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<東京怪談・PCゲームノベル>


第1夜 時計塔にて舞い降りる怪盗

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 午後10時52分。
 夜も更けに更けたこの時刻にも関わらず、学園内は物々しい空気で包まれていた。
 学園のどこを歩いても、まるで軍服かと言わんばかりの格好に身を包んだ生徒会役員だけで作られた自警団が歩いている。月も星も雲隠れしてしまった暗闇の中、明かりがちらちらとせわしなく動くのが、とてつもなく物々しい。

「物騒ねえ……」

 その自警団を上から見下ろしている人影があった。
 黒蝙蝠スザクである。
 夕方から木に登り、暗闇に紛れるだろうと、さっさと制服を脱いで普段着に着替えたのが正解だったらしい。モノトーンの服は、自警団の明かりがこちらに向いても、素通りされる位には景色に溶け込んでいるらしい。黒い髪も長いけれど暗闇に隠れるにはちょうどいい。
 争いごとは嫌いだし、自警団及び生徒会に目をつけられたらどんな因縁をつけられるかは分からない。だからできれば見つかりたくないのだ。

「それにしても、怪盗、ねえ……?」

 スザクは昼間に読んだ学園新聞を思い出していた。
 学園に怪盗オディールと言う人が現れるようになったのは、つい最近の話である。新聞部が撮った写真に写っていたのは、黒いクラシックチュチュに身を包んで高い塔を飛び降りる女の子の姿であった。もっとも、女の子かどうかは身体のラインからの推測であって、顔は写ってないし、チュチュを着た女装少年とか、細くて締まった身体をしたおばさんとか言う可能性もなくはない。

 スザクは仕事で戦闘を生業にする事はあっても、人同士のギスギスしたいがみ合いは好きではない。だからできれば生徒会に目をつけられる事もなく、怪盗についても関わらなくてもよかったのだ。でも、好奇心が勝ったのである。

 一つは、噂で聞く、「13時の鐘の音が鳴ったら怪盗オディールが現れる」と言うものであった。時計盤を見ても、時計の数字は12時までしかない。なのに、13時になると現れると言うのが気に入った。
 もう一つは、怪盗の目的であった。理事長は楽観視して放置しているようだし、生徒会も自警団編制して追いかけてはいるようだが、外部には連絡してないようなのである。何が盗まれているのかは、記事には書いていないけれど、外部に言っていない可能性は二つ。外部に言えないものが盗まれているか、外部に言っても相手してもらえないものしか盗まれていないか。
 本を読むのが好きなスザクは、胸を膨らませた。
 大きな事件の匂いがするわ。推理小説に出てきそうな素敵な事件。それならまず確かめないと!
 どうせならこの事件が追いかけるにふさわしいかどうかを見極めないとね。なら怪盗がどんな人か自分の目で確かめないと。
 スザクはるんるんと歩いていった。
 放課後が楽しみである。


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 午後10時58分。
 さっきから自警団らしい明かりがせわしなく光っている。
 まさかもう怪盗が見つかったのかしら? そしてもう捕まったの?
 それだったら寂しいな。折角物語が始まる所だったのに。

「いたか!?」
「いや、いない。あのチビまた……」

 自警団はそう言って毒づきつつ立ち去っていった。
 チビ? 怪盗ってそんなに小さいとは思わなかったけど。
 自警団の会話にはてなマークを飛ばしている、その時だった。

 ガサガサガサッッ

 スザクの座っていた木の、隣の木が大きく揺れた。
 えっ、何? 別の自警団? それともまさか怪盗?
 スザクは目を見開いて音の方向を見た。

「イタタタタタ……ひどい目にあった……って、ワア!!」

 音の方向にいたのは、影から察するに、少年のようである。
 と、少年はスザクを見るなり驚いて、大きく身体を仰け反らせた。
 その反動で、身体が大きく落ち……。

「危なっっ!」

 スザクは慌てて愛用の日傘を取り出し、日傘の柄で少年の腕を引っ掛けた。そしてそのまま少年を自分のいる木の方へ引き上げた。

「……大丈夫?」
「あっ、ありがとうございます!」
「……何でもいいけど、あんまり大きな声出すと、自警団来るわよ?」
「あっ……」

 少年は慌てて両手で口を塞いだ。
 ……そして苦しかったらしい。ゲホゲホとむせるが、大きく咳はできないので目を白黒させている。
 少年は大きなカメラを首に提げ、キャスケットをすっぽり被っていた。
 そして、腕に腕章がついている。『聖学園新聞部』。ああ。

「もしかして、さっきから自警団が探している「チビ」ってあなたの事かしら?」
「チビってひどいですよ。自分は成長期ですからこれからです。……まあ自警団に「邪魔だ」って言われて追い返されそうになったので逃げてたのは事実ですけど」
「ふうん? 新聞部みたいだけど、もしかして、怪盗の取材かしら?」
「はい、そうです!!」

 少年は目をキラキラと輝かせた。
 まるで子犬ねえ。スザクはクスクスと笑った。

「自分、中等部普通科1年の小山連太と言います! 新聞部では怪盗オディール事件の担当してます!!」
「あらら? もしかして、学園新聞に怪盗の記事書いてるのは……」
「はい! 自分です!」

 随分意外である。
 年齢からしても自分より年下にも関わらず、学園新聞で号外出される程の人気記事を担当しているなんて。
 と言う事は。

「もしかして、あなた怪盗に詳しかったりするの?」
「一応、普通の人よりは詳しいつもりですけど」

 少年改め、連太は胸を張ってそう答える。
 そして時計塔の方へカメラを向けていた。

「もしかして、もうすぐ来るのかしら?」
「ええ、時計の針、よく見ていて下さい」
「え?」

 スザクは時計塔を見つめた。
 10時59分。
 もうすぐ11時を指そうとする、そんな時間だった。
 普通、夜に鐘なんか鳴らない。でも、鐘が鳴ると言われている以上、鳴るのを聞いた事ある人がいるのだろう。

 11時まで、あと、5秒、4、3、2……。
 1。

 時計の針は、11時を指そうとしたまさしくその瞬間。

「ええ……?」

 スザクは目を見張った。
 時計の針は、急速に速度を速めたのだ。
 グルグルグルグルグルグル。5分。10分。15分。
 やがて時計の針は、12時を過ぎ、さらに、5分。10分。15分……。
 そこでスザクは気がついた。
 長針が1周した瞬間、12のあったはずの数字が、変わっていたのだ。
 1から12までの数字が少しずつずれ、13の数字が出現したのだ。12のあるはずの位置に、13が。
 やがて、針は止まった。
 長針も短針も、ぴったり空の上を見て。

 カーンカーンカーンカーンカーン

 雲隠れした空は、急に晴れ渡り、月の光が眩しく感じた。
 その月明かりの下、時計の針の上に、何かが降りてきたのが見えた。

「あれが、怪盗オディール……?」
「はい……」

 シャッターが切られた。
 自警団がこっちに来るのではとも思ったが、自警団は時計塔の真下に集合してこちらに構っている余裕はもうなさそうだ。
 自警団のアーチェリー部隊が怪盗に向かって弓矢を放った。しかし、時計塔の怪盗には当たらない。魔法? 怪盗は魔法も使うのかしら?
 そう思って目を凝らしてスザクは目を凝らして見ていた。
 その時だった。
 怪盗は、高く跳んだ。
 月明かりを背に高く跳ぶ怪盗の姿は美しい。それは、黒鳥の羽ばたきを思わせた。

 カシャリ

「えっ?」

 連太が熱心にシャッターを切る中、また一つシャッターの音がスザクには聞こえたのだ。

「ねえ、あなた以外に怪盗の記事書いてる人とかっているの?」
「いないですねえ」

 連太の言葉に、スザクは首を傾げた。
 怪盗は自警団の弓矢も物ともせずに、塔から塔に跳んで、消えていった。

「ああ、そう言えば」
「はい?」

 連太がようやくカメラから目を離した時、スザクは言った。

「スザク。あたしの名前は、黒蝙蝠スザク。迷探偵よ」
「スザクさん……ですか?」
「スザク、あの怪盗の謎について、俄然興味が沸いたわ。もしかしら怪盗追いかける時にまた会うかもしれないわね。その時はよろしく」
「え……はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 スザクは微笑んだ。連太もにこにこと笑っている。
 月も星も、いつの間にやら再び雲隠れしてしまったが、風もない穏やかな夜の事だった。


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 午後11時10分。
 スザクと連太が自己紹介をしている同時刻。
 時計塔より少し離れた理事長館にて、聖栞理事長はゆったりとソファーに座っていた。
 持っているのは小さなポラロイドカメラである。

「また一つ、物語が動き始めたわね……」

 彼女は微笑を浮かべて、ポラロイドカメラからぺっと吐き出された写真を見ていた。
 その写真を長く伸びた指で撫でる。

「どうか、物語を完結させてね。あの子達のためにも……」

 彼女の見ていた写真。
 その写真には、スザクと連太の姿が映っていた。


<第1夜・了>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7919/黒蝙蝠スザク/女/16歳/無職】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】

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■         ライター通信          ■
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黒蝙蝠スザク様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第1夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は小山連太とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。
まだ傍観者の立場ですが、スザク様の記してくださった設定は、かなり「当たり」だと思いますので、このまま続ければいずれ表舞台で活躍すると思われます。

第2夜公開は6月上旬の予定です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。