと思った」
「…良く言われる」
「あ、そ。…まぁいいわ。取り敢えず今のでスザクを襲った事は帳消しにしてあげる」
 いきなりスザクの傘を掴んで引っ張った事はちょっと戴けないけど、今の場合はそれでスザクを助けてくれた事にもなるんだろうし。…だったらスザクの傘も仕方無いって許してくれると思うから。スザクを守る為なら、ってね。
 と、スザクは青年――ではなく神父形の彼女から漸く下りる。服の埃を払いながら立ち上がると、軽快な仕草で傘を開いて差し、その柄をくるりと回して見せる。
「じゃあ、また何処かで会ったなら。…今度はいきなり襲ったりしないでよね?」
 と、それだけ残すと、くるくると傘を回しながら――まるで何事も無かったように、神父形の彼女を残してスザクは一人歩き出す。反応は待たない。

 くるくるくるくる傘を回しつつ、歩き続ける。
 やがて、しとしとと雨が降って来た。

【了】


×××××××××××××××××××××××××××
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・-)
 女/16歳/無職

■NPC
 ■神父形の青年(=ルージュ・バーガンディ)

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 黒蝙蝠スザク様には初めまして。
 今回はこのシナリオとも言えないようなシナリオにご参加頂けまして有難う御座いました。
 …と言うか初めましての方でこのシナリオの場合だといつも思うのですが…本当に構わないのでしょうか(汗)
 って、これのお預り中納品前な時点でゴーストネットの方にまで入って頂けているのですが…まだ一度も結果をお見せしていない時点でそこまで。ご期待に添えていると良いのですが。

 まずは初めましてと言う事で、PC様の性格・口調・行動・人称等で違和感やこれは有り得ない等の引っ掛かりがあるようでしたら、出来る限り善処しますのでお気軽にリテイクお声掛け下さい。…他にも何かありましたら。些細な点でも御遠慮なく。

 ノベル内容ですが…戦闘シーンと言う事で、うちのNPCにスザク様と同年代(なんです)の杖術使いがいたのでちょっと噛ませてみました。名前も出してませんし正体不明な感じで始まって終わっておりますが。
 いえ、同じような戦い方をする奴を相手に回した方が映えるかと思ってそうしたのですが…結果として何だか微妙だったかなと言う気もしております(汗)
 それからスザク様の相棒な傘についてですが…あんまり大切にしているように見えない書き方になってしまっていないかと若干の不安が…(汗)
 それと能力についてですが、一応、隠し能力の方には触れない方向でやらせて頂きました。

 如何だったでしょうか?
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※…もしこの「Extra Track」以外の当方の依頼系(調査依頼・ゲームノベル等)に御参加下さる事があったなら、この「Extra Track」内での人間関係や設定は引き摺らないでやって下さい。
 これは結構切実な事なので(汗)どうぞ宜しくお願い致します。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。28とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝