コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


 オトナの時間

-----------------------------------------------------------------------------------------

 何だこれ。眩暈がする。
 酒に酔ったときみたいな。
 ふわふわして、視界がボヤけて。
 空を飛んでいるかのようで、イイ気持ち。
 でも、何だろう。足りない。まだまだ、足りない。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。
 意識が遠のくほどの快楽が欲しい。

 触れたい。

 そっと優しく触れるだなんて、もう無理だ。
 思うがまま、乱暴に。例えあなたが泣き叫んでも。
 ジッとしてて。動かないで。好きにさせて。
 ひとつだけ尋ねるから、拒まないで。
 あなたは、ただ頷けばいいだけ。

 壊してイイ?

-----------------------------------------------------------------------------------------

 コツコツ、と。
 扉を叩く音に、秋樹は作業を中断した。
 アイベルスケルスに加入してすぐに、メンバーには伝えてある。
 部屋の扉に蒼い紙を貼っているときは、中で "仕事" をしているという証だと。
 ここでいう仕事とは、ハンター活動とは別の……秋樹特有の仕事。
 マジックアクセサリーのデザイン。その仕事。
 次から次へと新しいデザインを思いつく秋樹だが、
 実は、この作業(仕事)は、相当な集中力を要する。
 仕事だから、お金を貰っているわけだから、決して妥協は出来ない。
 なるべく早く、それでいて良いものを作らねば。
 そう心がけているがゆえに、集中できる環境を求める。
 今が、まさにその時。
 秋樹の部屋、その扉には蒼い紙が貼り付けられている。
 メンバーは全員事情を知っているはずだ。
 要するに、いま、来客があるのは、おかしい。
 事前に説明していなければ、疑問を抱くことはなかったんだろうけれど。
 秋樹は、首を傾げながら扉に向かった。
「はい〜?」
 カチャリと鍵を開けて、来客に応じた、その矢先。
「うわっ!」
 扉が開いた瞬間、抱きついてきた。
 部屋を訪ねてきたのは、梨乃。
 いったい、どうなっているんだ。
 次から次へと、理解に苦しむことばかり。
 梨乃が、こんな行動をするだなんて、ありえない。
「えぇと。どうしたの?」
 秋樹は、抱きつく梨乃を、ゆっくりと引き剥がしながら尋ねた。
 剥がされた梨乃は、何ともいえない顔で秋樹を見上げる。
 不満そうな瞳。潤んだ瞳。物欲しそうな瞳。
 秋樹は、すぐさま異変を感じ取った。
「ねぇ、梨乃。何かあった?」
 首を傾げて、心配そうな顔で尋ねてみるものの。
 梨乃は、ジーッと秋樹を見つめたまま、意味不明なことをポソポソと呟くだけ。

 足りないの。
 こんなんじゃ、全然足りないの。
 もっともっと、気持ち良くなりたいの。
 触れたいし、触れて欲しい。色んなところに。
 どこが一番イイのか、気持ちイイのか。
 教えて。私も、教えてあげるから。

「ちょ……梨乃、どうし……わぁぁ」
 ドタッ―
 意味のわからないことを呟きながら、梨乃は秋樹にギュッと抱きついた。
 勢いよく抱きつかれたことで、そのまま倒れこんでしまう。
 それは "押し倒された" 図そのものだった。
 倒れた拍子に頭をゴツンと打ってしまった秋樹は、
 眉を寄せながら、クラクラする頭を振った。
 四つん這い状態で秋樹を見下ろす梨乃。
 いつもはクール、寧ろ無愛想な性格の梨乃。
 普段からは想像できない。何とも色っぽい表情。
 まるっきり別人じゃないか。
 心から、そう思う秋樹は動揺を隠せない。
 どうすればいいだろう。おとなしく従う?
 いや。それじゃあ、何の解決にもならない。
 はっきりさせなきゃいけないのは、異変の原因。
 梨乃は、悪戯を仕掛けるような真似は絶対にしない。
 つまり、彼女の異変には何らかの原因がある。間違いない。
 落ち着いて、だなんて言ったところで効果はないだろうけれど。
 とりあえず、この状態を何とかせねば。
 ちゃんと、話せる状態にしなくては。
 秋樹は、チカラ任せに梨乃を押しのけようとした。
 ちょっと手荒になってしまうけれど、仕方ない。
 両腕を抑える梨乃の手。息を吸い込み、力を込めて逃れようと試みる。
 だが、秋樹が息を吸い込んだ瞬間。
「……壊して……イイ……?」 
 梨乃が、ポツリと呟いた。
 その言葉で、秋樹は全てを理解する。いや、気付いたというべきか。
 おそらく、確実。間違いだってことはないと思うけれど。
 念の為にと、秋樹は梨乃の首元を見やった。
 目に飛び込む "痕"
 ぷっくりと腫れて、赤く変色している梨乃の首元。
(やっぱり、そうだ)
 確信した秋樹は、苦笑しながら目を伏せた。
 秋樹のその仕草を "受け入れ" と判断した梨乃は、
 満足そうに微笑みながら身を屈め、口付けようとする。
 でも、違う。どうぞ、好きにしてだなんて、そんなこと言わない。
 異変の原因が判明したから。はっきりと理解ったから。
 音もなく出現させた黒い蜂。梨乃は、気付いていない。
 秋樹は目を開き、パチンとウィンクを飛ばす。
 合図を受け取り、黒い蜂は指示どおり、梨乃の首元へ移動。
 そして、赤く腫れた梨乃の首筋に、プスリと針を刺した。
「あっ……」
 ビクリと身体を揺らした梨乃は、そのまま気を失ってしまう。
 秋樹の身体の上、倒れこむようにして崩れた梨乃。
「はぁ〜……」
 秋樹は、ホッとした表情で大きな溜息を落とした。

 *

 秋樹が放った黒い蜂は "眠り蜂" という魔法生物。
 眠り蜂に刺されてしまうと、途端に深い眠りへと落ちる。
 どんなに巨体でも、どんなに屈強で頑丈でも、プスリと刺されてしまえば、ぐっすり。
 眠り蜂を操ることができる人は、全世界で見てもかなり少ない。
 それだけ、操るのが難しいということ。
 また、操れる者が少ないことから、謎も多い。
 いつ、どこで、どのようにして誕生したのか。
 眠り蜂の生態は、まだまだ謎だらけ。
 秋樹自身も、どうして自分が眠り蜂を操れるのか理解っていない。
 気付けば、呼び出せるようになっていた。
 いつからだったか、何度か思い出そうと試みたことはあるけれど、わからないまま。
 どうしてなのかは理解らないけれど、操れるのは強みだ。
 そう思った秋樹は、眠り蜂と交流することで仲良くなろうとした。
 まだ不明確な点は多いけれど、それでも、ある程度は把握できている。
 そうして交流するうち、最近、秋樹が知ったこと。
 それは、眠り蜂の針に秘められた "相殺作用"
 どんな症状にも対応できるわけじゃないけれど、
 一般的な症状ならば、相殺・解除することができる。
 梨乃の身体に起きた異変、それは "魔蜘蛛" に噛まれたことが原因。
 魔蜘蛛もまた、魔法生物の一種。
 噛まれてしまうと、全身に特殊な毒がまわる。
 魔蜘蛛の毒に侵された被害者は、幻覚作用を伴う為に奇天烈な言動が目立つ。
 普段からは想像できない言動が確認できた場合、魔蜘蛛にやられた可能性が高い。
 また、魔蜘蛛の発生は春先、特に5月の半ばに多い。
 どこで噛まれたのか、それはわからないけれど、
 梨乃の異変は、魔蜘蛛に噛まれたことが原因だったのだ。
 魔蜘蛛の存在を知っていて、なおかつ、眠り蜂を操れた。
 勝因……とは少し違うかもしれないけれど、
 突然の事態に秋樹が的確に対処できたのは、そのふたつの要因があってこそ。

 スヤスヤと眠る梨乃を抱き上げ、ソファに寝かせて秋樹は淡く微笑んだ。
 ビックリしたけど……元に戻せて良かった。
 いったい何事かと思ったよ。実際、かなり焦った。
 そうは見えなかったかもしれないけどね……。
 それにしても……。
 壊して良い? って、あの言葉は、どういう意味だったのかな。
 そのままの意味で捉えるのが正解だとしたら、
 殺して良い? って、そういう意味合いになるんだろうけど。
「……簡単に死ねないんだよ。僕達は」
 眠る梨乃の頬に触れ、秋樹は切ない声で、そう呟いた。

-----------------------------------------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7365 / 白樺・秋樹 / 18歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
 NPC / 梨乃 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 オトナの時間 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------